同僚に比べて仕事が遅かったり、成果がなかなか挙げられなかったりなど、自分は仕事の要領が悪い…と悩んでいるビジネスパーソンは少なくないようです。要領が悪いとはどういう状態を指すのか、今より要領を良くして仕事をスムーズに進めるにはどうすればいいのか、『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』の著者であるF太さんに伺いました。

目次
「要領が悪い」とはどんな状態を指す?実は思い込みのケースも
自分は仕事の要領が悪い…と思い悩み、落ち込んでいる人は少なくありません。私は定期的に仕事術のイベントを開催していますが、要領の悪さに悩む参加者の話を詳しく聞くと、「要領が悪いと思い込んでいるだけ」というケースが多いと感じます。
「要領が悪い」は、個人の素養や資質ではありません。要領が悪い(と思い込んでいる)理由は必ずあり、それを解決すれば事態は変わります。「自分はもともと要領が悪い人間なのだ」と思い込んでしまうと、負のスパイラルに陥ってしまいます。まずは、要領が悪いと思う理由を明らかにすることが大切です。
「自分は要領が悪い」という人のタイプは、大きく次の3つにわけられます。自分に当てはまりそうなものをチェックしてみてください。
Type1:業務量が多く、明らかにキャパオーバーになっている
明らかに業務量が多すぎるだけなのに「毎日遅くまで働かないと仕事が終わらないなんて、自分はなんて要領が悪いんだ」と思い込んでいる人は決して少なくありません。
ブラック体質な会社のせいにもかかわらず、「もっと要領をよくしよう」と頑張るのは、頑張る方向が違います。
このタイプは、業務量の多さになかなか気づけないので、会社と自宅以外のサードプレイスを持つことをお勧めします。例えば趣味の集まりや地域活動、ボランンティアなど、仕事以外のコミュニティに参加し、客観的な意見をもらうといいでしょう。社内の人に相談しても、みな同じ状況下にいるので、愚痴を言い合うだけで解決策にはつながりません。仕事とは関係ないサードプレイスの人であれば、「要領が悪いわけではなく、業務量が多すぎる」などフラットな目線で意見をくれると思います。
Type2:まだキャリアが浅く、仕事に慣れていない
「学生時代は、自分は要領がいいタイプだと思っていたのに、要領よく仕事が回せず自信を失っている」という相談もとても多いです。しかしほとんどの場合、単に仕事に慣れていないだけ。場数を踏んで仕事に慣れれば、要領が悪いという悩みも解消するはずです。
仕事で能力をつけるには、一つの業務に継続的に取り組み、一定の「閾値」(能力が変化・変動する値の境目)を超えることが必要と言われています。若手時代は、まだ現場経験を積みスキルを身につけている過程にあり、仕事がスムーズに回せないのは当たり前のこと。閾値を超えるまで、必要以上に思い悩まず、目の前の業務に真摯に向き合い続けましょう。
Type3:何から手を付ければいいかわからず、迷ってしまう
たくさんある仕事の中で、どれを優先していいかわからないというタイプです。さらに分解すると、仕事に集中できず気が散ってしまう、優先順位を付けられない、ダンドリが下手、ケアレスミスが多い、コミュニケーション下手で周囲とうまく協働できない、などが挙げられます。
このタイプの人は、自分は何に最も苦手意識を持っているのかを把握することが大切ですが、例えば「自分はダンドリが悪いから要領が悪い」などきちんと言語化できている人は少ないと思います。次で説明する「苦手意識」の中に、今の自分に近しいものがあれば、ぜひその項目を参考にしてみてください。
何から手をつければいいかわからない人のための「仕事術」
上記で紹介したType3の「何から手を付ければいいかわからず、迷ってしまう」人に向けて、代表的な「苦手意識を持ちがちなシーン」と、その解決につながる仕事術をご紹介します。
上司とのコミュニケーションが苦手→「メモ魔」になる

要領が悪いと思い込んでいる人に多い悩みが、「上司とのコミュニケーションが苦手」というもの。上司から仕事の指示やアドバイスを受けるものの、何を言っているのかポイントがつかめず、なんとなく取り繕ってその場を終わらせてしまう…という若手は非常に多いと感じます。クライアント相手も同様で、うまくやり取りができず、現状の課題や要望をつかめなかったという話はよく聞きます。
コミュニケーションが苦手な人は、「口頭でのコミュニケーション」に苦手意識を持つ人が多いと感じます。相手の話を一生懸命理解しようとしているときに難しい言葉、わからない言葉が出てくると、そこで立ち止まってしまい、コミュニケーションが続かなくなってしまうのです。
そこでお勧めしたいのが、「メモ魔になる」こと。その場で返答しづらいことであれば、「今のお話を持ち帰って整理し、返答させていただきますね」と伝えればいいし、持ち帰ったうえでわからない言葉があったら「これはこういう理解で合っていますか?」と質問すればコミュニケーションの行き違いがなくなります。
