仕事は仕事と割り切れたらラクなのにと思いながら、割り切ることに罪悪感を覚えたり、気持ちを切り替えられないことにストレスを感じたりしている人も多いことでしょう。なぜ、割り切れないのか、割り切った場合のメリット・デメリット、どうしたらうまく対処できるのかを、公認心理師の山名裕子さんに聞きました。

仕事と割り切れないのはどんな人?
休みの日も仕事のことが気にかかったり、職場の人間関係を引きずってしまったり、いつまでも仕事を切り上げられなかったり……。仕事は仕事と割り切れない人にはいくつかの傾向があります。
漠然とした不安を持っている人
仕事を割り切ることに罪悪感を覚えたり、いつも仕事のことを心のどこかで気にしてしまったりするのは、不安を感じやすい人に多い傾向があります。
例えば、「ここで仕事を切り上げてしまったら、明日中に終わるかわからない」不安から、今日の業務時間を終了することに罪悪感をもってしまう。自宅に帰ってからも、「連絡漏れや見落としがなかったか」不安で気持ちを切り替えられなかったりするのです。
真面目なためにハードルを上げてしまう人
報告書や企画書などいつも締め切りギリギリまで手直しし続け、なかなか終わりにできない人の中には、真面目すぎて無意識のうちにハードルを上げてしまっている人もいます。
完璧にしなければいけない、きっちりとしたものにしなければという気持ちが強いために、必要以上に細部までこだわってしまうのです。
周りへのやさしさで断れない人
大量の仕事を抱えてプライベートを犠牲にしてしまうなど、図らずも仕事と割り切れない状況に陥ってしまう人もいます。自分のキャパシティや仕事のペースをつかめていないことが一因といえます。
さらに周囲から頼みごとをされたときに、自分の仕事で手一杯でも断れずについ引き受けてしまい、どんどん仕事がたまってOFFタイムが浸食されてしまうのです。
ネガティブ・ワードに心が反応しやすい人
仕事に対しての評価やミスの指摘を受けたときに、全人格を否定されたように感じてしまう人、仕事と自分個人の価値を別問題と割り切れない人も少なくありません。
特にHSP(Highly Sensitive Person)と言われる、五感が過敏で空気を読みすぎてしまうなど、ネガティブなワードに心が反応しやすい人が増えているのです。
仕事を割り切ることのメリット・デメリットは?
仕事を割り切ることのメリット・デメリットをそれぞれ紹介します。
不安や評価のデメリットは一時的なもの
仕事は仕事と割り切ることには一時的にデメリットもあります。今まで延々とやっていた仕事を切り上げることで、明日、間に合うのか気になるなど、一時的な不安が高まることはあるでしょう。
また、いつもは延々と残業しデスクに向かっていた人がサッと切り上げて帰ると、「最近仕事は二の次?」と周りから見られることもあるかもしれません。しかし、ブレずに続けていけば、割り切ることはメリットしかありません。

