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厳選★転職の穴場業界 第39回 航空機用エンジン ここまできたか!次世代ジェットエンジンを開発しよう
レシプロ、ジェット、ターボプロップ……バリエーション豊かな航空機用エンジンは今、新たなイノベーションの時期を迎えている。厳しい環境規制への対応や燃費の向上と性能を両立させるための開発競争が世界中で激化。日本のメーカーも参戦を始め、ようやくチャンスがやってきた。
(取材・文/伊藤憲二 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:08.08.07
革新スペックの小型ジェット向けターボファンエンジン
「GE Honda HF120」ターボファン
ホンダジェット
上の写真はホンダジェット

GE Honda エアロエンジンズ 「HF120」
ターボファンエンジン

 ホンダとジェットエンジン世界最大手の米GEが合弁で設立したエンジン製造会社、GE Hondaエアロエンジンズの商用ターボファンエンジン1号機。全長111.8p、直径53.8p、重量182s以下という軽量コンパクト設計で、最大推力は2050lbfと高出力。燃料消費率は1時間・推力1ポンド当たり0.7ポンド(318グラム)。5人ないし6人搭乗で飛行する場合、ひとり当たりのCO2排出量で大型乗用車とある程度競合するレベルの省燃費性能だ。
 この新型エンジンは、ホンダが1980年代から続けてきた航空機用エンジン研究開発の成果を盛り込んだ商用ターボファンエンジンです(写真はホンダが独自開発したHF118)。小型軽量ながら高推力を達成し、小型ビジネス機であるホンダジェットを時速800km近い速度で巡航させる能力を有しています。低燃費や低排出ガス性能では開発当初から世界最高レベルを目指しており、分解整備の間隔が5000時間と非常に少ない頻度ですむのも特徴です。現在、HF120はホンダジェットとスペクトラム社のフリーダムへの採用が決まっていますが、さらにカスタマーを増やすべく、研究開発を推進していく計画です(川本理)。
本田技術研究所:実験担当エンジニアから見た航空機エンジン開発の面白さ
川本理さん
株式会社本田技術研究所
航空機エンジン開発センター
第1開発グループ
主任研究員
川本 理さん
大学で航空宇宙工学を専攻し、卒業後は本田技術研究所に入社。その2年前から始まった航空機用エンジン開発部門に配属され、同社歴代のジェットエンジンと共に現在まで主に実験畑を歩む。

実験はジェットエンジン開発のエッセンスが凝縮される一瞬

「ターボファンエンジンの開発は本当に楽しい。私はずっと実験を担当してきましたが、燃焼試験をするときのごう音や激しい反応のリアル感はたまりませんよ」
 入社以来、一貫してジェットエンジン開発に携わってきた航空機エンジン開発センター主任研究員の川本理さんはこう語る。航空機の使用環境は非常に過酷だ。滑走路の路面温度が80度にもなる中東の空港から、気温がマイナス60度以下になる冬の高々度まで、その温度変化はすさまじい。離着陸の際に鳥をエンジンに吸い込んでしまうことも日常茶飯事だ。
「開発の過程で、過酷な状況でも最高の安全性を確保するよう、環境限界性テストというものを繰り返し実施するんです。鳥に見立てたものをバーンとぶっつけてみて、壊れないかどうかを確認する。万が一にタービンのブレードが飛んでしまった場合に備えて、致命的な状況にならないかといったテストもする。そのために長い時間をかけて設計、試作、試験準備を行い、試験の後には膨大な解析作業が待っている。そのプロセスの中で実際の試験は一瞬であり、たった1分で終わってしまうこともある。その状況をナマで見られるのは快感そのものですね」

 創業者である本田宗一郎氏が、当初から航空機開発の野心を抱いていたことはよく知られている。実際に航空機の研究に本格的に乗り出したのは、1998年までホンダの社長を務めた川本信彦氏が研究所のトップに就任した1986年。川本さんが入社したのは2年後の1988年だった。
「大学では航空工学を勉強していましたが、ホンダに入社したときには飛行機づくりにかかわるとは全然思っていませんでした。志望理由は、漠然と『ホンダっていい会社みたいだな』といった程度のものでしたね(笑)」
 当時、ホンダは航空機開発としてジェットエンジンの開発に着手していたが、そのことは外部にはオープンになっていなかった。川本さんは入社後、いきなり「お前、ジェットエンジンの開発に加われ」と言われて驚いたという。
技術的センスさえあれば誰でも担当できる!?

