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エンジニア給与“知っ得”WAVE vol.57 30代前半の格差は110万円も!「学歴」はエンジニアの給与に影響する?
「うちは実力主義。学歴は関係ない」という人が多数を占めるなかで、「結局、学歴で判断されている」と悔しがる人もいる。学歴は昇進や昇給にどんな影響を与えているのか。そもそも学歴は必要か──。1000人のエンジニアに、学歴へのこだわりを聞いてみた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/kucci(クッチー) 撮影/加納拓也)作成日:06.07.05
盛田昭夫氏の「学歴不要論」再び
「いったい学歴とはどういう意味をもつものなのか。会社は過当競争のさなかにあって、実力で勝負しなければならないというのに、そこで働いている人は入社前に教育を受けた“場所”で評価されるというのは、どう考えても納得がいかない。学校では秀才だった者が必ずしも社会の俊才になるとは限らないのも事実である」

 これはソニーの元会長、故盛田昭夫氏の著書『学歴不要論』(1966年)のなかにある言葉だ。当時は高度成長期のまっただなか。大学進学率も今ほどではなく、大卒者は優遇されてホワイトカラーの幹部候補生になり、一方で中卒・高卒者は現場要員として配属されるという大ざっぱな振り分けが可能だった時代だ。学歴を重視した採用は年功序列型の賃金体系とともに、企業の人事施策のなかで暗黙の常識とされていた。

 実力主義の観点から学歴偏重に異を唱えた盛田氏の発言は、今でこそ当たり前の意見のように思えるが、当時としてはかなり大胆なもので、社会的にも大きな反響をもたらした。

 それからはや40年。日本の企業風土は果たして変わったのか。採用や昇進にあたって学歴を問うことは一切なくなったのか。給与はその人の仕事の成果を反映するもので、そこでは大卒か高卒か、あるいは有名大学卒かそうでないかなどという学歴要素が入り込む余地は、一切なくなったのだろうか。

「私は短大卒で、入社13年目になるけど、今年入社した大学卒の新入社員とほぼ同額の基本給である。また昇給にランクがあり、大卒のランク上昇率が短卒に比べてとても差がある。能力を評価される以前に、基準の昇給ランクに差があるので、がんばってもなかなか大卒の給料に追いつけない」(汎用機系システム開発・32歳・短大卒)

 これは、Tech総研がこのほどエンジニア1000人を対象に行った学歴意識調査のアンケートに寄せられた声のひとつだ。このようにいまなお「学歴格差」を指摘する声がある一方で、こう言い切る声もある。

「大学中退でも昇進しているし、専門学校卒の部長もいる。大学院を出ていてもぜんぜん仕事ができない人もいる。基本的には能力があれば学歴は関係ない」(制御系システム開発・26歳・大卒)

 このように意見が分かれる現状では、「いったい学歴とはどういう意味をもつものなのか」と、40年前の盛田氏と同じ問いを、私たちはあらためて繰り返さなくてはならない。まずは、大まかではあるが、エンジニアの給与は学歴によってどのくらい給与格差があるか見てみよう(DATA1)
DATA1 学歴か?実力か? ソフト系とハード系の年代・職種別の平均年収分布
ソフト・ネットワーク系
 
電気・電子・機械系
「学歴の影響は少ない」が7割
 今回のアンケートでは「あなたの学歴は現在の勤務先での出世や評価、給与に影響を及ぼしていると思うか?」という設問がキーになっている。これに対する回答は「そう思う」が28%、「そう思わない」が72%と、7割以上の人が現状の評価に学歴が及ぼす影響を否定している。現状ではたとえそうだとしても、今後は影響が出てくるのではないか、という問いにも、75%が「いいえ」と答えている(DATA2)。

 だとすれば、学歴など仕事をするうえでは必要ない、少なくとも重要な要素ではないということは可能なのだろうか。「エンジニアにとって学歴は必要だと思うか」と単刀直入に問いかけると、しかし、答えは微妙に分散する。
「必要」という人が15%、「どちらともいえない」が56%、「必要ない」が29%といった具合だ。盛田氏のように「学歴不要」とも言い切れず、かといって「学歴がすべて」とも開き直れない、曖昧な反応ということができる。

 回答データをもう少し詳しく見てみると、「学歴が評価に影響していない」とする人の割合は、20代前半から30代前半にかけては75%だが、30代後半から40代前半になると68〜69%と多少下がっていることがわかる。若いときは、学歴など意識することなく仕事ができるし、給与格差もそれほど大きくはないが、社内での勤務年数がたつうちにそれを意識せざるを得ない局面が増えてくる、もしくはかつて厳然と存在した「学歴偏重」は年齢が高まるにつれ奥底に残っている、というようにも読めるデータだ。

 同様に回答者の最終学歴とのクロス集計では、「学歴の影響」を否定する人の率は、高校卒では51%、高専・短大・専門各種学校卒が68%であるのに対して、大卒(文系)が85%、大卒(理系)が74%、大学院(理系)が76%となっている。これは、高学歴である人ほど、学歴の影響を意識することが少ないという、ある意味では予想どおりの回答といえる(DATA3)
DATA2 学歴は出世や、給与に影響すると思う?
現在の影響度 将来への影響度
DATA3 最終学歴別に聞いた「学歴」の出世や、給与への影響度
 
