残業したくない!残業続きの毎日を脱するための対処法を伝授します

近年、若手社会人の多くから「残業したくない」という声が聞こえてきます。それに対し、管理職層が「甘えている」と指摘するケースもよく見られます。残業を避けようとするのは「甘え」なのでしょうか。残業が発生してしまう原因、残業を減らすための対処法などについて、株式会社ワーク・ライフバランスのコンサルタントとして働き方改革の支援を手がける永田瑠奈さんにアドバイスをいただきました。

残業で疲れを感じているビジネスパーソンイメージ画像
Photo by Adobe Stock

残業したくないのに、残業が多くなってしまう原因

そもそも残業はなぜ発生してしまうのでしょうか。その原因は仕事内容や職場の状況によって多様ですが、大別すると次のような状況が挙げられます。

残業が当たり前の雰囲気がある

「残業=美徳」という意識が根付いており、早く業務を終えても帰りづらい雰囲気の職場があります。こうした職場では、上司や同僚に合わせて「付き合い残業」をしてしまいがちです。

職場の人手が足りない

業務量に対して人員の数が足りていないと、1人が抱える業務が増え、残業しなければ終わらない状況に陥ってしまいます。近年は労働人口減少により採用難となっており、人員補充したくても応募者が集まらないケースも多いようです。

職場の業務効率が悪い

デジタルツールなどを使えば短時間で済む仕事も手作業で行っていたり、紙でのやりとりをしていたりと、業務の効率化が進んでいない職場では時間のロスが発生しがちです。メンバーへの業務の割り振りが適切でなく、特定の人に仕事が集中して残業につながるケースもあります。

突発的な仕事がよく入ってくる

取り扱う商品やサービスによっては、顧客から急ぎの注文や依頼が頻繁に入ります。自身で立てたスケジュール通りに進められず、所定勤務時間内に終わらないことも多々あります。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「残業したくない」は甘えなのか

「残業したくない」という若手社員に対し、「それは甘えだ」と手厳しく指摘する上司がいます。残業を避けたいと考えるのは、甘えなのでしょうか。

残業を拒む理由は人それぞれであり、一概にYES/NOとは明言できないのですが、昨今の若い世代は決してゆるりと働きたいわけでなく、「効率的に働いて時間を有効活用したい」という志向を持つ方が多いと感じます。

本来、経営側の目線では、効率的に働いてもらって残業手当のコストを削減できる方が望ましいはず。それにも関わらず上司が部下に残業を推奨するのはなぜなのでしょうか。

残業拒否を「甘えだ」と言う管理職層の多くは、自身が過去に頑張って残業をしてきた方々で、それによって成果を挙げたり、愛社精神を示したりしてきた結果、今のポジションに就いていることが多いものです。

そんな過去の自身と重ねると、「残業したくない」=「成果を挙げようとする意欲が乏しい」「愛社精神がない」と捉えてしまうことがあるようです。

また、過去に残業を頑張った自分を否定されている気分になり、「リスペクトされていない」と不安を感じていたりもするのです。そうした上司の背景と心理を理解しておくことで、冷静に受け止められるのではないでしょうか。

しかし時代は変わりました。「人生100年時代」と言われる今、20代~30代の皆さんが残りの70~80年を生き抜いていくためには、今から心身の健康を維持できる生活スタイルを定着させることが大切です。そもそも明日の仕事に集中力を発揮するためには、十分な睡眠が欠かせません。

また、さまざまな仕事がAI(人工知能)に置き換えられていくなか、「求められる人材」であり続けるためには知識・スキルを常にアップデートしていく必要があります。

こうした「健康維持」「スキル習得」のためにプライベートの時間を有効活用しようとするなら、残業の拒否は「甘えではない」と言えるでしょう。

残業で疲れを感じているビジネスパーソンイメージ画像
Photo by Adobe Stock

8,568通り、あなたはどのタイプ?

残業を減らすための効果的な対処法

職場が変わらないかぎり残業削減につながらないことも多いものですが、個人の工夫によって残業時間を減らすことは可能です。有効な方法をご紹介します。

「朝・夜メール」を活用し、生産性を高める

仕事の効率化を図るには数々の方法がありますが、中でも効果が高いのが「朝・夜メールの活用」です。これは朝の始業時に「朝メール」で1日の業務予定を立て、上司・同僚に共有します。

終業時に「夜メール」で振り返ることで時間の使い方や業務の進捗を「見える化」する手法です。「メール」としていますが、チャットツールを使ってもOKです。

仕事の始まりに、1日の業務を組み立てる際には「行う時間帯」「所要時間」も設定。仕事の終わりに予定通り進んだかどうか、予定が狂ったのであれば何が原因かを検証します。これにより、予定とのズレや突発的に発生する業務を認識でき、課題を把握しやすくなります。

すると「この時間帯は電話が入りやすいので集中力が必要な作業は入れない」「○○さんに相談するなら、この時間帯に対応してもらいやすい」といったことが分かってきて、業務を時間内に収めるコツがつかめるのです。

何に時間がかかっているかも可視化すると、自身に足りないスキルに気付くこともでき、自己研鑽目標も立てられるでしょう。この「朝・夜メール」を実践しただけで1~2割の残業削減につながったケースが多数あります。

