セルフマネジメントとは?ビジネスで求められる理由と高める方法を解説

リモートワークや働き方改革などを機に、「セルフマネジメント」が注目されています。セルフマネジメントとは何を指すのか。セルフマネジメントの基礎知識や身に付けるメリットや実践方法などについて、マネジメントコンサルタントの川嵜昌子さんに伺いました。

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セルフマネジメントとは

セルフマネジメントとは「自己管理」のこと。仕事において、自分の心と体、そして行動を管理して、より良い状態に持っていくことを指します。

セルフマネジメントは、業務時間が定まっていないフリーランサーや、できるだけ生産性高く働きたいと考える一部のビジネスパーソンにおいて、スキルアップのための1つのテーマになっていました。また、働き方改革を受け、企業が生産性向上のために社員のセルフマネジメントを推進する動きがありましたが、一部にとどまっていました。

ただ、コロナ禍でリモートワークが一気に増えたことで、セルフマネジメント能力を高めたいと考えるビジネスパーソンのすそ野が広がっています。

在宅ワークは自由度が高い半面、会社の目が届かないため仕事への強制力が働かず、なかなか集中しづらいという側面があります。一方で、時間の制限なくいつまでも働き続けてしまう人も見受けられます。このように、多くの人が「自分で自分を管理しながら働かなければならない必要性」に迫られるようになり、セルフマネジメントが注目されているのです。

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セルフマネジメントを構成する要素

セルフマネジメントは、いくつかの要素で構成されています。ここでは、「心」「体」「行動」に分けてご紹介します。

セルフマネジメントは「心」を前向きにすることが重要

セルフマネジメントではまず、「心」を前向きにすることが重要です。心と体、そして行動は密接に関係していて、心が前向きに安定すれば、身体にも活力がみなぎり、行動できるようになるからです。

心を前向きにするには、「メンタルヘルスケア」「レジリエンス(回復力)」「アンガーマネジメント」「ワークエンゲージメント」などの手法が役立ちます。

まず、やりがいを持ってイキイキと働けるように、「メンタルヘルスケア」を行い自身の心を整えることが基本です。ストレスや怒りの感情はメンタルをブレさせるので、ストレスからの回復力である「レジリエンス」、怒りの感情をうまくコントロールする「アンガーメンジメント」も重要です。

また、「ワークエンゲージメント」も大切な要素。ワークエンゲージメントとは、文字通り仕事に対するエンゲージメント(関係性)のことで、仕事が楽しくて仕方ない状態を「ワークエンゲージメントが高い状態」といいます。

ワークエンゲージメントは「熱意=仕事に誇りややりがいを感じている」「没頭=仕事に熱心に取り組んでいる」「活力=仕事から活力を得てイキイキとしている」で構成されており、これらを意識することで仕事が楽しくなり、気持ちも前向きになるとされています。

規則正しい生活で「体」の健康管理を意識

セルフマネジメントをしながらイキイキ働くには、「規則正しい生活」を送ることが必須です。乱れた生活を送っていると、就業時間中に眠気に襲われたり、なかなか仕事に集中できなかったりします。そういう状態が続くと、心にも影響を与え、ネガティブな気持ちになってしまうケースもあります。

リモートワークで通勤がなくなったことで、ギリギリまで寝ているという人もいるようですが、自分を律しながらパフォーマンス高く働くためには、これまで以上に規則正しい生活を送り、「健康管理」を意識することが重要です。

タイムマネジメントと目標管理で「行動」の精度を向上

タスクを整理して優先順位や時間配分などを決め、時間を効率的に使うタイムマネジメントは、セルフマネジメントに必要不可欠な要素。タイムマネジメントを行い、仕事の見通しを立てることで、余裕を持って仕事に臨めるようになります。

そして、予定通りに仕事が進んでいる状態が続けば、自信につながり、セルフマネジメントの精度も高まります。

同時に、「今日はこれをやり切る」「今月はこれを達成する」など、目標を定めてやり切る力も大事な構成要素です。在宅でのリモートワークでは、例えば家族や子ども、家事など仕事以外に気を取られる機会が多いですが、目標管理をしっかり行うことで、ブレずに前に進めるようになります。

