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LGBTと世間の親和性が低いのはなぜか?アーティスト・井上涼の考え

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NHK Eテレの『びじゅチューン!』にてその作風が一躍注目され、奈良市の「奈良市ニュース」や函館市の「はこだてみらい館」などともアニメーション制作に取り組み、活動の幅を広げているアーティストの井上涼さん。
ポップな絵柄と印象的な歌詞、そして耳に残るメロディーで子どもから大人まで多くの支持を得ています。

井上さんは学生時代からゲイであることを公表し、会社員時代を経て、アーティストに転向。現在はLGBT団体「やる気あり美」のメンバーとしても活動しています。
そのカミングアウトのきっかけと、活動を通じて出会ったLGBTの人々への思いをインタビューしました。

井上涼(いのうえ りょう)

2007年金沢美術工芸大学卒業。大手広告代理店勤務を経て2014年よりアーティスト業に専念。2007年「赤ずきんと健康」でBACA-JA映像コンテンツ部門で佳作受賞。作品に合わせた音楽はみずから作詞・作曲・歌唱まで手がけ、独自の世界を繰り広げている。

【解説】LGBT:同性愛のLesbian(レズビアン)とGay(ゲイ)、両性愛のBisexual(バイセクシュアル)、出生時に法律的/社会的に定められた自らの性別に違和感を持つTransgender(トランスジェンダー)の頭文字をつなげた総称。電通ダイバーシティ・ラボが実施した「LGBT調査2015」によると、日本におけるLGBT層の比率は7.6%とされる。

「好きなこと」を表現するために、カミングアウトは不可欠だった  

——井上さんはゲイであることをカミングアウトした動画「ゲイの歌2005」を学生時代に制作され、のちにYouTubeに公開されていますよね。きっかけはなんだったのでしょうか?

大学3年生の頃に、「自分のアイデンティティ」をテーマにした課題が出たためです。私は自分がゲイだと言わなければ、本当にアイデンティティに根ざした作品が作れないと思ったんですね。YouTubeに動画をアップしたのはその数年後、そのときには自分がゲイであることを広く知ってもらおうと思っていたので、「拡散上等」という感じでしたね(笑)。

私がカミングアウトする前に辛かったことは、自分が好きなことについて話すときに、相手に異なったニュアンスで伝わってしまうことだったんです。
例えば当時私は安室奈美恵さんのファンだったのですが、「安室ちゃんが好き」と言っても、ゲイだと知られていないと「安室ちゃんみたいな女の子が好みのタイプなんだね」と思われてしまう。そうじゃなくて、私は安室ちゃんが持つソウルの部分に共鳴するんだ〜!と。
私は自分の事実をそのまま伝えたい。そのためにはカミングアウトが絶対必要だと思い至ったんです。

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その後も、就職活動では全ての面接でゲイであることを伝えていました。むしろ「武器にしてしまえ」くらいの気持ちもありましたし、ゲイであることを隠したまま入社したら後が辛いのは目に見えていたので。
面接の途中で一度退室し女装して戻ってくる、みたいなこともしていました。絶対受かりたかったので「これくらいしなきゃ会社に入れない!」と思っていたんですよね。
当時は、周りにゲイであることをオープンにしている人がいなかったので、どうすべきか自分で全部決めるほか無かったんです。そこで自分なりにやってみたら、就活には良かったという(笑)。その後は、大変でしたけどね。

——卒業後は企業に就職して、会社員も経験されているんですよね。

広告系の会社だったのですがバリバリの男社会で、そこへポンと入ったので周囲が困惑してまったんです。外資系だったので特有の“ゆるさ”もあり良い先輩ばかりだったのですが、皆さん優しいので「どう扱ったらいいのか」と、悩んでくださるんですよね。

ゲイであることが仕事の障害になることはありませんでしたが、困るのは、取引先とかと会食に行くとき。世間話として結婚の話題になったりしますよね。同席してる上司は私がゲイだと知っているけど、相手の方は当然知らない。そこで上司が「…こいつはゲイなんだよな、どうしよう…」と心の中で慌てている姿を見ると申し訳ない気持ちになって、モヤモヤと悩む日々でした。どうしても人に気を遣ったり、遣わせたりする瞬間が多いことは確かだったので。

また、人によってはまだ知識がないためゲイを性癖だと思う方もいて「仕事の場で性癖をオープンにする必要があるの?」と言われたこともありました。 そこで「辛いな、(カミングアウトを)やめておけば良かった」と思うこともありましたね。

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けれど、私がクリエイター職だったこともあって、本当に自分が好きなものや良いと思うことを正直に表現していかないと、作り出すものがどこか歪んでしまうんです。だから辛いこともあるけれど、きちんと仕事をやっていくためにも「ゲイを隠す」という選択肢は無いんだと、年月を積み重ねながら徐々に自分を納得させていきました。

あと、人のせいにするのも良くないなと。「周りが理解してくれないから」と閉じこもってても、どのみち状況は変わらないと思ったんです。

結局会社には7年ほど勤めました。なかなか理解してもらえない時期もあったけれど「理解してくれないほうが悪い」ではなく、私からも理解してもらえるように振舞っていたつもりです。

会社を辞めたのは、人や商品のために広告を作るよりも、自分のために自分の作品を作りたいと思ったからです。広告に向いてないと7年かけてやっと気づき、そのタイミングでNHK Eテレの『びじゅチューン!』の仕事が舞い込んだこともあり、これはチャンスだ、と思い辞めました。

好きになってもらうために、「共感」を生む活動を

——井上さんもメンバーであるLGBT団体「やる気あり美」についても教えてください。活動がスタートしたのはいつ、どういうきっかけだったのでしょうか?

