やりたい仕事に就き、キャリアアップするには、自分の「仕事の価値観」を明確にすることが重要だと言われています。ただ、自分の仕事の価値観が何なのか、把握できていない人も多いようです。この記事では、仕事の価値観を把握するメリットや、仕事の価値観を明確にするための具体的な方法、注意点などについて、株式会社人材研究所代表で組織人事コンサルタントの曽和利光さんが解説します。

目次
仕事の価値観とは何か?
「仕事の価値観」とは、仕事で何を大切にしているのか、仕事に何を求め、何を実現したいのかを示す考え方です。仕事における自分の行動や選択に大きな影響を及ぼすものです。
仕事の価値観は、これまでの人生において培われた「当たり前の存在」であり、無意識下にあることが多いため、把握できていない人も少なくありません。やりがいを感じながらイキイキ働き続けるためには、自身の価値観を理解しておくことが重要です。
転職や異動、新たな仕事のアサインを受ける際などに「やりがいを感じながら働くことができ、かつ成果を上げられるような仕事かどうか」を見極めるには、「能力」「性格」「価値観」の3つの判断軸が合っているかどうかを確認することが大切です。
能力や性格が合っているかどうかは主に、会社や上司でもジャッジできるものです。しかし「価値観」だけは、自分自身で合っているかどうかを見極める必要があります。
自分の奥底にある仕事の価値観に反して働き続けると、心身にかなりの負荷がかかりストレスが溜まります。さらに、仕事のパフォーマンスが下がれば、評価を落とすことにもつながりかねません。
例え自分では自覚し切れていなくても、無意識下で強い価値観を持っている可能性があるため、自分の仕事の価値観を把握し、活かすことの重要性は高まっています。
仕事の価値観を把握するメリット
「仕事の価値観」を把握するメリットとは何かを具体的にご紹介します。
やりたい仕事や役割を与えられやすくなる
採用面接や上司との1on1の場などで、自分の仕事の価値観を伝えることで、それに沿った仕事や役割を与えられる可能性が高まります。例えば、部署に新たなミッションが課されたときに想起してもらいやすくなったり、責任ある役割を任されたり、大きな仕事に抜擢されたりすることがあるかもしれません。
仕事のモチベーションが向上する
仕事の価値観を把握できている中で、その価値観に合った仕事に就くことできれば、仕事のモチベーションは高まるでしょう。
例え自分の能力や性格、持ち味が最大限発揮できる仕事であっても、仕事の価値観が合わなければ、日々の仕事に対してギャップを感じ、ストレスが溜まって、仕事へのモチベーションが徐々に下がってしまうことも考えられます。
仕事の価値観を明確にする方法
無意識下にある自分の「仕事の価値観」を明確にする方法をご紹介します。
フレームワークを活用して自己分析する
仕事の価値観を知るには、自己分析が一般的です。ただし自分に向き合い、考えるだけではなかなか意識に上がってこない可能性があります。
お勧めしたいのは、既存のフレームワークを活用する方法。例えば「モチベーションリソース」や「キャリア・アンカー」などをベースに考えれば、無理なく価値観が洗い出しやすくなるでしょう。
モチベーションリソースから考える
モチベーションリソースは、大きく以下の4つに分けられます。
- 組織型(組織の社会的ステータスや金銭的な報酬など)
- 仕事型(仕事の目的やプロセス、結果への自己評価など)
- 職場型(組織・上司の評価や仲間との協業など)
- 生活型(生活が豊かになる実感、時間のゆとりや融通など)
この4つの内、自分はどれに当てはまるのか。つまり、どんな場面に最も喜びややりがいを感じるのかを考えてみると、自身の価値観のタイプがつかめやすくなります。
例えば、上司や仲間と協力しながら仕事を進めているときに最もやりがいを感じるのであれば「職場型モチベーション」が強いと言えます。
職場型モチベーションにもさまざまな価値観のタイプがありますが、それを軸に「自分は何を大切にして行動しているか」を深掘りしてみると、価値観をより明確にできるでしょう。
ほかにも「職場の仲間やチームワークを大切にしながら働きたい」「アットホームな環境で心理的安全性を担保しながら働きたい」「仲間と刺激し合い、切磋琢磨しながら成長したい」などの価値観が考えられます。
キャリア・アンカーの8分類から考える
組織心理学者であるエドガー・シャインの「キャリア・アンカーの8分類」から考える方法も有効です。
次の8つのカテゴリーの中から、自分の思いや志向に合ったものがあれば、それが仕事の価値観である可能性が高いでしょう。
- 専門・職能別能力:自分の専門性や技術が高まること
- 経営管理能力:組織恩赤で責任ある役割を担うこと
- 自立・独立:自分で独立すること
- 保障・安定:安定的に1つの組織に属すること
- 起業家的創造性:クリエイティブに新しいことを生み出すこと
- 奉仕・社会貢献:社会を良くしたり他人に奉仕したりすること
- 純粋な挑戦:解決困難な問題に挑戦すること
- ライフスタイル:個人的欲求と家族・仕事のバランスを調整すること
他者からフィードバックをもらう
仕事の価値観は顕在化しておらず、上司や先輩、同僚、親しい友人など、自分のことを良く知る第三者のほうが、自分の特徴や持ち味、価値観を理解している場合があるので、意見を聞いてみるのは一つの方法です。
