実践できる「論理的思考」の身につけ方と考え方

「論理的思考」の理屈はわかっている。わかっているつもりなのに、プレゼンや人前での発表がうまくできない。そんな悩みを抱く20代~30代の若手社会人のために、次世代リーダーの開発や若い世代のアントレプレナーシップ醸成に携わる伊藤羊一氏にその極意についてお話を伺いました。

壁に描かれたロジックツリーを見上げる社会人
Photo by Adobe Stock

伊藤羊一さん顔写真伊藤 羊一氏

Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長 / 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長 / Voicyパーソナリティ / 株式会社フィラメントCIF / 株式会社ウェイウェイ 代表取締役 / グロービス経営大学院 客員教授
日本興業銀行、プラスを経て2015年よりヤフー。現在Zアカデミア学長としてZホールディングス全体の次世代リーダー開発を行う。またウェイウェイ代表、グロービス経営大学院客員教授としてもリーダー開発に注力する。2021年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長に就任。

代表作に56万部超ベストセラー「1分で話せ」。ほか、「1行書くだけ日記」「FREE, FLAT, FUN」など。

公式サイト

論理的思考は「結論→根拠→たとえば(事実)」の3段ピラミッドで

私が論理的思考を意識するようになったのは、銀行からプラス株式会社に転職したときです。

初めて物流を担当することになったのですが、会議に出ても皆が何を言っているのかわからない。それを自分なりに紐解いて考え、2日がかりで答えを見つけて結論を持っていくものの、その道何十年のベテランと話すと彼から1分で結論が出てしまう。自分がかけた時間はなんだったのか、と悩む日々の連続でした。

このままではまずいと思い、通い始めたグロービス経営大学院。そこで「クリティカルシンキング」と出会ったことで、どうやって物事を考えればいいのかがわかるようになりました。そこから、論理的思考についても学ぶことに。

論理的な思考は、結論とその根拠、根拠のもととなる事実のつながりを意識することが大切です。

かんたんな文章にすると、「私の考えは〇〇(結論)です。理由は、〇〇(根拠)、〇〇(根拠)、〇〇(根拠)だからです」となります。「私は牛丼が好きです(結論)。旨い(根拠1)、安い(根拠2)、早い(根拠3)からです」といえば、わかりやすいでしょうか。

さらに言うなら、根拠の下に「事実(データ)」を1つか2つ入れて、「例えば…」と根拠を具体的に説明すると、より説得力が増します。

ピラミッド型に組み立てるとわかりやすいと思います。1番上に「結論」があり、2段目に「根拠」が3つぐらい、3段目に「事実」が1つか2つあるイメージです。

仕事のコミュニケーションは、すべてこの“結論とつながりのある根拠(3つ程度)”のやりとりで成り立っているといってもいいでしょう。

「〇〇をしたい」と提案するとき、「根拠はないけれど、やりたい」では通用しません。「儲かるから」「ユーザーが増えるから」「コストが抑えられるから」などの根拠が必要です。

こうして言われてみれば当たり前のことかもしれません。しかし、“わかっている”のと“自分でできる”のとは違います。私自身も頭では理解していましたが、それまでは結論を意識して出そうとはしていませんでした。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

もっとも重要なのは“考えること”

伊藤羊一氏
「考えることは、悩むこととは違う」

論理的思考でもっとも重要なのは、“考えること”です。考えることは、悩むこととは違います。

考える=結論を出すこと。

それができるようになるために、私は毎日“心の底から考える”トレーニングを始めました。

「今日はラーメンが食べたい。なぜなら、しばらく食べていないから。最近は体調がいいから。近所に店があるから」など、仕事・プライベートに関係なく、あらゆることをピラミッドで考えることを習慣にしたのが15年前。今では即座にピラミッドが思いつくようになりました。