わからない言葉も含め、相手の話をとにかくメモしておけば、持ち帰って読み返せるので、慌てずじっくり自分のペースで考えることができます。
優先順位づけが苦手→「今日はこれをやる」と決めて振り返りを行う
「優先順位を考えて仕事をしよう」とどの仕事術の本にも書かれていますし、例えば締め切り順、重要度、役職順、など方法もさまざま紹介されていると思います。
ただ、誰でも使える共通した優先順位の基準はないと思います。例えば、社長に命じられたからそれが最優先だと思って手掛けていたら、「なぜこっちの仕事を後回しにするのか」と直属の上司の機嫌が悪くなった…なんて例もあります。どの会社・組織もそこならではの事情があり、優先順位のルールが通用しにくいのが現状です。
一方で、実は誰しも、「無意識に優先順位をつける能力」は備わっています。気づいていないだけで、自分の物差しを使って今どの仕事をすべきか瞬間瞬間でちゃんと決断しているのです(例えば、私が会社勤めをしている頃は、「怒られたくない」という物差しでやるべきことを直感で選んでいました)。優先順位のルールを学んでそれを守るよりも、自分の中の「判断基準」を磨くことで、優先順位付けの精度を上げることが大切です。
判断基準を磨くためには、失敗から学ぶしかありません。優先順位をつけてみて、やってみて、失敗を振り返る。これを繰り返すことで自分の物差しがどんどん洗練されていきます。
まず朝に、「今日はこれだけは必ずやる!」という仕事を3つほど決めましょう。朝の時点で「絶対にできる」と思えたものをピックアップします。
ただ、実際にやってみると、思ったより時間がかかってしまったり、突発業務に邪魔されてやり切れなかったりします。この経験を振り返ることが大事。「伝票処理を1時間と見積もっていたけれど、思ったより時間がかかるな」とか「課長とのミーティングはかなりの確率で予定より長くなるな」などの学びが得られます。
このような経験を踏まえ、自身の見積もりを見直し続けることで、一つひとつの業務に対する時間感覚が身につき、「これは早く終わるから先に済ませてしまおう」「これは時間がかかるから早めに着手したほうがいい」など優先順位付けのスキルが研ぎ澄まされていきます。
もう1つご紹介しましょう。もし上司に「優先順位のつけかたが下手だ」と指摘されているならば、上司と一緒に優先順位を決めるのもお勧めです。
上司は部下がスムーズに仕事をすることを願っています。「やることが多く、どれから手を付ければいいか判断できないので、相談させてもらえないか」と素直に申し出れば、一緒に考えてくれるはずです。
経験豊富な上司の判断基準を学べるのはもちろん、もし優先順位付けがうまく行かず仕事が予定通りに終わらなかったとしても、上司にフォローしてもらいやすくなるという利点もあります。
ダンドリが苦手→手が止まるたびにその理由を書き出し、傾向を探る
「自分はダンドリが苦手だな…」と思う瞬間とは、時間がバタバタと過ぎていく中で「あれ?次は何するんだっけ?」とふと手が止まった瞬間だと思います。
そして、一度手が止まってしまうと集中力が途切れ、かなりの確率で人は脱線してしまいます。メールチェックをしたり、スマホをいじりだしたり、まだ疲れていないのに休憩したり…。その結果、気持ちが切り替わってしまい、別の仕事をやり始めたりしてどんどん脱線してしまう人もいます。
私がお勧めしたいのは、「次は何するんだっけ?」と手が止まった瞬間に「なぜ、手が止まったのか」を文章化すること。メモなどにパっと書き出す癖をつけると、自分の手が止まる理由は何か、傾向がつかめるようになります。
例えば私の場合、資料が見つからないときに「あれ?」と手が止まりがちだとわかりました。必要な資料がPCのあちこちに散らばっていることが、ダンドリ下手の原因の一つだと気づき、仕事の手順書に必要な資料のファイルパスをまとめておくことで解消しました。
このように、地味にストレスになっていることが、要領を悪くしているケースはとても多いのです。自身の「地味なストレス」に気づき、解消することを繰り返すと、どんどん仕事が滑らかにこなせるようになります。
「要領が悪い」と悩むすべての人に有効な「手順書作り」

要領が悪いと思い込んでいる人の多くは、仕事を始めるときに「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と頭の中がごちゃごちゃになっている状態にあります。
この「ごちゃごちゃ」を整理できれば、仕事がスムーズに進められるようになり「要領が悪い」と感じる機会をぐっと減らせると思います。
そこでお勧めしたいのが、仕事ごとに「手順書」を作ること。毎日行うルーティン業務、アイディアを練るクリエイティブな業務、営業など職種ごとのメイン業務など、あらゆる仕事の手順書をそれぞれ作成することで、ごちゃごちゃした頭の中を整理することができます。
