「仕事を辞めたい」と思ったとき、あなたはどうするでしょうか。一晩寝たらなんとなく気が収まったり、親しい友人に愚痴を聞いてもらったら気が晴れることもありますが、誰にも相談できずに悶々としている人もいることでしょう。
本記事では、若手社会人の相談を多く受け、同世代でもあるキャリアドバイザーにアドバイスをもらいました。
「仕事を辞めたい」と思うのは、どんなとき?
20代、30代の若手社会人の転職相談を受ける中で、辞めたい理由として多く聞こえてくるのは、「給与が上がらない」「成長している実感が持てない」「労働環境が悪い」という声。
さらに突き詰めていくと、「給与が上がらない」という理由の根底には、「明確な評価基準がない」という不満があるようです。
「労働環境が悪い」という具体的な理由は、残業や休日出勤が多いこと。中には、タイムカードを押してから仕事をする、いわゆるサービス残業を強いられているケースもあります。
また、女性に多いのは「仕事を長く続けたいが、今の労働環境では仕事がハードすぎて難しい」という悩み。今や女性も働き続けることがスタンダートとなりつつあるので、「結婚や出産といったライフイベントを見据えて、労働環境を変えたい」と考えているのです。
労働環境については、新しい悩みも登場しています。リモートワーク化が進んでいる状況下にもかかわらず、会社側からリモートワークの許可がもらえないことに不信感を抱いて転職相談に訪れるケースも目立ってきました。
「成長している実感が持てない」という理由を挙げるのは、私がこれまで担当してきた中では、20代後半の人たちが比較的多いです。
入社して5年目ぐらいになると、ベンチャー企業ならリーダーなど中堅の立場。自社サービスを提供している会社でひと通り経験を積んでいると仕事がルーティン化し、「来年も同じ組織で同じ仕事をする自分を想像すると、成長実感が持てない」というのです。
そのほか、「やりたいことがある」という理由で、キャリアチェンジを目指す人もいます。
例えば、「手に職をつけたいので、エンジニアになりたい」「営業を続けてきたが、なじめないので事務職に転向したい」「新卒ではハードルが高かったゲーム業界や出版業界に飛び込みたい」という人たち。20代後半から30代前半を、キャリアチェンジのチャンスととらえているようです。
実は、相談者の多くと同世代の私自身も、似た理由で何度か転職しています。1度目はやりたいことがあって転職し、NGOで働き始めました。ところがその組織には明確な評価基準がなく、1年ごとの契約だったことにも不安を感じて退社。
次の仕事は職場環境も良好で、やりがいのある仕事を任されていたのですが、とにかく出張が多く、平日は地方に出張して週末に東京に戻るような日々。「ずっと続けていけるのだろうか」と考え始めた矢先に産休復帰の先輩が退社していくのを見て、結婚や出産を経ても続けられる仕事に就きたいという思いが強くなり、現在の職場を選んだという経験があるのです。
仕事を辞めたくなったら、どうすればいい?
