主体的にキャリア形成していく「キャリア自律」の考え方が広がる中、注目を集めているのが「プロティアン・キャリア」です。プロティアン・キャリアとはどのようなキャリアを指し、その考え方を取り入れることで、どのような成長や変化をもたらすのでしょう。一般社団法人プロティアン・キャリア協会 でCCO(最高キャリア事業責任者)を務める眞殿裕美さんが解説します。

目次
プロティアン・キャリアとは
キャリアの考え方は、組織内で垂直的に昇進する「組織内キャリア」から、個人が主体的にキャリアを形成し、キャリア・オーナーシップを持つ「自律的キャリア」へと変化を遂げてきました。
プロティアン・キャリアは、自律的キャリア形成を促進する枠組みの一つであり、環境の変化に応じて自分自身を柔軟に変化させ、 その都度、自己の可能性を刺激しながら、絶え間なく自己を発展させていく生き方を指します。
これまでのキャリア創出が「組織にとらわれ」、成功の基準が「外的に決められるもの」だったところから、プロティアン・キャリアでは、キャリアは「個人によって作り出され」、「自ら心理的成功を高める」ことが成功の基準になります。
つまり、以下の3つがプロティアン・キャリアだといえるでしょう。
- 組織に委ねるのでもとらわれるのではなく、個人によって作り出されるキャリア
- 環境変化に応じて、自らを柔軟に変えながら形成するキャリア
- 外的に決められる成功の基準ではなく、心理的成功感を高めるキャリア
では「心理的成功」とはどういうものを指すのでしょう。
心理的成功とは、外的な基準ではなく、あくまで各個人の内的な基準による成功を指します。
個人が自分のキャリアにおいて感じる、達成感や満足感、すなわち、自分自身が「最高の努力を尽くした」結果に得られる感覚であり、報酬や名誉、社会的地位は、心理的成功の後からついてくると考えられます。
プロティアン(protean)の意味
変幻自在なキャリアとも言い代えられる「プロティアン・キャリア」。「プロティアン」は、ギリシャ神話の海神プロテウスに由来しています。“変幻自在に姿を変える神”とされることから、状況に応じて自分自身を変える柔軟性を表しています。
プロティアン・キャリアのルーツ
プロティアン・キャリアは、1976年に心理学者ダグラス・T・ホール教授が提唱した考え方です。日本では、法政大学の田中研之輔教授が理論を深化させ、個人と組織の良好な関係を構築するキャリア理論として普及が進められています。
プロティアン・キャリアと従来型のキャリア形成との違い
プロティアン・キャリアの考え方は、従来型のキャリア形成とどのように違うのでしょう。これまでのキャリアは、一つの組織で昇進するための“尺度”でした。収入や社会的地位のために働き、大企業に就職すれば一安心という考え方がベースにありました。
一方で、プロティアン・キャリアにおいて組織は地面のようなもの。個人の求める場を提供するのが組織であり、キャリアの成否を決めるのは自分になります。
従来型のキャリアと自律的キャリアであるプロティアン・キャリアとの違いを、5つの観点で見ていきましょう。
●組織内キャリア(伝統的キャリア)と自律的キャリア(プロティン・キャリア)の違い

環境変化
従来型の伝統的キャリアにおいて、環境変化のない安定を前提とするのに対し、VUCA(「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の略)の時代の今、プロティアン・キャリアでは変化を前提とし、柔軟性が欠かせません。
キャリアの所有者
従来型では組織がキャリアの主導権(人事権)を握るのに対し、プロティアン・キャリアでは個人がキャリア形成の主体となります。
核となる価値観
伝統的キャリアでは、組織の中で昇進することに価値があり、ピラミッドの上で権力を持つことが成功の証でした。プロティアン・キャリアでは、自由と成長、自分らしさが重視され、価値観は多様化しています。
成果
これまでは、個人の成果は地位や給料で測られていましたが、プロティアン・キャリアでは、内的な満足感や自己成長などの心理的成功が成果の基準になっています。
態度側面
伝統的キャリアでは、個人は所属する組織へのコミットメント(忠誠)が求められ、組織とは従属関係にありました。
プロティアン・キャリアでは、個人と組織は対等なパートナー関係であり、仕事の満足感がどれだけ得られるか、専門性をどれだけ高められるかが重視されます。
