言い換えのバリエーションで変わる!仕事で役立つ「語彙力」とは

顧客への提案や職場でのコミュニケーションで、伝えたいことが上手く表現できずに悩む人は少なくありません。相手に伝わる説明やメッセージの発信に欠かせないのが「語彙力」。なぜ、語彙力が仕事で役立つのか、語彙力を高めるにはどうすればいいのか、教育者として幅広く活動する樋口裕一さんに聞きました。

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そもそも語彙力とは?

語彙力というと、一般的には四字熟語やことわざを知っている、難読漢字の読み書きができることを指します。しかし、そうした語彙力が高くても、実はあまり意味がありません。なぜなら、難しい言葉を知っていても、日常生活では使う機会がほとんどないからです。使ったとしても、むしろ場違いになってしまうこともあります。

仕事において役立つ語彙力とは、「言い換え力」です。人は一般的に、言葉によって相手の能力や人柄を読み取ろうとします。

例えば「知らない」ことを相手に伝える場合でも、どのような表現を用いて語るのかによって印象は変わります。

「俺、そんなこと知らねえよ」
「僕、そんなこと、知らないです」
「私はそのようなことを存じ上げません」
「私はその件についての知識を持っておりません」

このように、同じことを伝えているのにかかわらず、ニュアンスがまったく異なりますよね。また、状況や相手によって、自分の気持ちに応じて表現は変わってきます。

相手にどう思われたいか、自分がどういう人間であると思わせたいかによって、ふさわしい言い方を選びとれるのが「語彙力がある人」といえます。様々言い換え方や言葉の雰囲気を知って、状況に応じて使い分けられることが「語彙力の高さ」なのです。

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仕事における「語彙力」の大切さ

では、語彙力を高めると、ビジネスシーンでどのような効果を発揮するのでしょうか。

語彙力はビジネスシーンでどのように役立つか

語彙力が高いことでこちらの意図が相手に伝わりやすくなり、業務がスムーズに進みます

例えば、会社の戦略や施策は、経営陣からトップダウンで下りてくることが多いとと思います。しかし、上長から言われた言葉をそのまま部下や後輩に伝えても、理解を得にくい場合もあるでしょう。そこで、表現を変えて説明することで、相手は目的を理解し、目的に沿った行動をとることができます。

「誤解を防ぐ」ためにも、語彙力は重要です。仲間内では省略して話すような言葉も、外部の人に伝えるのであれば省略しない。専門用語なども、一般的な言葉に言い換えて話す。そうした判断により、誤解を生じさせず、後々のトラブルを防ぐことができるでしょう。

語彙力が低いことによるデメリットとは

語彙力が低いと「会話が続かない」「思っていることを伝えきれない」など、コミュニケーションの場で不具合が生じます。

特に社会人の場合は、「敬語」の使い分けが重要です。丁寧な敬語は好印象を与えますが、状況や相手によってはよそよそしい感じになってしまいます。親しみやすい言葉がけをして、相手との距離を縮めたほうが良い場面では、逆効果となります。

また、表現のバリエーションが乏しいと、能力が低い印象を与えてしまいがちです。どんなときも「すごいです」「やばいです」ばかりでは、表現力や知的好奇心が低いと評され、重要な仕事を任せてもらえないかもしれません。

これは言葉のコミュニケーションだけでなく、メールやチャットツールなどでのやりとり、レポート作成などにおいても同じです。言葉の使い方一つで相手を怒らせたり、がっかりさせたりなど、信頼関係を築きにくくなってしまうでしょう。

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仕事に役立つ語彙力を高める方法

語彙力を高めたいと考えている方のために、おすすめの方法をいくつかご紹介します。

報告に「リアリティ」を持たせることを意識する

ビジネスにおいて重要なシーンに「報告」があります。自身が見聞きしてきたことを、正確に報告することで、報告を受けた相手は状況をつかみやすくなり、次の手を打ちやすくなります。そのためには、リアリティを持たせて伝えることが大切です。

例えば、事業用地の視察に行った場合、単に「遠かった」という事実だけではなく、数字や具体的な地名を入れるなど、具体的な情報を加えることで現場の様子がよりリアルに伝わります。

「遠かったです」

「最寄り駅からバスで30分かかる山の中にありました」

「最寄り駅から2時間に1本出ているバスに30分揺られ、停留所で降りると少し先の山の中に現地が見えました」

また、イベントの視察に行った場合、現地の状況を表現した方が聞き手はよりリアルにイメージができます。

「いろいろな地域から人が集まっていました」

「会場の駐車場には、仙台、名古屋、大阪、福岡など全国のナンバーの車がありました」

報告の際は、相手の頭に「リアルな映像」が浮かぶような表現を心がけてみてはいかがでしょうか。

言いづらいことを婉曲表現に変えて伝える

「改善」を図るために意見を伝えたいことも、言い方によっては相手を不快にさせ、円滑に進まないことがあります。次の例のように、婉曲表現を使って、相手の気分を害することなく伝えることを意識しましょう。

