「決断力」とは?総合的なビジネススキルをアップする決断力の鍛え方

「上司は決断力がないなあ」「企画の方向性が決まらない」…。そんなぼやき、職場で耳にしませんか?スピーディに的確な決断ができる人と、決断が遅く効率が上がらない人や、チャンスを逃す人の違いは何なのでしょうか。今回は、多くの企業でビジネススキル研修を実施している、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ社長の高田貴久氏に、ビジネスに必要な「決断力」の意味とその鍛え方についてお話を伺いました。

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決断力とは?

まず、「決断」と似た言葉に「判断」や「意思決定」がありますが、一般的にはおおよそ次のような意味になります。

「判断」=情報を整理し、自己の見解を示すこと。
「決断」や「意思決定」=判断に基づいて選択し、行動を起こすと決めること。

ビジネス上の「判断」は、必ず行動に繋がるものです。一方で、「決断」と「意思決定」はほぼ同じ意味だと考えています。したがってビジネスシーンでは必ず「判断する」→「決断する(意思決定する)」流れになるでしょう。

私自身、これまでの仕事の中で「決断力」はとても重要だと考えてきました。そして今、ビジネスで求められる「決断力」は次の3つの力だと考えています。

  1. 限られた材料から意思決定できる力
  2. 価値観を軸に「痛みを伴う」意思決定ができる力
  3. 決めたことは最後までやりきる力

なぜそう考えたのかを、私自身の体験からお伝えしましょう。

1. 限られた材料から意思決定できる力

判断材料が少ない中で、想像力を駆使して意思決定できるスキルは、ビジネスで求められる「決断力」の一つだと思います。

私が若手コンサルだったころ、「自分がわからないことをどうやって決めるの?」と、モヤモヤしていた時期がありました。そこで考え続けた結果、「わからない」は次の3つに分解できることに気づきました。

例)「液晶テレビ市場」に事業投資すべきか否かを決定する資料を作ったとき
1)ファクト&ロジックが不足→世界の液晶テレビ市場のデータが入手できず推計も難しい
2)未来のことは誰にもわからない→どんな新しい技術が出てくるかなど未来は予測できない
3)五分五分なら「決め」の問題→結局プラス要素もマイナス要素もある。ならば、どちらを取るかは見方次第!

このとき思ったのは、1)全力で調べてロジックを組み立て、2)可能な限り予測しても「わからない」なら、もう悩んでも仕方がないということです。3)「なら自分が想像力を働かせて自分の見方で決めればいい」と気づき、割り切れたことで、少し仕事に自信が付きました。

2. 価値観を軸に「痛みを伴う」意思決定ができる力

また、痛みを伴う状況の中で、自身の価値観を拠り所に意思決定ができる力は、特に管理職や経営者にとって重要な「決断力」だと言えるでしょう。

若手コンサル時代には、こんなことでもモヤモヤしていました。

「経営者の仕事は判断することだ」と言う社長がいるが、判断なんて現場でも日々やっている。同じ情報を持っていたら誰が判断しても同じでは?

しかしその後、メーカーに転職して経営企画に関わり、考えを改めることになります。例えば、新事業を始める意思決定は比較的ラクですが、海外工場を閉じるとなると、現地社員の雇用や現地経済に多大な影響を与えます。事業会社の社長のそばで働く中、そうした痛みを伴う決断の重さと苦しさを実感したのです。

さらに自分が経営者になると、「決断とはトレードオフである」ことを痛感しました。例えば「利益を出すか、賞与を出すか」など両立が難しい選択で「何を取り、何を捨てるか」を常に決めなければいけません。
そして決断最後の拠り所は「自分がどう生きたいか」、つまり人生観や宗教観などの価値観に尽きるのです。人はトレードオフの軸となる価値観を持ってこそ、痛みを伴う決断もできます。また同じ状況であっても、価値観によって決断は変わることがあるのです。

3. 決めたことは最後までやりきる力

何かを決めたら、必ず実行に移して最後までやりきる覚悟を持ち、自分の意思決定を成功に導くために努力し続けることも、ビジネスに必要な「決断力」だと言えるでしょう。

例えば起業したてのころにこんな失敗がありました。

僕が会社の状況を把握するためこのソフトウェアを使うことに決めた。明日から社員のみんなはデータを入力してね!

