親しい友人や家族ならばいくらでも話せるのに、上司や先輩、取引先企業の担当者などと話すときに毎回話に詰まってしまう、と悩む人は少なくないようです。仕事だけでなくプライベートでも、あまり親しくない人とは会話が続かない…という人も多いようです。
そこで、ベストセラー『会話がとぎれない話し方』シリーズの著者であり、コミュニケーション講座の講師なども手掛ける“話し方のプロ”野口敏さんに、会話が続かない理由、無理なく自然に会話を続けるためのポイントなどを伺いました。

「なかなか会話が続かない」原因とは?
自分は口下手だから、なかなか会話が続かない…と悩む人は少なくありませんが、個人のスキルによるものだけではありません。我々を取り巻く環境の変化も、実は大きく影響しています。
以前に加えて「会話をする機会」そのものが減っている
近年、「人と話す」機会も「人の話を聞く」機会も、以前に比べて減っています。
今は少しでも間違ったこと、過剰なことをいうと、必要以上に非難を受ける世の中です。パワハラやセクハラなど「〇〇ハラスメント」に対する批判も厳しさを増しており、「こういうことを言ったらパワハラと言われるだろうか?セクハラと言われるだろうか?」などと不安を覚えた結果、「余計なことは言わないほうがいい」と口をつぐむケースが増えています。会話をする機会が減れば、会話がうまくなるはずはありません。会話が続けられない、会話が苦手と感じる人が増えるのも当たり前だと思います。
さらに、コロナ禍でコミュニケーションの機会自体が減り、仕事もリモートワークが増え、ちょっとした雑談すらしにくくなっています。以前に比べて声を出して話す機会が減ったため、腹から声を出しにくいと感じる人も少なくないようです。声が出しにくければ、当然ながら会話も続きにくくなります。
「日々のちょっとした物語」に気づきにくくなっている
会話が減りコミュニケーションの機会が減ると、周りへの意識も自分自身への意識も薄くなるため、日常のちょっとした物語に気づきにくくなります。これも、「会話を続ける力」を弱めている原因だと考えています。
どんな人にも、日々何らかの心が動いた瞬間=物語があります。少し肌寒くなってきて、暖房をつけようかどうか迷った…なんてことも、日常の小さな物語。こんな物語が、実は雑談のきっかけになっていたりします。例えば、「最近ぐっと冷え込むようになりまましたね。暖房ってもう点けています?」「ちょっと早いかなと思ったけれど、今朝は点けちゃいました」など。
このように自分の物語に意識を向けると、相手にもこういうちょっとした物語があるのだろうなと思えるようになります。すると、相手の物語にも興味を覚え、何気ない会話が続けられるようになります。
「そんな中身のない会話を続けたところで、意味がないだろう」と思われるかもしれませんが、こういうちょっとしたやり取りと些細な共感の積み重ねが、人と人とを結びつけています。そんなに親しくない間柄であっても、雑談で交わされる物語から人柄を感じて親しみがわき、少しずつ距離が縮まります。たとえ小さなことであっても、相手を知るほどにそれが信頼感へとつながり、仕事でもスムーズにコミュニケーションを取れるようになるのです。
無理なく自然に会話を続ける方法

