毎日当たり前のように送信しているビジネスメールですが、送り手の「ちょっとした工夫」で受け取る側の印象は大きく変わります。
大げさなことはしなくてもOK、少しの工夫で相手の印象を良くする小ワザを、ビジネスコミュニケーションに詳しいコラムニストの石原壮一郎さんに教えていただきました。
プロフィール
石原壮一郎さん
コラムニスト。1963年三重県松阪市生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、大人のあり方や素晴らしさをさまざまな媒体で発信し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』『大人の女力検定』『日本人の人生相談』など、著書及び監修多数。5月下旬に最新刊『恥をかかない コミュマスター養成ドリル』(扶桑社)が発売。また郷土の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」としても活動している。
「簡潔・迅速」から「改まった連絡手段」に変化しつつある
ビジネスメールの役割は、以前は「要件を迅速に、簡潔に伝える」というものでした。しかし現在は、SNSやビジネスチャットなど、メールよりも迅速で簡潔なコミュニケーション手段が活用されているため、メールは「やや改まった連絡手段」という位置づけに変わりつつあります。
「基本的なマナーを守り、伝えるべきことを丁寧にわかりやすく伝える」ことがビジネスメールの基本ですが、そのうえで相手の気持ちを考えた「潤いと温かみのあるちょっとした工夫」を施すことが、好印象につながるポイントになってきます。
今の時代だからこそ有効!ビジネスメールの印象を上げる「小ワザ」
SNSやビジネスチャットが急速に台頭している今、ビジネスメールの役割は簡単・迅速から変化しており、以前に比べるとより「手紙」に近い存在になりつつあります。もちろんダラダラ長く、読みにくいメールはNGですが、正論やロジカルな言葉だけで簡潔に済ましてしまっては印象に残らず、読み飛ばされてしまう可能性もあります。メールだからこそできる工夫で、読み手に温かい印象を残しましょう。
1:「心遣いを感じる1行」を挟み込む
SNSではなくメールだからこそ、用件だけを示した無機質な内容ではなく、「心遣い」を添えたいもの。以前は「余計なこと」と省かれていた時候の挨拶などは、今では逆にメールに潤いを持たせる有効な策になっています。
例えば、「今日は一段と暖かく、すっかり春めいてきましたね」「梅雨とはいえ毎日よく降りますね」「また台風が発生したようで心配ですね」…などなど。
これらの、ビジネスには一見関係のない1行を冒頭に入れるだけで、ビジネスメールにありがちな機械的な印象を薄め、「単に仕事の用件だけ関わっているわけではない(=できるだけ積極的に関わりたい)」という姿勢を示すことにつながります。
これらは、最後に追伸として入れるのも有効です。「前回お会いしたときに教えていただいた御社の近くのラーメン屋に行ってみましたが、とっても美味しかったです!」とか、「次に伺うときは、御社の玄関先の桜が咲いているころでしょうか?楽しみです」など、相手にまつわる話や会話に出てきた話に関することが一言触れられていると、多くの人は嬉しく思うもの。相手との距離がぐっと縮まる可能性もあります。
2:敬語の使いすぎは逆効果の場合も
メールでの言葉は、情報を伝えるのと同時にその人の印象をも伝えます。「クライアント相手のビジネスメールなのだから、正しい敬語を使ったほうが好印象に違いない」と、敬語満載でメールを書く人がいますが、ただ丁寧に書けばいいというものではありません。
例えば、「平素より大変お世話になっております。〇〇会社の石原でございます。先日はご多用のところ弊社のためにお時間を割いていただき、誠にありがとうございました」などの文章を見かけることがあります。しかし、ある程度信頼関係が築けている相手であれば、あまりに丁寧すぎる文体だと壁を作られているように感じ、「こちらと距離を取りたいのかな?」などと思われてしまうかもしれませんし、「慇懃無礼」と受け取られる恐れもあります。
特に相手がある程度くだけたメールを送ってきているのに、硬い文体で返すのは避けたいもの。「相手のくだけ方の、一つ上の丁寧さ」を心がけるといいでしょう。
3:「これは何のメールか」が一目で伝わるように
クライアントも上役になればなるほど、1日に受け取るメールの数は膨大です。そんな中で読み飛ばされない、見逃されないための工夫は必要。相手が大事なクライアントであればなおさらです。
