シナジー効果とは?ビジネスシーンにおける種類や事例をわかりやすく紹介

ビジネス用語として使われる「シナジー効果」。一体どのような内容を指すのでしょうか。日本総合研究所の吉田賢哉さんに、シナジー効果の定義や、シナジー効果が生まれる理由、その事例などを聞きました。

シナジー効果イメージ画像
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シナジー効果とは?

シナジー効果は、相乗効果という意味合いで使われ、複数の人やものがお互いに協力・作用し合うことで、力や価値、機能などがより高まることを指します。

ビジネス領域で使われるシナジー効果とは、「ある組織と組織との間で、良い相乗効果・相互作用があること」と定義できます。組織が単体で行うよりも、共同して何かを行うことで「1+1=2」以上の価値が生まれれば、シナジー効果が得られたと言えるでしょう。

M&A(合併・買収)を例に考えてみます。例えば、A社がB社を買収し、買収後の売上や利益、株式の時価総額などが、単にA社+B社で計算するときより良い状態になっているのなら、そこにはシナジー(シナジー効果)が存在すると言えます。

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シナジー効果が生まれるシーンとは?

M&Aは企業がシナジーを期待して行う典型的な活動ですが、M&A以外でも企業間でシナジー効果が期待できるケースがあります。

最も身近なものでは、売買が発生する取引関係におけるシナジーです。一般に、売り買いを通じて他社の商品などを手に入れ、それを活用することで、自社のサービスをより良くすることが可能です。自社のより良くなったサービスが、他社の商品に支払う金額以上に、よりお金を稼ぐことができるようになっているならば、シナジー効果が生まれていると言えます。

また、業務提携を通じたシナジーも存在します。商品・サービスの共同販売、共同開発やフランチャイズ契約など、業務提携に含まれる内容は多岐にわたります。業務提携を行う際には、コストや時間などが必要になりますが、自前で取り組むよりも大きな成果が得られていれば、シナジー効果があると言えます。

シナジー効果によって、企業は自社のみでビジネスに取り組むよりも様々なメリットを手に入れることができますが、このメリットは事業・財務・組織など各観点からも整理できます。

事業シナジー

販売経路や生産設備などを共有したり、仕入れ量を増やすことでコストダウンにつなげたりと、事業成長を期待するシナジー効果を「事業シナジー」と言います。

財務シナジー

税務上メリットのあるM&Aや、将来発生するキャピタルゲインを狙ったベンチャー企業の買収など投資目的のM&Aなどを「財務シナジー」と言います。

組織シナジー

複数の企業がまとまることで管理部門の一元化や、社内システムの統一、経営ノウハウの共有などによるシナジー効果を「組織シナジー」と言います。

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シナジー効果とアナジー効果の違いとは

シナジー効果の対義語には「アナジー効果」があります。協業・統合することでプラスになるはずの価値が、マイナスになってしまうことを指します。

例えば、高級路線を貫いてきたメーカーが、庶民的なブランドを買収したことで、もともとの高級ブランドの価値が下がってしまったり、環境に優しい商品づくりを大事にしてきた企業が、相反するコンセプトのメーカーと業務提携したことで、もともとのファン層が離れていってしまったり…。こうしたケースは、アナジー効果の一つと言えます。

ただ、M&Aにおいてシナジー効果がうまく働かないケースとしては、「コングロマリット・ディスカウント」のほうが、実例として挙げられることが多いでしょう。

コングロマリット・ディスカウントとは、M&Aなどを通じて事業の多角化を進めている企業が、各事業を単体で経営していた場合とよりも市場から低く評価され、株価が下落している状況をいいます。

シナジー効果を生まない事業を同時に展開すると、経営資源が分散し、それぞれの事業で競争力が低下することがあります。経営が複雑化して意思決定が遅れるなど、組織としての一貫性がなくなり、市場の評価が下がることにつながるのです。

シナジーが生まれる5つの理由とは

では、企業をより良い方向へ導くシナジーとは、どのようにして生まれるのでしょう。組織間の協力がシナジー効果につながる理由を、5つのポイントから細かく見ていきましょう。

1.規模の拡大

製造業や小売業は、大量仕入れを行うことでコストダウンにつなげられるケースが多くあります。M&Aや事業提携によって、事業規模を拡大することができれば、コスト削減などのメリットを手に入れることができます。

