「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION」アワードは、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。先ごろ、第7回目となる「GOOD ACTION」2020の受賞企業が発表されました。
これを受け、「GOOD ACTION」の審査員であり、慶應義塾大学特任准教授、株式会社NewYouth代表の若新雄純氏と、『リクナビNEXT』編集長の藤井薫による対談を実施。今回の「GOOD ACTION」のトレンドや、受賞企業の特徴などについて、語り合っていただきました。
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▲リクナビNEXT藤井薫編集長と若新純雄さん
プロフィール
慶應義塾大学特任准教授、株式会社NEWYOUTH代表 若新雄純さん(写真右)
人・組織・社会における、創造的なコミュニケーションのあり方を研究・模索。日本全国の企業・団体・学校等において実験的な政策や新規事業を多数企画・実施し、ビジネス、人材育成・組織開発、就職・キャリア、生涯学習、学校教育、地域・コミュニティ開発などさまざまな現場でフィールドワークを行う。テレビ・ラジオ番組等でのコメンテーター出演や講演実績多数。
株式会社リクルートキャリア 『リクナビNEXT』編集長 藤井 薫(写真左)
1988年リクルート入社。以来、人材事業に従事。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長を歴任。2008年からリクルート経営コンピタンス研究所、14年からリクルートワークス研究所兼務。変わる労働市場、変わる個人と企業の関係、変わる個人のキャリアについて、多様なテーマをメディア、講演で発信中。著書『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)。
目次
個人の能力開発にフォーカスした取り組みが増える
――新型コロナウイルスの影響を大きく受けた2020年。今回の「GOOD ACTION」の取り組み内容に変化はありましたか?
藤井薫編集長(以下、藤井)コロナ禍で急速にテレワークが普及したことで、「社内コミュニケーションの量と質をどう高めるか」に着目した取り組みが増えていると感じました。
コロナを機に、「時間」「空間」「人との間」の3つの“間”のバランスが取りづらくなり、それにより多くの企業が、企業活動には「従業員エンゲージメント」が極めて重要であるという事実に気付かされたのだと思います。
若新雄純さん(以下、若新)ひと昔前の認識では、従業員というものは、会社が達成すべき目的のための「手段」の一つでした。
手段としての人材をどう有効活用するか?という観点から、HRM(Human Resource Management)という概念も生まれました。
そして働く個人も、「自分には手段としての価値がありますよ」とアピールすることで、勤務先からの評価を得てきた側面があります。
しかし近年、この概念は徐々に薄れ、「従業員一人ひとりが価値を発揮することで、企業活動を成り立たせる」という考え方にシフトしつつあります。
今回の「GOOD ACTION」でも、職場で働く一人ひとりの能力をいかに開発し、存在意義を発揮してもらうかに主眼を置いた取り組みが目立ちました。
コロナ禍での「許しの精神」が、新たなチャレンジを生む
――コロナはなかなか収束の兆しを見せず、企業を取り巻く環境も厳しい状態が続いていますが、このような状況下でもチャレンジし続ける企業には、どんな共通点があると思われますか?
