長時間労働を削減するには?原因と対策についてプロが解説

近年、「働き方改革」により労働時間の削減に取り組む企業が増えています。しかしながら「労働時間が長くてつらい」と感じている人もまだまだ多いようです。「長時間労働」とは何時間くらいを指すのか、長時間労働にはどのようなリスクがあるのか、長時間労働の改善・防止策について、社会保険労務士・岡佳伸さんが解説します。

長時間労働に疲労しているビジネスパーソンイメージ画像
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長時間労働の定義・目安の基準

そもそも「長時間労働」とは、どの程度の時間を指すのでしょうか。法律上の定義、目安となる基準を理解しておきましょう。

法定労働時間とは

法定労働時間とは、労働基準法で定められている労働時間を指します。現行法では以下のように規定されています。

  • 使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはならない
  • 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければならない
  • 使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならない

長時間労働とは何時間を指すのか

長時間労働の目安となる基準の一つが、「月80時間以上の時間外労働」です。時間外労働が80時間を超え、かつ本人が医師の面談を希望した場合、企業はその労働者に対して「産業医面談」を行うことが法律で義務付けられています。

もう一つの基準が「月100時間以上の時間外労働」です。労働基準法に基づく「36協定」では、時間外労働と休日労働の合計時間を月100時間未満及び年720時間未満とすることが定められています。つまり時間外労働が100時間以上になると法律違反となるのです。

なお、36協定に基づく時間外労働の上限は、「月45時間及び年間360時間まで」と定められています。「臨時的な特別な事情」がある場合には、「特別条項」を設ければ月45時間超の時間外労働が認められますが、それでも月45時間を超えてもよいとされるのは「年6回まで」です。
月45時間の時間外労働が3カ月連続で続いた場合、自己都合で退職したとしても「会社都合退職」(特定受給資格者)と見なされます。

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目安となる「36協定」とは

「36協定」とは、時間外労働や休日労働について決めた協定のことで、正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」です。労働基準法第36条に基づくことから、一般的に36(サブロク)協定と呼ばれています。

先述のとおり、労働基準法において、労働時間は原則「1日8時間、1週40時間以内」、休日は「毎週少なくとも1回又は4週間を通じて4日以上の休日」と定められています。

この法定労働時間を超えて働く場合、「1日」「1カ月」「1年」の各期間に対する時間外労働の上限について、労働者と使用者との間で協定を結び、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

36協定を締結しないまま残業や休日出勤をさせれば法律違反となります。

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長時間労働することで生じるリスクとは

長時間労働にはどのようなリスクがあるのでしょうか。起こり得る問題やトラブルを挙げてみましょう。

精神的疲労・ストレスの蓄積

長時間労働が続くとストレスが蓄積し、精神的な疲労を招きます。うつ病へと進行することもあります。精神疾患は労災認定の対象となっており、長時間労働はその原因の一つとなり得るでしょう。

生産性の低下

労働時間が長びけば集中力が低下し、仕事がはかどらなくなることもあります。生産性が低下して仕事が終わらない、成果が挙がらないとなれば、それを補うために新たな残業が発生することにもなりかねず、悪循環に陥ってしまいます。

プライベートへのマイナス影響

労働時間が長い分、プライベートの活動に時間を費やすことができません。趣味を楽しめなければストレスが増幅するほか、家族や友人と過ごす時間をとれず、人間関係にも支障をきたす恐れがあります。

突然死・過労死のリスク

長時間労働は身体的負担も大きく、脳血管疾患や急性心筋梗塞などのリスクが高まるとする調査データもあります。最悪の場合、突然死・過労死に至るケースもあります。

「疲労度」をセルフチェックしてみよう

厚生労働省は、労働者の仕事による疲労蓄積を自覚症状と勤務の状況から判定する「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」を提供しています。長時間労働を自覚している方は、自身の疲労蓄積度をチェックしてみてはいかがでしょうか。

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長時間労働を避けるための対策

現状の長時間労働を改善するため、また、長時間労働にならないようにするため、働く人自身ができる対策・工夫をご紹介します。

業務の見直しを上司に相談する

現在の担当業務量が適切ではないと感じるなら、上司に業務の見直しを相談しましょう。ただし、「業務量が多すぎる」「業務量を減らしてほしい」と訴えるだけでは取り合ってもらえない可能性もあります。

「○○業務に*時間」「△△業務に*時間」など、業務ごとにかかる時間を細かく算出し、規定の労働時間では収まらないことを可視化して伝えてはいかがでしょうか。

データとして示すことで、どの業務に問題があるのかも判断しやすくなり、他のメンバーに業務の一部を割り振るなどの対策も講じやすくなるでしょう。

人事部に相談し、増員を検討してもらう

上司が対応してくれない場合は、人事部に相談してみましょう。「異動によってメンバーを増員する」「社員・派遣スタッフ・アルバイトスタッフなどを新規採用する」といった施策は人事部門が主導することも多いため、人員計画で考慮してもらえる可能性があります。

新たな手法やツールを導入し、業務効率化を図る

業務の効率化によって、労働時間を削減できる可能性があります。既存のやり方・進め方に縛られず、効率化できる手法を調べたり学んだりして、取り入れてみることをおすすめします。

業務支援ツールにもさまざまな種類がありますので、自社に合いそうなツールを探し、導入を提案してみるのも一つの手です。会社としても「生産性アップ」は取り組むべき課題であることが多いはず。中長期的に見てメリットが高いと判断されれば、予算を確保して導入してもらえるかもしれません。

「在宅勤務」を取り入れる

会社に「在宅勤務制度」「テレワーク制度」「リモートワーク制度」などがあれば、積極的に活用しましょう。労働時間を減らすことは難しくても、通勤時間を減らすことで精神的・身体的疲労を軽減できます。

出社が必要な仕事であっても、事務作業などを1日にまとめるなどすれば、週1日でも在宅勤務で対応できる可能性があります。現状、在宅勤務制度がなくても、「生産性アップのために」として上司と交渉してみてはいかがでしょうか。

「副業・兼業」は時期や量を調整する

最近、副業・兼業をする人が増えています。本業が忙しいのに副業もすることで長時間労働となり、疲弊してしまうケースが見られるようになってきました。副業をしたいのであれば、本業の状況を踏まえ、時期や量を適切にコントロールするようにしましょう。

長時間労働を改善するために

働く人自身が業務を効率よく進める方法を学ぶことで、労働時間を削減できることもあります。しかし、多くの場合、長時間労働は職場の問題に起因しており、従業員個人で改善するのは難しいといえるでしょう。

1人ではできないからこそ、自身の長時間労働の実態を上司や人事部に「正確に知ってもらう」ことが大切です。自身の業務内容を可視化・分析して周囲に伝え、改善を促しましょう。

社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡佳伸氏社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 岡 佳伸氏

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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