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厳選★転職の穴場業界 第12回 パワーエレクトロニクス 高効率な電力を使って地球温暖化を阻止せよ
地球温暖化の原因物質とされるCO2の削減が叫ばれるなか、省エネ、環境関連のコアテクノロジーと目されるのがパワーエレクトロニクスだ。大手家電、重電、自動車メーカーに加え、パワーエレクトロニクス専業のベンチャー企業も登場。技術開発競争に拍車が掛かっている。
(取材・文/伊藤憲二 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:06.05.10
業界動向:家電から新エネルギーまで、多くの分野で「パワエレ」ブーム
 地球温暖化や石油価格の高騰など、環境・エネルギー問題が深刻化するなか、省エネや高効率化の中核技術であるパワーエレクトロニクスの技術開発が花盛りだ。
 小さいものではIH炊飯ジャー、エアコン、冷蔵庫といった家電製品、自動車ではハイブリッドカーのエネルギーマネジメントシステム、果ては高電圧で大電力を扱う鉄道、太陽光や風力を含む発電所向けまで、電気エネルギーを使うありとあらゆるシーンで技術活用されている。

 パワーエレクトロニクスとは、電子パーツを用いて電気の制御を行うテクノロジーのこと。代表的なものとしては、交流を直流に変換する整流器、反対に直流を交流に変換するインバーター、直流の電圧を昇圧・降圧させるコンバーター、変電所の電圧安定など発送電向け用途が想定されている先端技術のSTATCOM(自励式無効電力補償装置)などが挙げられる。

 電気エネルギーを効率的に利用するためには、電気の種類を変換したり、電流や電圧を制御したりと、機器や使用目的に合うように形を変えてやる必要がある。パワーエレクトロニクスは、それら電気の制御を一手に引き受けるコアテクノロジーなのである。1950年代に米国ゼネラルエレクトリック社がサイリスタを発明したのを機に普及したパワーエレクトロニクスだが、現在ではIGBT(絶縁ゲート両極トランジスタ)を使用した回路が主流である。
 経済産業省は省エネ関連分野の潜在市場規模について、現時点で2兆4700億円に達していると分析している。パワーエレクトロニクスはそのなかでもきわめて重要な技術であり、今後の発展はあらゆる電気関連事業・製品に影響を及ぼすだろう。
注目企業:「世界を視野に」パワエレ専業ベンチャーのマイウェイ技研
 大企業の専売特許というイメージの強かったパワーエレクトロニクスだが、それを専業とするベンチャー企業も登場している。パワーエレクトロニクス・モジュールの開発受託や設計支援ツールの供給を手がけるマイウェイ技研もその1社。世界市場での需要は無尽蔵と気勢を上げる。
■PE-ExpertVとWaveリアルタイム波形表示ツール ■APL(Active Power Load)
PE-ExpertVとWaveリアルタイム波形表示ツール APL(Active Power Load)
テキサスPI製DSPを装備した最新のデジタル制御用コントローラー。インバーター、モーターをそれぞれ独立したボードで制御、拡張性を高めた研究開発用ツールだ。ここで得られたデータをWaveリアルタイム波形表示ツールによってPCに送出し、PC側のPE-Viewでプログラムの変数をオシロスコープのように波形表示することができる。マイコンやDSPボードのソフトウェア開発を、視覚的に行えるという特徴をもつ。 インバーター、モーター制御、コンバーターの開発や試験において必須となる、電源や負荷を与えるための研究開発用ツール。パワーエレクトロニクス本来の性能試験に加えて、通信機能やI-Vカーブ特性模擬などオプション機能の充実も図られている。パワーエレクトロニクス機器の研究開発だけでなく、太陽光発電装置や燃料電池といった次世代エネルギーデバイスの特性試験にも使えるマルチな電源装置だ。

設計ノウハウを武器にアドバンテージを取得

「電気エネルギーはライフラインのなかでも、もっとも大事なもののひとつ。1日でも止まると生活そのものが成り立ちません。その電気エネルギーを節約するパワーエレクトロニクス関連分野は、必ず需要があるはずと思った」
 パワーエレクトロニクス製品の開発用シミュレーションツールの供給、そのツールを使った関連モジュールの開発受託、開発部門向けのパワーエレクトロニクス実機検証装置開発などを手がけるマイウェイ技研の楊仲慶社長は、同社設立の動機をこのように語る。
 スタートは93年だが、家電や自動車など多くの分野で省エネ型の新製品開発競争が激化するにつれ、シミュレーションツール、開発受託とも売り上げが伸びているという。開発受託先も自動車、冷熱、家電、鉄道、電力など、その業界は多岐にわたっている。

 また楊氏は、開発に膨大なノウハウを要するといわれるパワーエレクトロニクスだが、実はベンチャーの参入余地はいくらでも見つけられるという。
「IGBTなどパワー半導体については日本企業の技術力はきわめて高いのですが、効率の高いモジュールをつくるうえで、素子の影響力は限定的です。どう回路を設計し、どういう制御アルゴリズムを組むかといった実装面のファクターがとても大きいんですよ」
 昨今、技術開発のテーマとしてしばしば取り上げられている、パワーエレクトロニクス関連モジュールの小型化について、同社エンジニアの富樫重則氏は「設計ノウハウが非常に大事」と語る。
「単に回路の密度を高めるだけではノイズや熱の影響が出てしまい、いいものはつくれません。設計段階でクリティカルな部分を見つけられるようなノウハウを蓄積することが大切。パワーエレクトロニクス開発専業は、その点でアドバンテージをもてます」

