SDGsと英語を一緒に学ぼう:SDGsが目指すトータルバランス〈連載第3回〉

2015年9月の国連サミットで採択された国際目標「SDGs:Sustainable Development Goals(エス・ディー・ジーズ)」。“地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」”を誓いのことばに、発展途上国・先進国双方が、持続可能な開発を2030年までに目指そうというものです。今回はいよいよ連載最終回ということで、SDGsが目指すビジョンについて、英語学習のやさしい“お医者さん”、「イングリッシュ・ドクター(TM)」の西澤ロイ先生が解説します。

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西澤ロイ(にしざわ・ろい)イングリッシュ・ドクター

西澤ロイ著書『英語を話したいなら、まずは日本語の話し方を変えなさい!』表紙英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。最新刊『英語を話したいなら、まずは日本語の話し方を変えなさい!()』、ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)などの著書がある。
★「イングリッシュ・ドクター」HP(

SDGsが目指すのは「すべての生命が栄える世界」

前回の記事で詳しくご紹介しました通り、SDGsには17のゴールと169のターゲットが設定されています。それらの目標を達成できたら、一体どのような世界が実現できるのでしょうか?

SDGsを唱えた「2030アジェンダ(the 2030 Agenda)」では、envisage(心に思い描く)という言葉を使って、しっかりとビジョンが語られています。まずは最初の部分を引用します。

Our vision(私たちのビジョン)

7. In these Goals and targets, we are setting out a supremely ambitious and transformational vision.

(これらのゴールとターゲットの中で、私たちは極めて意欲的で、大きな変化をもたらすビジョンを示している)

We envisage a world free of poverty, hunger, disease and want, where all life can thrive.

(貧困と飢餓、病気、欠乏がなく、すべての生命が栄えることのできる世界を私たちは思い描いている)

目標実現後の世界とは、一部の国の人たちや一部の金持ちだけが繁栄するのでもなく、人類だけが栄えるわけでもありません。「all life」は、マクロのレベルで見たすべての生命、つまり「生きとし生けるもの」を指しています。

すべての生命が栄える世界を実現するためには、「トータルバランス」を考えることが重要になってきます。

私たちは一人で生きることはできませんし、お互いに影響を与え合って生きています。また人類全体としても、地球の環境や生態系などに支えられて初めて存在できる。それが、トータルバランスを必要とする理由です。

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現在は「無意識」に持続不可能な生活をしている

しかし私たち、特に先進国に住む人々の多くが「快適で便利な生活」を強く求めることにより、その裏では、環境を破壊したり、貧困問題を解決できずにいたりするなど、同時にさまざまな問題も引き起こしてしまっています。

そもそも現在、私たち人類がしている生活は、残念ながら持続可能なものではないのです。

もちろん、例えばエコバッグなどを使うことでプラスチックごみを削減したり、節電をこまめに行なったり、自家用車に乗らずに自転車や公共の交通機関を利用したり…といったさまざまな努力を意識的に行なっている人もたくさんいらっしゃることでしょう。

しかし、その行動の結果として、われわれの生活が持続可能になっているとはまだまだ言えません。なぜなら、せっかくの努力の裏で、無意識、つまり知らず知らずのうちに持続可能ではない行動が同時に起こされてもいるからです。

例えばエコカーとして、電気自動車を購入したとします。もちろんそれによって、ガソリン自動車に乗るよりは二酸化炭素の排出量は減らせるかもしれません。

しかし例えば、歩いて行けるような距離のコンビニやスーパーに行くために車を使ったり、大した用事もないのに自分一人が移動するためだけに1トンもある車を動かしたりすることは、全くもってエコとは言えませんよね。

また、電気自動車に使われているリチウムイオン電池には、リチウムやコバルトなどのレアメタル(希少金属)が使われています。リチウムの採掘では、大量の地下水がくみ上げられるため、採掘国によっては現地での農業や牧畜を妨げになりますし、将来的には干ばつにつながってしまうかもしれません。