→翌日から誰も入力していない…。

思えば自分で勝手に決めて、一方的に社員に告げただけです。「実行させる力」がなければ、決断しても意味がない、という教訓になりました。

ビジネスには後戻りできない決断も多くあります。自社のグローバル展開のために、海外に拠点を作ったことがそれでした。
失敗すれば社員を解雇して海外拠点を畳まなければいけないけど、成功したらしたで、ずっと海外拠点は続くのか…。どちらにしても重い決断だったな。
先に行動した後でこんな実感が沸き、身の引き締まる思いだったことを覚えています。同時に、もしその決断が100%正解ではなかったとしても、未来を変えて、自分の決断を正しいものにしてみせる。そうした覚悟も「決断力」の一つだと感じたのでした。

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決断力がある人とは?

ここまでのお話から、私が考える「決断力がある人」の特徴を整理してみます。

考える力がある

正しい決断ができる人は、物事をファクト&ロジックで考えます。情報を集め、それらを元に論理的に思考して決めるので、決断の根拠が明確です。たとえ根拠が十分揃わなくても、未来の予測を合理的に行い、想像力で補完することができるでしょう。

自らの価値観に基づいて決められる

決断力のある人は、普段から自分の価値観を把握しています。情報を集めて十分に考え抜き、最後は自らの価値観に基づいて意思決定するため、傍目では大胆な決断に見えていても、本人はあまり大きなリスクを取ったつもりはありません。「一か八か!」ではなく、至って冷静である方が多いものです。

諦めることができる

決断力のある人は、あらゆるものごとがトレードオフであることを理解しています。相反するメリットを同時に追求できないことが分かっているので、全体最適に基づいて、片方を捨てる決心ができます。

やりきることができる

一度決めたら多少のことでは後戻りしない覚悟があり、成果が出るまでやることができなければ、決断する意味がありません。自分の決断の価値を上げるために邁進し、完遂しようとする力も、決断力があることの条件と言えます。

関わる人に対する愛情がある

実は、「本当の意味で決断力がある」と言える人は、自己中心的ではありません。例えばある事業部門を閉鎖した場合、短期的には「不採算部門を切り捨てた」決断のように見えても、実は従業員の長期的な幸せを考えぬいた上での選択であることがあります。真に優れた決断力とは、大きな視点で関係者全員に配慮できる力だと言えるでしょう。

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今のビジネスに決断力が求められる理由

決断力は、あらゆる年代・ビジネスシーンにおいて必要とされるスキルの一つと考えられます。現代のビジネスで決断力が求められる理由を解説しましょう。

立場や年齢に関わらず決断力は求められる

将来の予測が困難な「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる現代、企業がビジネスを継続するためには、ファクトが十分にない中でも意思決定することが求められます。世の中は絶えず変化して元には戻らないので、チャンスも多い半面、同じ機会は二度と巡ってきません。ですから、状況が変わる前に迅速に決めてやり切る必然性があります。

価値観の多様化に対応するためにも、決断力は必要とされています。例えば、今はコンサル業界でも「クライアント最優先」「プライベートは二の次」が当然でもなくなりました。つまり、企業としてどのようなあり方を選択するかは、決定権を持つ人の決断力にかかってきます。組織内の個人としても、決断力がなければ周囲に流されやすくなり、自身が納得できるキャリアが積みにくいかもしれません。

管理職層にとって重要である理由

管理職は自身の責任範囲が組織に拡大するため、常に決断が求められ、中身も重いものです。本当の意味での決断力が備わっていない場合、自分勝手で自己中心的な決断をして、そのことに自己陶酔してしまうことも。また、決断の基準が毎回ぶれてしまえば、多くの人が困惑し、組織が迷走してしまいます。

変化の時代の管理職には、よりスピーディーで、全体最適を考慮した意思決定が求められます。特に前例のない仕事に取り組む場合、その判断軸には正解も不正解もなく、自らの価値観がより問われることになるでしょう。現場基準に留まらない高い目線を持ち、痛みを感じる人への想像力も含めた決断力は、リーダーシップを発揮する上で非常に重要なスキルとなってきています。

若手ビジネスパーソンにとって重要である理由

若手でも担当業務内では決断の連続であり、その意識を持って仕事に取り組むことが大切です。手元の材料から与えられた仕事の「答え」をいかに導くか。限られた時間で「何を優先し、何を捨てるか」のトレードオフも必要です。さらに、決めたことを結果が出るまでやりぬく意志も大切です。若手のビジネスパーソンは決断力を磨くことで、短時間で効果的に問題から対策を導き出すスキルが身につき、仕事の質を向上させることができるでしょう。

また「自分の人生に責任権限を持つのは自分」という意味で、日常生活でも決断するシーンは多々あります。将来昇進したときや、転職を考えたときの訓練のためにも、常に「自ら考えて決める」ことを意識しましょう。

決断力を鍛えるためには?

