統率力=リーダーシップ?統率力を活かして力を発揮し続ける方法を紹介

リーダーに必要とされるスキルの一つが「統率力」。将来のために統率力を磨きたいと考えるビジネスパーソンがいる一方で、統率力とリーダーシップを混同している人も少なくないようです。この記事では、統率力の意味と今の時代に求められている理由、そして効果的な鍛え方などについて、株式会社人材研究所代表で、組織人事コンサルタントの曽和利光さんに伺いました。

会議で発言するリーダーのイメージ画像
Photo by Adobe Stock

統率力とは?リーダーシップとの違い

「統率力」とは、自ら先頭に立って組織やチームをまとめ、目標達成に向けて皆を引っ張っていく力のことを指します。企業の成長を支えるリーダーやマネージャーには必要不可欠のスキルと言われています。

若手ビジネスパーソンの中には「統率力=リーダーシップ」と捉えている人がいるようですが、実は統率力はリーダーシップの1要素です。

リーダーが取るべき行動理論の1つに、「PM理論」というものがあります。この理論では、リーダーシップを「P(Performance=目標達成機能)」と「M(Maintenance=集団維持機能)」の2軸で定義していて、PとMそれぞれの強さによってリーダーシップのタイプを分類しています。

P(Performance)が強いリーダーは、牽引型のリーダーシップを持ち、目標達成や成果を上げるために、組織やチームを取りまとめながらグイグイと率いることができます。これがいわゆる「統率力」に当たります。
一方、M(Maintenance)が強いリーダーは、感情配慮型のリーダーシップを持っています。メンバー一人ひとりを気遣い、チームワークを維持しながら皆の気持ちを一つにまとめる力を持っています。

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統率力は、今の時代に必要とされるスキル

前述のP(Performance)とM(Maintenance)をバランスよく有している人が、目標達成能力と集団維持能力を併せ持つ「理想のリーダー」とされています。
しかし、変化が激しい今の時代においては、P型の統率力がより求められる傾向にあります。

企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化し、かつ先の見えづらいVUCAの時代と言われる今、企業の存続や事業成長のため、経営の軸を大きくピポット(方向転換)したり、組織体制を抜本的に改革したりする企業が増加しています。そういう変化の多い時期には、皆をまとめつつ同じ方向に向かって走らせることができる、統率力のあるリーダーが必要なのです。

経営方針や事業方針が大幅に変わると、急な変化についてこられなかったり、反発したりする人がどうしても一定数出てきますが、そういう人たちを「右向け右」と引っ張りながら走り続けられる統率力あるリーダーこそが価値を発揮します。

一方、経済も企業業績も安定的に成長している、いわゆる「平時」においては、牽引型リーダーシップである統率力よりも、感情配慮型のリーダーシップのほうが求められる傾向にあります。平時においては、皆が同じ方向に向かって走るよりも、一人ひとりが自発性を発揮できるよう環境を整備することで創造性を引き出せるリーダーのほうが向いていると言えます。

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統率力を鍛える方法とは?

「統率力」の主な構成要素は、説得力、率先垂範力、やり切る力の3つ。この3つを意識することで、統率力を鍛えることができます。

説得力

人を一つの方向に導くには、なぜこの方向に進むのか、その必要性を説明し納得させる必要があります。その際には、会社が置かれている状況を正しく伝えたり、ビジョンやパーパスなどを改めてかみ砕いて説明したりする「言語能力」が重要です。

実際、統率力が高い人は、演説やプレゼンがうまく、聞き手を言葉で納得させるスキルに長けています。こういう人の話し方や言葉の選び方を参考にするのは一つの方法です。
人の心をつかむのがうまい社内の人の話しぶりを聞いたり、社外のセミナーや講演会などに参加したりするなどして、心が動かされた話し方をどんどん真似すれば、徐々に自身に装着されるでしょう。

なお、説得したい相手の「仕事におけるモチベーションリソース」を知り、それを軸に物事を伝えると説得力がぐんと増します。スキルを磨きたいのか、より責任ある仕事に就きたいのか、評価を上げたいのか…など、相手が何を求めているのかを相手目線に立って考える習慣をつけるだけでも、説得力は磨かれます。

率先垂範力

「率先垂範」とは文字通り、率先して人の先頭に立ち、自ら模範を示すこと。人を一つの方向に導くには、率先垂範で手本を示すことも大切です。

率先垂範力を鍛えたいならば、「とにかく行動する」を意識することが大事。どんな仕事でも「人より早く取り組む」と腹決めし、たとえやりたくない仕事、面白みのない仕事を振られたとしても、つべこべ言わずに行動するのみです。
その際、「いつまでに、どれだけやるか」を自ら設定し、周りに宣言することをお勧めします。宣言すると後には引けなくなり、自分を程よく追い込むことができます。

