早稲田大学ビジネススクール入山章栄氏に聞いた「社会人の勉強」トレンドと学び方

コロナ禍で自身のキャリアを熟考したり、リモートワーク拡大で時間に余裕ができたビジネスパーソンが、改めて「勉強」に力を入れるケースが増えています。一方で、「何か勉強を始めたいけれど、何をすればいいかわからない」と悩む若手ビジネスパーソンも少なくないようです。そこで、社会人の勉強のトレンドや、今勉強に着手するメリット、勉強方法の選び方などについて、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)の入山章栄教授に教えていただきました。

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キャリアに危機感を持つ人が増え、ビジネススクールが盛況

コロナ禍で、社会人大学院やビジネススクールを志願する人が増えています。私が教授を務める早稲田大学ビジネススクールも志願者が増え、入試倍率が4~5倍という状況です。数年前に比べて、確実に注目度が高まっています。

背景には、構造的な理由があります。終身雇用が当たり前だった時代には、企業が自社の人材を育成し、囲い続けていました。しかし今は、終身雇用が崩れ、先行きが不透明な時代。経営不安のリスクを回避するために、黒字なのにリストラをする大手企業も増えています。

そんな環境下で、今後のキャリアに危機感を覚える若手ビジネスパーソンが、自身の市場価値を高めるために学び直しに動いています。コロナ禍でのリモートワーク拡大で、学びの時間が捻出できるようになったことも、この動きに拍車をかけています。

リモートワークの拡大は、勤務先へのエンゲージメントにも大きな影響を及ぼしています。誰に会うこともなくひたすらPCの前で日々のタスクをこなす中で、ふと「何のためにこの会社で働いているんだろう?」と疑問を抱く人は少なくありません。今の会社に見切りをつけ転職するために、スキルアップを目指して勉強を始めるケースも増えているようです。

ビジネスパーソンの「学びの機運」が高まる中、学びの選択肢も増えています。
社会人大学院やビジネススクールなどが授業の拡充を行っているほか、オンラインで受けられる授業も充実させています。勉強アプリなどの各種サービスも増えていますし、YouTubeなどの動画サイト、Podcastなど音声サービスでも勉強用のコンテンツが増えています。

専門知識を持った人が、オンラインサロンで教えるケースも目立ち始めています。このように、「学びたい」というビジネスパーソンの受け皿がどんどん広がっており、自分の志向や生活スタイルなどに合わせて、学びの方法を選択できるようにもなっています。

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社会人が今、勉強するべき3つの理由とは

不確実な世の中で企業が生き残るためには、新たな価値を創造し続ける必要があります。そのために、新たに創造し革新を起こすイノベーション人材が求められています。

キャリアが不安、スキルアップしたい…などの思いがあるならば、イノベーション人材を目指した学びに着手することをお勧めします。

1.自身の認知を広げることで、イノベーションを起こせるようになる

人間は基本的に、同じ場所に居続けて同じ人ばかりに囲まれていると、どんどん認知の幅が狭くなってしまいます。イノベーションは知と知の組み合わせで起こるため、イノベーションを起こすには認知の幅を広げ、新しい知を取り入れる努力が必要です。

認知を広げるには、「今いる場所から外に出る」ことが重要。転職や副業なども一つの方法ですが、「勉強」も今いる環境から外に目を向け、新しい知を探索するのに有効。独学よりもビジネススクールなどで異業界の人と触れ合い刺激を得れば、さらに認知の幅を広げることができるでしょう。

認知の幅を広げ、自身にたくさんの「知」のタグが付いている状態を「個人内多様性」と言います。タグが増えるにつれ、自身の中で新しい知の組み合わせを生み出せるようになり、イノベーション人材として活躍できるようになります。

2.人脈が広がることで、新たな知識がインプットできる

知識や情報は独学で得ることもできますが、中には人を介さないと得られないものもあります。一人でアンテナを張り続けていても、得られる知識や情報にはどうしても偏りが生じてしまいます。

