ビジネスシーンでどうしても発生してしまううミスやトラブルと、それにまつわる「謝罪」。お詫びすべき内容の大きさや相手にもよりますが、従来であれば訪問して謝罪をするところ、コロナ禍でテレワークが常態化した現在では、すぐに駆け付けることができず、メールでお詫びしなければならない場面が増えていることでしょう。
そこで今回は、メールなどを使って非対面でお詫びする際の注意点や効果的な方法を、心理学を取り入れたコミュニケーション研修・交渉研修を提供するコミュニケーション研究家の藤田尚弓さんに伺いました。
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定型文や丁寧すぎる文章は、心に響かない?
メールは現代のビジネスには不可欠のツールですし、効率も抜群にいい通信手段です。しかし、大きなミスやトラブルで相手に損害を与えたり、迷惑をかけたりした場合に、メールの文面によって相手の怒りをおさめ、不満を解消しようとするのは、かなり難易度が高いものだと意識しておきましょう。その理由は大きく2つあります。
日本では、「謝罪は対面で行う方が望ましい」という価値観を持っている方も一定数います。謝罪しようとしている相手が、謝罪が対面で行うことがマナーであると考えている方かもしれません。
また、メールでは、非言語コミュニケーション(表情や身振り)の効果が発揮されません。対面での謝罪であれば、言葉を発しなくても、本当に申し訳なさそうな表情を見せ、丁寧に頭を下げることで「反省しているな」と思ってもらいやすくなるものです。
その点、表情や身振りで伝えることができないメールでは、文面だけで気持ちを伝える必要があります。しかし、これが誤解を招いてしまうこともあります。
メール文面で謝罪しようとすると、なるべく丁寧な言葉を使いますよね。ところが、丁寧な文章は「定型文」と見なされやすいのです。これでは相手の心に響きません。「どうせコピペ文章だろう」と思われてしまうと、相手の怒りや不満の緩和にはつながりません。
このようにメールでの謝罪は非常にハードルが高いため、可能であれば対面で謝罪を伝えることが望ましいと言えます。対面が難しければ、少なくとも「声のトーン」という非言語コミュニケーションを使える電話で謝罪するといいでしょう。
それでも、すぐに電話をかけたり出向いたりできない場合、最初の謝罪を伝える手段としてメールを使う場合のポイントを、次から紹介していきます。
謝罪メールの基本的な構成と注意点
謝罪をする際、相手のマイナス感情を和らげるためには、基本的に次の順番で伝えるのが効果的です。
1.お詫びの言葉を述べる
2.相手の被害を認識し、共感する言葉を述べる
3.「自分に責任がある」と受容する言葉を述べる
4.今後どうするかを述べる
これをメールで伝える場合は、お詫びの言葉を述べる前に 、
というように、付け加えるといいでしょう。
また、今後どうするかを述べた後に、
など、文面での謝罪を申し訳なく思う気持ちを再度伝えてもいいでしょう。後日、訪問が可能な場合は、さらに次のような一文を加えてもいいと思います。
メールで使える謝罪フレーズはある?
メールで謝罪する際、どのようなフレーズを使えばよいか。先ほどもお伝えしたとおり、丁寧な文章であるほど、「定型文」の印象を与えてしまいます。
ですから、ネット上で紹介されている「ビジネスメール文面例」などは、こと「謝罪」に関してはそのまま使用しないほうがいいでしょう。もし、相手に「例文のコピペで手軽に済ませたな」などと思われると、怒りを増幅させ、逆効果となってしまう恐れもあります。
「いかにも定型文」なフレーズは使わず、なるべく「自分の言葉」で、「話し言葉に近い文体」で記したほうが、感情が伝わりやすく、誠意を感じてもらいやすくなります。
謝罪対象となる出来事について、当事者(相手と自分)しか知らない状況を文面に入れてもいいですね。少なくとも「定型文のコピペ」だとは思われません。
仕事のミスをお詫びする謝罪メールの注意点は?