やり切る力

人より早く行動するだけでなく、最後までやり切ってこそ統率力は磨かれます。ただ、初めの一歩は踏み出せたとしても、最後までモチベーションを高く保ったままやり切るのは大変なものです。

そんな「やり切る力」の下支えになるのが、自己肯定感です。自己肯定感とは、自分の可能性を自分で認知できていて、「自分ならきっとうまく行く」と思える状態を指します。したがって、自己肯定感を自ら高める努力をすることで、やり切る力も高めることが可能です。

自己肯定感を高める方法はいくつかありますが、自己効力感(自分の可能性を自分自身で認知できている状態)を上げるのが近道だと思われます。
ポピュラーなのは、心理学者であるアルバート・バンデューラが提唱する「成功体験」「代理体験」「言葉による説得」「情動的体験」という「4つの自己肯定感を高める方法」を試してみること。この4つの中から、自分に合ったものを選んで挑戦してみるといいでしょう。

「成功体験」は、自身に何らかの課題を出し、それを突破することで自己効力感を高める方法。小さなことでいいので、何か新しいことにチャレンジして達成する、を繰り返すことで「やればできる」という気持ちが醸成されます。

「代理体験」は、成功している他者を観察することで、自分がやっているようなイメージを持ち、自己効力感を高めるという方法。できれば観察がしやすい社内でロールモデルを見つけ、行動を観察してみることをお勧めします。

「言葉による説得」は、第三者による励ましのこと。人は褒められたり、励まされたりすると、自己効力感が高まります。親しい先輩や同僚などに仕事ぶりを褒めてもらったり、悩みを相談して励ましてもらったりするといいでしょう。

「情動的体験」は、気持ちを高めてくれるような映像を見たり音楽を聴いたりすることで、自らに刺激を与えること。自分なりの「気持ちが高揚するもの」をいくつか持っておくと、気軽に自己効力感を高めることができます。

ビジネスの場で「統率力」を発揮するには?

前述のように、今は変化の時代であり、統率力がより求められる傾向にありますが、時代は必ず移り変わります。将来的には、統率力を持ったリーダーではなく、メンバーの感情に配慮し調和を重視するリーダーが力を発揮する時代も当然回ってきます。

したがって、リーダーとして長く力を発揮し続けたいならば、統率力を示す牽引型リーダーシップに加え、感情配慮型リーダーシップの側面も併せて鍛えるのが理想です。

感情配慮型リーダーシップに必要とされるのは、受容力。オープンマインドでいろいろな人とコミュニケーションを取り、多様な価値観に触れることで、一人ひとりの感情を気遣うことができるようになります。

とはいえ、リーダーシップの2軸を高いレベルで両方備えているリーダーはほんの一握り。多くの人は、どちらかに比重が寄っています。統率力が高いのか、それとも感情配慮や調和性が高いのかは個人の特性によるところも大きく、若手ビジネスパーソンが両方を鍛える努力をしたとしても、うまくバランスを取るのは難しいと思われます。

したがって、例えば統率力のほうに自信があるならば、無理にバランスを取ろうとせず、統率力が求められる環境を渡り歩いたほうが、リーダーとして長く力を発揮し続けられるでしょう。

例えば、ベンチャー企業の立ち上げ時に統率力を発揮して0→1を実現した人が、1→10のステージに入った途端に退職し、また別のベンチャーの立ち上げを担うケースは珍しくありません。このように、今の勤務先が安定成長期に入ったら、激動期にある会社に身を転じるというのは一つの方法です。

もちろん転職ではなく、社内を渡り歩く方法もあります。たとえ会社全体が安定成長期に入り、統率力を発揮しにくくなっても、個別の部署やプロジェクト単位では統率力が活かせる場所があるはずです。
例えば、新しい営業所の立ち上げや新規マーケットへの参入、社内横断型の新規プロジェクトなど、統率力が必要とされる業務に手を挙げ、異動を繰り返すのは有効。自ら適材適所を見つけることで、価値を発揮し続けることができるでしょう。

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人材研究所・曽和利光氏株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光氏

1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)、『人材の適切な見極めと獲得を成功させる採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)など著書多数。最新刊『定着と離職のマネジメント』(ソシム)も話題に。

EDIT&WRITING:伊藤理子
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