メリット1:ストレスが軽減する
最大のメリットは、プライベートの時間が充実することで、リフレッシュできることです。余計な気がかりから解放される時間をしっかりとることで、ストレスが軽減されます。
逆に割り切れずにいると、思考が同じところをぐるぐると周り、発想の転換がしづらく、打開策や新たなアイデアが生まれにくくなります。
ストレスが溜まると物事をネガティブに捉えやすくなるため周囲も声をかけづらくなり、さらにコミュニケーション不足が加速して負のスパイラルに陥りやすいので要注意です。
メリット2:仕事の質が上がる
区切りをつけずにダラダラ続けていれば、見た目の仕事時間は長くなりますが、合理的な判断がしづらくなったり、集中力が散漫になって効率が落ちたりします。
仕事に関する思考を手放す時間をもつことで、仕事への集中力やモチベーションを高め、パフォーマンスの質を上げることができるのです。
仕事と割り切れない人の対処法
仕事は仕事と割り切って、ONタイムは仕事に集中し、OFFタイムはしっかりと切り替えることは、ネガティブな思考や印象を手放し、ポジティブな発想やはつらつとした印象を手に入れることにもつながります。
しっかり割り切れるようになるためには、どうしたらいいのでしょう。
反射的に答えを出そうとしない
仕事を割り切れない人は、断るのが苦手で仕事を抱え込みすぎてしまっているケースが少なくありません。“やらなきゃ思考”が強いのです。
まず、仕事を頼まれたときに反射的に「やります/できません」と答えを出すことをやめてみましょう。多くの人がその場で応えなければいけないと思いすぎているのです。反射的に伝えるのは感謝だけでいいのです。
「話を振っていただきありがとうございます」「機会をいただきありがとうございます」など、依頼してくれたこと自体には感謝を伝えた上で、「一旦、今の仕事を確認してからでよろしいですか」と状況を確認する時間をもらいましょう。
その上で「ここまでなら明日中にできます」「今週いっぱいあれば、提出できます」などと答えれば、角が立ちません。相手に敬意を払って自分の主張をきちんと丁寧に伝える技術を身につけましょう。
小さなタスクを決めて、手をつける
不安や真面目さから仕事を切り上げられない人がまず優先すべきことは、タスクを小さく分けてみることです。ざっくりとした目標や大きなタスクは、終わりが見えにくく、区切りがつけにくいのです。
タスクを細分化し今日はここまでクリアすると決めたら、それ以上はしない。当初は制限をかけることに不安があるかもしれませんが、小さなタスクをきちんとクリアし、区切りをつけることを続けましょう。
すると、自分で決めたタスクをこなすことで予定通りに進んでいることに気づけます。自信につながり、内発的なモチベーションが高まります。
なお、明日のタスクに一つだけ手をつけておくことも有効です。少し取り掛かっておくことで翌日のスタートへの不安や抵抗を少なくできます。習慣づけるためには、まず3週間、続けてみてください。

能動的に動くことでセルフイメージを変える
そうやって自分でタスクを決めて、「やる/やらない」を決めることはモチベーションにも関わってきます。自分に選択権や裁量権があると感じることは自己効力感が生まれ、「できる自分」や「切り替えられる自分」にセルフイメージが変わっていきます。
マインドフルネスで感情や思考を手放す
過去の失敗をひきずったり、今後の展開に不安を感じたりと、過去や未来のことをくよくよ考えてストレスや不安を増幅させるのではなく、〝今“に心を向けることで切り替えましょう。それがマインドフルネスです。
ネガティブな思考や感情から自分を解放するための手法として、瞑想が知られていますが、もっと身近な方法でも可能です。例えば通勤時に足の裏を意識して道を歩く、綺麗に歩くことを意識するなど、今の身体の状態に意識を向けることで、ぐるぐる思考を手放しましょう。
あるいは深呼吸など呼吸に意識を向けてもいいですし、お風呂に浸かった瞬間にどこから温まってきているかを自分で解説してみていもいいでしょう。利き手と逆の手で食べてみるなどの遊びでも、体に意識が行き、自然と仕事の思考から解放されます。
サードプレイスをつくる
仕事を割り切れるようになるためには、サードプレイスをもつことも有効です。人にとって、自宅がファーストプレイスで、職場や学校がセカンドプレイス。それ以外の三つ目の居場所を持てている人の方が切り替えを上手にでき、新たなアイデアが浮かびやすくなります。さらに幸福感も高まると言われています。
サードプレイスは、趣味の仲間や習い事の教室やジムなど人によって様々です。仕事のことを忘れて少しほっとする場所、例えば公園のベンチでも構いませんし、疲れたら立ち寄る居酒屋、お気に入りの美容室などが自分にとってのサードプレイスになることもあります。
1カ月に1回、専門家のもとへストレスチェックに行くなどでもいいでしょう。自分と向き合える時間を持つことで、思考の幅も広がります。
カウンセラー 公認心理師 山名裕子(やまな・ゆうこ)氏
大学および大学院で心理学を学んだのち、カウンセリングオフィス勤務を経て、2014年臨床心理士資格を取得後、「やまな mental care office」を開設。心の専門家としてストレスケアと認知行動療法を主軸に、精神障害、人間関係の悩み、美容・ダイエット など多様な悩みに対応。メンタルケアの重要性を伝えるため、日本テレビ「ナカイの窓」で心理分析集団「ココロジスト」を務めるなど、メディア出演をはじめ幅広く活動している。