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厳選★転職の穴場業界 第5回 キャパシタ 量産化スタートで市場拡大目前の二次電源のエース
二次電池の代替技術として注目されてきた蓄電技術、キャパシタの普及が目前に迫ってきた。既にキャパシタを組み込んだ商品やモジュールが続々登場しており、量産化もスタート。エンジニアニーズが急増する公算が高まっている。
(取材・文/伊藤憲二 撮影/武島亨 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:05.10.12
業界動向:高エネルギー密度を実現して広がる次世代蓄電技術
 電気を化学反応によらず、静電気そのままの状態で蓄えるキャパシタ(コンデンサ)が、二次電源の主流技術に名乗りを上げている。既にOA機器の内部電源、UPS(無停電電源)などの分野では採用例が急増しており、徐々に市場が形成されている。近い将来の市場拡大は必至だ。
 今後は、ハイブリッドカーや燃料電池車、鉄道車両などの輸送機器、ノートパソコンやPDAなどのモバイル機器、再生可能エネルギーの電力平準化といった、幅広い分野での需要増が期待されている。

 キャパシタが脚光を浴びるようになった最大の理由は、蓄電性能の向上にある。充放電による性能劣化が二次電池に比べて格段に少ない、重量あたりのパワー密度が高いといったキャパシタの特性は、二次電源に向いているとして早くから注目されていた。
 欠点は電源供給の持久力にあたる、重量あたりのエネルギー密度がきわめて低かったことだが、新材料の開発やパワーエレクトロニクスの進歩で、その弱点は急速に解消されつつある。

 オムロンや三井物産などが資本参加するパワーシステムは7月、オムロン草津事業所でキャパシタの量産を開始、年内には月産10万セルを目指す。8月にはNECと富士重工の合弁会社であるNECラミリオンエナジーが、キャパシタの性能を飛躍的に向上させる新材料を発表。パテント供与を中心としたビジネスモデルを展開している。
 市場形成は20世紀末の予想をはるかに超える速さで進展しており、「2010年には数兆円規模に達する可能性もある」(業界関係者)という見方も出てきた。今後の大注目株である。  
注目企業:既にモジュール製品開発の段階に進めたパワーシステム
 大容量キャパシタの研究開発会社であるパワーシステムが、いよいよキャパシタの量産を開始した。いまだ電池の比ではないといわれるコスト高も、量産によって解消させるという。このチャレンジの裏には、近い将来、キャパシタが長寿命と短時間充電を武器に、二次電源市場において相当のシェアを取るとの読みがある。
■大容量キャパシタモジュール「ECaSS」 ■草津事業所のキャパシタ量産設備
大容量キャパシタモジュール「ECaSS」 草津事業所のキャパシタ量産設備
パワーシステムが開発した、大容量キャパシタモジュール「ECaSS」用の電気二重層キャパシタ。ハイブリッドカー用バッテリー代替デバイスとして十分なエネルギー密度(6.5Wh/kg)をもち、最大瞬間出力はバッテリーをはるかに凌駕する5.9kW/kgレベルを実現。サイズは約100mm×100mm。自動車関連にとどまらない幅広い用途が期待されている。 オムロン草津事業所内で、電気二重層キャパシタの量産ラインが稼働し始めた。世界最大規模の生産拠点となる。最大生産可能量は月産10万セル。量産によるコストダウン効果が表れれば、将来的には同容量の鉛電池と同じ水準にまでコストダウンを進められる見通しだ。パワーシステムの計画では、2008年度に売り上げ100億円を目指す。

パワーエレクトロニクスとの融合で大いに進化したキャパシタ

「電気というのは効率や利便性の点で、とても優れたエネルギーですが、弱点はポータビリティー(可搬性)に難があること。その弱点を補うために便利な蓄電装置をつくりたい。これが弊社がキャパシタ研究を行ってきた動機です」
 こう語るのは、大容量キャパシタモジュール「ECaSS」の開発を担当した土居仁氏。キャパシタは二次電源としては、もともと優れた特性を持ち合わせていた。充電時間が電池に比べてきわめて短くてすみ、寿命が長く、極低温から高温まで安定作動し、パワー密度も大きい。しかし、大容量二次電源の世界で傍流に甘んじてきた主因は、エネルギー密度の低さとコスト高だった。

 そこでパワーシステムは、複数のキャパシタを高効率で利用する並列モニタ(通常キャパシタを直列接続すると、残量がいちばん少ないセルの性能にシステム全体が制限される)や、高効率充放電システムなどのパワーエレクトロニクス技術を用いて、エネルギー密度を飛躍的に上げることに成功した。

 コストについても、「潜在的には、コストダウンできないレアメタルを使う二次電池に対しては有利なんですよ。カーボン自体はきわめて安いので、将来的には鉛電池とも競合できるくらいになると思いますよ」と、潜在的競争力の高さを力説する。
 また、材料にカーボン材料を使用したことも大きい。ニッカド電池や鉛電池のように有害物質を出さず、リチウムイオン電池のようにレアメタルを浪費することもない。環境にやさしいという点では、ほかの電池をしのぐ勢いだ。

