仕事で役立つ「読解力」を鍛えるにはどうすればいい?

ビジネスシーンにおいて、相手が伝えたいこと、相手が意図していることを汲み取ることが上手くできない。そのせいで、円滑なコミュニケーションや交渉、提案が苦手。そんな悩みを抱えているなら「読解力」を鍛えてみるといいでしょう。ビジネスで活かせる読解力、読解力の鍛え方について、教育者として幅広く活動する樋口裕一さんにお聞きしました。

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そもそも読解力とは?

一般的に「読解力」といえば、「文章を読んで理解する力」と解釈されます。しかし広い意味での読解力では、「日常生活のあらゆる情報を読み取り、理解する力」を意味します。

つまり、読解力があれば、社会現象や経済状況、相対する人の考え・感情、その場の雰囲気など、あらゆる情報からその真意を読み取り、適切な対応策をとることができます。

読解力が高い人は、人間関係を読み取る力も高く、社会におけるさまざまな状況を読みとる力を持っていると言えるでしょう。

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読解力がないことによるデメリット

読解力がないとどのような不都合が生じるのでしょうか。例えば、人間関係をうまく築けなかったり、人間関係でトラブルを起こしてしまったりすることがあります。

仮に、新たな会社に入り、初対面の人たちと仕事をすることになったとします。そのとき、その部署の中で裁量権を持っているのが誰なのか、パワーバランスをすぐに把握するのが難しいこともあります。

管理職の肩書を持っている人でも、実は他部署から異動してきたばかりでまだ発言力が弱く、勤務歴が長い社員が実質的に仕切っているケースもあるかもしれません。また、表面には表れていなくても、「この人とこの人は仲が良い・悪い」といった人間関係も存在するでしょう。

こうした人間関係は、意識して観察しないとわからないことがあります。すると、その組織内で適切に立ち回ることができず、人間関係を築くのに苦労するかもしれません。本来はAさんに相談すべきことをBさんに相談してしまい、面倒なトラブルを引き起こすようなことにもなりかねないでしょう。

近年は、会社で新たな取り組みを行う際も、一部署だけで完結せず、社内外の多様な人が集まってプロジェクトチームを編成することが増えています。そしてチーム内には、正社員・契約社員・派遣社員・業務委託など、多様な雇用形態・立場の人が混在していることは当たり前になってきました。

職場における人間関係を読み解く力がないと、プロジェクトの一員として役割をこなすことも難しくなるのではないでしょうか。

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仕事で必要な読解力とは

続いて、仕事やビジネスコミュニケーションを円滑に進める際に必要とされる読解力について、詳しく解説します。

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1.人の真意を推しはかり、理解する力

仕事を進める上でコミュニケーションをとる際は、「前提になっているもの」を読み取る力が必要です。

例えば、部門会議の場で、課長が何か言いづらそうに意見を言っている。そこで「部長の方針を批判したいけれど、はっきり言いにくいので、そのような言い方になっているのだな」と読み取る。

そこから周囲の人の表情を見て「うなずいているあの人は、この課長と同様に部長否定派だな」とも読み取れるのです。

このように、その場で前提となっている論点や価値観の対立関係をつかめるよう、読解力を磨くことが重要です。1対1や、1対2~3人などの場面でも同様です。

自分が発した意見に対し、口では「そうですね」と同調しているが実は納得していない、逆に難しい表情をしているが本音では賛同しているなど、相手の真意を読み取れるかどうかで次の対応も変わってくるでしょう。

コロナ禍以降、テレワークが拡大し、オンラインのコミュニケーションが増えました。オフィスで顔を合わせて対話するよりも、真意をつかみにくくなっている今、上記のようなスキルを磨く重要性は高まっています。

2.自身が発信する言葉を選び取る力

相手の真意を読み解くだけでなく、「自分が発した言葉が相手にどう受け取られるか」を判断する力も必要です。テレワークの拡大に伴い、チャットツールの利用も広がっています。

メールよりさらに簡易な文章でやりとりがなされる中では、ちょっとした言葉の選び方・使い方一つで相手に誤解を与えてしまうこともあります。

自分がこの場面でこの言葉を使ったら、相手はどう解釈するか、どんな感情になるか。それを考えて適切な言葉を選ぶ力も必要になると言っていいでしょう。

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3.資料を読んですばやくポイントをつかむ力

ビジネスパーソンは日々、大量の「資料」に追われています。仕事の資料としての書物や書類に目を通さなければなりません。じっくり読み込んでいたのでは間に合わないこともあるでしょう。