ソフトからハードまでを開発し、今後は海外へ

 マイウェイ技研では、独創的なアイデアをいくつも実用化している。例えば、インバーターやコンバーターの制御系プログラムは元来、ユニットごとの組み込みで、機器に合わせて一から開発していた。同社は開発を効率化するため、PEOS(パワーエレクトロニクスOSという意味)というオペレーティングシステムを考案。制御アルゴリズムに特化したプログラムを組むだけで駆動でき、しかも高速で駆動できるようになった。このPEOSは、パワーエレクトロニクス業界で広く使われるようになっているという。
 主力商品である開発ソフトも、波形解析機能、周波数解析機能をもつモーター制御シミュレーター「PSIM」、Windows PC上でプログラムの変数を波形表示、それをエディットすることで制御プログラムを編集・コンパイルできる統合開発環境「PE-View」などを用意しているが、優れたインタフェース性が評価され、ユーザー数を伸ばしている。

 マイウェイ技研の設計したパワーエレクトロニクス・モジュールは、ハイブリッドカーや電気自動車、太陽光・風力発電、家電など、多くの製品に採用されている。現時点における主要顧客は国内企業だが、楊氏は今後、海外企業とのコラボレーションについても期待感を示している。
「国内市場ばかりを見ていると、世界の市場動向を見誤ります。例えば電気自動車。日本では航続距離が何百kmもあって高速道路を走れる車両が要求されますが、アジアの新興市場ではシティコミューターとして小型・軽量な電気自動車のニーズがどんどん高まっています。風力や太陽光発電も送電インフラのない国にとっては、非常に有望なエネルギーソースなんです」(楊氏)

 マイウェイ技研は既に、中国の電気自動車メーカー向けにEV用モータードライバを供給している(右写真)。海外を視野に入れると、パワーエレクトロニクスへのニーズは今後、加速度的に増えていくと予想している。
 かつては一部企業のみがノウハウをもっているというイメージが強かったパワーエレクトロニクスだが、このジャンルでもベンチャーが成立しうることを、マイウェイ技研が立証している。

楊 仲慶氏
マイウェイ技研
代表取締役 CEO
工学博士

楊 仲慶氏

中国浙江省生まれ。83年に中国浙江大学電気工学部を卒業後に来日。90年東京工業大学電気電子工学科博士を取得。パワーエレクトロニクス関連企業で研究開発に従事した後、93年にマイウェイ技研を設立。
富樫重則氏
モーター制御T. エンジニア
富樫重則氏

工業高等専門学校で電気・電子工学を専攻。卒業後、太陽電池や風力発電などの新エネルギー関連機器の開発を志してマイウェイ技研に入社。現在は太陽電池のパワーコンディショナーなどの開発に従事。
同社開発のEV用モータードライバを乗せた電気自動車。社屋横の駐車場に置いてある
穴場求人:人材需要は増加中。電気の基礎知識があれば垣根は低い
 開発競争が激化していることもあって人材ニーズが急増している。リクナビNEXTでは「パワーエレクトロニクス」、あるいは「インバーター」「コンバーター」「制御回路」といった個別技術をキーワードに検索すると、求人情報をゲットできる。
 ここで求められるエンジニアのスキルはさまざまだ。パワーエレクトロニクスという言葉からは、ハイレベルの専門知識が必須というイメージをもたれがち。しかし実際には、特殊なノウハウが要求されるのはCPUなど集積回路と同様、HDL系設計言語の知識が求められるパワー半導体素子や高耐圧ICの設計くらいのもの。モジュール設計については案外間口が広く、別分野の経験も生かしやすいという。

 電気回路に関する基礎知識は必須だが、パワーエレクトロニクス関連については、教科書を読破して、専門用語の羅列に面食らわない程度の知識があれば十分である。むしろ回路図から実物の回路に仕立てていく過程で、ボトルネックをつくらないよう工夫するといった技術センスが重要視される。
 インバーターやコンバーターでは、パターン設計を含め、デジタル回路設計経験が生かせる。アンプや電源など、電気エネルギーを滞留させるシステムやスイッチング回路、高周波回路などの経験者も有利。
 また、システムによってはセンサー類を用いるケースもあり、角速度センサーその他のセンサー類の実装経験、デジタル+アナログによる信号処理も回路づくりに役立つ。回路シミュレーションの経験は重宝されるだろう。

 ソフトウェアでは非線形、インテリジェント、モデル予測など各種アルゴリズムの経験を生かせる。複雑な制御が多いため、デバッグのノウハウも求められる。
 パワーエレクトロニクスを極めれば、モーターや電池などの電気デバイスの設計について、制御の側から技術提案もできるほどの知識と経験が得られる。多くの業界・分野で引く手あまたの人材になれそうだ。
パワーエレクトロニクス業界のエンジニアニーズ
・ 電気の基礎知識は必要だが、パワエレの勉強は独学でもOK。
・ インバーターなどの回路設計はデジタルのみの経験でも可能性大。
・ モーターやセンサーなど制御系ではアナログ回路経験者が有利。
・ 非線形アルゴリズムなど制御系プログラム経験者は転職しやすい。
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 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
電気は難しいですね。私など基礎知識がほとんどないものですから、パワエレのすごさは活用後の産業的な価値で計るしかありません。ただ、今後の地球で、電気が最も成長性の高い動力源であることはわかります。そして、富樫さんの「今、仕事が面白い」と語ったときの笑顔。エンジニアが活躍できる注目業界であることは明らかでしょう。

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