近年、「兼業・副業」ができる人事制度を設ける企業が増加。それに伴い、働く人の「兼業・副業」への興味が高まり、特に20代~30代が「キャリア形成」「成長」を目的として副業に向かっている実情について、前編でお話ししました。
後編となる今回は、実際に副業を開始したビジネスパーソンの体験談をご紹介します。
本島祐太郎さん(31歳)は、東京のイギリス系経営コンサルティング会社・OXYGY(オキシジー)に所属。経営コンサルタントとして、大手メーカーのDX(デジタルトランスフォーメーション)や組織変革、マーケティングモデル設計などの支援を手がけています。
そんな本島さんは2020年11月より、初めての「副業」を開始しました。副業先は、石川県輪島市にある、従業員数15名の老舗和菓子屋です。
本業での経験を、副業でどう活かしているのか、そこで得たものを本業にどう活かしているのか、そして将来のキャリアビジョンについてお話を伺いました。
ビジネスパーソンとして自信がついてきて、「新しい経験がしたい」と考えた
―― もともと、どのようなキャリア志向を持ち、どのような経験を積んでこられたのでしょうか。
学生時代から「グローバルなキャリアを積みたい」という意識がありました。大学時代には、海外留学、経営コンサルティング会社でのインターンも経験。異なるバックグラウンドを持つ人たちとともに、共通の方向性や目標を探り、将来のビジョンを描き、その実現に向けて協業する仕事がしたいと考えるようになったんです。
社会人になってコンサルタント職に就いてからは、食品・自動車・製薬・医療機器・化学などの大手メーカーのクライアントに対し、「変革」に関わるプロジェクト推進を手がけてきました。
―― なぜ副業をしようと考えたのですか?
2020年の前半、自分の成長に手応えを感じたんです。さまざまな業界・企業のプロジェクトを経験し、どんなことをしてもある程度の結果を出せる自信が出てきた。そこで、これまでとは異なる新しい領域に踏み出す気持ちになりました。
それ以前から、リクルートが運営する社会人インターンシッププログラム「サンカク」には参加していたんです。本業のコンサルティングでは、会議でファシリテーターを務める機会が多いんですが、本業では接点がない業種・職種の人々の輪に入ってもうまくファシリテーションできるのか、腕試しをしてみたくて。
実際に参加してみると、他社の課題についてディスカッションするのは面白かった。これからも続けようと思っていたところ、サンカクから「ふるさと副業(※)」のオンラインイベント案内が届いて興味を持ちました。
※ふるさと副業/首都圏(都市部)で働きながら本業では得られない挑戦機会を求めている人と、事業創造に必要な知見・スキル不足に悩む地方企業のマッチングを図る取り組み
私は鹿児島県出身で、郷土愛が強いこともあり、以前から「地方のビジネスを盛り上げ、日本を元気にしたい」と考えていました。また、どんな地域に移ったとしても活躍できる人間になれるよう、地方ビジネスにチャレンジしてみたいという思いもありました。
参加者を募集していた石川県には、特に縁があったわけではありませんが、自分がときめきを感じるような会社があるならお手伝いしたいと思い、参加したんです。
自分の介在によって「成果を出せる」とイメージできた
―― 「ふるさと副業」のイベントで、どんな出会いがあったのでしょうか。
石川県輪島市で100年以上の歴史を持つ「柚餅子(ゆべし)総本家 中浦屋」の課題に取り組むディスカッションに参加しました。
コロナ禍による観光客激減で売上が9割落ちていた中浦屋は、日本全国どこからでも商品にリーチしてもらえるよう、ネット販売を強化するため、ECの専門家のノウハウを求めていました。
同社の社長が自ら「ふるさと副業」イベントで参加者のディスカッションを聞き、ECサイト整備だけでなく「デジタルマーケティング」に包括的に取り組む必要があると判断されました。そこで、副業者として、ECマーケティング、ブランディング、Webデザインなどの領域で現役で活躍する人、計5名を採用。私もそのうちの1人です。

―― なぜ、中浦屋での副業を決意したのですか。
私が本業で取り組んでいるプロジェクトを踏まえ、「食品」「BtoC」のマーケティングスキルを伸ばす必要があると考えていたんです。それが中浦屋の課題・目標と共通していました。
他の参加メンバーたちも、それぞれの領域でしっかりとした実績を持つ方々です。ECマーチャンダイジングを担当する松岡さん、平野さん、ブランディングやデザイン、サイト改修等を担当する清水さん、SNSマーケティング含むプロモーション戦略を手がける佐藤さん。中浦屋の社長、従業員の皆さんからやりたいことを聞いていて、「我々が介在すれば成果を出せる」「このメンバーが力を合わせれば、すごく面白いことになる」とイメージできました。
稼働して4ヵ月ほど経ちますが、すでに成果も表れてきており、2021年の第一四半期のECの売上は昨年同期比で1744%を達成しました。ECサイト・コーポレートサイトのページをどんどん刷新して、お客様の利便性が向上しています。メールマガジンから購入につながる事例も出てきて、ECサイトでの売上は着実に伸びています。
―― 副業者は5人のチームで活動されているそうですが、本島さんの役割は?本業での経験は、どんなところで活かせていますか。
事業戦略とチームの活動の関連性の整理から始め、ECサイトリニューアルのディレクションや、効率的な情報発信の環境整備などを担当しています。ミーティングでのファシリテーションや課題の整理など、プロジェクトマネジメント的な作業については、本業の経験が活かせていると思います。
