ビジネスシーンでは、往々にして「忍耐力」が求められることがあります。ビジネスで価値を生む忍耐力とはどのようなものか、忍耐力がある人の特徴、忍耐力の活かし方・鍛え方などについて、ビジネススキル研修を手がける株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ代表の高田貴久氏にアドバイスをいただきました。

ビジネスに必要な「忍耐力」とは?
単純に「忍耐力」というと、必要とされるシーンはさまざまです。では、ビジネスシーンで必要な忍耐力とはどのようなものでしょうか。
それは「長期的なメリットを得るために、短期なデメリットをあまんじて受け入れる力」だと言えると思います。
昔から「損して得とれ」という言葉があります。私が会社員時代にも、営業本部長がいつもこう言っていたのが印象的でした。これは目先の損失をいとわず、将来の大きな利益につなげようとする考え方です。
つまり、耐えた先にメリットがあってこそ耐える意義があるのであり、耐えた先に得るものがなさそうであれば、異動なり転職なり、その環境から早々に逃れるのも有効な手段なのではないでしょうか。その状況を適切に判断し、耐えるべき場面で耐えられることが重要です。
「忍耐」について、より具体的なシーンを分類してみましょう。
- 耐えるべき局面で、耐える
- 耐えてはいけない局面で、耐える
- 耐えるべき局面で、耐えない
- 耐えてはいけない局面で、耐えない
1. 耐えるべき局面で、耐える
例えば、お客様から叱られている場面で、腹が立つ言い方をされているものの「営業成績のため」「自分の成長のため」と捉えて耐える。これはビジネスによくあるシーンであり、望ましい行動と言えます。
2. 耐えてはいけない局面で、耐える
例えば、お客様のカスハラ・パワハラが度を越えているにも関わらず、営業成績のために耐え続けることもあるでしょう。しかし、理不尽な要求に対しては、毅然とした態度で言うべきことをしっかり言うことも重要です。
3. 耐えるべき局面で、耐えない
例えば、お客様に叱られている場面で、怒って反論するのは好ましくありません。その場はぐっとこらえ、理論的に納得がいかない点については、日を改めて冷静に説明するなどした方が、良好な関係を継続しやすいでしょう。
4. 耐えてはいけない局面で、耐えない
例えば、カスハラ・パワハラが度を超えているお客様に対し、「それはハラスメントです」と指摘をした上で、本社のしかるべき部門に報告するといった行動です。本来は望ましい行動ですが、「耐えるべきか否か」の判断を誤ると、【3】と捉えられることもあるでしょう。
これは組織と個人の価値観によってギャップが生じることもあります。自分は「耐えるべきではない」、上司や会社は「耐えるべき」と、明らかに価値基準が異なっているのであれば、そうした組織からは離れた方がいいかもしれません。
忍耐力がある人の特徴を紹介
ビジネスシーンにおいて「忍耐力がある人」とは、どのような人なのでしょうか。一例を挙げてみましょう。
物事を長い目で考えることができる
目先の厳しい状況も、長い目で見ればプラスだと理解できている人です。例えば、不本意な異動や転勤を命じられたときなど、「飛ばされた」「もう未来はない」と絶望するのではなく、「新たな経験を積むチャンスを与えられた。それが将来のキャリアにつながる可能性がある」と、中長期視点で捉えます。
継続力があり、失敗しても改善に向かっていける
つらいことがあっても「続けていけばきっと良いことがある」と考えて継続できる人です。途中で失敗したときも、投げ出すことなく、失敗の要因を分析して改善につなげていきます。
目的達成に向けた努力ができる
「目的」を明確にとらえ、「達成するためにはどうするか」を考えることに集中できる人です。周囲から見ると厳しい状況に立たされていても、本人には「耐えている」という自覚がないかもしれません。
ストレスを受け取らない/うまく発散できる
つらさや厳しさを認識した上で、感情をぐっとこらえ、理性でカバーできる人です。ストレスを受けたときに耐えることはもちろん、ストレスをかわしたりうまく発散できたりする人も、自分の感情をうまくコントロールできるという点で忍耐力に優れていると言えるでしょう。
忍耐力の鍛え方とは?