「期日」を確認し、優先順位を明確にする

若手のうちはまだ「交渉力」が十分身に付いていないこともあり、上司の指示にただ従うだけになってしまうこともあります。「これやっといて」と仕事を振られた場合にも、そのまま受け取ってしまう。進行中の仕事を中断し、効率が落ちて残業が発生するといったことが起こりがちです。

しかし、「すぐに対応しなくては」というのは思い込みであるケースも多いもの。「期日」を確認するとともに、「今日はこの業務に集中したいので、明日でもいいですか」「この業務とこの業務ではどちらの優先順位が高いですか」など、勇気を出して相談・交渉をしてみましょう。

「雑談」の機会を増やし、職場の「心理的安全性」を高める

残業が発生する原因は多様ですが、実はその多くは職場の「心理的安全性」を高めることで改善できる可能性があります。

「心理的安全性」とは、組織内でどのような発言をしても拒否されたり罰せられたりすることなく、率直に自分の考えを発信できるという安心感が持てる状態を指します。

「うちの職場のメンバーは仲がいい」と思っていても、実はコミュニケーションが表面的になっていてお互いをよく理解していないことは多いようです。それゆえに本音を言いづらく、「忖度」「配慮」に余分な時間を使い、長時間労働を招いています。

心理的安全性が高い職場では、自分で考えて判断して行動を起こしていけるため、忖度や配慮といった時間のロスがありません。「皆が残業しているので先に帰りづらい」といった雰囲気にもなりづらいでしょう。

では、組織の心理的安全性を高めるにはどうすればいいか。さまざまなビジネス書でノウハウが紹介されていますが、効果的な方法の一つが「お互いの『人となり』を知る雑談」です。

実践の一例としては、会議開始前のアイスブレイクとして、業務と関係ないテーマで一人一言ずつ話す時間を設けます。

例えば、「今まで行った旅行先でもう一度行きたいところ」「クリスマス(正月、夏休みなど)で印象に残っている出来事」など。こうした雑談では、その人が感情を動かすポイントや大切にしている価値観などが分かり、「人となり」を知ることができます。

ある企業のアイスブレイクで「おすすめのお菓子」を話題にしたことがありました。すると、威厳ある風貌の管理職の方が「これなんだ」とポケットから取り出したのがイチゴのチョコレート。メンバー一同、そのギャップに驚きました。「こんなチャーミングなところがある人なら、こういう相談をしてもいいかも」と、心理的なハードルが下がったかもしれません。

このような「雑談」の機会をチーム内で増やす工夫をしてみてはいかがでしょうか。関係を築くことで率直な意見を言える環境ができれば、ムダな残業の削減につながります。

どうしても残業が減らせない場合は?

残業が多く、ここまでご紹介したような対処法を試しても改善できない場合は、次の対策も検討してみてください。

専門家に相談する

労働組合があれば、相談してみましょう。労働組合を通じて会社側と交渉することで改善される可能性があります。また、違法な時間外労働、賃金不払残業(サービス残業)などの問題については、労働基準監督署に設置されている労働局の総合労働相談コーナーでも相談を受け付けています。

残業が少ない企業への転職を検討する

残業が少ない企業を求人サイトで検索する、あるいは転職エージェントに紹介してもらうなどして、転職を検討する手もあるでしょう。

ただし、残業の実態が正確な分からないことも多いものです。そこで、厚生労働省が提供している「女性の活躍推進企業データベース」をチェックしてみることをおすすめします。

このサイトでは、全国の企業が女性の活躍状況に関する情報・行動計画を公表しており、優れた取り組みをしている企業には「くるみん」「えるぼし」のマークが認定されています。女性が強調されていますが、男性の育休取得率なども見ることができますので、男性にとっても働きやすい環境が整備されているかどうかを判断する参考になります。

特に「勤務間インターバル制度」の有無に注目してみてください。この制度は1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)を設け、働く人の生活時間や睡眠時間を確保するものです。この制度の導入を公表している企業は、働きやすい環境整備への意識が高いと判断できるでしょう。

残業をしなくても、生産性が高い働き方をすることで、自身の人材としての価値を高めていくことは十分可能です。ご自身が力を発揮できる働き方ができる環境を探してみてはいかがでしょうか。

ワーク・ライフバランス コンサルタント 永田瑠奈氏

永田瑠奈氏_プロフィール画像大学卒業後、福利厚生代行サービス会社に入社し、営業部に配属。同年入社の新入社員の中で最速受注、最高額受注、最高達成率の実績を挙げる。大手~中小企業に対するワークライフのバランス推進に取り組む一方、自社に対しても業務効率化に関する仕組みを提案し、残業削減に寄与する。女性がいきいきと働く職場環境づくりの必要性を感じ、2012年、株式会社ワーク・ライフバランスに参画。若い女性たちのキャリア支援セミナーから管理職向けのマネジメント研修まで幅広く担当。きめ細やかな対応やプロジェクトマネジメントスキル、相手に合わせたコミュニケーションやフィードバックスキルに定評があり、講演・コンサルティングともにリピート率が高い。

取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
PC_goodpoint_banner2

Pagetop