決断力を鍛えたい方に、ぜひ取り組んでいただきたいポイントをいくつかご紹介します。

基本的な「考える力」を磨く

考える力は一般的なビジネススキルであり、日頃から鍛錬しておくことが大切です。
基本は、情報を精査するファクト思考と、一貫したつながりを作る論理的思考。PDCA(計画、実行、評価、対策・改善)では、サイクルのP(計画)の段階で「What(何を)」「Where(どこで)」「Why(なぜ)」「How(どうする)」を明らかにした上でDCAへと進むといった方法により、問題を解決するための思考力を鍛えていきましょう。

また、近年重視されているのは仮説思考。事実に基づく情報分析と、そこから仮説を導く力が重要になっています。仮説を立てて前に進み、結果を見た上で再び検証に戻るというアプローチも意識しましょう。

身近なものごとのトレードオフに目を向ける

決断とは並び立たない選択肢を捨てていくことです。それを実行するには、ものごとは全てトレードオフであるという認識が重要になります。日々の小さな出来事も、一面からではなく、意識して多面的に見るクセをつけることが役立つでしょう。

ごく日常的な例をご紹介しましょう。

  • 街でバーゲンセールに出会った→「安い!嬉しい!」だけでなく「社員の皆さんは大変そうだ。利益はきちんと還元されるのかな?」…などと想像してみる
  • 「やりがいがあり給与も高い」という求人広告を見た→「すごく良い仕事がある!」だけでなく「その分、激務で責任も問われる仕事だろうな」…と考えてみる。

自分の価値観を見つめ直し「大切なこと」を明確にする

意思決定を迫られる立場にある人は、常日頃から「自分はどのような人間か」「どのような価値観を持っているのか」を理解しておくことが大切です。伝記や哲学書、宗教書などを読むのもおすすめですが、一つのテクニックとして、コーチングなどに使われる価値観カードと呼ばれるツールを使う方法もあります。

価値観カードとは、1枚1枚に「忠誠心」「名誉・名声」「情熱」「富」「家族」といった言葉が書かれているもの。まず「ここから自分が大事だと思う価値観を5枚選ぶ」→「3枚に絞る」→「さらに1枚に絞る」ことを試してみましょう。実際にやってみると、それがどれだけ難しいかが実感できると思います。こうしたトレーニングを積むことで、自分が大切にする価値観=決断の軸となる優先順位を常に意識し、明確にすることができるでしょう。

いつもと違う情報や思考パターンに触れる

「最近、決断力が鈍ってきた」「シビアな判断ができなくなった」と感じる管理職の方は少なくないようです。会社の中で立場が上がると、目の前の仕事に忙殺されるあまり、意思決定に必要な情報収集ができなくなり、思考力も固定化してしまう傾向があります。また、自分自身と向き合う機会が少なくったことで、判断軸がぶれがちなのかもしれません。

私がおすすめしたいのは、日頃は接点のない人がいるコミュニティに参加してみたり、これまで行ったことのない場所に足を運んだりしてみることです。会社では入手できない情報や、いつも接している人とは違う思考パターンに触れることで世界が広がり、改めて自分の価値観に気づいたり、学ぶ意欲につながったりするきっかけになるでしょう。

プロフィール

株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ
グローバルCEO・代表取締役社長 高田 貴久(たかだ・たかひさ)氏

東京大学理科Ⅰ類中退、京都大学法学部卒業、シンガポール国立大学Executive MBA修了。戦略コンサルティングファーム、アーサー・D・リトルでプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当に携わる。マブチモーターで社長付・事業基盤改革推進本部長補佐として、改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年にプレセナ・ストラテジック・パートナーズを設立。トヨタ自動車、イオン、パナソニックなど多くのリーディングカンパニーでの人材育成を手掛けている。著書に『ロジカル・プレゼンテーション』『問題解決―あらゆる課題を突破するビジネスパーソン必須の仕事術』がある。
プレセナ・ストラテジック・パートナーズ 公式サイト

取材・文・編集:鈴木恵美子
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