コバルトの採掘は、アフリカ(主にコンゴ民主共和国)で、児童を含む労働者が劣悪な環境と条件の元で働かされているという現実が明るみに出て、問題にもなりました。

ほかにも、例えば200グラムの牛肉のステーキを生産するためには、飼料として約2.2kgの穀物が必要であり、水(「バーチャルウォーター(virtual water)」と呼ばれます)は約3,000~4,000リットルを消費しています。世界的な人口増加とともに、肉の需要が増えることで飼料としての穀物の需要も増え、さらにたくさんの水が必要、ということです。

ところがその一方では、世界で20億人以上が水道設備のない暮らしをしていると言われているのです(だからこそゴール6が「安全な水とトイレを世界中に」という内容なのです)。

だからといって、電気自動車やステーキを否定することは現実的ではありません。

とても耳に痛い話ですが、私たちが普段送っている現代的な生活が持続可能ではない、つまり、「知らないうちに大きなマイナスを同時に生み出してしまっている」という事実をまずは認識することが大切です。

その上で、そのマイナスを減らしたり、生み出さないようにしたり、代わりにプラスになることを行なったり――というさまざまな工夫や努力が求められているのです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

SDGsを通じて「トータルバランス」を考えよう

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もちろん、一人の力は小さいですから、自分だけでは何も変えられないかもしれません。しかし、SDGsの考え方が共通認識(プラットフォーム)になることで、ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」にある通り、人と人が協力をしやすくなるのです。

互いに関係し合うSDGsの17個のゴールが、世の中のさまざまな課題を解決するための指針となります。

例えば、以下のチェックリストは、SDGsで謳われている内容を私が5項目にまとめたものです。

<SDGsを参考にしたトータルバランスのチェックリスト>

□その企業が持続可能な形で社会に貢献できているか?

□労働環境や労働条件がきちんとしているか?(特に途上国において労働者に対する搾取が行なわれていないか?)

□年齢/ジェンダー/障害の有無/人種/民族/出身などに関わらず、皆を平等に扱っているか?

□商品/製品/物資/食品などのロスや廃棄を減らし、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を促進する努力を行なっているか?

□資源を無駄にしたり、環境や生態系を破壊したりしていないか?(その軽減、および補償として環境を改善する努力はできないか?)

一人ひとりの労働者や消費者がこの5つの事柄を真剣に考えるだけでも、世の中を変えていく第一歩になるでしょう。

企業で働いている人であれば、まずは自社に当てはめて考えてみてください。そして、改善できるところからどんどん変えていってください。

また、仕入れ先や販売先などの取引先にもこの考えを共有していくのです。特に、仕入れの経路をさかのぼっていくと、日本国外での取引先にもつながっているケースがあるでしょう。そちらでのトータルバランスについても、真剣に考える必要があります。

表向きだけは環境に配慮しているように見せかけることを「グリーンウォッシュ(greenwashing)」、同様に、SDGsに真剣に取り組んでいるように見せかけることを「SDGsウォッシュ(SDG washing)」と呼びます。

実際には、SDGsのような取り組みの裏で、途上国の環境を破壊しているケースもたくさんあるということです。

自国内/製品利用時のCO2(二酸化炭素)の排出は減らしつつも、自国外/製造時を含めたトータルではCO2の排出を全く減らしていないケースなどもあるでしょう。それを意図してやっている人たちより、気づかずにやってしまっている人たちのほうが圧倒的に多いはずです。

だからこそ、皆が気づきを得られるよう、トータルバランスを本気で考えていくことが重要なのです。

もしあなたが消費者の立場なら、まずは使っている商品やサービス、それを提供している企業について、SDGsへの取り組みをしているかどうかをチェックしてみることができます。その上で、その企業のトータルバランスについても調べたり、問い合わせたりすることもできるはずです。

このように、行動に移す消費者が増えることは、企業側の努力を促すことにもつながります。

SDGsが目指すビジョンとは?

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では「トータルバランス」を真剣に考え、それを実現するための努力をしていくことにより、一体どのような世界が実現できるのでしょうか。最後に、SDGsで謳われているビジョンについて、ちょっと長いですが引用しますので、ぜひ味わってみてください。

Our vision(私たちのビジョン)

7. In these Goals and targets, we are setting out a supremely ambitious and transformational vision.

(これらのゴールとターゲットの中で、私たちは極めて意欲的で、大きな変化をもたらすビジョンを示している)

We envisage a world free of poverty, hunger, disease and want, where all life can thrive.