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論理的思考を実践してもうまくいかないときの対処法

論理的思考について、ここまではわかっている、という人は多くいると思います。「それなのに、プレゼンなどの大切な場面で活かせない」と悩む人もまた少なくないはず。

ここでは、よくあるケースを紹介しながら、原因と対策について考えていきます。

【ケース1】自分ではうまくできたプレゼンだと思ったが、想定通りの結果ではなかった

まず考えられる原因は、自分が想定したピラミッドと、相手が考えるピラミッドが違っていたということ。顧客目線が足りなかったということです。

英語に「Put yourself in someone’s shoes.(相手の靴を履け)」ということわざがありますが、これは「相手の気持ちになって考えてみる」ことを意味しています。

このケースでは、相手の気持ちになって考え、どんな根拠を見せれば納得するのかをしっかりと考えることが必要です。

2つ目に考えられるのは、論理的思考ができていても、論理のための論理になっている可能性があるということです。

論理だけでは不足で、「自分は心底そう思っているんだ」という、論理の後ろにある気迫や情熱が伝わらないと、人は動きません。相手を動かす鍵は、自分の思いや生きざまを賭け、気合を入れて語ることなのです。

3つ目に考えられる原因は、場数不足です。

人間対人間の真剣なやりとりを続けていると、「これを言えば通じる」という感覚が肌身でわかってきます。つまり、場数を踏めば身についてくるものなのです。

とはいえ、若いうちは経験が少ないので、そこは準備量と気合でカバーしましょう。負けながらも続けることで勝ちが増え、根性も養われます。

「論理的思考に気迫や根性が必要なのか?」と思われるかもしれませんが、論理的思考は戦うための武器。勝つためのパワーとして、気合と根性が必要なのです。

【ケース2】人前で話すのが苦手。あがり症で頭の中が真っ白になる

緊張し、あがるのは誰も同じです。私も昔は頭の中が真っ白になっていました。その経験から学んだ対処法は、結論と根拠だけは絶対に忘れないで持っておくことです。

もう1つの対処法は、“キーワード”を用意しておくこと。

牛丼屋の提案で例えるなら「早い、安い、旨い」のようなものです。キーワードがあれば、緊張で頭が真っ白になっても、最後に「早い、安い、旨い牛丼をお試しください」と締めくくると、収まりがつきますから。

あなたが考えるほど、人は熱心に話を聞いていません。ところが、最後にキャッチーなキーワードを伝えると、それだけは印象に残っていて、「良かったよ」となるものです。

「これだけは必ず伝えたい」というものを用意して、場に臨むようにしましょう。

【ケース3】準備していても、想定外の質問に慌ててしまう

今でこそ慣れましたが、私も想定外の質問が怖かった。だって、質問というのは大体が想定外ですから。そんなときに慌てたりビビッたりするのは、カッコよく答えようとするからなのです。

私の場合、まずは時間稼ぎをします。

「もう1回、違う言葉で言い換えていただけますか?」と言っている間に、どう答えればいいのかを考えます。ときには、大げさに反応して時間を稼ぐこともあります。

「あ~、なるほど~。そこについては全然考えていませんでした」などとゆっくり言いながら、天を仰ぐのです。そうすれば、相手だって悪い気はしませんし、場も和みます。

どうしても答えが思いつかない場合は、「わからないので、考えて後ほどお答えします」「その観点は抜けていました。考えてからあらためてお答えします」と、正直に伝えることです。

【ケース4】プレゼンに自信がない

「そもそもプレゼンに自信がない」という人もいると思います。プレゼンに自信を持って臨めるかどうかは、どれだけ事前に準備したかにかかっています。

大事なことは、「私は自分の生きざまを賭けて、こう思う」と言い切れるかどうかです。

言い切れないとしたら準備不足、とことん考えていないのです。本人が自信を持てないことをプレゼンしても、相手に受け入れられるはずがありません。

「準備はやりきった」というところまで、打ち込んでみてください。

論理的思考を存分に発揮するための4つのポイント

伊藤羊一氏
「観客の表情の変化を見て、どう話すのがいいのか考える」

冒頭でもお伝えした通り、もっとも重要なのは考えることです。

まずは、「そもそも〇〇とは何か?」「この企画の本質とは何か?」「この企業の状態はどうなのか?」と自分に問いかけること。そうすれば、「何に答えなくてはいけないのか」が見えてくるはずです。

