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自動車部品サプライヤー業界における圧倒的なシェアとブランド力を誇るデンソー。環境負荷の少ない次世代の車づくりに向け、パワーエレクトロニクス分野などで、エンジニア中途採用が進む。その背景と狙いを聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/早川俊昭)作成日:09.10.07
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![]() ![]() 急激に進む自動車の電子化(カーエレクトロニクス)。現在のカーエレクトロニクスシステムは、カーナビに代表されるインパネ周辺の情報通信系技術、無線通信やセンサを利用したアクティブセイフティ系技術、また電動パワーステアリングやパワーウインドウ、エンジンの電子制御技術など、至るところで急速に進歩している。さらに、ハイブリッド自動車(HV)では、パワトレイン部分の制御までがECU(Electronic Control Unit)で行われる。 現行の自動車の原価に占める、これら電装品の割合は、ガソリン車で15%、ハイブリッド車では5割前後にまで高まっているといわれる。中でも自動車の電子制御を司る重要部品ECUは、環境、安全、快適、利便など、自動車に要求される技術の高度化によって、それが受け持つ機能は拡大する一方だ。 実際、自動車に搭載されるECUの数は、この20年で急速に伸びている。2000年頃の高級車では約60個だったECUが、2006年では約100個にまで増加している。現在の自動車は、カーエレクトロニクス技術を抜きにしては語れないし、また実際に動かすこともできないのだ。 カーエレクトロニクス分野で世界トップクラスのサプライヤーがデンソーだ。熱機器からパワトレイン機器、電気・電子機器、モータ等、自動車分野の売上は約97%(09年度、連結)を占める。また、売上高の約9.5%を研究開発に投資するなど、その技術力には定評がある。これまでの同社の研究開発は、文字通り自動車のカーエレクトロニクス化を牽引した歴史といってよいだろう。 ![]() ![]() ![]() そして今、環境に優しい自動車が最優先のテーマになる中で、その環境技術も注目されている。例えば、信号待ちなどの停車時にエンジンを停止し、再始動することで燃料節約とCO2排出量削減に大きな効果があるアイドルストップシステム、エアコンをバッテリ駆動することで省燃費の効果を高めたHV用の電動コンプレッサ、同じくHV用のDC-DCコンバータなどがそれにあたる。すべてはカーエレクトロニクス技術によって自動車の環境負荷を減らす取り組みである。デンソーの製品は、シェア的にも技術的にも、文字通り世界トップクラスの実績をもつ。
「ガソリン車、HV、電気自動車(EV)、さらにディーゼル車などあらゆる車種で環境対応が求められる中、当社はオールラウンダーに製品を供給すると同時に、各技術で世界のトップランナーでありたいという強い想いがあります。その根底にあるのは、単に部品を提供するのではなく、車両トータルで環境性能を高めるというシステム・サプライヤーの考え方。完成車各メーカーとの緊密な協業がそれを可能にしています」 |



