2020年7月24日の東京2020オリンピック開催が近づいてきました。東京2020オリンピック・パラリンピック期間中には、多くの外国人が日本を訪れます。
「街で外国人に道などを聞かれたら、英語で答えられるくらいにはなりたい」
「簡単な日常会話ができるようになって、観光客を案内したり、外国人の友達を作りたい」という方も多いのでは?
そこで今回はイングリッシュ・ドクター?西澤ロイさんに、東京2020オリンピックの前に英語力を高めておく方法をご紹介いただきます。
英語への苦手意識が「やる気」を損なっている!?
東京2020オリンピックを良い機会として、数年前から英語力をなんとかしたいと思っているものの、うまく英語が身につけられていない人や、そもそも重い腰が上がらない人も少なくないのではないでしょうか。
日本人にありがちな2つの「英語病」
実はそこには、多くの日本人に共通する原因があります。私はイングリッシュ・ドクター(英語学習の“お医者さん”)として、英語が上達しない原因を「英語病」に分類しています。その原因は特に、「エゴイヤ病」と「アイキャント症候群」という2つの英語病が影響しているのです。
まず「エゴイヤ病」(英語、イヤー!)は、英語嫌い、もしくは英語学習への苦手意識などがある英語病です。特に学生時代の経験で、たくさんの単語や文法などを暗記させられてしまうことで、エゴイヤ病にかかってしまう人は半数以上います。
その影響で、改めて英語の勉強をやり直そうとするも「やる気不全」が起こります。やる気が出なったり、やる気の継続が難しくなってしまうのです。
特に、多くの人がやっている英語学習は、単語やフレーズを暗記するような勉強になりがちです。そのような暗記型の学習には、なかなかやる気が出づらいもの。また、うまく覚えられないかもしれませんし、覚えることができたところで、使う機会がないとすぐに忘れてしまうかもしれません。
正しい英語で上手に話す必要はない
そして、もう1つの英語病「アイキャント症候群」は「自分は英語ができない/話せない」という、否定的な思い込みです。学校での英語の授業で、バツをたくさんつけられた経験がある人が多いはずです。スペルが違う。細かい文法が間違っている。空欄に正しい単語を入れられない…etc。
そのせいで、「正しい英語」というものがどこかにあり、それを暗記することが英語学習だと思い込んでしまっている人が多いのです。
しかし実際には、英語での日常会話の大部分は、わずか1000単語程度の中学英語で行なわれています。さらに、外国人同士が英語で会話する際には、少しくらい間違っている人も、上手ではない英語を堂々と使っている人もたくさんいます。
そんな中、日本人だけが「正しい英語を使わなければ…!」などと無意識に考えてしまい、その結果、英語を使おうとしないのは、ただただもったいないと言えます。
フレーズ集で英語を暗記してはいけない理由
では、英語をどのように学べば良いのでしょうか?
いきなり、単語やフレーズ、英文などを暗記しようとすることはオススメできません。なぜなら、それは「あなたが言いたい英語」とは限らないからです。
フレーズ集などに載っているのは、比較的使われるケースの多い表現かもしれません。しかし仮に、便利な表現が100個載っている英会話フレーズ集があった時に、その中であなたが実際に使いたいと思えるものはいくつあるでしょうか?
おそらく、ほんの一部でしょう。もし覚えようとするならば、その一部だけにとどめるべきです。間違っても、フレーズ集に載っている表現を全部暗記しようとするべきではないのです。
大阪城を英語でどのように紹介するか
例えば、観光のための英会話の本などで、大阪城について以下のような英文があったとします。
(このお城は元々、豊臣秀吉によって1598年に建てられました)
私だったら、このような英文を暗記して言いたくはありません。なぜなら、豊臣秀吉という名前を出したところで外国人には通じないでしょうし、具体的な年号にも全く興味がないからです。日本語で考えてみてください。あなたがもし大阪城の観光ガイドで、日本人に対して説明をする際に、「日本語での説明文」を覚えてしゃべると思いますか?