藤井 コロナによる業績不振や社内コミュニケーションの希薄化は、企業にとって「emergency」(危機)ですが、語源を同じとする単語の「emergence」は「創発」という意味を持ちます。
チャレンジし続ける企業は、圧倒的な危機感を背景に社内改革や事業改革に取り組み、その結果新たなアイディアが創発されている…というケースが多いように感じます。
ただ、きっかけは「危機感」であっても、「取り組み方」はシリアスではない、というのも一つの特徴。「社員が自発的に、楽しみながら取り組んでいる」事例が多いと感じました。
「危機感」と「楽しむ」には矛盾があるように感じますが、この2つが合わさることがチャレンジし続けられる原動力になっているのかもしれません。
危機感だけでは社員を巻き込めないし、楽しむだけでは事業課題に根差していないからヒット力が弱い。どちらか一方だけでは続かないうえに成果にもつながりにくいのでしょう。
若新 僕は、共通点は「許しの精神」だと感じています。
物事がうまくいっているときほど、チャレンジは許されにくくなります。許すどころか「せっかくうまくいっているんだから、敢えて新しいことをやる必要はない」と止められます。
多くの企業はこうして、うまくいっていることを繰り返し再生産することで業績を伸ばしてきました。しかし、コロナ禍で「これまでと同じやり方で成果を出す」やり方が通用しなくなってしまった。
うまくいっていないときは、いろいろなことにチャレンジし、試行錯誤せざるを得ません。そのときに大事なのは、チャレンジしたことによって失敗が起きても許し、そこから学んで次に活かすというフローを踏むこと。この状況下で必然的に、「エラーを許さざるを得なくなった」企業が増えたのだと思います。
藤井 確かにおっしゃる通りですね。私は常々「トライ&エラー&ラーン(learn)」ということばを使っているのですが、そこにあてはめると、「エラー=失敗」が起きても「許し」を介していったん学びとする。そして、すかさず新たな挑戦に踏み切り、成果を上げた企業が増えた。
一方で、エラーを許せず、立ち往生している企業も散見されます。経済環境の急速な好転が見込みにくい中、「許す・許さない」で業績の二極化が進んでいくかもしれませんね。
個人の特性を見極め「うまくつなぐ」ことで新たな価値が生まれる
藤井 「GOOD ACTION」2020の取り組みの中で、若新さんは株式会社ライトカフェの取り組みを「審査員賞」に選出していましたね。「日本語AIアノテーション」というITスキルが必要とされる業務を60代のシルバー人材に任せるという取り組みですが、どこを一番評価されたのですか?
若新 シルバー人材の雇用創出や、AI×シルバー人材の目新しさというよりは、「シルバー層ならではの特徴をAIがうまく受け止めている」点が素晴らしいと感じました。
シルバー層は、豊富な知識や経験を持っていますが、若手を助けたいがために「教えたくなる」という傾向があります。しかし、「教えられる側」である若手にとっては、押しつけがましさを感じる場合もある。それが表情や態度にうっかり出てしまうと、シルバー人材もいい気持ちはしません。
一方で、AIは圧倒的に知識を欲しています。シニアがどれだけ自分の知識を教え込もうとも、少しの抵抗もなく無限に吸収しようとします。シニアの教えたい欲を、AIに向けたのが、この取り組みの肝だと僕は思います。
藤井 どんな人も「その人ならでは」の才能を持っていて、それをうまくつなぐと、眠っていた才能が一気に花開くことがあります。この事例は、うまくつながった相手が「人」ではなく「AI」というところに進取性がありますね。
若新 おっしゃるとおり、シルバー層にはシルバー層ならではの特性があります。その特性を活かせるつなぎ先を考えれば、これまで以上に価値を発揮できるはず。
例えば、「シニアが最も経済的価値を発揮できる仕事はベビーシッター」と一部で言われています。小学生未満の幼児は、いくらシニアがかまっても「うざい」なんて思いませんし、シニアにとっても、幼児が話を聞かずに騒いだところでイラッとすることはないでしょう。
シニアの活用というテーマの取り組みでは、「シニアだって活躍できる」というような美談に仕立てがちですが、それだけで終わらせるのではなく、いい面、悪い面も含め、もっと正面からシニアの特性に向き合うべきだと思います。
1社に雇用されたいか、複数企業に関わりたいか、自己認知することが大切
――コロナを経て、われわれの「働き方」は今後どう変化していくと思われますか?
