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環境性能ばかりではない、EVは自動車の正常進化形だ 地球温暖化をはじめ環境問題が深刻化している現在、その主要な汚染源のひとつといわれる自動車に関する技術革新のニーズは、ますます高くなるばかりである。ハイブリッド車、バイオエタノール車、燃料電池車など、さまざまな環境技術が提案され、一部は商品化もされている。その中で近年、技術の進歩によってにわかに注目度が高まっているのが、バッテリーにあらかじめ充電しておき、そのエネルギーで走るという古典的な電気自動車(EV)だ。 三菱自動車工業(以下三菱自動車)は軽自動車「i」をベースとするEV「i MiEV(アイ・ミーブ)」を製作。電力会社などと共同で、i MiEVを路上で実際に運行する実証実験を行っている。現在走っているモデルは今年1月に公開された第2世代のもので、2006年にデビューした第1世代に比べて航続距離が130kmから160kmに伸びたのをはじめ、市販化に向けた改良が施されている。 開発が行われている名古屋製作所の敷地内で、技術開発責任者を務める吉田裕明・MiEV技術部長が、Tech総研のライター、編集者、カメラマンの3人を乗せてi MiEVを走らせてくれた。一見すると普通の軽モデルと変わらないスタイリングだが、その加速力はなかなかすごく、スポーツカー的ですらある。しかも非常に静かで、フルスロットルで加速しても床下から「シュイイイ!」と小さな音がするだけだ。 |
「i MiEVのモーターの最大出力は軽自動車のターボモデルと同じ47kW。しかし、低速から大トルクを発生させる電気モーターのおかげで、発進加速はとても速いんです。しかもエンジン音がしないので、軽自動車であってもとても静かなのが特徴です」 ステアリングを握る吉田氏はi MiEVの特性をこのように語り、さらに続けた。 「一度乗れば誰でも感じることだと思いますが、静かで速いというEVのドライブフィールは、エンジン車とはまったく違った、とても個性的なものです。当社はEVを環境技術の柱と位置づけています。もちろんCO2排出量がガソリン車の4分の1以下であるなど、環境性能も優れているのですが、そればかりではない。静かで速くて省エネルギーという特性は、まさにクルマの正常進化形だと思うんですよ。私がEVにハマった最大の理由も、純粋に自動車として面白いからなんです」 |
実走テストで改良を重ね、市販に耐えるモデルに EV自体は、実は目新しい技術ではない。自動車が発明されて間もない19世紀末には、既にEVの第一号車が誕生している。日本でも古くから、多くの自動車メーカーによって電気自動車が作られてきた。 それらがメジャーな交通手段として普及しなかったのは、自動車としての性能、信頼性があまりに低く、またコストも高かったからだ。最高速度は100km/h前後、航続距離も100km程度というのが標準的なスペックで、充電にも長時間かかった。何よりネックとなったのが400万円、500万円も珍しくなかった価格だ。 i MiEVの開発目標は、EVの普及の障害となっていたこれらのネガ的な要素を徹底的に解消することだった。動力性能が良好で航続距離が長く、かつ快適で価格も安いEVを作れば、環境対応車として市場に価値を認めさせるのは、決して不可能ではないと判断したのだ。 i MiEVの構想を立てる際には、実際に市販できるかどうか、また市販できるとしたらどのような技術が必要になり、開発にどれだけの困難が伴うかという見立てを行った。 「リチウムイオンバッテリー、パワーエレクトロニクス、モーター、エアコンなどの電装部品、さらにシステム全体のバランスと、あらゆる部分について機能を進化させ、同時にコストダウンのための工夫も行いました。予想外に難しいのではなく、予想どおりに難しいという感じでした(笑)」 三菱自動車は2006年からi MiEV数台を複数の電力会社に供給、共同で実証実験を行い、さまざまなデータを取得してきた。 「この実証実験は、EVを市販前提のモデルに仕上げるのに非常に有用でした。例えば北海道では、冬季の極低温状態ではバッテリーがなかなか暖まらず、走り始めは十分に性能を発揮することができませんでした。また、他のエリアでも充電に時間がかかる、思うように航続距離が伸びないといった、一般道の環境下ならではの問題が生じました。そのたびに開発スタッフが集まって、問題の原因は設計どおりの性能が出ていないためなのか、あるいはスペックがユーザーに受け入れられないのかといった検証を綿密に行い、改良を重ねました」 i MiEVはこうして市販に耐える性能、信頼性、コストを実現しつつある。