タイトルに「○○についてのご連絡です」と要件を簡潔に入れたり、自身の名前を入れたり、どうしても読んでもらいたい場合は●や【】などの記号を駆使して目立たせたりするのが有効。大量の受信メールの中でもパッと目につき、誰から、どんな要件のメールが来たのか一目でわかるので、早く読んでもらえる確率が上がります。
4:メールでも「結論を先」に書く
SNSやビジネスチャットなど「短い文章」でやり取りする機会が増え、メールも「わかりやすさ」が求められるようになっています。前述のような余分な1行などによる潤いや温かみは必要ではありますが、前置きが長すぎると要件がわからず、「そう重要ではないメール」と判断され最後まで読んでもらえない可能性もあります。
冒頭で、「お問い合わせいただいた件ですが、〇〇でした」と結論を入れたり、「今回は〇〇、△△の2点についてご報告があります」と内容を提示したりしておくと、相手も瞬時にメールの核をつかみやすく、最後まで読んでもらえるようになるでしょう。
5:「読みやすい仕立て」になっているか見返してみる
当たり前のことですが、メールを送る際も読み手の立場に立って考えることが重要。SNSやチャットを使う機会が増えたこともあり、比較的長文になりやすいメール文面の「読みやすさ」について気を配る人が減っていると感じます。
改行もせずダラダラと長く書く、切れ目がなく読みにくい文章を書く人に対して好印象は抱きにくく、「スムーズに仕事を続けられるだろうか…」と不安を感じさせる恐れがあります。以下のポイントに気を付けて、文章をまとめるといいでしょう。
・1行は、長くても30文字以内を目安にして、適度に改行を。
・定期的に1行空けて、読みやすく。「3、4行ほど文章が続いたら、1行空ける」ぐらいのイメージで。
・強調したい部分を太字にしたり、下線を引いたりするのはOK。ただ多用しすぎると読みにくくなるので注意。
・色を変える、マーカーを引く、は読みづらさにつながるため、最小限に。
6:「署名」を工夫する
署名は、相手に「自分は何者なのか」を伝える役割を持っています。必要以上に装飾する必要はありませんが、社名や部署名、連絡先などのほかに「伝えたいことを一言入れる」のは効果的だと思います。
新製品情報など自社の情報が乗っているURLや、注力商品・サービスの一言情報などでもいいですし、自身の近況を一言添えれば読み手に「あなた自身」を印象付けることができるでしょう。私の場合は、新刊の書籍が出たら「最新刊『〇〇』発売中」などと入れています。
なお、以前目にして感心したのは、「今日は何の日」「今日の花」などを入れている署名。つまり、毎日署名を書き換えているということ。頻繁にやり取りする人を少しでも楽しませようとする心配りを感じ、メールを開くのが楽しみになりました。あくまで私個人の感想ですが、参考までに…。
7:メールは即レスが基本。遅くとも24時間以内に
これは「受信側」としての心配りです。メールへの返信がなかなか来ないと、相手は不安に思うもの。こまめにメールをチェックし、目を通して返信の必要があるものはその場でどんどん返していきましょう。受信日から日付が変わってしまった場合は「遅くなり申し訳ありません」の一言を添えるといいでしょう。
逆に、こちらからの依頼メールに早く返信が来たら、「早々にご返信をいただきありがとうございます」「無理を言って申し訳ありませんでした」など、相手の気持ちに寄り添いお礼を返信するといいでしょう。相手が自分のために時間を割いてくれたと感じたら、感謝の気持ちを言葉にするのはメールにおいても同様です。
なお、在宅勤務の人が増えたことで、夜遅い時間に会社PCで仕事をする人も増えているようですが、夜中にメールを出すのは避けたほうがいいでしょう。PCメールを会社のスマートフォンに転送している人は少なくありません。送信時刻の指定機能を活用するなどして、夜中に着信音を鳴らしてしまわないよう気を付けましょう。
メールだからこそ「人間らしい温かみのあるやりとり」を
顔の見えないメールでは、行き違いや誤解が生まれやすいもの。簡潔に情報伝達をと思って送ったものが、「血が通っていない」「事務的」と受け取られたり、良かれと思って書いたことが、相手には批判的に感じられたりする恐れもあります。当たり前のことではありますが、受け取る側の事情や立場に立って考えることが、ビジネスメールにおいても重要です。
クライアント相手のビジネスメールであっても、相手の気持ちに寄り添った温かさを感じるメールは、相手との距離をぐっと近づける効果があります。何度かやり取りし、気心が知れてきた相手であればなおさら、挨拶やごく少量の「雑談」を加えるなど、人間らしい柔らかさをプラスしてみることをお勧めしたいですね。