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発見!日本を刺激する成長業界12 リチウムイオンキャパシタ、普及段階への突入前夜
電力を素早く、高効率に蓄えられることで注目されている高容量キャパシタ。リチウムイオンキャパシタの実用化などで弱点だった容量の小ささも解消に向かっており、環境・エネルギー分野を中心に市場の盛り上がりが期待されている。
(取材・文/井元康一郎 撮影/佐藤 聡 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:10.09.27
今から立ち上がる有望市場、技術革新に注目が集まる
 脱石油、再生可能エネルギー利用を進めるうえで欠かせない蓄電技術。大容量キャパシタはバッテリーに続く有望な蓄電デバイスとして注目されてきたが、その中でもスペックが高いリチウムイオンキャパシタがいよいよ量産段階を迎え、市場活性化に弾みがつくことが期待されている。
 矢野経済研究所は大容量キャパシタの市場規模について、2013年度には08年度の約30億円から倍増以上の約70億円に達すると予測する。ここで注目すべき点はリチウムイオンキャパシタの伸びだ。
 従来型の高容量キャパシタの需要は微増レベルで、今後の市場拡大分のほとんどをリチウムイオンキャパシタが占めるとみる。08年度にはなかった市場が、13年度には20億円にふくらむという予測だ。キャパシタの技術革新や脱石油の技術トレンドの動向によっては、さらに市場が拡大する可能性もある。
大容量キャパシタの市場規模予測(2009年度以降は予測)
JMエナジー/高性能リチウムイオンキャパシタを世界で初めて量産
 高効率蓄電デバイスとして期待されながら出遅れ気味だった大容量キャパシタ。JMエナジー株式会社は高容量リチウムイオンキャパシタの量産化で技術、コスト面の課題を克服し、キャパシタ普及に弾みをつける構えだ。
急速充電や高耐久性などのメリットを生かして搭載がスタート
JMエナジーのリチウムイオンキャパシタ「ULTIMO(アルティモ)」
JMエナジーのリチウムイオンキャパシタ「ULTIMO(アルティモ)」
 電気を化学反応によらず、電気のまま蓄えられる高容量の電気二重層キャパシタ(EDLC)。充放電を数万回繰り返してもほとんど劣化がなく、急速充電特性もきわめて良好という優れたメリットがあることから、ハイブリッドカーの回生エネルギー保存、再生可能エネルギーの蓄電装置など、幅広い分野への活用がかなり前から試みられてきた。
 だが、自己放電が大きく、電圧が低いといった課題があり、今日は性能の進化が著しいリチウムイオン電池(LIB)が高容量蓄電装置の主流となっている。
 化学メーカー大手JSR系のJMエナジーは、EDLCをより高性能化したリチウムイオンキャパシタ(LIC)でその流れを変えようとしている1社だ。同社はLICの製造工場を世界で初めて完成。開発担当執行役員の木英則氏は、LICのビジネスプランについてこう語る。
「LICは内部抵抗が小さいキャパシタの性質上、電力をごく短時間で蓄えられるという特性を持っています。EDLCと比較すると自己放電が非常に小さく、またエネルギー密度も3倍以上となっていて、10万回の深充放電でも劣化が少なく、機器に搭載すればメンテナンスフリーを実現できる魅力もあります。エネルギー密度や容量はまだまだ高めていけると思います。ただ、エネルギー密度の点ではLIB並みになるとは考えにくい。LIBと直接競合するのではなく、LIBにない特性を生かし、LIBと相互補完的な商品に育てていくべきと考えています」

