BGM選びで業務効率に差が出る!在宅勤務でも仕事に集中できる音楽とは?

コロナ禍が長引く中、多くの企業で定着しつつある「在宅勤務」。会社のオフィスでは自分の好きな音楽をBGMとして流すことはできませんが、自宅であればそれが可能です。好きな音楽を選ぶ人が多いと思いますが、実はその選び方で集中力や作業効率に差が出るって、知っていましたか?
今回は音楽心理学者・音環境コンサルタントの齋藤寛氏に、仕事で集中力を高めるBGMの選び方や、オン・オフのメリハリを付ける音楽の活用術を聞きました。

仕事に集中できる音楽のイメージ画像

集中力を高めるのに音楽が有効──そのメカニズムとは?

そもそも「BGM(バックグラウンドミュージック)」とは、労働者の生産性を上げる目的で使われ始めたものです。1900年代初期のアメリカの産業界で、「音楽は仕事への意欲を向上させる」と考えられるようになり、工場内でBGMを流すようになりました。

あのエジソンが、自身が発明した蓄音機を使い、たばこ工場で再生テストを行ったのが、「録音された音楽」を労働現場で流した最初の例だと伝えられています。労働者側も歓迎し、「音楽は勤労の友」という言葉も残っています。

私自身も、仕事をするときにはお気に入りのBGMを流しています。音楽があると仕事にリズム感が生まれ、思考が整理され、はかどると感じています。集中力が増し、時間の感覚を忘れて没頭できるのです。

これには科学的根拠があります。好きな音楽や作業に適した音楽を聴くと、脳は「快」の状態になります。大脳辺縁系が刺激されることで、「快感ホルモン」と言われる「βエンドルフィン」や「ドーパミン」が分泌されるのです。特に、ドーパミンは「やる気ホルモン」とも言われ、これが出ている状態で作業や思考をすると、飛躍的に効率が上がり、アイデアが生まれやすくなります。

また、人がストレスを感じると「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌されますが、適切な音楽を聴くことでコルチゾールの分泌レベルが下がることも、研究によって解明されています。

在宅勤務の場合、住環境によっては、家の内外から雑音や騒音が聴こえてくることもあるでしょう。騒音はコルチゾールの値を上昇させ、ドーパミンの値を減少させます。そうした雑音・騒音のマスキングにも、音楽が役立ちます。このように、音楽には、脳を心地よい状態に保ち、集中力を高める効果が期待できるのです。

音楽が仕事にプラスになるケース、マイナスになるケース

しかし、すべての作業に音楽がプラス効果をもたらすわけではありません。作業内容や状況によってマイナスの影響を及ぼすケースもあります。

音楽が仕事にプラス影響を与えるケース

もともと工場での生産性アップのためにBGMが使われたように、音楽は「単純作業」に高い効果を発揮します。単純作業は脳への負荷が低いため、音楽が邪魔になりません。音楽を聴くことで眠気を防止できますし、音楽のリズムが作業のテンポに影響し、効率アップにつながります。

「脳への負荷が低い」という点では、「得意な作業」をするにも音楽は有効です。これまで何度も繰り返し行ってきたような、自分が難なくこなせる業務の場合、音楽がパフォーマンスアップにつながります。

国際的な医学雑誌『Journal of the American Medical Association』に掲載された記事では、外科医は手術中に自分の好きな音楽が流れているとき、もっとも集中できる」という研究結果が伝えられたこともあります。

また、「クリエイティブな作業」にも、音楽は有効。アイデアを練ったり、企画を考えたり、あるいはデザインをするような場面におすすめです。

音楽が仕事にマイナス影響を与えるケース

複雑な作業を行う場面では、音楽は効率ダウンやミスにつながることもあります。例えば、難易度が高い計算や分析、文章校正、難解な英語マニュアルの解読など。脳への負荷が高い作業においては、音楽は気が散る原因となり、集中力を低下させてしまうのです。

また、新しいことを学ぶときは、音楽がない状態の方がいいとされています。心理学系専門誌『Applied Cognitive Psychology』でも、「新しい情報を吸収・記憶する作業は、音楽のない状態で行うのがもっとも適している」と伝えています。

つまり、まったく同じ作業であっても、熟練した人にとっては音楽がプラスに、初心者が学びながら行う場合はマイナスになることもあるというわけです。その時々で取り組む仕事の性質によって、BGMを流すかどうかを判断するといいでしょう。

仕事開始前10~15分の音楽で、集中力とやる気がアップ

なお、脳への負荷が高い仕事に取り組む場合でも、音楽をプラスに作用させる方法があります。それは、「仕事を開始する前に音楽を聴く」ことです。

仕事を始める直前に好きな音楽を聴くことで、ドーパミンが分泌され、脳が「快」の状態になります。作業開始時に音楽を止めても、「快」はしばらくキープされ、複雑な作業もはかどるでしょう。前述したとおり、ドーパミンには学習効率アップ、記憶力アップの効果もあるため、その後の作業にプラスの影響をもたらしてくれるのです。

また、複雑な作業をする前だけでなく、「やる気を出したい」というときにも、音楽を10分~15分程度聴くといいでしょう。業務の中には、「気が進まないもの」もありますよね。一旦取り掛かってしまえばなんてことはないのに、手を付けるまでに時間がかかってしまうのはよくあることです。

そんなときも、好きな音楽を聴けば、脳が簡単に「快」の状態に変化します。気持ちも前向きになりますので、自然と身体が動くものです。作業内容によっては、そのまま音楽を聴きながら進めてもいいでしょう。

集中力アップ効果がある音楽とは?