会社を辞めたいと思う理由は1つとは限らず、複合的に重なっていることも珍しくありません。ですから、まずは辞めたい理由をすべて明らかにすることが大切です。そのうえで、優先順位をつけます。
1度にすべての不満を解消することは難しいので、優先順位の上位をクリアする道を探っていきます。そのために、「1年後にどんな働き方をしているのが理想か」「何を実現させたいか」という未来図を描いていきます。
転職したいと思う理由を、このような作業でポジティブに整理していくと、「転職したいけれど、どうしたらいいかわからない」というモヤモヤが晴れ、打開策が見つけやすくなるのではないでしょうか。
ここからは、冒頭で挙げた「給与が上がらない(明確な評価基準がない)」「労働環境が悪い」「成長している実感が持てない」という不満の打開策を、具体的に考えてみましょう。
いずれの場合も、重要なのは「自分の基準に照らして納得感を持って判断する」ことです。
給与や評価基準、労働環境が理由の場合
今の会社に入社するとき、こうした条件について知っていたのでしょうか。もし知らなかったとしたら、次回は条件面談(オファー面談)時に、「実力主義で評価してもらえるのか」「スキルアップすることで給与アップが望めるのか」などについてきちんと質問しましょう。
ポイントは、入社前にしっかり自分で確認しておくこと。そのうえで、自分の基準に見合うと納得できれば、次の転職では同じ轍を踏まずに済むのではないでしょうか。
成長している実感が持てないことが理由の場合
「どんなときに成長していると感じるのか」「どこに本質的なやりがいを感じるのか」をじっくり考えてみましょう。
仕事で実感できた経験がなければ、「学生時代、何をしているときにワクワクしたか」を振り返ってみるのでも構いません。
成長ややりがいを実感する場面は、人によって異なります。
例えば、「共同プロジェクトでみんなと共同で仕事をしているとき」なら、プロジェクトを持たせてくれる会社に転職する。「新しいことに挑戦することで成長を実感する」のなら、最前線で顧客開拓する仕事に就く。それが打開策になることでしょう。
転職の前に、物事の捉え方を変えることも必要
ここまで転職することを前提に述べましたが、常に「転職=解決」とは限りません。「今の仕事に不満があるから転職しよう」と動く前に、まずは自分自身の物事の捉え方を変えてみることも大切です。
そうでなければ、たとえ環境が変わっても、自分の捉え方が変わらないと同じ悩みが繰り返され、定着できない可能性があるからです。
以前、「成長実感がわかない」という理由で、数社続けて短期離職している人の相談を受けました。そこで、「成長実感がわかない」とネガティブに捉えるのではなく、「成長したい気持ちが強いんだ」と自分をポジティブに捉えるようアドバイスしたところ、受け身ではなく自らすすんで仕事に取り組めるようになり、短期離職がなくなりました。このように、捉え方次第で結果が違ってくるのです。
また、中には転職しなくても解決するケースもあります。今の部署ではなかなかスキルアップができない、と一人でずっと悩んでいるという相談者の話を詳しく聞いて、「他の部署でそれが望めそうなら、異動したいと会社に一度相談してみては?」と提案したところ、会社に希望が受け入れられ、異動後の部署で充実した毎日を送っている人もいます。
このケースのように、自ら動いて発信するなどして状況改善を試みることも解決の糸口となります。
残業時間が多すぎるのなら、今の業務効率は最善なのか検証してみることも1つの方法ですし、上司や同僚、人事に相談する(=自ら発信する)ことで道が開ける可能性もあると思います。
相談相手はいなくても、話し相手ならいるのでは
とはいったものの、辞めたい理由次第では職場の身近な人たちには打ち明けにくく、「相談相手がいない」と悩んでいる人もいるかもしれません。過去の転職相談者の中には、「悩んだ挙げ句に他部署の上司に相談した」という人もいました。
このようなケースは異例で、実際には相談相手を職場で見つけるのはなかなか難しいものです。そこで、会社とは全く関係のない家族や友人に話してみる方法もあります。相談でなくても、ただ話を聞いてもらうだけでも効果はあるに違いありません。自分の悩みを言葉にすることで頭の中が整理され、気持ちが落ち着くのではないでしょうか。
もっと具体的に考えていきたいのなら、キャリアアドバイザーなどの専門家を頼るといいでしょう。相談をしていく中でさまざまな気づきを得られますし、自分の未来の可能性を第三者の目で総体的・客観的に見てもらえるので、参考になると思います。
常に自問を心がける
転職にはそれなりの覚悟が必要になりますし、大なり小なり変化が伴うものです。「会社を辞めたい=即転職」と短絡的に考えるのではなく、「景気が不安定な時期に、会社を辞めるのは本当に正解か?」と自問してみる冷静さも、併せて持っておいてください。
星野玲子さん
新卒で通信系企業の営業を1年半経験した後、NGO団体にて1年間カンボジアでの教育支援事業に携わる。その後3年間、業務改善ソフトの販売会社に勤務し、東北支店と名古屋支店を立ち上げる。2018年、株式会社リクルートキャリアに入社し、大手企業の採用リクルーターを1年経験した後、キャリアアドバイザーに転身。現在は、Web系クリエイティブやマーケティングなどインターネット領域を担当する。