自分はどんな仕事に熱中しているのか、どんなことをしているときにイキイキしているのかフィードバックをもらってみましょう。意外な気づきや新たな発見が得られ、それを糸口に仕事の価値観が明確化できる可能性があります。
職種リストや企業リストを見ながら直感で取捨選択する
求人票などの職種一覧リストや企業リストを参考に、価値観を洗い出す方法もあります。リストを見ながら、自分が「好きだ」と感じるものを選んでみましょう。あまり深く考えず直感で行うことが大切です。
「好き」として選んだ職種や企業の中から、さらに抽出して「自分が好意を感じているリスト」を作成しましょう。リストに記載されているものから共通するものを考えてみると、自分の仕事の価値観に気づくことができりはずです。
例えば、「さまざまな事業にチャレンジし多角経営している会社が多いから、自分にもそういう志向がありそうだ」「対人関係の仕事ばかり選び、地道にコツコツ型の仕事は含まれていない。さまざまな人とコミュニケーションを取り、介在価値を発揮できるような仕事がしたいのでは」などとイメージすることができるでしょう。
仕事の価値観を明確にする上での注意点
仕事の価値観を洗い出す過程では、いくつかの注意点があります。
「社会的な望ましさ」に流されない
仕事の価値観を考える際、自分の心にしっかり向き合わないと、社会的に望ましいとされる方向に流されてしまう可能性があります。
例えば、近年は「多様性」がメジャーな価値観になりつつありますが、それに流されてしまい、それほどでもないのに「多様性のある環境で働きたい」などと思い込んでしまうケースがあります。
私はこれを「ねつ造されたWill」と呼んでいます。自己分析などの結果も、実は自分の価値観ではなく、社会的な望ましさに流された結果かもしれません。
それを避けるためには、「直感で取捨選択する」方法がお勧めです。先ほど紹介した職種や企業のリストをもとに好きか嫌いかで分類していけば、自分の心に正直な結果が導き出せるでしょう。
価値観の変化に柔軟に対応する
仕事の価値観は変化するものです。しかし中には、価値観を見直すことを不安に思う人もいるようです。
環境や人生のステージが変われば、当然ながら仕事の価値観も変化します。
まずは「価値観は変化するのが当たり前」だと理解し、定期的に自分の価値観を見直す機会を設けて、柔軟に対応することが大切です。
自分の仕事の価値観を周りに共有するコツ
仕事の価値観が明らかにできたら、それを上司や同僚など周囲に共有しておくと、価値観に合った仕事が回ってきたり、働く環境が整備されたりする可能性が高まります。
自分の仕事の価値観を、周りに共有する際のコツについてご紹介しましょう。
「きっかけ・意見・行動」で本気度を伝える
上司に「自分の仕事の価値観はこれです」と伝えたとしても、必ずしもその価値観を尊重できる仕事をアサインしてくれたり、環境を整えたりしてくれるとは限りません。
従って、「この仕事の価値観がどれだけ本物であり、自分にとって重要か」を伝え、本気度をアピールすることが重要です。「この仕事の価値観を活かしながら働ければ、自分はやる気が上がりパワーも出る。成果も今まで以上に挙げられる」ことが伝われば、上司も検討してくれるかもしれません。
本気度を伝えるには、「きっかけ・意見・行動化」の3つの視点で伝えることをお勧めします。「きっかけ」は、なぜその仕事の価値観を持つに至ったのか。明確なきっかけがあれば、価値観に根っこがあると判断できます。
そして、仕事の価値観が本物であれば、自分なりの「意見」を持っているはずですし、それを基に何らかの「行動」を起こしているでしょう。これまでの経験を振り返りながら、仕事の価値観に基づくこの3つの視点を伝えれば、上司に本気度の高さをアピールすることができるはずです。
自己開示を積極化する
上司だけでなく、周りに自己開示して、先輩や同僚、後輩などに自分を理解してもらうことも大切です。
「私はこういう性格・タイプであり、このような仕事の価値観を持っています」と積極的に自己開示すれば、相互理解が進み、「そういう仕事の価値観を持っているなら、合いそうな仕事を振ってみよう」など、周囲からの協力やサポートも仰げるでしょう。
「仕事のやりがい」に直結するのは「価値観に合っているかどうか」
人は、能力や性格に合った仕事に就くことで、成果を上げ、職場へのフィット感を得たりしやすくなりますが、「仕事のやりがい」に直結するのは「価値観に合っているかどうか」です。つまり、「働く上での幸せ=やりたいことができている状態」ということができます。
ぜひ、今回ご紹介した方法で、自身が無意識にもっている仕事の価値観を明確化し、その価値観を大切にしながらイキイキと働いてほしいと願っています。
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株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光氏
1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)など著書多数。新刊『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版⇒)、『シン報連相~一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』(クロスメディア・パブリッシング⇒)も話題に。