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ドン底、逆境から抜け出すチャンスは自ら掴む 「転機」をバネに復活したエンジニアたち

現在の職場では評価されず、忸怩たる思いをすることはないだろうか。だが、社内異動や事業合併、転職などの転機によって、逆境を抜け出し、復活するエンジニアも多い。そこで、転機を自ら作り出す“仕事モチベーション復活法”を探る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/はらだゆうこ) 作成日:04.08.04
Part1 転機に遭遇したエンジニアたち。彼らはそこから何を得たのか
 平凡にみえて、実は紆余曲折、波瀾万丈のエンジニア生活。突然の辞令で社内異動、事業部改廃や企業合併、会社の都合でいきなり開発が中止されることもある。
 こうした転機を千載一遇のチャンスと変えるのか、それとも環境変化に対応できないまま、これが悪い方向へのつまずきの一歩になってしまうのか──それはエンジニアの対応力にかかっている。急激な環境変化に翻弄されるのは仕方がない。しかし、その中から自分の新しい方向を見つけ出し、自分の意欲を高めていくためには何が必要なのだろう。
 まずは、さまざまな逆境に遭遇しながら、転機をチャンスに変えた2人のエンジニアのケースを紹介しよう。
  CASE1 たえずステップアップを欲する向上心。転機のたびに自分のキャリアを拡大
   
Aさんのモチベーション復活曲線
ベリングポイント株式会社 シニアコンサルタント Aさん
ベリングポイント株式会社
シニアコンサルタント
Aさん(31歳)

新入社員がいきなりプロマネージメント!?

 新卒で入社したA社。通常はOJTによるトレーニング期間中なのに、配属されたプロジェクトでいきなりプロマネ役に抜擢され、現場を仕切ることに。
 「先輩社員が次々に仕事ができない状態になって、私にお鉢が回ってきました。スキル不足は自覚していたがやるしかない。気合と根性でなんとか完成まで持ち込みました」
 当時としては革新的なJava、XMLを使うシステム構築。冷や汗かきながらの毎日。しかし、この体験がその後のコンピュータ技術者としての基盤を形作ることになる。誰も助けてくれないなら、自分がやらなくては。そう思うと、モチベーションを発揮できる。

 2年目の夏、前年の新入社員がこれまでの1年のOJTを発表する報告会。他の新人に比べて自分の1年間の時間の濃さをあらためて実感した。しかし、そんな熱い新規プロジェクトが何度もあるわけではない。整理やまとめのような作業に追われるうちに、彼は物足りなさを感じるようになる。ちょうどその頃、家族の看病のために仕事のリズムを変える必要も感じた。


2年間で50件のプロジェクトを提案

 友人のつてで、技術者派遣型のシステム開発会社B社へ転職。最初のころは派遣先で黙々と働いていたが、そのうち、前職で培われた自立心が頭をもたげてくる。
 「派遣型から受託型へ転換するために、社内開発部隊をつくり、自社技術を蓄積するべきだと社長に進言したんです。Java、XMLやOracleの技術をWebシステムにつなげるフレームワークを私がつくり、社内教育も担当し、開発の基盤を固めました。ただ仕事がないとどうしようもない。だから、私も営業に歩きました」

 ここではようやく“師匠”と呼べるような上司に出会えた。システム提案のノウハウを徹底的に仕込まれ、2年間で50個ものプロジェクトを顧客に提案。だが、すぐに売上に結びつくものは多くはなかった。しびれを切らした社長が、チームの解散を指示。Aさんの前途は一転して暗くなった。「もっと大きな案件の仕事で自分達を高めたいんです」「会社としてはリスクが大きすぎるんだよ」。社長との会話は結局平行線のままだった。


オファーが琴線に触れた

  限界を感じ、次の職を決めぬまま退職。しかし焦りはなかった。「どこでもやっていける」という自信があったからだ。求人サイトに自分のキャリアを登録すると、1カ月に15〜20通ものオファーが舞い込んできた。

  中でも、ベリングポイントからのオファーには惹かれるものがあった。5年間の実績を高く評価してくれ、それらはコンサルタントとしての実務の基盤になると言ってくれた。Aさんもまた、これまでのシステム構築で、コンサルティングファームが戦略立案を行っているケースにいくつか遭遇し、その仕事内容に興味を覚えていたのだ。「より上流の仕事で自分のスキルを活かせるかもしれない」──その思いが面接に足を運ばせた。
  「B社は規模も小さく、1から10まで自分がやらなくてはならなかった。しかしベリングポイントは大組織で、仕事の分担も明確。日本の社会を変えるようなビッグプロジェクトにじっくりと取り組めるはずだ」。そう予感して、シフトチェンジすることを決めた。