DATA3
製造業とITでは学歴意識に差がある?
 業種や職種による意識の差はあるだろうか。かつての製造業であれば、現場のラインは高卒者が担当し、大学卒はそれを管理する立場に就くということが自明のこととして考えられていた。こうしたマネジメントとオペレーション、あるいはラインとスタッフの分離はどんな業種でも必須のことだが、均一の製品を大量生産する製造業ではそれが顕著にあらわれ、さらにかつてはその担当が学歴によって明確に区別されていた。

 かつては、高卒者が現場で出世することはあっても、あくまでもラインのマネジャー止まりで、彼らの仕事を本社のデスクから指示するのは、大学を出たホワイトカラーのスタッフである、という構造は、当然のことながら初任給の差となって現れ、大卒者と高卒者の給与格差はその後も埋まらず、最終的には生涯賃金の差として反映されていたのだ。

 しかし、ハードウェアの製造業ではない職場、たとえばシステム開発などのIT産業では必ずしも、その製造業モデルは通用しないのではないか。業種の特性によって、学歴へのこだわり方は違うのではないか。そうした仮説をもってデータをみると、メーカー系(電気・電子・機械系)では「学歴影響否定派」が66%であるのに対して、IT・通信系では76%と、10ポイントの違いが出ている(DATA4)。ただこの差だけで、「製造業とソフトウェア産業では学歴意識に違いがある」という仮説が裏付けられたとは即断できない。業種の差というより、これは企業規模の差かもしれないし、ほかにもさまざまな要因が含まれていると想像できるからである。
DATA4 IT系企業に勤める技術者はメーカーよりも学歴格差意識が低い
 
DATA4
成果主義で学歴格差は縮まったか
 そもそも会社生活のスタートにあたり、学歴が重要な意味をもつことを否定する人は少ないだろう。一定の学歴がなければ、就職することができない会社が現実にあるという。高卒者の初任給と大学・大学院卒者の初任給も明らかに差がある。

 高卒はスタートが15万円で、大卒は20万円だとして、この5万円の差に合理的な意味があるかどうかと問うことはもちろん可能だ。企業の人事担当者に聞けば、おそらくこんな答えが予想される。
「高学歴であるほど、職業の基礎である教育訓練を多く受けており、それが職業能力の原型をつくっている。つまり高学歴ほど教育に対する金銭的・時間的投資が高いとみなされ、人的資産としての価値もまた高いといえる。より高い商品を買い入れるためには、より高い金額を払うのは当然のことだ」

 学校教育で求められる能力と職場で求められるものは違うのではないかというツッコミはさておくとして、こうした理解は一般的なものであろう。厚労省の賃金センサス(賃金構造基本統計調査)によればこの学歴別初任給は、2004年は大卒を100としたとき、高専・短大卒が86.1、高卒が78.7であった。この格差は、1990年から比べてもほとんど変わっていない。

 最初のスタートで差がつけられている以上、その差を埋めるのは容易なことではない。とくに年功序列型の会社では、よほどのことがないと、同じ年次の高卒者と大卒者では、いつまでたっても賃金に格差があった。しかし、成果主義導入の進む職場では、たとえ新卒時の初任給に格差があっても、その後の努力で、高卒者が大卒者を職位や給与で追い抜くということが可能なはずだ。成果主義はこの数年どんどん浸透しているから、格差僅少の傾向は強まっているのではないか。

 このあたりの疑問を、独立行政法人労働政策研究・研修機構の堀春彦氏(雇用戦略部門・副主任研究員)にぶつけてみた。
「日本の労働者の賃金を概観できる、厚労省の賃金センサスによれば、2004年の所定内給与額は大卒を100としたとき、高専・短大卒では75.7、高卒で75.4(いずれも全職種・男性)と、明らかに格差があります。これが縮まっているのか広がっているのかでいうと、たとえば30歳代前半層では90年に大卒100対高卒86.2だった格差が、2004年には100対83.2にまでなりました。成果主義導入の結果かどうか定かではありませんが、徐々に格差が拡大しています。この格差拡大傾向が今後も続くのかはわかりません」

 という答えだ。成果主義が導入されたからといって、すぐに効果が発揮されるわけでもない。形は成果主義だが、実際は年功要素が色濃く残る企業もある。このあたりはかなり難しい問題だ。
「当機構の試算によれば、日本の社会では高卒と大卒では生涯賃金の格差が1億円ほどあります。学歴差による年収差が存在することは無視できない事実で、これがすぐになくなるとは思えません。ただ一方では、日本は欧米に比べたら、むしろ学歴差が収入に直接反映しにくい社会ともいえます。例えば、フランスでは特定大学の出身者はいきなり管理職として採用されるなど、職業参入時の学歴による格差は日本以上に大きいようです」と、堀氏はこれからの学歴社会の行方を予測している。

 学歴も能力のひとつというなら、それはそれでスッキリする。しかし、それはあくまでも入社時点の能力であって、その後の成長は、学歴や学閥にとらわれることなく、公平な業績評価でしてほしいものだ。「学歴が低いゆえに職位も給与も上がらない」とエンジニアに思わせるような風土は、どうみても発展的とはいえないだろう。
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  宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ  
宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
格差社会が話題になっていますが、実際にアンケートや取材を行ってみると、学歴による入社時の給与差はあったとしても、入社後はさほど影響しない、関係ないといった声が多いようです。とはいえ、入社の給与差がそのまま生涯賃金に大きく影響してくるとなると、より今の実績・キャリアで報酬を受け取れる会社に魅力を感じる人もいるのではないでしょうか。その参考値として、少しでもお役にたてるとうれしいのですが……。

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