2010年までには市販できる見通しで、量産効果を出しながら価格をガソリン車に近づけていくという。 終わりなき技術開発、EVの進化は今後も続く このようにi MiEVは世界初の本格的な量産EVとして次第に完成の域に達しつつある。が、EVの研究開発は一息ついたのかといえば、「まったくそんなことはない。むしろこれからが本番」なのだという。 「EV技術の進化は始まったばかり。最大の課題はやはりバッテリーです。i MiEVは現時点で航続距離160kmを達成していますが、エアコンなど電装品を使うとあっという間に航続距離が落ちてしまいます。バッテリーの性能が上がれば、モジュールをむやみに増載して重量増をきたすことなく、航続距離を延ばせますから」 EVはガソリン車に比べて熱効率が数倍もよいため、バッテリーにほんの少し電力を蓄えるだけで長い距離を走ることができる。その半面、電装品に食われるエネルギーはエンジン車と同じであるため、相対的にエアコンやカーナビなどを使用したときの影響が大きくなってしまうのだ。 「2社の協力会社と当社で設立したバッテリーメーカー、リチウムエナジージャパン社とエンジニアレベルで積極的に交流し、バッテリーの技術革新に努めています。バッテリーの性能が進歩するごとに、i MiEVの性能をさらに上げられるだけでなく、将来的にはより大きなクラスのEVも市販レベルにできます」 電力をためる側だけでなく使う側、すなわちモーター、インバーター、電装品などの改良も進めている。 「バッテリーに蓄えた電力は、やはり大事に使わなければいけませんからね。例えば車載用のエアコンは4kWほどの容量があり、家庭用なら20畳用にもなる強力なものです。相当に電気を食いますので、車内の空調を少ないエネルギーで、効率的に賄う研究も進めたい。走行用モーターやパワーエレクトロニクスの効率アップも同様です」 このようにEVはまだまだ進化中だが、特定の法人が限定的な環境で使うのではなく、ある程度広く普及させられる商品に仕上がりつつあること自体、自動車の歴史の中でもエポックメイキングなことだ。 「将来性が見えてきたEVをさらに進化させるため、いろいろな分野のエンジニアにEVの世界に入ってきてほしい。バッテリー、パワーエレクトロニクス、モーター、車体設計から強電分野の性能試験まで、あらゆる分野でニーズがあります」 三菱自動車の益子修社長もi MiEVを社長車として使い、みずから実証試験を行っている。「益子自身、EVの静かさや力強さをとても気に入っています。クルマとして間違いなくいい」。 EV時代の到来前夜である今、クルマ好きのエンジニアにとって、技術の進化の余地が大きいEV分野は思わぬ穴場業界といえそうだ。 |
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EVは燃料電池車やハイブリッド車と同様、電気エネルギーを利用する環境技術。法人向け、一般ユーザー向けと市場が広がるにつれ、その地位はメジャーなものになっていくと考えられている。従来、商品開発面では穴場的存在であったが、人材ニーズは既に立ち上がっており、分野によっては争奪戦の様相も呈している。リクナビNEXTでは「電気自動車」をキーワードに検索すれば、求人情報をゲットできる。 また、自動車メーカー、サプライヤー、重電メーカーなど多くの企業がEV関連技術者を頻繁に採用しているため、それらの企業のHPの求人チェックもまめに行っておきたい。 求められるエンジニアは電気・電子関連がメイン。電気自動車を構成するACモーター、DCモーター、インバーターや昇圧トランスなどのパワーエレクトロニクス、バッテリーの構造設計や材料開発、200〜1000V程度の強電試験などの経験をもつエンジニアは、自動車未経験でも十分に転職可能。 また、これらの要素技術をアセンブルする全体システム設計経験者は特に有利だろう。 自動車業界以外の経験としては電車やエレベーター、発電所などの重電、エアコンや電子レンジなどの家電系、電設における電気主任技術者、カメラなどの精密機械、ロボットなどのメカトロニクスなどの名前が挙がる。 それらの製品開発や試験などの経験がないエンジニアについても、組み込みソフトの経験だけでもOKというケースもある。一度でもあの乗り心地を体感すれば、EVがエンジン自動車と遜色のない性能をもっていることがわかるはず。「未来カーのスタンダードになるかも」という想像だってわいてくる。 |
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