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松下の名が消える日〜パナソニックを創る350人採用の全貌3
部品数を減らして性能向上に成功!LUMIX開発秘話
2001年にデジタルカメラ業界に再参入。家電メーカーながら、「LUMIX」の手ぶれ補正機能「MEGA O.I.S」をはじめとする先進技術の投入で世界シェアを伸ばしたパナソニック。どうやって高級機向けの技術を低価格機に導入することを可能にしてきたのだろうか。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:08.10.15

【Part1】目標「世界シェア10%」達成へ。躍進するデジタルカメラ「LUMIX」

LUMIXのアドバンテージは手ぶれ補正だけではない。

 2001年にデジタルカメラ市場に再参入してから今年で8年目。家電メーカーであるパナソニックのデジタルカメラは、月間シェアでカメラ専業メーカーの製品を抑えて首位に立つまでに躍進した。07年には年間の中期目標として、デジタルカメラの年間販売台数1000万台、世界シェア10%という中期目標を掲げたが、今年は早くもその計画値に迫る勢いである。

 カメラはもともと、きわめて趣味性の強いエンドユーザー向け製品であり、シェア、ブランドイメージともカメラ専業メーカーが圧倒的であった。そのカメラの世界で、パナソニックのデジタルカメラ「LUMIX(ルミックス)」がなぜ短期間で急速に販売台数を伸ばし、ブランドイメージを確立できたのか。

「カギとなったのは、やはり商品力でしょうね。カメラとしての機能を高めるのはもちろんのこと、従来のカメラの常識を覆すようなパッケージング、スタイリッシュで豊富なカラーバリエーションなど、お客様にとって魅力があり、かつ価格競争力に優れた製品づくりができたことが大きかったと思います」
 デジタルカメラの開発を指揮する商品開発グループの今井史計グループマネージャーは、LUMIXの成功の理由についてこう分析する。

 実際、LUMIXはデジタルカメラの世界において、しばしばエポックメーカーとして注目を浴びた。03年にはごく限られた高価格帯のカメラにしか搭載されていなかった手ぶれ補正機能「MEGA O.I.S」を標準装備する普及価格帯モデルを発売。その後、モデルラインナップのハイエンドからローエンドまで、すべてのモデルにMEGA O.I.Sが標準で装備された。

AVCネットワークス社 ネットワーク事業グループ グループマネージャー 今井 史計氏

魅力的なハイスペック機能を、ユーザーにとって魅力的な価格にしたい

今井 史計氏

 「まずはドイツの名門ライカとの協業によって生まれた広角・高性能レンズ。以前は、コンパクトデジタルカメラのレンズといえば、おおむね広角側で35o相当から始まるズームレンズで、光学ファインダーありというスタイルが一般的でした。後発である当社は存在感を出すため、28o広角レンズ、大型液晶モニター、ファインダーレスという斬新なデザインを提案し、さらに画質トップを目指して高速画像処理エンジン「ヴィーナス」を作りました。それらのデバイスやデザインを、ハイエンドモデルにとどまらず、エントリー機種まで広く採用したのです。MEGA O.I.S、ヴィーナス、大型液晶などは全機種に搭載。またレンズも25〜125oの5倍ズームレンズ、28〜280oといった広角・高倍率のズームレンズを普及価格帯モデルに積極的に載せています」(今井グループマネージャー)

 これらはデジタルカメラユーザーにとってきわめて魅力的なスペックだが、ヒット作となる決定打となったのは、カメラの価格をほとんど上げることなしにそれらの機能を実装できたことだろう。
「高くて高機能という製品も必要ですが、量産モデルはやはり、良い製品をリーズナブルなコストで作ることが大切なんですね。パナソニックはカメラのフィルムにあたる撮像素子、光をとらえるレンズ、画像を処理する回路・ソフトウェアと、デジタルカメラ技術の上流から下流までをすべて自社で開発しています。設計全体を見回しながらコストダウンの工夫をすることができるというのは、有利な点だと思います」(今井グループマネージャー)


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高機能を低コストで作ってこそが、モノづくりイノベーション