副業メンバーと中浦屋側のメンバーが協業する中では、それぞれに思いがあります。全体を俯瞰してとらえるのはもちろん、個々のメンバーの思いや強み・弱みなどを汲み取ってフォローするのは、私がもともと得意とするところ。「リードする」というより「伴走する」スタイルが好きなので、皆さんがもともと持っているものを引き出して整理しながら、別の角度からの視点を提供し、ブレンドして創り上げるプロセスを楽しんでいます。
本業の「コンサルタント」の領域を超えた、新たな経験を得ている
―― 「本業ではできない経験ができた」「新たな知見を得た」といったことはありますか。
いくつかあります。まず、本業では大手企業の経営層と対話する場面も多いんですが、一企業の社長と、ここまで濃い密度で将来のビジョンについて語り合ったのは初めてです。経営者がどのような思考でリスクを取り、意思決定するのかを間近で見られたこと、そして意思決定に自分も関わらせていただいたことは、新しい経験でした。
また、「コンサルタント」として提案やアドバイスをするだけにとどまらず、現場で自ら手を動かして実業に取り組む必要性を常々感じていました。中浦屋の副業では、サイトの設計など「手を動かす」経験もできています。
何より、協業している4人の副業メンバーから刺激を受け、新しい知識も学べているのが大きい。ブランディングのためのエッセンスの抽出法、マーケティングツールの活用法、効果的なサイト構築法など、デジタルマーケティングに関する幅広い実務スキルが磨けていると思います。本当にありがたいことです。
副業を通じて学んだことは、本業でも活きています。クライアント企業の皆さんとデジタルマーケティング戦略を練るにあたり、やるべき事項を短時間でリストアップできるし、必要なリソース・コスト・所要期間・見込める効果などが肌感覚でわかる。自信と説得力を持って提案できるようになりました。
―― 副業を経験し、「働き方」への意識に変化はありましたか。
地方企業の経営者の方と濃密な仕事をさせていただく中で、「役に立てたり喜んでもらえたりすると、やはり自分はうれしいんだな」と実感しました。将来的に、こんな関わりを増やしていきたいな、と。
そのためにも、もっとスキルを磨きたい。スキルに自信を付けて、地方に行こうが海外に行こうが、いろいろな会社に自らアプローチできる、さらには「ぜひ本島さんにお願いしたい」と請われるようになりたいです。
業界は違いますが、憧れるのはミュージシャンの山下達郎さん。自分のオリジナリティを持っていて、圧倒的に人を感動させることで対価を得られるのが理想なんです。私は曲は作れないし歌えないけど、コンサルティングやマーケティングの分野において、そんな存在になりたいと思っています。
―― これから副業をしてみたいと考えている人へ、アドバイスがあればお願いします。
本業の収入だけで十分生活していける人間があえて副業を持つのであれば、副収入を求めるだけでなく、「本当に自分がやりたいこと」、そして「自分が役に立てること」を意識して取り組んでこそ、価値が生まれるのではないでしょうか。
副業には、時間が限られている中でも責任感を持って「やりきる」という強い気持ち、コミットメントが必要だと思います。そして、自分本位な気持ちだけで行ってはいけない、と強く感じています。
私も実際にやってみて気付きました。当初から、自分の経験を活かして貢献したいという気持ちもありましたが、やはり新しいスキルの習得や本業との相乗効果への期待など、「得られるもの」に目が向いていました。けれど、それは二の次にすべきです。
自分の介在によって、副業先の企業に価値を提供し、それが世の中をよりよくすることにつながっていく。私はそこに副業の意義を感じています。
―― ありがとうございました。
「まずは直観から行動に移してみよう」
通常の業務では得られない経験を通じて自分を磨ける「ふるさと副業」の魅力
株式会社リクルート HRエージェントDIVISON
「サンカク」プロダクト責任者 古賀敏幹
副業に対して期待と不安を持ち、まだ行動に移せていない方は、さまざまな機会を目にしたときに感じる直感的な気持ちを大切にすると良いと思います。それは、「純粋に面白そう!」「地元に恩返しがしたい!」「この経営者の力になりたい!」などの気持ちです。今回の本島祐太郎さんの場合、まずは「サンカク」が提供する1日体験型の「社会人のインターンシップ」を通じて、ご自身の腕試しから社外活動をスタートされ、「郷土愛」「企業に対してのときめき」といった気持ちを後押しに「ふるさと副業」を本格的にスタートされたかと思います。
不安なことを挙げだすときりがないと思うので、今回のように「やりたい」と思う気持ちに従ってまずは一歩踏み出すことが、素敵な出会いや未来の第一歩に繋がるのです。(たとえば「サンカク」の場合、まずは1日のディスカッションから参加できます。軽い気持ちでいいので、まずは挑戦してください。)
また、本島さんのコメントに、「一企業の社長と、ここまで濃い密度で将来ビジョンを語り合ったのは初めて…」とありましたが、特に「ふるさと副業」においては、副業される方も受け入れる企業側もお互いに「当事者として寄り添い合う」ことが非常に重要です。副業だからといって単なる「支援者として」だったり、「部外者として」捉えるのではなく、お互い同じ目線を持った「仲間」として接し合うことが幸せな関係を紡ぎ、大きな成果にも繋がっていきます。今回の「柚餅子総本家中浦屋」の挑戦が、今後日本の地方経済を成長させる象徴的な事例となることを楽しみにしています。
「サンカク」公式サイト
リクルート公式note「社外活動の機会を通じて心から熱中できるテーマとの出会いを──ふるさと副業のリアル」
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