じっくりと全てに目を通すのではなく、要領よく必要なポイントをつかみ、素早く判断しなければなりません。そんな場面にも読解力が役立ちます。

4.情報の信頼性を見極める力

何かを調べるときに、インターネットやSNSを使って情報を得る方も多いのではないでしょうか。しかし、インターネットに限らず、テレビや新聞・雑誌など、世の中の膨大な情報の中には真偽が不明瞭なものも存在します。

根拠のない情報をそのまま信用してしまい、それをビジネスに利用することで、トラブルを招く恐れもあります。発信されている情報の中から信頼性があるもの・信頼性に欠けるものを見極めるためにも、読解力は必要と言えるでしょう。

仕事で役立つ読解力を鍛える方法は?

では、読解力を高めるのはどうしたらいいのでしょうか。よく言われるのは、「小説などの文学作品をたくさん読む」「歌詞の表現を学ぶ」「映画のシーンで想像力を磨く」など。

具体的にどんなところに意識すれば読解力が鍛えられるのか、ポイントをいくつかご紹介します。

「語彙力」=「言い換え力」を高める

なぜ、多くの人が読解を苦手とするのか。人の考えや文章を読み解けない第一の理由は、「言葉を運用することができない」からです。辞書的な意味を知っていても、それを活用できていないのです。

そこで、読解力を鍛える第一歩として「語彙力」を高めることを意識してみましょう。語彙力といっても、「四字熟語やことわざを知っている・使える」「難読漢字を読み書きできる」といったことは、あまり意味がありません。日常生活で使う機会がないからです。

それよりも重要な語彙力とは「言い換え力」です。自分が他者に対して意見やメッセージを発するとき、相手との関係性、その場の状況などを踏まえ、「相手にどう思われたいか」によって表現を変える力です。

「言い換え力」を鍛えるためには、「映画・ドラマを観ながら、登場人物のセリフを言い換えてみる」というトレーニングをおすすめします。セリフの意味を変えずに、別の言葉で表現してみるのです。

一方で、セリフの言い換えをしていると、「普通はこう言うところを、なぜこんな言い方をするのだろう」と、疑問を抱くこともあるでしょう。そこで「この登場人物のキャラクターを印象付けたいのか」など、シナリオライターの言葉選びの工夫にも気づくと思います。

そうした気づきを重ねれば、自身もキャラクターや心情などを表現する語彙が豊かになっていくでしょう。

【参考記事】言い換えのバリエーションで変わる!仕事で役立つ「語彙力」とは

自分で文章を書く経験を積む

読解力を鍛えるには、本や記事などの文章を多く読むことはもちろん、自分で文章を書く経験を積むことも大切です。

野球やサッカーなどのスポーツを観戦するにしても、自分で実際にプレイしたことがあるかどうかで、試合運びや選手の動きの意味への理解度が変わるのと同じことです。自分で文章を書いてみてこそ、正確に読み取れるようになります。

そこで、何かテーマを決めて、600文字~1000文字程度の小論文を書いてみましょう。読解力養成が目的であれば、5本ほど書いてみるだけでも効果があると思います。「書いた経験」が自分のものになります。

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文章を書くコツとしては、「3WHAT3W1H」を意識してみてください。

●3WHAT

「それは何か(定義)」
「何が起こっているか(現象)」
「何がその結果起こるか(結果)」

●3W

「WHY(理由、根拠)」
「WHEN(いつからそうなのか、それ以前はどうだったか=歴史的状況)」
「WHERE(どこでそうなのか、他の場所ではどうなのか=地理的状況)」

●1H

「HOW(どうやればいいか=対策)」

これらの項目についてざっと考えることで、状況を認識し、考えを深めるためのヒントを得られます。そして、せっかく文章を書いたなら、ブログやSNSで発信してみてはいかがでしょうか。

読み手から感想が寄せられることで、学べることもあります。賛成意見をもらうことで、書く面白さも得られるでしょう。

樋口 裕一さん

樋口 裕一さん1951年大分県生まれ。作家。多摩大学名誉教授。通信添削による作文・小論文専門塾「白藍塾」塾長、MJ日本語教育学院学院長。早稲田大学第一文学部卒業、立教大学大学院博士後期課程満期退学。250万部を超すベストセラーになった『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)のほか、『ホンモノの文章力』(集英社新書)『「頭がいい」の正体は読解力』(幻冬舎新書)など著書多数。また、大学入試小論文のカリスマ指導者としても知られ、『読むだけ小論文』シリーズ(学研)や『小論文これだけ!』シリーズ(東洋経済新報社)などの学習参考書も100冊を超える。

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取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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