「より良い物をより安く」――創業者、松下幸之助のこの経営哲学は、松下電器からパナソニックへと社名が変更されても変わることなく生き続ける。低価格で高機能なコンパクトデジタルカメラをはじめ、24oF2始まりという、コンパクトデジタルカメラの限界への挑戦ともいえる明るい広角ズームレンズを備えた高級モデル「LUMIX LX-3」をリリースしている。

 さらに大型の素子を使った本格的デジタルカメラでも攻勢を強める。デジタルカメラに適した光学特性を追求するフォーサーズ規格に準拠し、コンパクトデジタルカメラのように液晶画面に撮影対象物を映しながら撮影可能という高性能撮像素子「LiveMOS」を自社開発。06年に一眼レフデジタル市場への参入を果たした。現在はコンパクトかつ高性能な一眼レフデジタルモデル「LUMIX DMC-L10」を発売中だが、さらに10月末にはLiveMOSの特性を生かし、光学ファインダーを廃止して電子ファインダーと背面液晶のみを使って撮影を行うという、まったく新しいタイプのレンズ交換式デジタル一眼カメラ「LUMIX DMC-G1」を発売する。

 これらすべてに、高品質、高機能な製品を安価に作るという、パナソニックのコストダウン技術が投入されている。言い換えれば、パナソニック流コストダウンは、エンジニアの作りたいカメラを商品として実現させるためのコアテクノロジーなのである。

MEGA O.I.S

ヴィーナスエンジン

LUMIX  LX-3

LUMIX DMC-L10

LUMIX  DMC-G1

【Part2】「入り交じり」のモノづくり。火花散らすようなコミュニケーションをしたい。

安物づくりではない。コストダウンとはより良いモノづくりだ

――8月に発売された「LUMIX FX37」は25oの超広角レンズ、ヴィーナス画像処理エンジンなどに加えて被写体追尾オートフォーカスを実装した、高機能とリーズナブルな価格を両立させたモデルですね。

只野

位置づけとしては25o広角レンズを採用していたFX35というモデルの後継機になります。スタイリッシュコンパクトという位置づけですが、バッテリー含めて146gという小型軽量ボディに多彩な機能を盛り込み、さらに旧モデルに比べて操作性もいっそう改善しています。

――開発者としては、より良い製品にするために機能や性能を高めたいところでしょうが、高くなっては商品力が落ちる。そこで重要なのがコストダウンになるわけですが。

只野

確かにコストダウンはきわめて重要なテーマです。とくにコンパクトデジタルカメラの市場は価格競争が激しく、価格が高くなってしまうと途端に競争力が落ちてしまいます。が、何でもやみくもにコストを下げればいいというわけではないんです。FX37は撮った写真をモニターで再生するためのスイッチを独立させました。今までは撮影操作のためのロータリースイッチに組み込んでいたのですが、このほうが使い勝手がよいということでそうしたのです。コストを極限まで下げることを考えれば、スイッチが増えること自体はマイナスになりかねません。が、われわれはスイッチを増やすことがよいことならば、どうやったらそれをより安く作ることができるかという考え方をします。また、回路設計を工夫することでコストを吸収することもあります。

――カメラ全体でコストを考える、と。

只野

そうです。デジタルカメラ開発はどのようなカメラにするかを考える企画段階、機構やソフトウェアなどの設計段階、カメラを実際に工場で作る生産段階があるのですが、それぞれの段階でコスト削減を試みますし、必要があればいつでも敷居を越えてコストダウンのための話し合いをやります。どう作ればより効率化が図れるのかということを生産担当と話し合ったり、いずれの技術を使っても同じような商品性になる場合にどちらを選ぶかを企画と討論したり……。

AVCネットワークス社 LUMIX FX37 機種リーダー 主任技師 只野祐次氏AVCネットワークス社 レンズ鏡筒機構設計 主任技師 科野文男氏
LUMIX FX37