「仕事は単純作業ばかりではないので、手順書なんて作っても意味はない」と思うかもしれませんが、手順書を作る過程で仕事の流れを意識でき、関わる人の顔を思い浮かべることができます。さらに締め切りを設定することで、スケジュール感も身に付きます。
手順書は、次の5つのステップで作成しましょう。ルーティンワークだけでなく、例えば「企画のアイディア出し」「クライアントへの提案を考える」などのクリエイティブワークでも、「売り場で接客をする」などイレギュラー要素が多い仕事でも、すべて5つのステップで手順化することができます。業務一つひとつを切り出して、手順書を作りながら整理してみましょう。
Step1:「名前」を付けて書き出す
頭の中にふわっと浮かんでいる「やらないといけないこと」を捕まえて、名前をつけて書き出しましょう。「そういえば田中商店に見積書を送るんだった」と思い出したら「田中商店へ見積書送付」と、「課長に週報を出さなきゃ…」と思い出したら「課長に週報提出」と書く。頭の中に浮かんだものに名前をつけて、タスクとして書き出せば、それだけで頭の中が整理され安心感が生まれます。
Step2:「タスクの手順」を書く
Step1で書き出したタスクをもとに手順を書きます。例えば「田中商店へ見積書送付」であれば、資材部へ製品価格を確認→資材部から返答をもらう→見積書案を作成→上司へ見積内容の承認依頼→上司から返答→見積書作成→田中商店へ送信、という手順になります。書き出すのは「自分なりの手順」で問題ありません。もし違っていたら、その都度書き変えればいいのです。
Step3:「誰がやるべきなのか」を明確にする
ボールをパスしながら進めていくのが仕事です。手順を書いたら、その手順を誰がやるのかを明らかにしましょう。
この結果、「自分はたくさんのタスクを抱えてていっぱいいっぱい!」と思っていたけれど、実はそのうちの多くが他人のボールだった…ということもわかり、自分が優先してやるべきことも見えてきます。
Step4:タスクと手順に「仮の締め切り」を入れる
タスク全体と手順1つ1つに、締め切りを書き入れていきましょう。進行状況に合わせて「もう少しかかりそうだ」と思ったら、その都度締め切りを書き換えればOK。これを繰り返すことで、「締め切りを守れる自分」に近づくことができます。
Step5:「最初の手順」だけに注目する
Step4までで手順を書き終わりました。ただ、手順がずらっと並んでいると、目があちこちに泳いでしまい頭が混乱する人もいると思うので、最初にやるべき手順だけをメモや付せんに書き出したりパソコン画面に表示させたりするといいでしょう。今は何をすべきか、次に何をすべきかが明確になり、プレッシャーも軽減できます。
「自分は要領が悪い」と深刻に考えすぎないことが大切
繰り返しになりますが、「生まれ持って要領が悪い人」なんていません。前述のように、要領が悪いのは個人のパーソナリティではなく、環境が原因である可能性が高いので、深刻に考えすぎないことが大切です。
そして、大きなくくりで捉えすぎないことも重要。例えば、「自分は要領が悪く、仕事での会話はもちろん職場でのちょっとした雑談も苦手」と思い悩んでいる人が、実はビジネスチャットでのコミュニケーションは得意で要点を絞ってわかりやすく伝えられている…なんて例はたくさんあります。コミュニケーション一つとってもその方法は多種多様であり、分解すれば自分が得意とする領域もあるはず。それなのに、「コミュニケーション全体が苦手」と思い込んでしまうと、得意分野も認識できなくなってしまうので絶対的に損です。
「自分は要領が悪いんだ」という思い込みを捨て、前述のような方法を試してみてください。その結果、今より仕事がスムーズに回せるようになれば、きっと自信がつくはずです。
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F太(えふた)さん
1984年生まれ。作家。学生時代に公認会計士の勉強を始めるが不合格。アルバイトも3カ月でクビに。うまくいかない日々の中、だめな自分自身がかけてほしい言葉などをTwitter(@fta7)でつぶやき続け、フォロワー数は35万人に。自分でも仕事ができるようになったタスク管理を伝えようとイベントを開催。
小鳥遊氏との共著に『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』(サンクチュアリ出版)、単著に『それを、「楽しいほう」に変えてみない? 明日ちょっと運がよくなる、思考のメモ』(大和出版)がある。
『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』の中では、苦手意識の事例と解消するための80の仕事術を紹介している。