藤井 「働く」という漢字を分解すると、「人が重なる力」となります。一人ではできないことでも、何人かが集まれば力が発揮できるというニュアンスが含まれています。
今後はこの「重なる」の部分、すなわち「人とのつながり先」が広がり、さらにもっと自由なつながりが生まれると思っています。
今回受賞された株式会社カクイチでは、「5名1組の組織横断型タスクフォース」で取り組むプロジェクトを実施し、全社的な課題に対応しながら、部署をまたいだ連携を促進しています。
このような、既存の組織図に固定的に縛られずに、働く人が目的と一人ひとりの関心や才能で自由につながることで思わぬ力が発揮されるという事例は、今後さらに増えるのではないでしょうか。
Zoomなどオンラインツールの普及も、自由なつながりを後押しすると見ています。
若新 これまで、人生において仕事は「メインディッシュ」という扱いでした。そして、メインディッシュさえ安定していればいいという「メイン頼み」の人が多かったと思います。
しかしこれからは、「仕事はサイドメニュー」と捉え、1つの会社に所属しつつも副業、兼業などで複数の仕事に関わる人が増えてくるでしょう。
「仕事はメインディッシュ」という人は、1つの会社に雇用されながら働くほうが安心できるのだと思います。ただ、あまりに勤務先を絶対視していると、社会情勢が激変したときに拠り所を失う不安にさいなまれてしまうかもしれません。
一方、仕事を「サイドメニューの寄せ集め」と捉えている人は、比較対象が存在するので一つひとつの仕事を絶対視することがなく、一つの屋台骨が揺らいだところであまり不安に感じることはありません。
藤井 若新さんは以前から「安定とは実は不安定で、不安定なほうが安定している」という話をされていますが、まさにそれですね。
――今後、個人は「働く」とどう向き合えばいいと思われますか?
藤井 「働く」を考えるためには、まず「働く以外」のことを考えることが大事だと思っています。
社会の不確実性が高まる中では、人との「つながり」やその関係性の質が非常に重要になります。
海外では、職場や趣味、ボランティア、地域、学生時代などさまざまなコミュニティとつながり、マルチリレーションを築いている人が多いですが、日本人は職場とのリレーションだけが非常に強いのが特徴。休日も職場の同僚と遊びに行くなど、職場の人との関係性が濃いのです。
一方で、「3つ以上のコミュニティに参加している人のほうが、将来のキャリア展望が開けている」という調査結果があります。
「職場だけ」など1つのコミュニティに依存している人は、その1つを失う不安と常に戦わなければなりません。会社のことをそれほど好きなわけではないのに会社に依存し、依存するほどに不安になる…という悪循環が起きてしまう。
依存するのは楽かもしれませんが、いつもの職場の、いつものメンバーと話していても、目新しいアイディアなんてなかなか浮かぶものではありません。
例えば、新しい趣味を始めたり旅に出るなどして、違うコミュニティの人と触れ合ったり、いつもは手に取らないジャンルの本を読んでみたりすれば、「こんな考え方もあったのか」と新たな発見を得ることができます。
平日、残業せず定時で仕事を終わらせれば、1日24時間のうち「仕事以外の時間」を16時間確保することが可能。月~金の5日間では80時間、年間で見れば4000時間にも上ります。その時間は、寝ようが遊ぼうが学ぼうが個人の自由。
まずは「この時間を仕事以外の何に使おうか」と考えることが第一歩だと思います。
若新 僕はまず、「働く」における自分のタイプを知ることをお勧めしたいですね。すなわち、1社に所属し、長期的に雇用を保証されていたい「メインディッシュ」タイプか、それとも1つの会社に縛られずさまざまな企業と関わりながら仕事をしたい「サイドメニュー」タイプなのか。
メインディッシュタイプであれば、雇用に守られ、心地よく管理される環境で、腰を据えてその会社での仕事にとことんコミットすればいいと思います。そして、サイドメニュータイプであれば、副業や兼業、ボランディアなど、いろいろな環境に手を広げてマルチリレーションを築き、刺激を受けながら、自身の価値を発揮すればいい。
問題は、本当はサイドメニュータイプなのに1社に縛られた働き方をしていたり、メインディッシュタイプなのに無理に副業に踏み切ること。自身のタイプとは逆の働き方をするのは、会社にとっても個人にとっても不幸です。
自分のタイプに合った働き方ができるようになれば、仕事のやりがいや働く幸福度はぐんと上がるはずですよ。
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