(貧困と飢餓、病気、欠乏がなく、すべての生命が栄えることのできる世界を私たちは思い描いている)

We envisage a world free of fear and violence.

(恐怖と暴力のない世界を私たちは思い描いている)

A world with universal literacy.

(誰もが文字の読み書きができる世界)

A world with equitable and universal access to quality education at all levels, to health care and social protection, where physical, mental and social well-being are assured.

(初等教育から社会人までの質の高い教育と、医療と社会的な保護を、誰もが公平に得られ、身体的にも精神的にも社会的にも満たされることが保証される世界)

A world where we reaffirm our commitments regarding the human right to safe drinking water and sanitation and where there is improved hygiene; and where food is sufficient, safe, affordable and nutritious.

(飲み水や公衆衛生に関する人権を私たちがきちんと守ろうとし、衛生状態が改善され、安全で、安価でかつ栄養のある食べ物が十分にある世界)

A world where human habitats are safe, resilient and sustainable and where there is universal access to affordable, reliable and sustainable energy.

(人間が住む場所が安全、堅牢かつ持続可能であり、持続可能なエネルギーが安価でどこでも安定的に供給される世界)

8. We envisage a world of universal respect for human rights and human dignity, the rule of law, justice, equality and non-discrimination; of respect for race, ethnicity and cultural diversity; and of equal opportunity permitting the full realization of human potential and contributing to shared prosperity.

(人権や人としての尊厳、法による支配、司法、平等であること、差別が存在しないことを誰もが尊重する世界。人種、民族、文化的多様性への敬意がある世界。そして、人が潜在脳力を十分に発揮し、全体としての繁栄へ貢献するための平等な機会が存在する世界を私たちは思い描いている)

A world which invests in its children and in which every child grows up free from violence and exploitation.

(子どもに投資をする世界。すべての子どもが暴力や搾取を受けずに成長できる世界)

A world in which every woman and girl enjoys full gender equality and all legal, social and economic barriers to their empowerment have been removed.

(すべての女性/女子が完全なジェンダー平等を享受でき、彼女らが力を持つことを阻むすべての法的、社会的、そして経済的な障壁が取り除かれた世界)

A just, equitable, tolerant, open and socially inclusive world in which the needs of the most vulnerable are met.

(もっとも脆弱な人たちのニーズまでもが満たされる、公平で公正で寛容で、社会的に包括的な、開かれた世界)

9. We envisage a world in which every country enjoys sustained, inclusive and sustainable economic growth and decent work for all.

(すべての国が継続的で包括的な、持続可能な形で経済を成長させ、みんなが人間らしいきちんとした仕事を享受できる世界を私たちは思い描いている)

A world in which consumption and production patterns and use of all natural resources – from air to land, from rivers, lakes and aquifers to oceans and seas – are sustainable.

(消費と生産のパターンと、すべての天然資源―空から陸まで、川・湖・帯水層から海まで―の使用が持続可能である世界)

One in which democracy, good governance and the rule of law as well as an enabling environment at national and international levels, are essential for sustainable development, including sustained and inclusive economic growth, social development, environmental protection and the eradication of poverty and hunger.

(国内でも国際レベルでも、自分たちの運命を自分たちで決められる環境と同様に、民主主義、良い統治、法による支配が不可欠であり、持続可能な開発(継続的で包括的な経済成長、社会の発達、環境の保護、貧困と飢餓の撲滅を含む)を実現していく世界)

One in which development and the application of technology are climate-sensitive, respect biodiversity and are resilient.

(開発や技術の適用が、生物の多種多様性を尊重したり、気候への影響を考えたりして堅牢な形で行なわれる世界)

One in which humanity lives in harmony with nature and in which wildlife and other living species are protected.

(人類が自然と調和して生活し、野生生物やその他の生物の種が守られる世界)

理想として、素晴らしい世界が描かれていますね。このような世界の実現を目指すためには、一人ひとりの意識や努力がとても重要になってきます。

すべてはつながっているからこそ、一人の意識や行動の変革が周りに影響を及ぼし、波及していくことになるのです。

すべての変革は、一人の行動から始まります。持続可能なより良い世界を作るために、あなたの意識や行動がそこに向かい続けていくことを願っています。

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