2.共通化による無駄の排除・効率化

企業は、お互いに共通する組織や経営資源を持っています。組織でいえば、例えばバックオフィス部門。経営資源では、例えば倉庫、情報システムなどです。

組織がM&Aや業務提携などによって一体運営可能となった際に、重複する業務を一元化できれば効率化の余地が生まれます。必要なスタッフの減少、コスト削減の達成につながるといえます。

例えば、A社とB社がそれぞれ小さい倉庫を保有していたとします。もし、共通で倉庫を保有できれば、同じコストでより大きな倉庫を手に入れられる可能性が高まります。物流業務を統合して在庫管理を効率化し、工場の稼働率を上げることもできるでしょう。

あるいは、社員の勤怠管理システムなどの情報システムにおいても、一体運営によって、A社とB社両方の社員が利用するシステムを1つにすることができます。

3.強み・弱みの補い合い

どんな企業にも、自社の強みと弱みがあります。企業間の協力によって弱みを補い合えれば、大きなビジネスチャンスにつながります

例えば、A社はシニア向け商品に実績があり、B社が若者向け商品に実績があるとします。A社とB社が協働することで、「良いものだけど知名度がイマイチ」なA社の若者向け商品が、B社のブランドや販路を活かすことで、より多くの売上につながることもあります。B社も、新たに中高年向けの商品開発を手掛けられるかもしれません。

ほかにも、A社は都市部に強く、B社は地方部に強いといった、エリア面での良い相乗効果や、A社は法人向けに強く、B社は個人向けに強いといった顧客区分での良い相乗効果などが生まれる可能性もあります。

4.強みを組み合わせた、圧倒的な優位性の確立

企業の強みを組み合わせることで、他社が真似できないような競争力のある商品開発が可能になるケースもあります。

例えば、A社が「特許に守られた商品」を持っているとします。他社が対抗商品を開発しようとするなら、異なる特許や技術アプローチを考える必要があります。もしA社が、関連する特許を多数保有しているなら、対抗商品の開発はより難しくなります。

そこで、関連する特許や技術を持つ企業を買収し、商品の特許による保護をより強固なものにして、ライバル他社に開発を諦めさせるような動きが、ビジネスの世界では見られることがあります。似た強みを持つ企業がタッグを組むことで、業界内の地位をより強固なものにして、他社と圧倒的な差をつけ、売上・利益を生み出していくケースがあります。

5.時間の短縮

研究開発や新商品・新事業の開発には、人と時間が必要となります。自社で必要なものをすべてそろえようとするとどうしても時間がかかってしまいます。しかし、他社の技術力・ノウハウ、情報を借りることができれば、時間短縮も可能となるでしょう。

他社が自社の足りない部分を持っており、その活用によって時間短縮を実現できれば、いち早く市場に商品を投入することができます。時間短縮の結果として、より多くの売上・利益を獲得する機会を得ることができるのです。

シナジー効果の代表的な事例

シナジー効果をもたらした事例にはさまざまなものがあります。規模の拡大によるシナジー効果が生まれた事例の一つが、製鉄会社のM&Aです。世界中から石炭や鉄鉱石などの原材料を買い付ける製鉄ビジネスは、M&Aによるスケールメリットを受けやすく、2000年代に各国で業界内M&Aが進みました。

なお、製鉄会社のM&Aでは、スケールメリット以外にも、特殊な高付加価値の技術を他社から確保して、シナジーを狙うことを目的(弱みを補う、あるいは、強みを圧倒的にする)としていることもあったようです。

製薬会社や医療機器メーカーなど、研究・商品開発に多額の投資が必要な業界も、シナジー効果が多く生まれています。関連する特許を有する企業を買収することで、圧倒的な優位性の確保につなげるケースが多くみられます。また、ドラッグストアやホームセンターなどが、自社の未進出エリアの競合他社を買収し、エリア面での相乗効果を追求したようなケースも存在します。

各社の強みや弱みを把握することでシナジー効果が倍増

複数の企業や事業の協働により、1+1=2以上の価値をもたらす「シナジー効果」。企業の業務提携やM&Aのニュースに触れた際、それぞれの企業がどんなシナジー効果を期待しているのかを考えていくと、各企業の強みや弱み、今後の事業成長性がより見えてくるかもしれません。

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株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 吉田賢哉氏

吉田賢哉氏東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了後、日本総合研究所に入社。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長や、産業振興・地域振興・地方創生などを幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな業界のビジネスチャンス・トレンドについて多角的・横断的な分析を実施。

取材・文:田中瑠子  編集:馬場美由紀
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