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セルフマネジメントを身につけるメリット

セルフマネジメント能力を身につけるメリットをいくつかご紹介します。

自己効力感・自己肯定感が高まり仕事が楽しくなる

セルフマネジメントの結果、計画通りに仕事が進むと、「自分は計画通り仕事ができている」と自己効力感を覚えます。そして自分でコントロールしながら仕事を進められると、仕事がどんどん楽しくなります。

ワークライフバランスが実現できる

ワークライフバランスとは、「仕事」と「仕事以外」のバランスを取り、その両方を充実させること。計画通りに効率よく仕事を進めることで、趣味や育児・介護、勉強、地域活動などに使える時間が増えるので、生活がより充実するというメリットがあります。

生産性が高くなり、評価されやすくなる

一昔前までは、長時間労働を厭わない人が評価される傾向がありましたが、働き方改革が浸透した今は真逆。できるだけ短時間で効率的に働くことが良しとされるようになってきました。

セルフマネジメント能力が高ければ、生産性高く働けるようになり、「この人に頼むと早く仕事が進む」「クオリティの高い成果が期待できる」と評価されやすくなります。その結果、より重要な仕事、責任ある仕事を任されるようにもなるでしょう。

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セルフマネジメント能力を高める方法

セルフマネジメント能力を高めるためには、次の3つを意識し実行してみてください。

自分はどうありたいのか、どうしたいのかを明確にする

まず、この2つを明確にしてみましょう。

  •  Being(存在)=自分はどうありたいのか
  •  Doing(ビジョン)=将来的にどうしていきたいのか

「Being:どうありたいのか」は、例えば仕事において何を大切にしたいのか、何に価値を見出しているのか、何が好きかなど、自分自身の想いや考えを指します。「Doing:どうしていきたいのか」は、例えば将来どのようになりたいのか、など今後の目標や展望を指します。

自分自身と向き合ってこの2つについて考え、メモなどに書き出してみると整理しやすくなります。そして、この2つに基づきやるべきこと、やりたいことを実現するための計画を立て、それに沿って行動していきましょう。

まず1年、3年、5年など長期的なスパンでの計画を立てた上で、逆算して考えると、例えば「1年後〇〇を実現するためには、半年後に△△を達成する必要があるから、このような1カ月目標にしよう」といった短期的な計画が立てやすくなり、日々の自身の行動をマネジメントすることができます。そして定期的に振り返り、改善することも大切です。

もしBeing、Doingがなかなか明確にならない場合は、まずはどちらか1つでもOKですし、仮置きの状態でも大丈夫。それに沿って計画を立て、行動すれば、その過程で思いや目標もアップデートされ、どんどん明確化していくと期待されます。

自分がコントロールできないことには執着しない

セルフマネジメントは、心を安定させ前向きにすることが大切。したがって、自分がコントロールできないことには執着しないことが重要です。

例えば、「同僚が全然仕事をしないのでイライラする」「新しいプロジェクトのメンバーに選ばれなくて悔しい」など、自分ではどうにもならないことに思い悩んでもどうにもならないし、心が乱されるだけ。人は人と割り切り、自分ができることに臨もうと意識すれば、心の安定を保ちやすくなります。

そのためにも、普段からできるだけ自分を客観視する習慣をつけることをお勧めします。自分のことだと思うとイライラしたり悔しいと思ったりと、感情に振り回されてしまいますが、他人ごとと捉えると、「よくあることだ」と思えるし、「こういうときはこう行動すればいい」と解決策を冷静に考えることができるでしょう。

規則正しい生活を心掛ける

繰り返しになりますが、生活リズムが乱れた状態では心身の健康は維持できず、当然セルフマネジメントもうまくいきません。適切な時間に寝て、十分な睡眠を取る。毎日一定の時間に起床する。栄養バランスのとれた食事をとる。これらを意識することは、セルフマネジメントの視点からも重要です。

在宅ワークだとずっと机に向かいっぱなしという人も少なくありません。フルリモートであっても、1時間に1回はPCから目を離して休憩する、定期的に席を立って軽くストレッチする、たまには外に散歩に出かけるなど、軽い運動をしてリフレッシュしましょう。

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セルフマネジメント能力を身につける上でのポイント

セルフマネジメント能力を身につけるには、いくつかのポイントがあります。以下のポイントを意識すると、セルフマネジメント能力が身につきやすく、かつ高めやすくなるので実践してみましょう。