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1989年前職の総合電機メーカー入社。高性能WS向けLSIモジュールの開発などを担当。1997年デンソー入社。ハイブリッド自動車向けパワーデバイス開発(IGBT)に従事。1998年〜2001年トヨタ自動車へ出向。エスティマ、クラウンHV向けパワーユニット開発を担当。 ![]() ![]() 平野氏が属するIC技術部は、おおまかにいえば自動車向けのパワーエレクトロニクス製品にかかわる部署である。パワーエレクトロニクス技術は、電力を半導体によって制御する技術。電力発電などの強電の分野はもとより、産業機器、家電・民生機器でも欠かせないテクノロジーだ。 自動車では、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などの半導体素子や、それらを用いたインバータユニットなどによって、高効率かつ高精度の電力変換・電力制御を行いながら、モータ、パワーウインドウ、ステアリング、ABS、アクティブサスペンション、さらにはパワトレインなどの駆動部(アクチュエータ)を動かすことになる。自動車のエレクトロニクス化が進む中で、パワーエレクトロニクス技術の高度化は、車の省エネの鍵を握る重要な技術になってきた。
パワエレの心臓部にあたるのが、ICチップやコンデンサ、抵抗などの部品を一枚の基板の上にまとめて組み込んだハイブリッドICで、デンソーでは平野氏が籍をおくIC技術3部がその開発・設計を担当している。 たしかに、パワエレは地味な技術ではある。電車、ロボット、家電など多くのエレクトロニクス機器の心臓部に搭載されているとはいうものの、回路自体が動くことはなく、オシロスコープなどで電流・電圧波形を見て初めて動いていることがわかる黒子的存在だ。大学工学部でも、情報工学などに比べると、学生の人気は決して高くないという。 しかし、環境問題がクローズアップされる中で、その位置づけは大きく変わることになる。先に述べたように、自動車の世界では、ハイブリッド車の走行系はもとより、従来車においてもエンジン周りからポンプ、ファンの駆動に至るまで、パワエレは不可欠のテクノロジーになってきた。ハイブリッド車では、電池、モータ、インバータが3大コア部品と言われており、それらを制御するパワエレ技術は、これからの自動車のコア技術ともいえる。自動車ばかりではなく、太陽光・風力発電など循環型エネルギーを利用した新しい発電技術でも、パワエレ技術はなくてはならないものになっている。 新しいパワーデバイスを用いた超高性能の回路が、自動車の燃費を格段に向上させ、高効率の電力発電を実現し、地球環境を救うことになるかもしれないのだ。事実、電力損失を最小限にすることをめざすパワー半導体の世界では、シリコン系デバイスでは技術の限界に近づきつつある。それに替わる SiC(炭化ケイ素)パワー半導体の研究も進んでいる。 「自動車のパワエレ化、つまりは半導体の搭載度のスピードがこんなに速いとは少し予想外でした。ましてやこの数年のスピードは想像を超えるものです。しかも今、日本はCO2排出量の25%削減という目標に向かおうとしている。それは確実にハイブリッド車や電気自動車の需要を促すでしょう。それを支える私たちパワエレ・エンジニアの責任はますます重大になっています」 と、平野氏は気持ちを引き締める。 ![]() ![]() ![]()
もちろん、現在のパワエレ技術が超えなければならない課題はいくつかある。
かつては高級車の一部にしか使われていなかったECUやパワエレ技術は、今大衆車にも広く行き渡りつつある。いわば、カーエレクトロニクス技術の汎用化・大量使用が進むわけで、その流れを押しすすめるためには、モジュールの小型化と低コスト化を同時に進める必要がある。
もう一つの課題が、電力の大容量化に伴うパワエレ技術の高度化だ。 ![]() ![]() 出典:デンソー社提供資料を元にTech総研編集部で作成 ![]() ![]()
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パワーエレクトロニクス技術がこれからの自動車をつくりだす。しかし、技術のブラックボックス化の流れで、ハードもソフトもわかるパワエレ技術者の数は、自動車産業の中でもそう多くないのは事実だ。 もちろん半導体の開発・設計経験者は大歓迎です。微細化を競う最先端のプロセス開発に比べれば、たしかにパワー半導体は地味かもしれない。しかし、メモリなどコモディティ化する商品と比較すれば、自動車向け半導体は新しい付加価値を与えることができるという意味で、技術の醍醐味と将来性は大いにあります。
なによりもデンソーなら、自動車を含めたオートモービルの世界の将来像を描くことができる。自動車と社会の関連がこれからどうなっていくのか、その仮説を立てながら実証していく楽しみもあります」 |



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次世代の技術開発のためにエンジニア採用を強化しているデンソー。その採用戦略について、人事部 人員計画・採用室 室長 北村氏に話を聞いた。 ![]() ![]()
技術の信頼性を高めるためには、常に謙虚であり、誠実でなければなりません。新しい技術を貪欲に吸収し、新分野に積極的に挑戦しながら、同時に現場のデータを重視する──そうしたタイプの技術者が当社に大勢います。短期的な成果を追い求めるだけでなく、粘り腰の姿勢で技術を熟成させていくのも、デンソーのエンジニアの一つの類型といえます。 私が以前在籍していたラジエータ事業部(現在の冷却機器事業部)の担当役員もその一人で、私が尊敬する技術者でもあります。わずか数年でラジエータ素材が全て銅からアルミに転換される重要な時期、製品への新技術の織り込みはもちろん、ローラーの耐久性などの製造ラインのレベルアップに至るまで、1分1秒を惜しんで皆と議論し、自らの目で確かめながら、改善を重ねていきました。最後の最後まで技術を追求するその粘りの姿勢に、モノづくりの魂をみた想いがしました。 こうしたエンジニアの魂や想いが、地層のように積み重なり、デンソーのDNAを形成してきたのです。私たちがエンジニア採用にあたり、技術のスキル・経験だけはなく、積極性や粘り強さなどのマインドを重視する背景もそこにあります」 ![]() ![]() ![]()
「エンジニア育成の基本は、新卒・中途にかかわらずOJTですが、それを補完するOff-JTが非常に充実しているのが当社の特徴です。 ![]() 「人材育成の面で重視しているのは、それぞれのエンジニアが、5年後10年後に組織の中でどういう役割を果たしていたいかという中長期的なビジョンです。したがって短期的な成果を追うあまり、四六時中仕事漬けになるというのは、あまり好ましい姿勢とは思いません。もちろん、長い人生の中で、そういった経験が必要になるときもありますが。 仕事と生活、仕事と家庭の「調和」ということも、エンジニアとして成長していくうえで重要なテーマでしょう。仕事以外の時間を充実させ経験の幅を広げることが、仕事にもつながるのではないかと思います。タイムマネジメントが上手く、自立心のあふれる人には、それに見合うだけの環境が用意されていると期待してください」 |

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