そもそも日本語でやりもしないことを英語でやろうとするのは、全くオススメできません。日本語であれば、言いたいことを言うはずです。英語であっても同様で、言いたいことを言えるように学習すべきなのです。言いたいことをベースにして英文を考えると、例えば以下のように、内容が大きく変わってくるでしょう。
(この城は1590年に天下を統一した秀吉によって建てられました)
・There was a famous samurai, Hideyoshi. Many people called him “Monkey” behind his back because he looked like one. And he built this castle a long time ago.
(「サル」に似ていて、多くの人が隠れてそう呼んだ有名な侍がいます。彼がずっと昔にこの城を建てました)
・This castle was first built in the 16th century. But it had a fire several times.
(このお城は最初、16世紀に建てられたのですが、何回か火事にあっています)
なお、「king(王)」という表現に対して、「秀吉は王ではない」などと思ってしまう人もいることでしょう。正しい情報が必要な時もありますが、あくまでもケースバイケース。英語でのコミュニケーションを優先するならば、少しくらい正しくなくても分かりやすいことや、自分の知っている単語で表現できることの方が大切なのです。
正しい情報にこだわったせいで、何も伝えられなくなったり、英語学習で挫折してしまったりしたならば、それこそ本末転倒ですから。
日常会話ができるようになる英語学習法とは?
自分が言いたい英語表現をノートに書きためよう
「自分が言いたいこと」をベースにして英語を学ぶというやり方は、従来の英語学習法とは大きく異なりますので注意が必要です。
まず、用意するべきものは以下の2つです。
● 単語カード
使い方はシンプルです。ノートに、自分が言いたい英語表現(単語、フレーズ、文)などを書きためていきます。このノートが、言いたい英語表現だけが書かれている、あなただけの「単語帳」となるのです。
そして、それらの英語表現を覚える/言えるようにするために、単語カードを使ってください。表に、日本語訳を、そして裏に英語を書きます。そして、単語カードをパラパラとめくりながら、表の日本語を見て、英語を思い出し、口で言うのです(頭の中で思うだけでなく、声に出して実際に言うのがオススメです)。
単語カードというと、苦しい暗記をしたイヤな記憶が頭をよぎる人も少なくないかもしれません。しかし、それとは使い方が全く違いますので安心してください。まず、覚えるためではなく、思い出す練習をするために使います。覚えようとしてはいけません。常に、英語を口に出して言う練習をしてください。
また、その単語カードに書かれているのは、あなたが言いたい英語表現だけ──。つまり、「覚えたくもない単語」を「暗記」しなければならなかった過去のやり方とは全く違うのです。
英語で何を言いたいか具体的に考えよう
英語で簡単な日常会話ができるようになりたい──。そう思う人が真っ先にやるべきなのは、自分が具体的に何と言いたいかを考えることです。
しかし、「アイキャント症候群」にかかってしまっていると、まず誰かに教わろうとしてしまい、この具体的な一歩が踏み出せていない人が多いのです。当たり前のことですが、あなたが言いたいことは、あなたにしか分かりません。一体どんな場面で、どんなことを英語で言いたいのでしょうか?
例えば、道案内をしたいとします。そうすると例えば、以下のような表現が、あなたが言いたいことの候補に入るのではないでしょうか。
・Turn left/right.(左/右に曲がります)
・Go along this road for about 200 meters.(この道に沿って、約200メートル進んでください)
・Go past a Starbucks.(スタバを越えて進みます)
・You can’t miss it.(見逃すことはありません⇒行けば絶対に分かりますよ)
・Take the Yamanote Line and get off at Meguro.(山手線に乗り、目黒で降りてください)
・It’s three stations away.(3つ目の駅です)
これらのフレーズを、まるまる暗記しようとすることはオススメできません。ノートに書くのは、自分が言いたいものだけに絞りましょう。また、自分が言いやすいように言い換えた方が良いでしょう。
例えば「Go past a gas station.」のように「ガソリンスタンド」に変更してもよいですし、「Get off at Shinjuku.」(新宿駅で降りて)などのように、アレンジは自由です。
また、正しい英語できちんと言わなければ…と思うと、ハードルが高くなってしまいます。例えば以下のように、単語を並べるだけでも通じますし、ジェスチャーを組み合わせるのも良いことです。
・50 meters. Five-Zero.(50メートルです)※5と0を手で示しながら
・Yamanote Line. Meguro. Three stations.(山手線で目黒です。3つ目です)※threeのところで、手で3を作る
オススメの観光地を英語で表現してみよう
あなたが外国人にオススメしたい観光地はどこでしょうか? いきなり英語で言おうとするのではなく、まずは日本語で言いたいことをしっかりと考えましょう。例えば…
⇒There are two exciting shows on Wednesday in Shinjuku. Techno Circus and Shinjuku Comedy Club. They are both produced by a performance group, Siro-A. They won the Golden Buzzer in America’s Got Talent. And you get to see world-famous comedians like Yumbo Dump and WES-P.