 JMエナジーのLICのスペックは、現状でも従来型のEDLCに比べてかなり高い。普通のEDLCは正極、負極とも活性炭製であるのに対し、JMエナジーは負極材料にリチウムイオンを吸蔵させたカーボンを使い、電圧を大幅に引き上げた。取材で見せてもらった量産品の見本は、定格電圧3.8ボルトとEDLCの1.5倍に相当し、マンガン酸リチウムイオン電池と同等。容量は2200ファラッド(おおむね電池の1アンペア時に相当)というものだった。
「LICは急速充放電や高耐久性を生かし、すでに工場の無人搬送車、瞬時電圧低下補償装置、洋上や山間部の気象観測装置などへの採用が始まっています。今後数年のうちには、LICエネルギー密度をとりあえず鉛電池に近いレベルまで引き上げられる見通しですが、そうなると用途は格段に広がると思います。まず想定されるのは鉛バッテリーの置き換え、ハイブリッドカーやハイブリッド建設機械の電力貯蔵装置、コンピュータの無停電電源(UPS)、再生可能エネルギーの電力貯蔵などで、ほかにも活用の場は拡がるでしょう」

 LICの研究開発は今、急速にボトムアップが進み始めている。LICの研究開発や量産を表明するフォロワーも国内外を問わず続々と出てきている。
「続々登場するであろうライバルに対してアドバンテージを維持し続けるのは、決して簡単なことではありません。しかし、われわれの開発チームは、LICの開発を世界に先駆けて手がけてきたスターターエンジニアたちをはじめ、強い競争力を維持するためのキャストが揃っている。素晴らしい会社になるためには競争に打ち勝つことが必要ですし、競争があることはキャパシタ市場の拡大にもつながるのです」
木英則氏
開発担当執行役員 商品開発部長
木英則氏
キャパシタセル開発だけでなく、用途開発から設計受託までを幅広く手掛ける
山梨県北杜市にあるJMエナジーの工場
山梨県北杜市にあるJMエナジーの工場
 JMエナジーでLICの開発に携わっているエンジニアは研究開発から量産化技術まで幅広く在籍。ほか、別働隊として生産技術のエンジニア陣もいる。LICの現状の欠点として挙げられるのが、容量あたりの単価の高さ。LICのセルそのものの技術革新と、生産の効率化の両輪で、高いと言われる製造コストの削減を実現させていく。
「LICを普及させていくうえでコスト削減は急務です。ただ、使っている材料そのものがどうしようもなく高い、あるいは少量生産しかできないといった致命的なコストのボトルネックがあるわけではないので、きちんと技術開発していけば必ずコストは下げることができる」(木英則氏)
 今後、LICの世界ではエンジニアの需要が大幅に増えることが予想されている。リチウムイオン電池メーカーがエンジニアの確保に四苦八苦しているように、LICを巡ってもエンジニア不足が発生する可能性が高い。電気を蓄える原理が大きく異なる電池とキャパシタだが、最大のコアテクノロジーが電気化学という点は同じ。専門家が極度に不足しているジャンルなのだ。
「電池を含めて電気化学の世界で経験を積んできた人材は、キャパシタのセル開発には必要不可欠。経験がなくとも、大学では電気化学を勉強していたというエンジニアなら、OJTで十分育てられると思います」
 JMエナジーの場合、高度に専門的な技術を要する電極の材料や製法などについては、親会社のJSRの協力を得ているが、材料分野も今後は、技術開発競争の激化が確実視されているジャンルだ。
 まだまだ時間はかかるが、例えばシリコン系や金属系活物質の使いこなしによって、量産品の電極材料として使えるような技術が確立されれば、最大の弱点と言われるエネルギー密度の低さについても飛躍的な進化を遂げる可能性がある。こうした分野は未経験のエンジニアにとってはかなり手強い。
 ただ、セルばかりがキャパシタ開発というわけではない。LICを普及させていくためには、LICメーカーのほうから積極的に用途開発を行っていく必要があると木氏は語る。

