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ASIMO・F1参入・航空機事業etc… Honda技術者 夢を創る現場が知りたい

働くなら「いつも夢を追いかけ、創り出そうとしている企業」。そんな思いを抱いているエンジニアも少なくないだろう。そして“夢を創る”といえば、真っ先に名前が挙がる企業のひとつがHondaだ。そんな夢を創るエンジニアの現場を紹介する。
(取材・文/上阪 徹 総研スタッフ/山田せいめい)作成日:04.06.16
ASIMO開発現場に見る、夢を創る「Hondaスピリット」の真髄
広瀬真人氏 プロフィール
広瀬真人氏
(株)本田技術研究所 上席研究員
1956年、栃木県生まれ。宇都宮大学大学院精密工学専攻修士課程修了。工作機械メーカーを経て、86年に中途入社し、和光基礎技術研究センターに配属される。以後、ロボット開発に携わり、2001年からASIMO開発の統括責任者。栃木県在住。
働いてみたい企業ランキングで根強い人気を誇るHonda。その人気を支えるのが、Hondaのもつ「夢に挑む」姿勢だ。世界初の2足自立歩行を実現した2足歩行ロボットASIMOは、その典型例。開発リーダーとして知られる広瀬真人氏が「夢を創る現場」を語る。
Hondaだからこそ、ASIMOは誕生した!
社長が直接、現場で技術的なアドバイス。これは、燃えますよ

1986年7月、入社2日目に上司から言われたこんな言葉に、広瀬氏は驚きのあまり絶句したという。「君には、鉄腕アトムを作ってほしいと思っている」。想像もしなかった配属だった。当時30歳。前職の工作機械メーカーの仕事には不満はなかった。転職を決断させたのは、学生時代からのHondaへの憧れだった。「技術者を大切にする、夢のある仕事ができる……。いつかは働いてみたい会社でした」。そして配属先では、すぐに仕事が待っていた。「明日、企画評価を受けることになっているヒューマノイドのロボットの構想図を描いてくれ、と言われまして。しかも朝までかかってもいいよ、と(笑)」。
ヒューマノイドロボットの構想図

評価会で広瀬氏が実際に披露した、
ヒューマノイドロボットの構想図(Honda提供)


仕事スタイルも社風も、当初は度肝を抜かれることの連続だった。「でも、それこそがまさにHondaのイメージだったんですけどね」。なかでも広瀬氏が最も驚いたのは、社長(本田技術研究所)の身近さだった。「入社わずか3日目で、いきなり社長に会えまして。しかも、いきなり怒られたんです(笑)。その後も社内で直接、社長から技術的なアドバイスが飛んできたり、励ましの声をもらったり。これは燃えますよ。会社のために、ではない。この人のために頑張ろう、という気持ちになる。いい風土だなぁ、と感じましたね」。


全体像を共有化したら、あとは放ったらかしだったASIMO開発

ASIMOは多くのメンバーで共同開発が進められ、そのリーダーを務めたのが広瀬氏だったが、ASIMO開発の現場もHonda流が貫かれていた。「まずは半年間くらいでやるべき大きな枠組みを共有化するんです。こんなのを作りたいよね、という全体像の確認です」。そこから必要な項目が洗い出され、それぞれのメンバーの得意分野に合わせて割り振られていく。「でも、それっきりです。あとは半年、放ったらかし(笑)」。

しかし、これではリーダーがメンバーの仕事を把握できない。「だからHondaには、食堂でコーヒーを飲もう、という伝統がありまして。現場や会議室じゃなく食堂で話をするんです。現場を離れた食堂の感じが、すごくいいんですよ」。一人ひとりと食堂に通い詰めた広瀬氏は、全員の経過を理解しながら最終のまとめに入る。そして一気に共同作業で半年間の結果を作り上げていくのだ。

「議論では上司も部下もないのがHondaの大きな特色ですね。たとえば当初、私はロボットに腰に相当する機能を付けたかった。ところが、みんなリーダーの私に反発するんです(笑)。みんながそう言うなら、と私も納得しました。ただ実際には私にも意地があって、後から腰が付けられるようになっているプロトタイプもあったんですけどね(笑)」


ダメなところではなく、いいところを見てくれる世界をあっと驚かせたASIMO。この世界初の2足自立歩行ロボットを、なぜHondaは創り出せたのか。広瀬氏がまず挙げるのが、目標の明確さだ。「新しいことができるといっても、何をやってもいいと言われたら現場は戸惑います。その点、Hondaは経営陣が明快な目標設定をしてくれた。しかも、ロボットを開発しようなんて、普通ではとても思いつきません。旗が立っているから、そこに向かえばいい。目標がはっきりしているから、評価だって明確になるんです」。

そしてもうひとつ、忘れてはならないのがチャレンジを育む企業風土である。「何か仕事をしたら、いいところを見てくれる、という印象は強いですね。ここがダメだ、ではなく、ここがいいね、と言ってくれる。逆に、すごいものができた、とみんなで大喜びしていると、こんなのじゃトロイよ、といさめてくれたり……。はたまた落ち込んでいると、元気づけてくれたり……。ASIMO開発でも、上の人たちのアドバイスはものすごく貴重だったんです」。

こうしたいという希望があれば畑違いの上司でも聞いてくれる、エンジニアを燃えさせる仕掛けづくりがうまい、部下に働かせる前に上司が徹底的に働く……。夢を創る現場には、夢を創る風土がある。夢を創る努力があるのだ。
ロボット開発の主要プロセス
ロボット開発の主要プロセス