⇒You should go to Samurai Museum in Kabuki-Cho, Shinjuku. It’s less than 10 minutes’ walk from the station. You can wear a samurai armor and a helmet and take photos. You would look great on Instagram.
ご参考までに英語も併記しておきましたが、もし、この中に「言いたい」「使える」と思う表現があれば、ぜひノートにメモして、単語カードで言う練習をしてください。
このように、自分の言いたいことが明確になっていれば、英語表現を調べることができるようになります。例えば、上記のようなオススメスポットのウェブサイトには、日本語だけでなく、英語でも説明があるかもしれません。
また、旅の情報サイトである「トリップアドバイザー」を見れば、英語でレビューが書かれていたりします。そういった中から、使えそうな英語フレーズを活用しましょう。
また、Google翻訳なども便利です。キーワードとして「鎧 英語」のように入力して検索すれば、英語に訳してくれます。もちろん、機械翻訳は精度の問題があり、中には通じないものもあるかもしれません。
しかし、いちいち「これで通じるのかな?」などと考えてしまっては、前に進めません。実際に使ってみて、もし通じなければその時に修正することをオススメします。
まとめ:暗記ではなく、「練習試合」で経験値を積もう
東京2020オリンピック本番前に練習しておく
さて、2020年の7月に東京2020オリンピックが行なわれますが、そこでいきなり本番を迎えるのではなく、事前に英語を使う練習しておいた方が良いでしょう。日本には既に、たくさんの外国人観光客が訪れていますので、ぜひ「練習試合」のつもりで実際に話しかけ、経験値を積んでおくことをオススメします。
話しかけたり、うまく通じなかったりすることを恥ずかしいと思ってしまう人もいるかもしれませんが、「旅の恥はかき捨て」という言葉があります。旅行しているのは相手の外国人のほうですが、恥をかいたところで何の問題もありません。どんどん恥をかき捨てていきましょう。
本格的に練習をしたければSkype英会話のようなサービスを使って練習するのもありです。道案内用の教材などがきっと用意されているはずです。
言える英語を1つずつ増やしていこう
「英語が話せるようになりたい」と考える人が多いですが、どうやったら英語が話せるようになるのかを分かっている人は少ないと言えます。英語の上達というものをシンプルに捉えるならば、「自分で言うことのできる英単語やフレーズが1つでも増えること」──。
まず、言いたいことを日本語で具体的に考えてましょう。次に、それを英語で言えるように調べたり、誰かに聞いたりしてください。そして、ノートと単語カードを併用して練習してみてください。
苦しい暗記などは一切必要ありません。あなたの言いたいことが、英語で言えるようになり、それがどんどん増えていくのですから、むしろワクワクしませんか? ぜひ楽しく練習して、実際に外国人の方々に対して使ってみてくださいね。
著者プロフィール
西澤ロイ(にしざわ・ろい) イングリッシュ・ドクター
TV・ラジオでおなじみのイングリッシュ・ドクター(英語の“お医者さん”)。英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)他、著書多数(⇒)。さらに、ラジオで4本のレギュラーがオンエア中。特に「木8」(木曜20時)には英語バラエティラジオ番組「スキ度UPイングリッシュ⇒」が好評を博している。★「イングリッシュ・ドクター」公式HP(⇒)