 航空機部門に配属されて以降、川本さんはほぼ一貫して実験畑を歩くことになる。最初の担当は、ガスタービンの吸入口から取り入れた空気を圧縮する、コンプレッサーの試験だった。
「一応、航空原動機でジェットを知っていたので、レシプロエンジンに比べれば取っ付きやすい仕事ではありました。ただ、大学で勉強する航空用のガスタービンなんて実用機に比べれば何もやっていないのとほとんど同レベル。何もかも一から勉強しました」
 実際、本田技術研究所の当時の航空機エンジニア陣で、もともと航空機を勉強していたり、他メーカーで実務経験をもっていたという人材はほとんどいなかったという。現在でも、航空機エンジンメーカー出身の中途人材は数人しかいないそうだ。
 ホンダはその後、1991年には試作ターボファンエンジン「HFX-01」、「HFX-20」、さらに商用を視野に入れた「HF118」、現在の「HF120」と、航空用エンジンの開発を着々と進めてきた。川本さんをはじめ航空機部門のエンジニアは、その開発の過程でプロフェッショナルに育ったのだという。

「ジェットエンジンの開発が非常に難しいのは確か。ただ、商用ジェットエンジンの開発を手がけている企業自体たくさんあるわけではなく、この世界に入ってくる人は基本的に未経験同然。その意味では、技術的なセンスがあり、機械に関する知識さえあれば、誰でもこの仕事ができるとも言えます」
 航空機用ターボファンの開発において実験の役割は重要だ。実験というと、定められた条件下で計測試験を行ってその数値を出す役割というイメージが強いが、ホンダの航空機部門では高度なフィードバックを要求される。
「航空機エンジンの試作機のテストにおいて、一発で狙った性能が出ることはまずありません。何か問題が生じたときにその数値や現象を報告するだけでなく、なぜそういう結果になったのかを実験部隊として得られた所感、原因の推定、ときには改善提案などを積極的に行う。フィードバックされる情報が生きたものであるほど、その後の技術革新や改良が早く、よい形で進むんです」

一般の人向けの飛行機や災害救助のヘリもつくりたい!

 ターボファンはアイドリング時以外、1万回転/分を優に超える速度で猛烈に回転し、ファンブレードの速度は超音速に達する。レシプロエンジンや電気モーターとは次元の違うハードさだ。
「ターボファンの効率を上げるためには、超音速で動くブレード表面の衝撃波損失をできるだけ減らす必要があります。近年はCFD(流体力学シミュレーション)が発達して、より高い効率を狙った複雑な形状のブレードを作れるようになりましたが、その計算は非常に難しい。実験を行い、その結果をシミュレーションシステムにどんどん反映させることが、CFD能力を高めるのに極めて重要です」
 ジェットエンジンの技術は相当に進化してきているが、それでも試験をしてみると「こんなことが起こるのか」といった発見が、今でも多々あるという。課題を見つけ、解決法を考えるという、モノづくりの楽しみの原点を常に味わえるのは、ジェットエンジン開発の醍醐味と言えそうだ。