  現在は官公庁向けサービスを担当し、電子政府システム構築のために奮闘する。直属の上司には、B社で出会った上司と同じ“匂い”を感じる。部下の内なるエネルギーをとことん引き出しくれる人。Aさんは、入社わずか2カ月で新しいプロジェクトを提案し採用されるなど、いきなりパフォーマンスを発揮するようになった。最初の会社で鍛えた技術力、次の会社で培った提案力。そしていま、コンサルタントとしての優れた洞察力や専門性が、彼のキャリアに上積みされようとしている。
  Aさん「転機」活用法
一度火が付くと、すぐに最高パフォーマンスまで自分をもっていける集中力の高い人。しかも気持ちの切替が早い。それは現状に甘んじることなく、より次元の高いステージを求める意欲が強いからだろう。彼にとっての転職はけっして前職の繰り返しではなかった。新しい環境に接するたびに、自分の視点を変えて、キャリアを広げることに成功している。
  CASE2 入社後4年間で体験したエンジニアの光と影。合併の逆境をこう乗り越えた
   
Nさんのモチベーション復活曲線
電子機器メーカー開発部係長Nさん(33歳)
技術者を夢中にさせる成功体験

 開発系のエンジニアにとって最もモチベーションが高いのは、やはり開発中のプロダクトが日の目をみたとき。Nさんも初めてのプロジェクトでそうした幸運に恵まれた。
 「新規格に対応した社内1号機。どんな分野でも“1号機”ってのは甘美な響きがするものです。いい上司に恵まれたし、チームの雰囲気もよかった」

 ところが次のプロジェクトでは、全くの逆のパターンに陥る。「純粋に技術的な問題というより、経営戦略のブレで、開発中からこれはモノにならないんじゃないかと、みんな不安がっていました。こうした悪い空気は全体に伝播するものです」。

 現場とトップの方針のズレを修整するためには、マネジャークラスにもうひとがんばりしてほしかった。まだ入社3〜4年目の自分たちには何もできない……。


突然の他社との事業部合併に、危機感と期待が入り交じる

 そうこうするうちに、Nさんの事業部を青天の霹靂(へきれき)ともいうべき大きな地殻変動が襲った。同業他社の同種の事業部と合併して、別会社が設立された。互いの強みを集約し、弱みを補完して事業競争力を高める。しかし、現場のエンジニアの目から見ると、規模の大きい相手に、自分たちが吸収されてしまうという危機感のほうが強かった。

 同じものは2ついらない。優れているほうを選択するというのは、当然のこと。そのため何を選択し、何を捨てるかという両社の技術のすり合わせが必要になった。たまたまその担当になったNさん。「またとない機会。相手の技術の優れているというところを、この際、徹底的に吸収してやろう」と開き直る。

 だが、合併とはいっても当初は、開発部隊はそれぞれ別の場所で仕事をしており、“技を盗む”のは容易なことではなかった。肝心カナメの部分は技術移転せず、という壁にもぶつかった。合併をはさむ2年半近く、この技術評価・導入の担当をするが、そうしたいら立ちが募って、仕事への意欲は急速にダウンした。


モノづくりの現場に復帰。経験をマネジメントに生かす

 もともとモノづくりが好きでこの業界に入った。「やはり開発の現場に戻りたい」と、社内異動を申請して認められたのが昨年の春。「この人の下で技術を磨きたい」という上司を見つけたのが直接のきっかけだった。もし社内異動の自由が制限されていたら、このとき思い切って転職したかもしれないと思う。  入社後3つ目の開発プロジェクト。単に自分の好きな仕事に戻ったというだけではない。これまでの成功・失敗体験を自分なりに分析し、仕事の好不調にとらわれず、自分のモチベーションを維持するノウハウは身につけたつもりだ。

「今は部下もいるし、私がクサっていたら、それが全体に波及してしまいます。重要なのはプロジェクトを成功に導くためのストーリー。それを考えながら、決定権者に対する説明やプレゼンテーションにも注意を払うようにしています。純粋に技術的なことだけでなく、プロジェクト・マネジメントという観点からも、2度の逆境から学んだことは多いですね」
  Nさん「転機」活用法
 仕事の内容は入社以来ほぼ一貫しているが、途中に企業合併で、会社名が変わるという体験を経ている。合併で自分たちの技術がムダになるという焦燥感を乗り越え、相手先の技術を徹底的に吸収してやろうと発想転換したところが重要だ。それでもうまくいかなったので、今度は部署の異動=社内転職に踏み切った。現場とトップの認識のズレが、現場にモチベーションやモラルダウンをもたらすことがあるという実体験は、中間管理職になった今、チームマネジメントの進め方に生かされている。
Part2 逆境から自分を救う、エンジニアのためのモチベーション・コントロール法
 社内異動、事業の改廃、スカウトによる転職オファーなどエンジニアに絶えず訪れる転機を、どのように仕事モチベーション向上につなげていけばいいのだろうか。「モチベーション」を切り口とした経営コンサルティング会社、リンクアンドモチベーション(LMI)の原幸子さんに、話を伺った。