「私自身、蓄電デバイスそのものの開発経験はほとんどありませんでした。前職の大手電機メーカーでの仕事は、新技術を製品化し、売っていくことにトライするということ。新規分野開拓の経験を買ってもらったのではないかと思います」
 新しい用途やシステムの開発に関しては、幅広い経験や見識を持ち合わせ、顧客のニーズを的確に見抜くためのコミュニケーション力を持ち合わせているエンジニアが向いているという。
木英則氏
「製造段階ではプロセスエンジニアも必要となります。さらに、実際の製品づくりのエンジニアも必要になってくる。例えば、決められたスペックのLICモジュールを限られた寸法に収めたいなど、顧客の要望に合わせてモジュール開発を行うといった設計受託も、LICビジネスを成功させていくためには不可欠。機構設計者などの需要もあるんですよ」
 まだ市場が立ち上がったばかりのLICだが、技術開発競争や人材の争奪戦はすでに始まっているのかもしれない。
高い成長性が見込める脱石油ソリューションの中核技術に
高容量キャパシタへの参入企業は大幅増の見通し
 LICをはじめ、高容量キャパシタの需要は今後、コスト削減とともに増えていく可能性がきわめて高い。とりわけキャパシタと相性がいいと言われている成長分野はスマートグリッド。再生可能エネルギーから得られた電力を貯蔵し、必要なときに放出する電力平準化デバイスは、数十年にわたって不規則に充放電を繰り返す。つまり、圧倒的な耐久性の高さが要求されるのだが、これはもともとLIBが苦手としているところだ。
 キャパシタはとりわけ体積当たりのエネルギー密度が小さいのが弱点だが、定置型ならそれは大したデメリットにはならず、よさのほうが引き立つ。最新のLIBと比べても10倍を優に超えるスピード充電が可能なことから、ブレーキ力を電力に変えるクルマの回生ブレーキの電力を繰り返して、素早く保存するのにも役立つだろう。

 こうした特性がエネルギーソリューションに向くと考える企業は多く、日本電子、旭硝子、明電舎など、多くの企業が製品開発を行ってきた。今後の研究開発の主流はさらに高容量化されたLICに移行すると考えられているが、こちらでも上記のJMエナジーがすでに量産を開始しているほか、太陽誘電やFDKなど複数企業が参入を表明。
 また、ほかの先進国や中国、台湾などのメーカーもエネルギーソリューションデバイスとして開発を加速させている。量産効果によって価格が下がれば、一気に普及が進む可能性もあるのだ。
電気からソフトウェアまで、多様なエンジニアニーズ
 高容量キャパシタ業界の人材ニーズは、想像する以上に多様だ。まずピンポイントスキルで求められるのは、コアテクノロジーであるセル開発分野の人材。セル内部をチューニングするには電気化学の知識、ハイスペックな材料を開発するには金属化学や高分子化学の知識、粉体を固めたり塗布したり蒸着させたりといった材料加工に関する知識も求められる。
 ニーズがあるのはこれらのコアテクノロジーだけではない。モジュール開発や用途開発については、電気化学とは別のスキルが必要となる。キャパシタはセルひとつで製品にするというケースはあまり多くなく、多数のセルを集めてひとつの大きな電力貯蔵装置に仕立てることがほとんどだ。

 ケース内に熱がこもらず、振動をシャットアウトし、しかもコンパクトな寸法に実装するといったモジュール設計は、セルの性能や耐久性といった特性を知り抜いている、キャパシタメーカーに設計委託されることが多くなると思われる。
 一方、パワーエレクトロニクス、弱電を問わず回路設計や機構設計の経験があるエンジニアや、シミュレーションやテスト分野のエンジニア需要も発生するだろう。出力を制御する組み込みソフトの開発者も必要とされており、家電やPCなどの電源まわりの設計経験を持つエンジニアにも需要がありそうだ。
 用途開発では、キャパシタのクライアントとなる業界、すなわち重電、家電、電力、自動車などの業界で、商品開発に深く携わった経験を生かすことができるだろう。大容量キャパシタが「本流」となる前の今だからこそ、業界参入へのチャンスが広がっている。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
JMエナジーのある山梨県北杜市は、日照時間が日本一長い地域として知られます。太陽光発電にもってこいの場所であるため、NEDOの実証実験なども動いています。観光地として知られる場所ですが、キャパシタと太陽光発電が加わると、とてもクリーンな都市イメージに変わりませんか?

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