この問いの答えがはっきりすれば、半分は出来上がったようなもの。論理的思考のピラミッドを自信を持って構築するためにも、この問いを常に忘れないでください。

【ポイント1】ピラミッドで考えたことをアウトプットする

次に大切なことは、考えたことを誰かにアウトプットしてみることです。

頭ではできているつもりでも、言葉にしてみるとまとまっていないこともあります。アウトプットすることで、考えがきちんとまとまっているかどうかが明らかになります。

【ポイント2】とことん練習する

考えがまとまったら、次は徹底練習です。私が孫正義さん(ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長執行役員)に最初にプレゼンをしたときは、本番までに5分間のプレゼンを300回ぐらい練習して臨みました。

資料の準備についても、フォントサイズから接続詞、句読点を入れるか入れないかまで、徹底的に気を配りました。

【ポイント3】言葉で伝える場面を想像し、相手に寄り添う

言葉で伝える際にも、相手の靴を履いてみることが重要です。相手がどんな気持ちでこの場にいて、どうなったらうれしいのかを考えるのです。

講演会を行うとき、私は開始1時間前に観客席に座って、檀上に立っている自分の姿と観客の姿を想像することにしています。そして、講演中は観客の表情の変化を見て、どう話すのがいいのか考えながら話しています。

そのようにして相手に寄り添い、理解してこそ、自分の思いが伝わるのです。

【ポイント4】物理空間をコントロールする

オフラインのプレゼンでは、1つのテクニックとして、相手に声を届けることも意識しています。

参加人数が多い場合は、最前列や最後列など目線を合わせたところにいる人に向かって、声のボールを投げる感覚で語りかけ、声を届けるようにしています。

自分の想いがのった論理的思考は人間だからできること

伊藤羊一氏
「“私”にしかできない答えを出せばいい」

論理的思考は、「結論」「根拠」「たとえば(事実)」の3段ピラミッドで組み立てることができるのなら、AIのほうが得意なのではないかと考えるかもしれません。確かに、誰が考えても同じ結論になる事柄なら、AIのほうが得意でしょう。

ですが、私が考えたピラミッドには伊藤羊一の“生きざま”が入っています。そのピラミッドには、説得力を持たせるための伊藤羊一の想いや情念、個性がのっているのです。

そんな非合理的なものを含んだ論理的思考は、AIにはできません。人間だけが、自分の想いがのったピラミッドで、相手に速やかにわかりやすく伝えることができるのです。

それと、想定外の質問に慌ててしまうという悩みがありましたが、私がどんな質問にも「待ってました」とばかりに答えられるようになったのは、“自分の軸”が明確になったからです。

私の人生軸は、「Lead the Self(自分を導け)」。

自分を導くとは、自分をよく知って、自分が何をやりたいかを理解することであり、私の生きざまと言ってもいいでしょう。

以前、量子コンピュータについての講演を頼まれたことがあり、断りきれずに登壇しました。私には量子コンピュータの専門的知識などありませんから、自分の軸を観点に量子コンピュータを解釈して講演し、質問も自分の軸に引き寄せて答え、無事に終えることができました。

そのときに実感したのが、学者の知識が必要なら学者に聞けばいい。私は「私にしかできない答えを出せばいいんだ」ということ。それ以来、何事にも動じずに対応できるようになりました。

論理思考は、トレーニングを積めば誰でもできるようになります。そのうえで、自分の軸を明確にすると、どんどん説得力が増していきます。

ぜひ、継続的に鍛えていきましょう!

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WRITING:笠井貞子
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