(株)リンクアンドモチベーション 原幸子氏
エントリーマネジメント事業部門プロジェクトマネジャー。主に、企業の採用人材戦略立案などのコンサルテーションや、キャリアスクール「i-Company」の監修を担当している。

何が外せないか、プライオリティ(優先順位)を考えてみる

「モチベーションを高めるにはどうしたらいいのか。これさえあればという、万人に効く特効薬はありません」と、原さんは切り出す。なぜなら、人によってモチベーションがアップする要因や、自分が好ましいと思う状況は異なるからだ。
「現状の組織に満足かどうかは、その人が組織に何を求め、何を大切にしているかで変わってきます。“最近、なんかやる気がなくなっちゃったな”と思ったら、組織の現状を分析する前に、自分がそもそもそこに何を求めていたのか、そのところに一歩立ち返って分析することが重要です」
 絶対に外せない項目が、今、満たされていないのであれば、そうした状況を自分で変えるか、それが満たされる環境に異動することが必要になる。


危機から立ち直るための”道具”をもつ

 つまり「さまざまな要因でモチベーションが下がることはやむを得ないこと。
問題は、下がった状態からどれだけ早く立ち直るか」だというのだ。
 その立ち直りのきっかけになるような方法を、いつでも使える“道具”として、自分のものにすることが、モチベーション・コントロールの秘訣になる。LMIが膨大な分析の中から導き出した立ち直りのための道具は「スイッチ&フォーカス」法として6項目に整理されている。

 例えば「ロール(役割)スイッチ」。「自分をいじめるいやな上司がいて、それがモチベーション・ダウンの原因になっているとしたら、なぜ彼はそういう行動を取るのか、相手の立場に立って一度考えてみると面白いですよ。その行動原理がわかると、対処の方法も見つかるはずです」。

「思考」を切り替えるコントロール法「スイッチ&フォーカス」

「ゴミは資源なり」「客の苦情は貴重な開発のヒント」というような発想の転換が「チャンスフォーカス」。視点を変えてみると、状況が全く違うふうに見えるという経験はきっとだれにもあるはずだ。
「つまらない仕事だけれど、視点を変え、行動を切り替えれば、そこから拾えるものが見えてくるはず。そうすることで、絶えず自分をコントロールできるようになるし、そこでよりポジティブな選択を重ねることで、現状を打開する道が開けてくるものです」と原さんは言う。

Part3 シフトチェンジを繰り返し、いつでもどこでも最高スピードを
 20代で、現場とトップの間での方向のズレに悩み、マネジャーの資質を問題にしていたNさんが、今では上司を納得させるための説明やプレゼンテーションに気を使うようになったのも、「なぜ上司はわかってくれないのか」を上司の立場に立って考え直したことがあったから。原さんの言う「ロールスイッチ」を身につけることで、危機対応力を高めた例だ。

事業合併という自らのアイデンティティが危機にさらされたケースでも、Nさんは「これを機会に相手の技術を盗んでやろう」と発想転換することができた。結果は決してよい方向には向かわなかったが、少なくともその間、モチベーションを維持することはできた。危機をチャンスに変えること、そのスイッチングを絶えず行うことで、人はいつでも自分を燃焼させられる。

何度も転職しながらもそのたびに自他ともに認める最高パフォーマンスを発揮してきたAさんは、こうしたスイッチ&フォーカスの妙手。あたかも自動車レーサーのように、小刻みにシフトアップ・ダウンを繰り返しながら、短時間でエンジンを全開できるようなエンジニア。自分のやる気をコントロールする術を身につければ、もう怖いものなし。「何でもかかってこい」という気持ちに立てたとき、ひと回り大きく強くなれるはずだ。

転職は未知へのチャレンジ。ここでもスイッチングが必要だ。新しい環境の中で、変えようにも変えられない過去(前職)にこだわっていたのでは、けっして実力を発揮することはできないだろう。Aさんのように「スカウト」という手段を用いて意外な企業のオファーを受けるというのも有効な転機の生み出し方だ。

「変えられないものへのこだわりは捨て、新しい環境で何が求められているかを判断し、まずはそこに集中してパフォーマンスを高めることができれば、そのほかの不満は徐々に解決していくでしょう」という原さんの言葉には勇気づけられる。

他人や環境を変えるためには、まず自分の思考・行動パターンを変えることが大切。「災い転じて福となす」ということわざどおり、不本意に強いられた状況変化も、発想の転換しだいでいくらでも好機に変えることができる。ましてや自ら進んで転機をつくり出すことができれば、そのほうがいいに決まっている。転機をつくり出し、変化のイニシアチブを自分で握ること。転職はその重要な機会になるはずだ。
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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
「モチベーションアップするためにはどうしたらいいか」それが気になること自体が、モチベーションが下がっている証拠だとか。そういえば最近、机の上にはモチベーションアップのための本が山積み。私も何か「転機」をつくらなきゃ……。

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