ミスの内容・状況ごとに、謝罪する際に注意点をご紹介しましょう。
社外に向けてお詫びメールを送る場合
1)製品やサービスに不具合があったとき
2)納品・発送にミスや遅延があったとき
3)システムに障害が発生したとき
上記3つのシーンにおいては、気をつけるべきポイントが共通しています。「顧客対応はスピードが命」とばかりに、即座に謝るのはちょっと待ってください。
謝罪メールを送る前に、「当方の責任範囲はどこまでなのか」「どのような形で補償するか」について、上司としっかりすり合わせをしましょう。「とにかくまず謝る」行動に走ってしまうと、こちらの責任範囲ではないミスまで責任を負わされる事態になりかねません。
4)従業員が不祥事を起こしたとき
不祥事を起こした従業員の上長が謝罪する場面。ここでは「知りませんでした」では済まされないことを認識しておいてください。責任逃れをしようとする態度は、さらなる糾弾を招いてしまう可能性があります。
管理者としての責任を受容する言葉は必須。一般的には、「管理不行き届きにより(~ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません、~お騒がせしまして申し訳ありません 、など)」というフレーズを使いますが、重大性や相手との関係性も踏まえ、なるべく独自の言葉で表現することをお勧めします。
あとは、調査をしっかり行い、事実として報告します。最後には、再発防止に努める旨を伝えてください。
5)クレームを受けたとき
クレームを受けたシーンでは、「2次クレームを防ぐ」ことが大切です。そのためにすることは、「相手を不快にさせてしまったこと」に対して、まずお詫びを述べる。実際には、こちらに非がない場合、謝ることを躊躇し、「調べます」といった表現で返信する人もいます。
しかし、こちらに非がないのが事実であっても、相手が不快感を抱いていることに対して、謝罪の気持ちを伝えましょう。そうすれば、相手の感情が和らぎ、2次クレームが起きにくくなります。
社内に向けてお詫びメールを送る場合
1)上司に仕事のミスを謝るとき
仕事上のミスを上司に対して謝る際は、「いち早く報告」と「これからどう対処するか」をセットで伝えることがポイント。対処法を考えて示すことで、プラス評価に転じることも。むしろピンチをチャンスに変えられる可能性があります。
また、ミスをおかした理由を真っ先に長々と伝えると、言い訳がましい印象を与えてしまうことも多いようです。最初にこちらから送るメールでは「謝罪」「現状の報告」「対処法」をきちんと述べた上で、「ミスの発生原因」については簡潔にわかりやすく伝えましょう。
2)打ち上げ、歓送迎会などを急に欠席するとき
イベントなどへの欠席は、「なるべく早く伝える」が鉄則。ネガティブな報告はなかなか切り出しにくいものですが、お店などへのキャンセルの問題もありますから、出席できないことがわかった時点ですぐに伝えてください。
このとき、「参加できません」より「参加が叶いません」などの表現を使ったほうが、「参加したかった」というニュアンスが含まれ、角が立ちにくいと言えます。
そして、欠席の理由について、嘘をつくのはやめましょう。コミュニケーションの研究によると、他者にお願いや謝罪などをする場合、「理由」があったほうが、承諾率が上がるという結果が出ています。皆さんも経験上、それを知っているからこそ、理由を付けたくなるのでしょう。
しかし、実験結果によると、相手に伝える「理由」が必ずしも具体的でなくても、承諾率は変わらないようです。つまり、「家族が病気になりまして」といった具体的な理由でなくても、「家庭の事情により」のような漠然とした理由であっても、承諾率は同じであるということです。
納得を得ようとして嘘をついたら、それがバレたときには信頼関係が崩れ、より大きなダメージとなります。謝罪に添えるなら、嘘にはならない理由にしておきましょう。
謝罪は気持ちが伝わりやすい手段と並列しよう
謝罪とは、マイナスの状態から回復を図るもの。そこには「感情」が伴い、対応を誤るとさらに感情がもつれてしまいます。ミスやトラブルの影響が大きければ大きいほど、相手のマイナスの感情も大きくなっているはずです。
そのようなシーンでは、文面のみで謝罪の気持ちを伝えるのは困難。丁寧に書くと「冷たい」印象を与えてしまうこともありますので、くれぐれも注意してください。なるべくなら、対面あるいは電話など、気持ちが伝わりやすい手段を選ぶことをお勧めします。
コミュニケーション研究家 藤田 尚弓さん
コミュニケーションデザインを研究する、株式会社アップウェブ代表取締役。アクセス解析データを元にした、WEB媒体でのコミュニケーションデザイン を研究する他、テレビ出演・監修、雑誌などへのコンテンツ提供、コラム執筆などを行っている。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド)ほか多数。早稲田大学オープンカレッジ講師、All About 話し方・伝え方ガイド。日本社会心理学会所属。
藤田尚弓オフィシャルサイト(⇒)
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