急拡大する市場に対して、既に予想されるエンジニア不足

 7月にキャパシタの量産を開始したパワーシステムだが、需要創出に向けた、キャパシタ活用法の提案も行っている。バッテリーと異なり、微弱電流でも蓄電できるという特性は、瞬間発電量の小さい太陽光や風力などの再生可能エネルギーと親和性が高い。
 実際、極地研究所が南極で使用する太陽電池発電プラント向けに、キャパシタ蓄電ユニットを納入している。UPS用途は非常に有望で、セキュアデータセンター、医療機関、交通・空港管制などのセキュリティー部門での活用が期待できる。

 また、潜在需要が大きく、キャパシタの普及に弾みをつけられると期待しているのが、自動車をはじめとする交通分野だ。
「ハイブリッドカーや燃料電池車のように、二次電池が補助電源的に使われるものであれば、現時点でも十分に対応可能です。将来的には近距離用の電気自動車に使えるくらいのスペックを実現させます。また、モーター式原付、電動アシスト自転車なども、急速充電可能なキャパシタで充電時間に煩わされずにすみます。普及の可能性はあるでしょう」

 キャパシタの商品化で重要なのは、複数のキャパシタと、出力を制御する回路をパッケージしたモジュールの設計。現状ではキャパシタを手がける企業の大半が社内の人材を活用しているが、土居氏は、「市場規模も普及に伴って急拡大するのは間違いありません。エンジニアは早晩、絶対的に足りなくなるときがくるでしょう」と語る。
 そして、さらなる高性能化に向けてこう締めくくった。
「今以上の大容量化となると、ナノテクなどの新技術が必要になりますが、その種の先端技術分野に関しては日本の競争力はきわめて高い。モジュール開発力も世界トップレベルです。日本発の環境技術として、しっかり育てていきたい」

開発本部 副本部長 土居 仁氏
開発本部 副本部長
土居 仁氏

株式会社パワーシステム
1987年に岡村研究所が設立、大容量キャパシタ蓄電システム「ECaSS」を考案する。93年にECaSSの実用化をめざすパワーシステムが設立。2004年に三井物産やオムロンが出資した。
キャパシタ内部の電極シート
キャパシタ内部の電極シート。ラミネート型の中の材料はこのような薄膜が主役。この電極シートの技術革新も注目の的だ。
穴場求人:キャパシタ本体に加えてモジュール開発にも転職チャンス
 キャパシタは本格普及へスタートを切ったばかり。エンジニアの中途採用はまだ多くはないが、むしろ注目すべきは今後の動向だ。
 自動車、家電、OA、重工、ITなど、多くの分野でキャパシタの採用が予想されており、近い将来、エンジニアの人材ニーズが発生する可能性が高い。関心のあるエンジニアは、キャパシタ関連の情報をリクナビやマスコミ報道でチェックしておきたいところだ。

 キャパシタ開発は、セル本体の開発と、キャパシタを実装したモジュールの開発のふたつに大別でき、エンジニアニーズもそれぞれについて存在する。
 本体開発では、まず電気化学についての知識が不可欠。電極材料の開発がメインであるため、金属、カーボン、高分子材料といった材料系のスキルも重要。材料開発は次世代キャパシタの開発における主戦場であるため、高い技術的センスが要求される。

 より多くのエンジニアに門戸が開かれているのは、キャパシタモジュール開発のほうだろう。電流、電圧などの出力制御からケースの大きさや形状に至るまで、ユーザーであるアセンブリーメーカーが出した仕様に個別に適合させる必要があるため、モジュール設計に終わりはない。
 最も重要なキーテクノロジーは、充放電回路だ。スイッチング回路などのアナログ回路設計スキル。各種電源、アンプの設計経験は転職に非常に有利。高電圧回路、パワー半導体ほか、インバーター関連のスキルも大いに役に立つ。
 注目のパワーエレクトロニクス戦線に新たに姿を現したキャパシタ。電気化学、回路設計、半導体開発、材料など、幅広い分野のエンジニアにとって大いに興味深いジャンルだ。
キャパシタ業界エンジニアニーズ
・ 電気化学全般についての基礎的な知識を有していることが望ましい
・ キャパシタ本体は金属、ポリマー、ナノ材料などの材料系スキル重視
・ モジュール開発ではアナログ回路、パワー半導体、高電圧回路の経験が有利
・ 機器側もキャパシタの出力特性に最適化させるための開発ニーズが発生
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  高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ  
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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キャパシタには日本の得意な技術がいっぱい詰まっています。うまく動かせば、世界のデファクトスタンダードが取れるかもしれない。「キャパシタ系エンジニア」が希少な今こそ、情報を集めてみてはいかがですか。市場拡大のロードマップが見えている先端技術はそうありませんよ。
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