仕事中に流す音楽は、どんなジャンルが適切か。さまざまな研究結果で証明されているのは、「クラシック音楽」や「インストゥルメンタル」です。ボーカルが入っている音楽は脳の思考と衝突してしまうため、作業中のBGMとしてはおすすめできません。

インストゥルメンタルのクラシック、イージーリスニング、ジャズ、環境音楽などを選ぶといいでしょう。クラシックでも、優しい響きのピアノ・ソロがおすすめです。

クラシック音楽は、数学的・論理的な構造で作曲されています。「ソナタ」「フーガ」「変奏曲」といったものは、多様なパターンと明確な構造にもとづいて構築されているのです。そのため、仕事中に流せば、クラシックの論理的・構造的な部分に共鳴し、脳がしっかりと整理される感じになります。

一方、仕事に取りかかる前に「やる気を出す」「気持ちを盛り上げる」ことを目的とするのであれば、自分が好きな音楽を聴くのが一番です。

アメリカのノースウェスタン大学・ケロッグ経営大学院が発表した研究によれば、「自分にぴったり合ったタイプの音楽を聴くことで、気分と、物事を率先して行おうとする気持ちに劇的な影響が生まれる」とのことです。

音楽は、過去の経験の記憶ともつながっているもの。同じ曲を聴いても、「楽しかった時代がよみがえり、パワーが湧いてくる」という人もいれば、「悲しい出来事を思い出して、落ち込む」という人もいるでしょう。

例えば、私の場合、執筆するときには、よくバッハの『フーガの技法』を聴いています。これはバッハが晩年に残した歴史的作品で、フーガの様式としては頂点に君臨するとも言える作品です。

私は学生時代から、難しい課題に取り組むときなどには、『フーガの技法』を聴くことで乗り切ってきました。ですから、私にとってこの曲は、脳がアイデアを出すモードに切り替えるスイッチになっているのです。もし、興味があって聴いてみたいという方がいれば、ピアノバージョンをおすすめします。

ドキュメンタリー映画『ピアノマニア』で話題になったピエール=ロラン・エマールのフーガの技法です。奇をてらわない正統派の演奏で、BGMにはもってこいです。

リラックス効果がある音楽とは?

クラシック、ジャズ、環境音楽などは、休憩時間などにリラックスしたいときにも適しています。これらの音楽は、「幸せホルモン」と呼ばれる「セロトニン」の分泌を促します。

セロトニンは、散歩や軽いジョギングのようなリズム運動でも分泌されるもので、気分をすっきりさせたり疲れを癒したりします。サティ、ドビュッシー、ラヴェルなどのピアノ・ソロがおすすめです。

就寝前に、少しの時間でよいので、リラックスできる音楽を小さめのボリュームで流してみてください。それだけでも、負の感情を解放し、脳が「快」の状態になり、睡眠の質も向上します。

睡眠前の1時間は、スマートフォン、PC、テレビなどを見ることはやめて、音楽を取り入れて「感情を整える」時間を過ごしてみてください。翌日のパフォーマンスアップにつながると思います。

仕事のオン・オフにBGMを上手に活かそう!

音楽は記憶の想起と強烈に結びついているため、そのメロディやリズムと紐づいた記憶を思い出すメカニズムが働きます。良いパフォーマンスが出る記憶と結びついている音楽を、試合前に聴くアスリートも少なくありません。

ぜひ皆さんも、この曲を聴くと自身が「仕事に前向きな気持ちになれる」「リラックスできる」という音楽を見つけ、仕事のオン・オフに合わせて聴くようにしてみてはいかがでしょうか。

プロフィール

FERMONDO(フェルモンド)代表 齋藤 寛(さいとう ひろし)氏

群馬県出身。新潟大学教育学部芸術科でピアノ演奏と音楽心理学を専攻。音や音楽が人の感情や行動与える影響について研究する。BGMや音に関するコンサルティングを始め、グラフィックデザイン、Webディレクションなどクリエイティブに関するコンサルティングや制作を行う。飲食店やオフィスなど商用BGMに関するコンサルティング、ビジネス書、専門誌への寄稿、医療学会での講演、ラジオ、テレビ、雑誌、商品プロモーションなどへの情報提供や執筆活動などを精力的に行っている。一般社団法人BGM協会主催の「BGMコーディネーター講座」や音楽関連企業のセミナー講師などを務める。
Webメディア「BGMの心理学()」の参加者は常時5,000人を超え、経営者やビジネスパーソンを対象として、職場や売場を快適にする音環境の創造を指導している。BGMアドバイザーとして音楽を提供する企業への協力や、個人向けに音楽心理カウンセリング(音で心を整える)や演奏やスポーツのメンタルトレーニングを行うなどその活動は多岐に渡る。著書に『心を動かす音の心理学 ~行動を支配する音楽の力~』(ヤマハミュージックメディア)()がある。

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WRITING:青木典子 EDIT:馬場美由紀

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