――しかし、デジタルカメラも高度化が進んでいます。機構設計で工夫できることは限られているのでは。

科野

そう見えるでしょう。ところが実際に設計をやってみると、いくらでも工夫のしようがあるものなんですよ。例えば、FX37の手ぶれ補正機構MEGA O.I.S。これは手ぶれに合わせて光軸をずらすのですが、以前は縦方向と横方向をそれぞれ別に動かしていたのを、ひとつのユニットでX軸、Y軸両方向に動かせるようにしたんです。すると、部品点数が減ってコストが下がった一方で、手ぶれ補正の性能はかえって向上しました。いいモノを安く作れたときは、やっぱり達成感がありますね。

只野

回路でも同じようなことがありますね。FX37はボディが小さいため、回路の面積もきわめて小さくしなければなりません。もちろん高密度実装をやれば、多くの機能を盛り込むことはできるんですが、そうすると生産段階で作りにくくなり、コストアップの原因になってしまう。FX37では、新しい画像出力機構を採用しました。従来モデルではビデオドライバーチップとテレビ出力用にアナログ変換するコンバーターチップを別々に実装していたのですが、FX37ではそれをひとつのチップに統合しました。回路ブロックの構成自体は昔から大きく変わっていないのですが、より低コストで作る方法は、考えればまだまだいくらでもあると思います。

――なるほど。コストダウンと言うと、場合によってはネガティブなイメージをもたれることもあったりしますが、実際には大変なことばかりではないんですね。

科野

基本的に工夫するのは楽しいですよ。レンズユニットは単に理想の光学系を設計するというだけではなく、例えばユーザーが誤って落下させてしまったり、温度や湿度の環境が厳しい場所で使ったりといったことに、なるべく耐えられるように設計しなければなりません。あるとき、衝撃の影響をどう緩和するかということをテーマに議論していたとき、あるエンジニアが「シャッターと手ぶれ補正の両方の強度を保てないなら、いっそひとつにまとめちゃったらどうだろう」と言い出したんです。で、試しに一体化してみたら、強度は飛躍的に上がり、コストは下がりました。私は子供のころからこういう精密な機械に憧れていたこともあって、このユニットが完成したときには、ああ、自分はまさにこれをやるために生まれてきたのかもとすら思いました(笑)

只野

そうそう、工夫は楽しい。そもそも、コスト目標を達成できる見通しが立たないと開発許可が下りませんからね。われわれ開発陣がぜひ作ってみたいというようなカメラを実際に商品化できるかどうかは、自分たちの工夫にかかっていると言っても過言ではありません。その意味では、コストダウンはやらされるものではなく、モノづくりにかかわるエンジニアとして、日常的に意識しておくべきテーマなんですよね。


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経験なんて関係ない。大切なのはカメラが好きかどうかだけ

――デジタルカメラの開発というと、昔はカメラ専業メーカーのおはこという印象がありましたが、今や家電メーカーのパナソニックが、光学技術や電子技術などを生かしてシェアを大いに伸ばしています。カメラ関連技術の経験者でなくとも、デジタルカメラ開発に携われるのでしょうか。

只野

当然、デジタルカメラ開発経験のないエンジニアがかかわれることは山ほどあります。実際、当社のデジタルカメラ開発部隊でも、カメラ以外の分野の中途採用や、社内の別部門からの異動でデジタルカメラ開発を手がけるようになったエンジニアはたくさんいます。そもそもデジタルカメラは光学カメラより、他分野の人材がかかわれる余地が大きいと思います。電気、電子はもちろん、半導体、精密機械などの機構設計などは、他分野で経験を積んだエンジニアでも十分にやれる。また、カメラ以外のレーザー、マイクロレンズ、単機能カメラなどの光学技術を手がけたなどという人は、勉強次第で光学設計もモノにできるかもしれません。

科野

私は実は、パナソニック社内ではあるんですが、生産設備開発というまったく畑違いのところから、希望を出して異動してきました。大学で勉強していたのも機械設計で、カメラのことはほとんど知らなかったのですが、周囲のサポートもあって、レンズ鏡筒の機構設計をやれるようになりました。大事なのは経験よりもむしろ、よいカメラを作るのが好きかどうかではないでしょうか。



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