できるだけハードルが低い目標を立てる

計画を立て、自分に目標を課すことは重要ですが、高すぎる目標だと「ノルマ感」が強まり、なかなか腰が上がらなくなります。自分を鼓舞しないとできないような目標は、結局やらないで終わってしまう恐れがあります。

まずは簡単にクリアできる目標を立て、それを積み重ねることを意識しましょう。「クリアできた」という自己効力感が、精度の高いセルフマネジメントにつながります。

「とりあえず動き出す」ことを意識する

「なかなかやる気が出ないから」とダラダラしていても、やる気は勝手には出てきません。一方で、ほんのちょっとでも動いてみると、脳からドーパミンが出てやる気が高まります。

どうしてもやる気が出ないという日もあると思いますが、「まずは5分だけ資料を読んでみよう」「メールを1本だけ返してみよう」など、小さなことから着手してみましょう。いつのまにかやる気が出て、仕事をてきぱきこなせるようになります。

面倒なことほど先に着手する

例えば経費処理などの雑務やクライアントから頼まれたややこしい依頼など、面倒くさいことを後回しにする人は多いですが、そういうものを後に残すと余計に面倒になり、どんどん計画が崩れていくので注意。そのままうっかり忘れてしまい、相手の信頼を失ってしまう恐れもあります。

面倒くさいことも上記のようにまずは「ちょっとだけ」着手すると、「このままやっておこう」と意外にサクサクできてしまったりするので、意識して先に着手しましょう。

また、週報の提出など、くり返し定期的にやる必要があることは、「〇曜日の〇時にやる」と決め習慣化すると抜け漏れがなくなります。もしそれが自分にとって面倒くさいこと、気が進まないことであれば、「やり終えたらお菓子を食べて良し」などと自分で自分にご褒美を与えると、前向きに取り組めるようになるでしょう。

こまめにアウトプットする

「セルフマネジメント能力を高めなければ」と意気込むあまり、動き出す前に準備を完璧にしようと考える人は少なくありません。こういう「完璧準備主義」の人の中には、完璧を求めて永遠に準備をしてしまい、なかなか動き出せない人も見受けられます。

セルフマネジメントは計画を立てて動くことが重要ではありますが、動き出せなければ意味はありません。まずは動き出してみて考え、途中経過をこまめにアウトプットすることで、これからの行動に必要なフィードバックが得られ、どう動けばより高い効果が出せるのか明確になります。

ネガティブな気持ちになったら、その根本原因と向き合ってみる

前向きな心を保つ努力をしていても、人間誰しもネガティブな気持ちに陥ることもあります。その気持ちから無理に目をそらすのは難しいので、いっそしっかり向き合ってみることをお勧めします。

ネガティブな感情は、自分に対するメッセージです。例えば不安や焦りの気持ちと向き合ってみれば、「この仕事は自分にできるのか」「納期まで果たして間に合うのか」などという気持ちに気づき、「成功事例を集めよう」「他のメンバーも巻き込んで分担しよう」など、適切な対処ができるようになります。

セルフマネジメントできている人を参考にする

それでもなかなかセルフマネジメントのコツがつかめない場合は、身近な上司や先輩の中でセルフマネジメントができている人を参考にするといいでしょう。

オフィスに出社しているのであれば、その人の行動を観察して、いいと思ったことを完コピしてみるのは一つの方法。もちろん、「〇〇さんならではのセルフマネジメントのポイントを教えてほしい」と相談を持ち掛け、ミーティングを設定するのも有効です。

中には自分には合わないという方法もあると思うので、できれば複数の人にヒアリングして、自分に合ったものを取り入れるといいでしょう。

マネジメントコンサルタント/ツナグバサンカク共同代表 川嵜昌子さん

川嵜昌子さん東京の出版社、経営コンサルティング会社で、経営者向け雑誌・ウェブマガジンの編集長、コンテンツ開発局長、チーフコンサルタントとして26年間働いた後、独立。アンガーマネジメントやセルフブランディング、モチベーションマネジメントなどの研修や講演などを行う。著書に『アンガーマネジメント管理職の教科書』『アンガーマネジメント経営者の教科書』『仕事もプライベートもうまくいく! 女性のためのアンガーマネジメント』『自分をサクサク動かすセルフマネジメント』など。

取材・文:伊藤理子 編集:馬場美由紀
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