上から「E0」「E1」「E4」「P1」「P3」そして現在の「ASIMO」。本文中で広瀬氏が語っている、「後から腰がつけられるプロトタイプ」とは、P1のこと。

エンジニアを燃えさせる、夢を創る企業とは?
柴田 昌治氏
株式会社スコラ・コンサルト
代表取締役 柴田 昌治氏
「エンジニアが最も達成感を感じないのは、全体像が見えないまま、部分的な仕事をさせられていると感じることです。技術革新が進み、チームでの開発が当たり前になった近年は、特にその傾向があります」と語るのは、企業風土改革のコンサルティングなどを手がけるスコラ・コンサルト代表取締役・柴田昌治氏。「しかし、情報をみんなで共有し、お互いに知恵を出し合う環境をつくり上げている企業もあるんですよ」(柴田氏)。これぞ、エンジニアを燃えさせる企業の最低条件といえるのかもしれない。

そしてもうひとつ、夢を創る企業となれば、柴田氏がポイントとして挙げるのがこんな点だ。「“手続き重視”“マニュアル主義”“減点主義”ではないことです。新しいことをやろうとする芽も、そんな風土ではすぐに摘まれてしまいますからね」(柴田氏)。社内的に細かな縛りがないから、自由に発想できるし、大胆な行動ができるようになる。全体像が見えること、発想の芽が摘まれないこと。この2点は、たしかに今回紹介したHondaの風土にもぴったり合致する。では、エンジニアを燃えさせる夢を創る企業の条件とは、どんなものなのか。今回の取材を通じて5つを挙げてみた。


エンジニアの理想郷「夢を創る企業」5つの条件

夢を創る企業で働くことは、実は毎日が充実することばかりではない。今回紹介したHondaのASIMO開発現場のように、日々勉強させられ、鍛えられることで大いに成長するのだ。もしこのような企業への転職を考える際には、ぜひ頭に入れておいてほしいキーワードである。
コラム 『夢を創る現場』がある企業はまだまだある!
夢を創る現場をもつ企業は、もちろんHondaだけではない。たとえばそのひとつが、世界初の「一人用ヘリコプター」の商品化に挑むエンジニアリング・システムだ。本社のある長野県松本市で、社長と開発者にお話を伺った。

世界最小の“一人用ヘリ”の開発に成功! エンジニアリング・システム株式会社
『なんとかならないか?をなんとか形にする会社』。こんなキャッチフレーズをもつのが、エンジニアリング・システム。取引先には、日本を代表する企業がずらりと並ぶ。「先端技術からネジとハンダの手作業まで、あらゆる技術を駆使してお客さまの悩みを解決する。それが当社の事業なんです」と語るのは、代表の柳沢氏。そして同社の名を一躍、世界に知らしめたのが、世界最小の「一人用ヘリ」の開発だった。「アメリカの航空ショーでデモフライトをしたときは、“いつ売るんだ?”という声が殺到しまして」(柳沢氏)。

GEN H-4 同軸二重反転式ヘリはこれまで世界中で開発が行われてきたが、成功例はなかった。同社は特許にもなっている、「差動回転発生機構」などのアイデアでさまざまな課題をクリアし、独自開発に成功した。現在、開発に加わる坂巻氏は2000年の新卒入社だ。「専攻を生かしたいと“航空機エンジン”をキーワードに転職サイトで検索、出合ったのがこの会社でした。これだ、と思いましたね」(坂巻氏)。

開発スタイルはまさに現場主義。「新人研修を終えて最初の仕事が、いきなり一人での装置開発。失敗の連続で本当に苦しみました」(坂巻氏)。だが、これが同社流。「いちばんの勉強は、痛い目に遭うことですから。苦労を通じて鍛えられていくんです」(柳沢氏)。開発チームでは最も若い坂巻氏だが、かかわるのは開発過程のほぼすべて。「技術だけ知っていてもダメ。ヘリだけ知っていてもダメ。法律も、お客さまのニーズも、いろんなことを理解していないといけない。世間が本当に広く見えるようになりました」(坂巻氏)。
目標はもちろん近い将来の市販だ。「ここに就職が決まったとき、だれよりも喜んでくれたのは、日本の高度成長を支えてきた高齢の先生方でした。新しいモノをゼロから作ることは大変だけど、その醍醐味を一人でも多くの人に伝えていきたいです」(坂巻氏)。
柳沢真澄氏
プロフィール
エンジニアリング・システム(株)
代表取締役
柳沢真澄氏
外資系コンサルティング会社を経て1998年に入社。2003年に創業者である父・源内氏から社長のバトンを受け継いだ。同社は、ナノテクノロジーや医療機器などの分野でも、大企業の間で技術力の高い企業として知られた存在になっている。

坂巻たみ氏
プロフィール
エンジニアリング・システム(株)
航空機事業部
坂巻たみ氏
東海大学航空宇宙学科を卒業後、2000年に入社。資材の仕入れから実験データの解析、イベントでの機体設置など、研究開発から販売まですべてを担当。
GEN H-4
一人用ヘリ「GEN H-4」
現在、時速10キロでテスト運用中。理論上では平均時速60キロ、最高速度90キロも可能だという。
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山田せいめい(総研スタッフ)からのメッセージ
今回初めて実物のASIMOに出会いましたが、その場での広瀬氏の話が印象的でした。「ASIMOの機動音は、普通の方にとってはただの機械的な音でも、私にとっては心地のよい音色なんですよ」。その言葉の中に、開発技術者としての心意気を感じました。みなさんの職場はどうですか?ぜひ教えてください。

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