「洞察力がある人は仕事ができる」などと言われますが、「洞察力」とはどんなものなのか、いまいちわかっていない人も多いのではないでしょうか。この記事では、洞察力とはどんなスキルでどう仕事に活かせるのか、そして洞察力の身につけ方について、人事歴20年超、心理学にも詳しい曽和利光さんに詳しく解説していただきました。
曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。
そもそも「洞察力」とは?なぜ仕事で必要とされる?
洞察力とは、表面上に見えているものではなく、その奥にある「隠れた本質」を見る力のことを指します。
洞察と近い言葉に「観察」がありますが、観察とは見えているものを見、言われていることを聞いて察すること。一方の洞察は、「見えていないもの、言われていないこと」を推測するという点で大きく異なります。
洞察力があれば、例えばクライアントの「本音」を察知することで、取引拡大につなげることができるでしょう。上司や先輩、同僚の気持ちを汲み取ることで、仕事が円滑に進められたり、重要な仕事に抜擢されやすくもなります。多角的な視点で社会情勢や業界動向を捉えられるようにもなるので、自社や競合他社、クライアントの先行きを見通し的確な打ち手を講じることもできるでしょう。
「ハイコンテクスト文化」な日本では、特に力を発揮するスキル
INSEAD(欧州経営大学院)教授のエリン・メイヤーは、著書『異文化理解力』の中で、「日本人のコミュニケーションは極めてハイコンテクト(言葉よりも、その場の雰囲気や背景など言外を重視すること)である」と指摘していますが、日本には「皆まで言わない」「空気や文脈を読む」「一を聞いて十を知る」を良しとする文化が根強くあります。つまり、表面上に見えているものから「見えていないもの」を、言われていないことから「言いたいこと」を推測する力、すなわち「洞察力」は、日本で必然的に求められています。
このような文化基盤であるがゆえに、日本人は説明下手な人が多いのも特徴。上司やクライアントから「うまいことやっといて」「いつもみたいにお願い」なんていう、非常にあいまいな指示を受けたことがある人も多いのではないでしょうか。
そんな指示に対して、洞察力を持って「相手が言わんとすること」を推察して実行し、「こんな感じでどうですか?」「こういうものを求めておられるのでは?」と提出すれば「こいつ、デキるな」と評価されることでしょう。相手のちょっとした言動から本音を読み取れるようになるので、普段のコミュニケーションも円滑になると思われます。
そうなれば、「あいつならばこの仕事も任せられるのでは?」と責任ある仕事を振ってもらえるようになるなど、チャンスも広げられるようになるでしょう。
決して特別なスキルではない!「洞察力」の磨き方
洞察力は一見、神秘的な力のように見えることがあります。見せてもいないし言ってもいないことなのに、その奥にある本質をズバリ言い当てるので、「なぜわかったんだろう?」と驚かされるからです。
しかし、洞察力はいくつかのスキルの掛け合わせによるものであり、決して一部の人の特殊なスキルではありません。
「見えないものを見る」ためには、まずは見えているものを正しく「観察する」必要があります。そして、観察したことで得た情報を自身の「知識」と合わせ、「論理的思考力」をもとに洞察することで、本質にたどり着くことができます。
つまり、洞察力は「観察力×知識×論理的思考力」の賜物。それぞれのスキルを意識することで、誰でも身につけることができるのです。
Step1:まずは自分の中にある「心理的バイアス」を取り除く
ただ、「観察力×知識×論理的思考力」の前に、まず取り組むべきことがあります。それは、「思い込み=心理的バイアス」を取り除くことです。
人は多かれ少なかれ、何らかの心理的バイアスを持っています。例えば、「体育会系の人」と聞くと、多くの人が「元気でガッツがある」人物像を想像するでしょうが、そうでない人もいることでしょう。「理系の技術者」というと、部屋にこもってコツコツPCに向かうイメージかもしれませんが、マッチョで社交的な人もいるはずです。このように、心理的バイアスは、洞察のファーストステップである「正しい観察」を意図せず阻害する恐れがあるのです。
とはいえ、自分の思い込みに、自分自身で気づくのは至難の業です。第三者からの「その〇〇の見方(考え)、偏っていない?」と指摘されない限り、気づくことはできないでしょう。
第三者からのフィードバックを得るには、オープンかつ受容的態度で人と接すること。積極的に自己開示して、周囲からの意見を得やすくしましょう。そして、自身の中にある心理的バイアス一つひとつを理解し、取り払う努力をすることです。バイアスを理解し、意識することで、徐々にフラットに物事が見られるようになり、観察の精度も上がるでしょう。
Step2:仕事に関する「知識」を収集し、ナレッジを真似る
観察の精度が上がれば、あとは「知識」と「論理的思考力」との掛け合わせになりますが、論理的思考力はスポーツの練習のように繰り返し行うことで鍛えられるという側面が強く、身につくまでにはある程度の時間がかかります。
その点、身につけやすく、すぐに活かせるのは「知識」のほう。仕事で洞察力を発揮したいのであれば、自身が携わる業界や仕事などに関する知識を片っ端から収集し、いいナレッジがあればどんどん真似しましょう。
数学であれば、公理を知っていればどんな数式であっても、理論的には答えを導き出せます。そして、その公理は先人たちがさまざまな洞察を経て生み出した知識です。
仕事においても同様で、例えば営業の仕事ならばアポをスムーズに獲得する方法や、クライアントと関係性を築く方法、効果的なプレゼンテーションの方法など、たくさんのナレッジが世の中に出回っていますし、自社内にもストックされているはず。そういう知識をどんどん使って、自身の知識の引き出しを増やしましょう。
たまに「他人のやり方なんて真似しない。試行錯誤して自分ならではのやり方を一から見つけるんだ!」などという血気盛んな人がいますが、志自体はいいのですが、結果が伴うまでに時間がかかり非効率です。
精度の高い観察によるファクトと、見えないものを見るための知識があれば、論理的思考力が多少まだ弱くても、ある程度その穴を埋めることが可能です。
Step3:日常の中で「観察し、論理的に洞察する」トレーニングを繰り返す
洞察力を構成する「観察力×知識×論理的思考力」のうち、知識は身につけたらすぐに活用できるものですが、観察力と論理的思考力は一定のトレーニングがモノを言うスキル。野球の素振りを毎日繰り返し行うことで、バッターボックスに立ったときに精度高く、かつスピーディーにスウィングできるようになるのと同じイメージです。
そのため、洞察力を高めたいと思ったら、日常で「観察し、論理的に洞察する機会」を意識的に増やすことが有効。ちょっとした変化にも、「なぜこのような変化が生じたのか」と観察し、思考してみるのです。
例えば、いつもは「〇〇様」から始まるクライアントからのメールが、今日は「〇〇さん」になっていたとします。このクライアントはどんな気持ちで「様」から「さん」に変えたのか、考えてみましょう。最近のやり取りを思い返したり、メールのほかの文面なども見てみたりしながら、「先日行った提案に満足いただけたのだろうか、それとも昨日のメールでお伝えした情報共有を喜んでいただけたのだろうか、それとも…」と思考をめぐらすことができるでしょう。
もっと気軽な方法でいえば、たとえば朝オフィスに出勤したとき(在宅勤務であればオンライン朝礼などの機会でも)に上司の表情を見て、「今日は機嫌がいいかな?それとも悪いかな?」と推察してみる…なんていうのも立派なトレーニング。世界一ハイコンテクストな日本においては、日常の中に洞察する機会はいくらでもあるはず。洞察力を磨きたければ、ぜひ日常のちょっとしたことを「観察し、論理的に洞察する」習慣をつけてみてください。
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