 最後に、企業としてのプランや開発実務とは関係なく、個人的な夢を聞いてみた。
「ホンダジェットとHF120はこれでいいとして、個人的には将来、もっと普通の人が乗れるような操縦性と価格の飛行機も作りたい。家内から『いつ私を乗せてくれるの』などと言われてしまうんですよ(笑)。一方、ヘリコプターにも非常に関心があります。災害救助や遭難救助のときに、悪天候で飛べないことがよくあるでしょう。人命がかかった局面で天候に阻まれて飛べないというのはやりきれない。技術でどうにかならんか、なんて思ったり……」
 夢のことになると途端に話が止まらなくなるのは、航空機エンジニアにはよくあること。川本さんももちろんそうだった。
「HF120」のイラスト
「HF120」のイラスト。ファンで送られた空気を低圧、高圧コンプレッサーで圧縮して燃焼室に送り、燃焼ガスが後方の低圧、高圧タービンに吹き付けられ、シャフトでつながったコンプレッサーを作動させる。
初代ターボファンエンジン「HFX-01」
1991年に開発を開始して1997年に完成した初代ターボファンエンジン「HFX-01」。旅客機の胴体に装着して高々度試験を実施。技術的見通しがついたとの判断から、商用エンジン設計へと移行していった。
「HF118」の側面
「HF118」の側面。燃料系統やECUの実装では自動車メーカーのノウハウが生かされ、きわめてシンプルでトラブルの起こりにくいレイアウトとなっている。
「HF118」の背面
「HF118」の背面。燃焼室からの排気と燃焼室の外を通ってきた空気をエンジン後方で混合させることで騒音を低減させる、ローブミキサー構造となっている。
「HF118」の内部構造
「HF118」の内部構造。左がエンジンの空気取り入れ口側。中央部のコンプレッサーが自動車用コンプレッサーを思わせるインペラ形状となっているのが特徴的だ。
航空機用エンジン開発への道:タービンや自動車など異業種からもOK
 新興国の経済発展や北米の空路再編などにより、航空機エンジンの需要は今後、増大すると見られている。また、燃費、騒音、排出ガスなどの規制はより厳格化される傾向にあるため、開発需要は強く、エンジニアの求人もしばしば行われている。
 リクナビNEXTでは「航空機」と「エンジン」のアンド検索で求人情報をゲットできる。なお、航空機エンジン分野はジェット、レシプロとも参入企業が限られているため、既存の重工メーカーや、空の世界では新興勢力である自動車メーカーの名称で直接検索するのも手だ。

 航空機エンジン開発に求められるスキルだが、ジェットとレシプロでは大きく異なる。ジェットでは、航空機用でなくともガスタービンの開発経験があるエンジニアはスイートスポット。また、内燃方式以外の排気タービン、水流タービン、蒸気タービンなど、高速回転体のCAE設計、試験、品質管理などを経験したエンジニアも十分ターゲットとなる。
 要素技術として高耐熱・高強度金属材料、セラミック材料などの材料工学、燃焼工学、流体力学などのスキルをもっているエンジニアにもチャンスはあるだろう。

 レシプロは自動車、二輪車用エンジンと技術的な共通性が高く、エンジン設計主任などを経験した人材であれば中途採用のチャンスは十分にある。ただし、航空機用レシプロは高G旋回や背面飛行などでも停止しないシステムやレシプロ構造での高信頼性など、ジェットと異なる難しさもある。手がけている航空機関連企業も外資系が中心となるため、「自動車と似たようなモノ」という感覚での転職は難しい。
 ちなみに日本では、複数の自動車メーカーが航空機用レシプロエンジンにチャレンジしており、それらの門をたたくのも効果的だろう。
 技術立国日本で遅れていた数少ない分野のひとつが、宇宙・航空関連事業だ。それが、ようやく手の届くところまで進んできた。このチャンスを逃す手はない。
航空機用エンジン業界のエンジニアニーズ
・ 航空機用エンジンはニッチマーケットでも需要は増大傾向
・ ガスタービンの開発経験者は基本的に転職に有利
・ 内燃機関以外のタービン、コンプレッサー、付随する要素技術の経験も有用
・ レシプロエンジンは自動車用エンジンと技術の共通性が強い
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
実際のジェットエンジンは想像以上に小さなものでした。小型ビジネスジェット用とはいえ、このエンジン2機で時速800q、5000時間も航行するなど、どれほどの技術が濃縮されているのかと驚いてしまいます。この連載は今回が最終回となります。今までご覧いただき、本当にありがとうございました。

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