学びの方法の中でも、社会人大学院やビジネススクールであれば、いろいろな業界から年齢や立場の異なる人が集まるので、普段の生活ではなかなかで会えない貴重な人脈が築けます。異質なバックグラウンドを持つ者同士で議論し、切磋琢磨する過程で刺激を受け、新たな知識をインプットできるでしょう。

3.起業や社内での抜擢など、キャリアの可能性が広がる

近年、スタートアップ企業が増加しています。終身雇用が崩れ、コロナ禍で不確実性が高まっている中、危機感を覚えたビジネスパーソンが、自身の経験・スキルを活かして独立・起業するケースが増えているためです。

スタートアップ企業では、経営者でなくとも「経営者視点」が求められます。ビジネススクールでは主に経営やマネジメント手法を学ぶことになるため、新規事業の立ち上げやマネジメント業務など、より責任ある役割を任される可能性があります。学ぶ者同士で意気投合し、自ら起業することも考えられるでしょう。

ビジネススクールでの経験を活かし、社内で希望のポジションをつかみ取ったという例もあります。例えば、学びの成果を武器に社内の大きなプロジェクトに自ら手を挙げたり、知識の豊富さが評価されて重要なポジションに抜擢されたりというケースをよく耳にします。

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「何を学べばいいのかわからない」場合はどうすればいい?

勉強したいという意欲はあるものの、何を勉強すればいいのかわからない…という相談を受けることがありますが、基本的には何でもいいと思います。なぜなら、変化の激しい時代、何を学ぶのが正解かなんて誰もわからないからです。

まずは少しでも興味があることに着手してみましょう。何でも勉強を始めてみれば、合う・合わないがわかりますし、ほかに学んでみたいことが見えてくる可能性があります。

YouTubeで気になる授業を見てみるのもいいし、アプリを試してみるのもいいでしょう。社会人大学院には気になる分野だけを学べる単科コースもありますし、体験プログラムを設けているビジネススクールもあるので、そういうものを試してみるのも方法です。

手っ取り早いのは、ビジネススクールの2年生プログラムに入学してしまうこと。半ば強制的に勉強にどっぷり漬かれるため、「学びたい欲」は確実に満たすことができます。

ビジネススクールは、それなりの授業料がかかります。国の教育訓練給付制度などを活用すれば費用は抑えられますし、奨学金制度もありますが、それらを活用しなければ300~400万円ほどの負担になります。

馬鹿にならない額ですが、だからこそ「絶対に投資の元を取りたい」という心理が働き、途中で挫折することなく勉強に没頭できるようになります。同じように真剣に勉強に臨む人ばかりが集まるので、周りから刺激を受けて「もっと頑張らねば」とどんどん勉強にのめり込むようにもなるはず。その過程で、さらに学びたい分野、深めたい分野も見えてくるでしょう。

人生100年時代、自身をアップデートし続けよう

ビズリーチの創業者であるビジョナルの南壮一郎社長によると、これからのキャリアのキーワードは「60/20」とのこと。「60」は、今の新入社員がこれから働かなければならない年数。「20」は会社の平均寿命です。

つまり、単純計算で人は一生のうちに4回は働く場所を変えることになる、ということ。このような環境下で、転職先でも活躍し評価され続ける人材になるには、継続的に学び、自身をアップデートし続ける必要があります。

繰り返しになりますが、不確実で変化の激しい時代においては「これを学べば正解」というものはありません。正解がないからこそ、興味があることを学んで新たな知見を得たり、一歩外に出て新たな人脈を築いたりする努力が重要となります。

「先行きが不透明だから」と一カ所にとどまるのではなく、好奇心の赴くままにやりたいことを片っ端からやってみたほうが、知の探索につながり認知の幅が広がります。まずは学びに対して構え過ぎず、どんなことからでも始めてみることをお勧めしたいですね。

入山 章栄(いりやま・あきえ)氏
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授

慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号(Ph.D.)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校のビジネススクールアシスタントプロフェッサー(助教授)。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授、2019年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)など。

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取材・文:伊藤理子 編集:馬場美由紀
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