代表の太田尚樹くんが、私の友達の弟なんです。「弟にカミングアウトされたから会って!」と、紹介されて初めて会ったのが3年前。そのときLGBTである自分たちを取り巻く状況についての考えが一致しました。

まず、LGBTと世間の親和性が低いのはなぜかと考えると、世間がもっているLGBTのイメージがいわゆる新宿二丁目の「オネエ文化」か、ゲイへの権利を叫ぶ「アクティビスト(活動家)」という二極しかない状態だから。「やる気あり美」は、LGBTには世間と同じ感性を持った人も沢山いるんだと伝えるために、エンタメ要素を取り入れつつ、世間とのつながりを作っていこうとしている団体なんです。

太田くんは3年前からすでにこの考えをもっていて「権利というのは勝ち取っていかなければいけないんだ」と言っていました。私もその考えに共感して、活動が始まったという感じですね。

——主にどういう活動をされているのでしょうか?   

最初の頃は、集まって話す「座談会」の記事が多かったのですが、いまはムービーなどエンタメ系コンテンツの準備をしている状況です。

「やる気あり美」には「人はLOVEでしか変わらない」というモットーがあります。権利を勝ち取るために、ただ「権利をください」と言っているだけでは仲良くなれない。仲良くなるためには、まず好きになってもらう必要があるので、さまざまなコンテンツを用意して「楽しい」「面白い」「自分も同じこと考えてた」と共感を集めることが目的ですね。その手法として、座談会で言葉を尽くして説明したり、アニメや歌を作ってみたり、メンバーそれぞれが工夫して楽しんでもらえるようにしています。

目指したいのは「互いのセクシュアリティにとらわれない」世界

——LGBTを取り巻く環境がこうなってほしいという理想はありますか?

活動を重ねるほどに、誰がどのセクシュアリティか、といったことが話題にもならないような状態になれば一番いいのではないかと思うようになりました。
「やる気あり美」の活動をする前はLGBTで言うとゲイの人としか会ったことがなかったのですが、いろんな企画を通じてレズビアンやトランスジェンダーの方にもお会いしました。その中で、「セクシュアリティが何であれ肯定する」というスタンスでさえあれば、誰とでもある程度まで仲良くなれるんじゃないかなと実感したんです。ただ「権利をください」と主張をしているだけではその状況に行き着かないと、活動を通して思いました。

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「やる気あり美」の活動で、何度かお料理をするイベントを開いたことがあるんです。10人くらいのいろんなセクシュアリティの人に集まってもらって、レシピを見ながら一緒に料理をするという内容でした。メニューは、例えばマッサマンカレーとか、その時々によって違うんです。その場では敢えて各々のセクシュアリティを明らかにしないまま料理をスタートします。

最初はぎこちないのですが、料理という作業を通して、「僕はゲイだ」とか「彼女はゲイに対して偏見がある」とか全く関係なく、お互いに協力してカレーを作る。それがとても居心地がいい空間だったんです。

あのキッチンに流れていた「ここにはセクシュアリティの面で誰かを否定する人はいない」という空気が、このまま日本全体に広まればいいのにと思いました。

もちろんアクティビストの人たちを否定するわけでは無いですし、権利を主張することも大事ですが、それだけでは「共感」は生まれないんだなと。

——主張するとかえって反発を生む、というケースもありますよね。

私もYouTubeのコメントに「ゲイとかキモイ」などと書かれて、うぐぐ、と思うこともあります。LGBTの中にも、人によっては非常にヘビーな環境を生きてきた方もいますし、抱えてきた「怒り」が蓄積されて強い主張に変わっても、しょうがないと思うんです。

ただ「やる気あり美」は、代表の太田くんが、ノリが合うか合わないかでメンバーに加わってもらうかを決めています。たとえ目的が合致していてもノリが合わないと一緒にやっていくのは難しい。「やる気あり美」では、楽しさや柔らかさを大事にしたいと思っています。
また、自分が一番辛かった時期は10代だという人が多いので、10代の子に会いに行くという活動もしています。10代の子と会って話を聞いて、その子の気持ちが少しでもラクになったらいいなと。

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私が10代の頃は、すごく暗かったんです。兵庫県の田舎に住んでいて、当時はインターネットもなく周りに相談できる人もおらず「密封されて息苦しい」という気持ちでした。もし同じ境遇の人がいると分かり「会いたい!」と思っても、電車で1時間以上かかる遠い場所に住んでいて10代の自分では会いにいくことが難しかった。「誰にも会えないんだ」と畑の真ん中で途方に暮れていました。

現在は情報もたくさん手に入りますし同じ境遇の人は減っているかもしれませんが、似た息苦しさを感じている人は依然として多いのではないかと思います。

そんな中で私ができることは、歌やアニメを作って、インターネットのような誰でも見れる場所で公開していくこと。そこで作品を見た人に「自分と同じような人がいるんだ」と少しでもホッとしてもらいたいですね。そして先ほど言ったような「セクシュアリティを気にしない空気」を、もっともっと広げていけたらと思います。

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<WRITING・伊藤七ゑ/PHOTO・岩本良介>