<部長にルールの改善を提案>

「部長(あなた)が決めたルールは今の時代に合っていません。現場のメンバーたちはどんどんルールを破って行動すべきだと思います」

「部長が決めていただいたルールはありますが、それだけにとらわれず、自分で考えて行動するメンバーがいるのも頼もしいことだと思いますが、いかがでしょうか」

<口が悪い上司への対処>

「あなたは口が悪いので、新入社員たちに嫌われている」

「率直にお話しになるので、新入社員たちが不満を感じることもあるようです」
「もう少し表現を和らげてお話しになれば、新入社員ももっと距離を縮めやすくなると思います」

日常生活で語彙力を高めるトレーニング方法

語彙力を高めるには、書籍や記事など多くの文章を読んで、様々な言葉や表現を知ることが有効です。より実践しやすいよう、自分の身につけるためには、次のような方法もあります。

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映画やドラマなどのセリフを言い換えてみる

単に辞書で単語や熟語などを覚えるだけでは、語彙は豊かになりません。ゲーム感覚で、自分の頭を動かして考えてこそ、記憶に残り、自分の語彙になっていきます。

そこでおすすめするのは、「映画・ドラマを観ながら、登場人物のセリフを言い換えてみる」というトレーニング方法です。セリフの意味を変えずに、「別の表現」を考えてみるのです。

同じセリフを「年配の上司に言う場合(相手を敬った、かしこまった言い方)」「若い部下・後輩に言う場合(相手の緊張をほぐす、親しみやすい言い方)」など、相手を変えて表現してみるのもいいでしょう。

「時代劇風に言い換える」「ビジネス用語に言い換える」「関西弁に言い換える」など、いろいろなバリエーションを試してみてください。何人かで一緒にやれば結構盛り上がりますし、他の人の表現方法からも学べるはずです。

セリフの言い換えをしていると、シナリオライターの工夫も見えてきます。「普通ならこういう言い方をするところ、あえてこんな言い方をさせることで、この登場人物のキャラクターを印象づけているのか」といったことが見えてきます。

そこに気づけるようになると、自分が第三者と話すとき、自分をどう印象付けたいかによって表現を変えることができるようになるでしょう。

さらに高度なトレーニングをするなら、「英語を日本語に翻訳する」「古文を現代語に翻訳する」といった方法もあります。

多様なジャンルのSNSでの会話を眺めてみる

ここまでお話ししてきたように、「語彙力」とは様々な人に対して、相手によって言葉を変えられる力を指します。逆に言えば、相手が話す言葉が理解できることが重要です。そのためには多様な人たちと触れ合い、それぞれの価値観を受け入れることが大切です。

自分が普段接しないような人たちが集まっているSNSで、ただ会話のやりとりを眺めてみるのもいいでしょう。多様な業界・職種の人たちの言葉遣い、表現に触れることで、自身が操れる語彙も豊かになっていくはずです。

言葉遣いは「化粧」をするのと同じ

語彙力を駆使するということは、ある意味「化粧をすること」と同じです。ときには、化粧などせずに、他者にどう思われようとも気にせず、ありのままの考えをまっすぐに語ることもあります。

しかし多くの場合、特にビジネスシーンでは、少し彩りをつけて言葉を選ぶことが一般的です。「自分は相手にどう思われたいのか」「自分の言葉を聞いた相手が、どう感じたり考えたりしてほしいのか」など、目的に応じて表現を変える必要があります。目的を達成するためにも、語彙を豊富に備えておくといいでしょう。

樋口 裕一さん

樋口 裕一さん1951年大分県生まれ。作家。多摩大学名誉教授。通信添削による作文・小論文専門塾「白藍塾」塾長、MJ日本語教育学院学院長。早稲田大学第一文学部卒業、立教大学大学院博士後期課程満期退学。250万部を超すベストセラーになった『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)のほか、『ホンモノの文章力』(集英社新書)『「頭がいい」の正体は読解力』(幻冬舎新書)など著書多数。また、大学入試小論文のカリスマ指導者としても知られ、『読むだけ小論文』シリーズ(学研)や『小論文これだけ!』シリーズ(東洋経済新報社)などの学習参考書も100冊を超える。

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取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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