役職・部署を取り払った「バリフラットモデル」で、個々の力を最大限に活かす――「GOOD ACTION」アワード受賞・株式会社ISAO 前澤俊樹さん

働くあなたが思いを持って動き出し、イキイキと働ける場を作っていく。そんな可能性を秘めたアクションに光をあて、応援する「GOOD ACTION」アワード(※)。リクナビNEXTが主催するこのアワードの過去の受賞者にインタビューをしていく本企画。第2回目となる今回は、2018年度に受賞した株式会社ISAOの前澤俊樹さんに、取り組みの経緯や効果、「GOOD ACTION」受賞後の変化についてお聞きしました。

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※「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION」アワードは、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。

▲株式会社ISAO 前澤俊樹さん

ISAOは1999年創業。ゲーム機向けネットワークサービスからスタートし、現在は、コミュニケーション型目標達成サービス『Goalous(ゴーラス)』、認証サービス『Mamoru PUSH』、ビジネスコンシェルジュツール『Mamoru Biz』、クラウドマネジメントサービス『くらまね』などを手がけています。ISAOが受賞した取り組みは、「バリフラットモデル」の導入。バリ=「超」、フラット=「階層のない組織」の意。役職・部署を全て撤廃し、個人とチームが最大限に力を発揮する組織運営を実現させました。

目的は、「情報のオープン化」「個の価値の最大化」

――「バリフラットモデル」へ移行したのが2015年10月とのことですが、どういう背景から導入に踏み切ったのでしょうか?

前澤 当時から、会社の情報を全社員にオープンにする文化はあったんです。自社プロダクトである『Goalous』を活用して、情報を共有していました。しかしその一方、部署単位で情報をクローズにしがちな部分もあり、「中途半端だな」と感じていたんです。

それともう一つ、管理職層から「現場に戻ってプレーヤーとして働きたい」という声が少なからず上がっていた。経営側としても、プレーヤーとして価値を発揮できる人材を、管理だけ行うポジションに置いていていいのか……という課題意識が徐々に明確になってきたんです。

そこで、より情報をオープンにし、個々の強みが活かされるように、役職・部署がないフラットな組織への転換を図ったんです。

――大きな変革ですが、社内から反発などはありましたか?

前澤 反発というより、「戸惑い」が大きかったですね。それも管理職側ではなく、メンバークラスに動揺が広がりました。これまで指示を出してくれていた上司が存在しなくなるわけですから。

――そんなメンバー層の不安を、どのように払拭したのですか?

前澤 社内情報を徹底的にオープン化することで、誰もが現状を把握して、自分の行動を決めたり、会社へ提案できたりする体制を整えました。個人の目標や活動は『Goalous』で共有します。

また、上司・部下という関係の代わりに、「コーチ制度」があります。メンバーが自分のコーチを指名し、コーチはメンバーの成長サポーターとして、キャリアの相談に乗るんです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「コーチ制度」と「おせっかいを焼く風土」で一人ひとりの成長を支援

――皆さん、自分のコーチとしてどんな人を選ぶのですか?

前澤 担当業務のスキルを磨きたい人などは、「ティーチング」を求めて同職種の先輩を指名するケースが多いです。一方、「視野を広げたい」といったような「コーチング」を求める人は、他職種の人を選んでいます。エンジニアが、企画職や営業職のコーチを指名するといったように。

私は30代ですが、50代のメンバーからも指名を受けています。お互い、目指すゴールや戦略の共有はできていても、アプローチ方法が違っていたりするので、自分とは違うタイプの人を選ぶこともあるわけです。

コーチは2~3年で変わるケースが多いですね。そのコーチから学びたいことを吸収できたら、新たな学びを求めて次のコーチを指名する。

――コーチに指名された人は、皆さん、快く引き受けるのですか?

前澤 我々は、「ミッション」「ビジョン」「スピリッツ」という、一般的にいう「経営理念」「行動指針」といったものをとても大切にしているんですが、その「スピリッツ」の中に「家族的キズナ」という項目を設けているんです。

フラットな組織構造は、一見にドライにも見えますが、「家族的な絆を大切にする」という思想面でカバーし、ウエットに保っています。コーチに指名された人はもちろん、全メンバーが仲間に対して「おせっかいを焼く」風土を築いています。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

全員の活動状況を可視化。プロジェクトへのアサインの仕方が変わった

――「バリフラットモデル」の導入から4年。現在、新たに取り組んでいることはありますか?

前澤 「バリフラット1.5」とか「2.0」みたいな感じで、どんどん進化させていくための施策を打っています。

一つは、コーチングの効果を高めること。コーチングの研修やコーチ自身のレビューを行うほか、「惰性でやっていないか」「この組み合わせのままでいいのか」などのチェック機能を働かせるなどして、コーチ制度のブラッシュアップを図っています。

また、情報のオープン化もさらに進めています。例えば、クライアントへの納品情報。どんな背景で・誰が・どんな技術を使い・どんなソリューションを提供したか、といった情報を、『Goalous』を使って共有しています。

なお、各メンバーがどんなプロジェクトで、どんな活動をしているかも全社にオープンにしています。以前から、誰がどの仕事にどれだけの工数をかけたのかが、『tadashi』という工数集計システムを通じてわかるようにしていました。そして最近では、各メンバーが「今後どれくらい工数が空きそうか」「どんなことにチャレンジしたいか」といったことを表明するようにしたんです。

――それによって、どんな効果が?