上記を踏まえ、忍耐力を鍛える方法をお伝えします。
長期的な目線で「メリット」を考える
私がコンサルティングファームに勤務していたころの体験談を例に挙げてみましょう。ある上司は、「全然ダメ」「何考えているの」など、非常にきつい言葉で指摘し、嫌味なボイスメールを送ってくることもありました。最初はつらくて仕方なかったのですが、以下のように長期的目線に変えて捉えると、耐えられるようになったのです。
「いずれお客様から同じように、あるいはもっと厳しく言われるかもしれない。いい予行演習になるな」
なお、その上司は仕事中こそ厳しく当たるものの、飲みに行った場ではにこやかに話してくれていました。「仕事と人格は別なんだ」と思えば、厳しい言葉も受け入れられるようになりました。
組織の価値観と自分の価値観を意識する
忍耐力を鍛えるということは、「するべき忍耐」「するべきでない忍耐」を見極められるようになることであるとも言えます。そこで、自分が所属する組織の価値観と自分の価値観が一致しているかどうか、常日頃から意識してみましょう。
自分が「嫌だな」「つらいな」と思うことが、なぜ組織の価値観ではまかり通るのか、自分はその価値観に合わせることができるのか、を考えるのです。それがあまりにもズレていて、合わせることができないのであれば、その先に未来はなく、耐える価値がないかもしれません。
その場では飲み込み、「明日」「別の機会」に改める
仕事で関わる人から耐えがたいことを言われたり対応をされたりしたとき、つい感情的に反論してしまうタイプの人は、「その場ではぐっと飲み込む」ことを心がけてみてください。言い返さずにいられない場合は、「明日に話そう」「別の機会に改めて話そう」と、冷静に対処しましょう。
私もあるメーカーに勤務していた時期、「おかしいんじゃないか」「間違っているんじゃないか」と思うことをストレートに指摘したことがありました。それに対し「正論であるが、黙っておいてくれ」と、よく言われたのです。
「間違いを指摘して何が悪い」と納得がいかなかったのですが、ふと社内を見渡してみると、さまざまな立場や考え方の人がさまざまな思いを抱えて働いていることに気付きました。なるほど、正論をぶつけることによって反発する人を生み出すより、通常どおり事業を回していくことが先決だと、腑に落ちたのです。
そして「自分はこの環境に一生いるのか。いや、そうではない。限られた時間なのだから、世の中を知る意味においては有意義な時間だ」と、長期的な視点で捉え直すと、気持ちに余裕が生まれました。
言うべきことは「別の誰かに」「別の手段で」伝達する
上記とは逆に、言うべきことを言えずに黙り込んでしまうタイプの人は、一見すると忍耐力があるように見えますが、「正しい忍耐」ができていないケースもあります。そのようなタイプの人は「信頼できる別の誰かに相談する」「対話は苦手なので、メールで伝える」など、伝達の相手と手段を変えてみるといいでしょう。
ムダに耐える必要がない仕事・場所で働こう
「耐えなければ」「忍耐力を鍛えなければ」と考えている方は、「そもそも耐える必要があるのか」を確認してみましょう。長い目で見て自分にとってのプラスにつながらない、自分の価値観に合っていないような忍耐を迫られるのであれば、その環境から逃れた方がいいとも考えられます。
たとえつらくても、「将来プラスになる」「いつか役に立つ」というポジティブな気持ちで取り組めるような仕事、あるいは職場を見つけてはいかがでしょうか。
株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ
グローバルCEO・代表取締役社長 高田 貴久(たかだ・たかひさ)氏
東京大学理科Ⅰ類中退、京都大学法学部卒業、シンガポール国立大学Executive MBA修了。戦略コンサルティングファーム、アーサー・D・リトルでプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当に携わる。マブチモーターで社長付・事業基盤改革推進本部長補佐として、改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年にプレセナ・ストラテジック・パートナーズを設立。トヨタ自動車、イオン、パナソニックなど多くのリーディングカンパニーでの人材育成を手掛けている。