プロティアン・キャリアを形成するのに必要な2つの能力
プロティアン・キャリアを形成する上で、大事な要素に「アイデンティティ」と「アダプタビリティ」があります。
アイデンティティ
自己の欲求や動機、価値観、興味、能力などの明確な自己イメージをアイデンティティといいます。プロティアン・キャリアの形成には、「これが自分だ」「自分らしい」という自己認識を深める力が欠かせません。
アダプタビリティ
変化する環境に適応する能力と、適用させようとする意欲を指します。「変化を生かす力」とも言えるでしょう。
【プロティアン・キャリア診断】自律的キャリアを形成できているかチェックする
では、自分自身はどれだけの変化適応力や柔軟性、主体性を持っているのでしょう。現時点で、自分がプロティアン・キャリア人材かどうかを診断する15個の質問に答えてみましょう。
1.毎日、新聞を読む
2.月に2冊以上、本を読む
3.英語の学習を続けている
4.テクノロジーの変化に関心がある
5.国内の社会変化に関心がある
6.国外の社会変化に関心がある
7.仕事に限らず、新しいことに挑戦している
8.現状の問題から目を背けない
9.問題に直面すると解決するために行動する
10.決めたことを計画的に実行する
11.何事も途中で投げ出さず、やり抜く
12.常日ごろから、複数のプロジェクトに関わっている
13.定期的に参加する(社外)コニュニティが複数ある
14.健康意識が高く、定期的に運動している
15.生活の質を高め、心の幸福を感じる友人がいる
出典:『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』田中研之輔著 日経BP
合計で何個当てはまったかによって、次のような診断結果になります。
変幻自在に自分でキャリアを形成し、変化にも対応できる状態だといえます。
4~11個:セミプロティアン人材
主体的なキャリアは形成できていますが、変化への対応力がまだまだ弱いといえます。
3個以下:ノンプロティアン人材
現状のキャリア維持に留まっており、変化にも対応できない状態といえます。
プロティアン・キャリアを形成するメリット
プロティアン・キャリアでは、次の3つのキャリア資本を蓄積させていくことで、より充実した生き方、働き方を実現できると考えます。
- ビジネス資本:仕事に役立つ知識やスキル、経験など
- 社会関係資本:人脈、人的ネットワーク
- 経済資本:収入や貯蓄、保険など
キャリア資本を溜め、プロティアン・キャリアを形成することで、個人はどのように幸福感、充足感を得られるのでしょう。
自分に合ったキャリアを選択できる
個人の多様な価値観や目標に基づいてキャリアを築くことができるので、自分らしい働き方を実現しやすくなります。
時代の変化に合わせて働くことができる
テクノロジーの急速な進歩などの社会環境の変化、新たなニーズに応じて常に自分のスキルをアップデートする力が身に着きます。変化への適応力が向上し、結果として、さまざまな組織から求められる人材になるでしょう。
仕事への満足感・モチベーションが得られる
自らの目標や成長に基づいてキャリアを重ねていくことで、内的な達成感や心理的成功を得ることができます。
プロティアン・キャリアで自分自身に合ったキャリア形成を目指そう
これから、個人と組織とはよりフラットな関係になっていきます。社会環境に合わせて変幻自在に動いていくプロティアン・キャリア人材になることで、自分らしい働き方、生き方を実現させていくことができるでしょう。
一般社団法人プロティアン・キャリア協会 CCO(最高キャリア事業責任者)
4designs株式会社 執行役員 CCO
一般社団法人 HRテクノロジーコンソーシアム
眞殿 裕美(まどの・ひろみ)さん
システムエンジニアとして四輪自動車メーカーの本社部門/研究開発会社に常駐し、3D CADシステムのコンサルティング、設計、導入、運用業務に従事。事業所長拝命後は社内評価制度設計、人材育成制度設計、各種研修設計・講習講師等々、幅広く対応。2019年国家資格キャリアコンサルタントを、2020年2級キャリアコンサルティング技能士資格を取得。プロティアン・キャリア協会 認定ファシリテーター1期生。現在は、女性のリーダーシップを発揮するためのキャリア支援に力を入れている。著書に『IKIGAI LIFE -キャリアをデザインするIKIGAIチャートの活用ガイド-』がある。