前澤 納品情報の共有を通じて、誰がどんなスキル・ノウハウを持っているかがわかり、どのメンバーの身体が空いていて、どんなことをやりたがっているかがわかる。それにより、適切な人材をプロジェクトにアサインすることが可能になります。メンバーが、他にチャレンジしたいことがあるにも関わらず、1つのプロジェクトに抱え込まれて身動きとれなくなるような事態を防ぐようにしています。

――社員さんとしては、希望するプロジェクトに参加しやすくなったわけですね。

前澤 以前は、新しい案件が来ると、関連プロジェクトのメンバーから人選していました。今は、新規案件を『Goalous』に投稿することで、誰もが情報をキャッチできるようにしています。すると、それをやりたいメンバーから手が挙がってくる。手が挙がらない場合は、「家族的キズナ」が発動し、周囲が「君はこれを経験することで成長できるんじゃないか」なんて、おせっかいを焼くわけです。

一人ひとりが主体性を発揮する組織へ

――「バリフラットモデル」へ転換して、一番良かったことは何だと思われますか?

前澤 「個が活きている」という実感がありますね。以前は、本来やりたかったことがあるのに、組織の事情に合わせてあきらめる……なんてことが結構あったと思うんです。今はそういうことはなくなりました。

従来の役割の枠を越えているメンバーもいます。例えば、情報システム部門で運用管理を行っていたメンバーは、その知識を活かして他社向けのソリューションも手がけるようになりました。以前の「所属型組織」で、上司が指示を下すスタイルなら、起こり得なかったことでしょう。

――皆さん、自分の知識・スキルを活かして新たなチャレンジをしている。

前澤 はい。そして、個々のメンバーのチャレンジが、会社全体の方針も動かしています。例えば、当社では「Voice UI」の受託も始めているんですが、こうした新しい領域へのチャレンジって、会社としてはなかなか一歩を踏み出す判断ができないことがある。採算が読めない取り組みに対し、会社としてリソースを割くべきなのか…、と。けれど、バリフラットモデルでは、決断するのはトップではなく、実際に取り組むメンバーなんです。会社側が案件情報を全社にオープンする際には、採算性やリスクの面も説明するのですが、「やるべきだ」という強い意思を示すメンバーがいて、周囲もそれに納得すれば、推進しやすくなります。

このほかにも、バリフラットモデルへの転換後に取り組むようになった案件は多数あります。メンバーから「この領域は自分のノウハウが活かせるから、今後の収益のために絶対やったほうがいい」なんて声が上がりますから。だから会社としても、既存の枠に収まらず、圧倒的に幅が広がっている感じがします。

――会社の方向性に対しても、社員さんが主体性を持って向き合っているんですね。

前澤 そうですね。逆に言えば、主体性を持ってないと生きていけませんので、一人ひとりがマインドチェンジをする必要があります。それができないメンバーに対しては、コーチが問い続ける。それでも変われなければ、皆でおせっかいを焼いて引き上げる。ここでも、「家族的キズナ」のスピリッツが発揮されます。1人に対し、とことん向き合う風土があるので、そこはしっかり時間をかけますね。

――全員が主体性を持つのはすばらしいのですが、それぞれが好きなことをやろうとすると、統制が取れなくなるようなことはないのですか?

前澤 そのリスクを防止するのが「オープンな情報共有」なんです。仮に誰かが好き勝手なことをして暴走しかけたとしても、個々の動きは全メンバーに見えているので、誰かが「これは大丈夫なのか」とアラートを出せる。オープンの良さは、そうした障害検知ができる点にもあるんです。不正の隠ぺいもしにくいですしね。

――今後はどんな取り組みを考えていらっしゃいますか?

前澤 これは僕が個人的に考えているんですが、「生産性」をテーマとしています。バリフラットモデル導入後、残業時間が半分に減ったんですよ。会議や上司への報告など、ムダな時間が省かれたので。「オープン」「バリフラット」で個を活かすと、生産性が上がることを証明したい。今の組織構造をベースに、より生産性を高める仕組みを創り、その効果を世の中に示していければ、と思っています。

世間からの評価とフィードバックで、新たな課題に気付く

――「バリフラットモデル」の実現により、「GOOD ACTION」アワードを受賞されたわけですが、受賞によって変わったことはありましたか?

前澤 取材を受ける機会が増えました。テレビ、新聞、ラジオ、雑誌、人事の専門誌やWebサイトなど。上下関係がないフラットな組織で、経営情報などをすべてオープンにすることは、一般的に「ホラクラシー」型組織と呼ばれ、注目を集めています。けれど、事例としてはベンチャー企業が創業当時から導入しているケースが多い。一方、我々は、創業20年で組織規模は100人以上、もともとはヒエラルキー型組織です。そこからホラクラシー型に転換した事例が世の中にあまりないので、そこに興味を持って取材いただけています。

テレビに出たときは、社員たちも家で観たようです。自分たちの会社がメディアに取り上げられたことを誇らしく思ってくれたようで、そこがうれしかったです。

それに、取材を受けて世間に露出すると「フィードバック」が得られます。第三者の目で評価されるし、突っ込んだ質問を受けてそれに答えられないと、「そこに課題がある」と気付くこともできた。そうしたフィードバックをもとに、ノウハウを体系的にまとめ直しました。自分たちを見つめ直し、気付かない部分に気付いてブラッシュアップしていくためにも、世間から評価を得る経験は重要だと思いましたね。

――ありがとうございました。

ライター:青木典子 写真:刑部友康
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