会話に苦手意識を覚える人は少なくありませんが、前述のように、会話が続けられないのは外的要因も大きいものです。ちょっとしたコツを覚えれば、気負わず自然な会話ができるようになるので、ぜひ覚えておきましょう。
まずは「自己開示」でとっかかりをつくる
よく「会話を続けるには、相手の話を聞くことが重要」などと言いますが、そのためには、相手にまず話をしてもらわなければなりません。親しい友人や同僚ならばいいですが、上司や先輩、取引先企業の担当者など、普段あまり話をする機会がない相手に、話をしてもらうように仕向けるのは、会話を続ける以上に難易度が高いもの。まずは、会話のきっかけを作るために、自分から、自分について話すといいでしょう。
自己開示の内容は、どんなものでも構いません。今の会社にいつ入ったのか、自分の仕事内容はどんなものか、でもいいですし、自分の年齢や家族のこと、出身地、趣味などプライベートなことでもいいでしょう。
例えば「私は昨年、今の会社に転職してきたんですよ」とか「実は先月、とうとう30歳になりまして」なんてことでいいんです。何か1つ開示してみれば、「前の会社ではどんなことをしていたの?」「先月誕生日ということは10月生まれ?実は私もなんですよ」など、それについて相手が質問してくれたり、「実は私も転職組なんですよ」「私が30歳のときはこんなにしっかりしていなかったなあ」などと自分のことを話してくれたりする可能性が高まります。
ただ、自分の話ばかりを続けるのはNGです。理由は後述しますが、自己開示はあくまでとっかかりと捉え、次のステップに進みましょう。
「相手を話題」にして、会話の主人公にする
相手が何か話をしてくれたら、それについて質問をして、会話を掘り下げていきましょう。
その際、意識してほしいのは、できれば「相手を主人公にして話す」ことです。ほとんどの人は、会話をするときに、「自分」や「もの」を主人公にして会話をしてしまうことが多いのです。
例えば、会話の相手が「この前、車を買ったんですよ」と話してくれたとしましょう。
その際、「そうなんですね。車種は何ですか?」と多くの人が聞いてしまいますが、これは車という「もの」を主人公にした話し方です。
もしくは、「うちもそろそろ買い替えようと思っているんですよ」と返す人も多いですが、これは「自分」を主人公にした話し方です。
相手を主人公にする話し方は、例えばこうです。
「いいですね。車があると楽しいことが増えますね」
「新車だと運転も手入れも気を使いますよね」
相手を主人公にして話す利点は2つあります。1つ目は相手が喜んで話をしてくれること。誰だって自分が主人公の話をするのは楽しいに決まっています。
2つ目は話が盛り上がること。何しろ相手にとっては自分の話ですから、エピソードがたくさんあります。だから話が広がって会話がとぎれる心配はありません。
人は誰でも「自分に興味を持って聞いてほしい」「共感しながら聞いてほしい」「肯定的に受け止めてほしい」という欲求を持っています。そして、この3つの欲求が満たされると、「自分のことをわかってもらえた」と嬉しく感じるものです。
この3つを叶えてくれるあなたに、相手は自然と好印象を持つことになります。
相手の言葉に「反応」する
会話が苦手な人は、相手の話を聞きながら「何か気の利いたことを言わなくては…」と考えがちですが、そういう雑念が入るとますます言葉が出なくなり、無反応になってしまいます。
この無反応な対応が相手を黙らせる元凶です。相手が欲しいのは気の利いた言葉ではなく、あなたの反応なのです。そこで私は、話を聞いた感想を「音」で出して下さいと指導しています。音ならば、考えなくても自然と口から出すことができます。
お勧めなのは次の3つの相槌。この3つをうまく使えば、会話が苦手な人でも、相手を主人公にしながら話を進めやすくなります。
「ヘー!」
興味・関心を示す相槌です。相手の発言に興味があります、面白そうですね、との思いを伝えることができ、会話が自然と深まっていきます。
「えーーっ!」
驚きを表す相槌です。人は「ここは驚いてほしい」と思って発言することが意外に多いもの。「今年で勤続30年なんですよ」「実は子どもが5人いましてね」など。そんなときに「えーーっ!」という言葉で期待通りに驚くと、そこから会話が弾みます。
「おお~!」
称賛・感嘆を示す相槌です。自身の心が動いたことを示し、かつ相手の「共感してほしい」「肯定してほしい」という欲求を満たすことができます。
大切なのは、相手に興味を持つこと

ここまで会話を続けるための方法をお伝えしてきましたが、ベースとなるのは「相手に興味を持つ」ことです。
取引先やクライアントなど、あまり知らない相手であっても、相手に興味を持てば、聞きたいことが自然と浮かんできて、会話が続けられるようになるものだからです。
そのためには、1日の終わりに今日出会った人はどんな人だったのか、そしてどんな会話を交わしたのか、思い出す時間を作るといいでしょう。職場からの帰り道や、湯船につかっている時間、布団に入って眠るまでの間でもいいでしょう。1日を思い返し、印象的だったことや心に残った言葉などがあれば書き留めておきましょう。
こうして思い返すだけでも、相手に対する思い入れが強くなり、興味も深まります。次に会った時に、相手を主人公にした会話もしやすくなるでしょう。
大事な仕事相手であれば、仕事中の雑談こそメモに取りましょう。特に、相手の話に力が入っているとき、感情が豊かになったとき、その話を何度も持ち出すときなどは、相手にとって重要なキーワードが含まれている可能性が大。それを次の会話に組み入れれば、話が弾みやすくなるはずです。
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野口 敏さん
株式会社グッドコミュニケーション代表取締役。TALK&トーク話し方教室を主宰し、大阪、東京でコミュニケーション講座を開講。話す、聞く、説明、スピーチなどのコミュニケーションスキルを教える。動画でのコミュニケーションサイト「KAIWA Lab.」も運営。
『誰とでも15分以上会話がとぎれない!話し方』シリーズ(すばる舎)が120万部超のベストセラーに。最新刊『またすぐに!会いたくなる人の話し方』(三笠書房)も話題。