TOEICスコアは、英語スキルの目安になるの?TOEIC満点が教える本物の実力をつける学習法

年間250万人以上が受験しているTOEIC L&R試験(以下、TOEIC)ですが、逆に「TOEICは役に立つのか」とも言われることがあります。一体どのような学び方をすれば、英語の実力がきちんと伴うのでしょうか。TOEIC満点(990点)を持ち、書籍『TOEIC L&Rテスト最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)が好評のイングリッシュ・ドクター?西澤ロイさんに、実際に役立つTOEIC学習法について解説していただきました。

TOEIC

TOEICスコアの「目安」にはどんな意味があるの?

英語学習は、なかなか難儀なものです。最初は何から勉強してよいか分からず、学んでいても上達の実感をなかなか感じられない――。そこに分かりやすい指針をくれるのが、数値化されたスコアを提示してくれるTOEIC L&R試験(以下、TOEIC)だと言えます。

例えば、「3カ月後に受験する」などという締切を設けることができますし、スコアという形で目標設定も容易になります。また、結果として目標が達成できたかどうかの判定もしやすく、スコアの推移という形で上達を可視化することができます。そして、試験の内容はビジネス英語ですから、多くの企業がTOEICを採用・活用してきたのも当然の流れだと言えると思います。

一般的にTOEICのスコアによって英語のスキル、習熟度がわかるといわれています。例えば下記は、TOEIC実施元のETSが以前出していたガイドラインです。皆さんも一度は見たことがあるのではないでしょうか?

220点未満:コミュニケーションができるまでに至っていない
220~465点:通常会話で最低限のコミュニケーションができる
470~725点:日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコ
ミュニケーションができる
730~855点:どんな状況でもコミュニケーションができる素地を備えている
860~990点:Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる

一方で、「TOEICは役に立たない」という声も時々聞かれます。

昔は上記の基準にも書いた通り、730点が海外赴任などのための目安とされ、業務上、支障のないレベルで英語が使えると信じられていましたし、860点以上持っている人は、「ノンネイティブとして十分なコミュニケーションができる」はずだとされていました。

ところが現実には、900点以上を持っているのに、英語で大してコミュニケーションが取れない人もいれば、スコアは600点台なのに、バリバリ海外で仕事ができる人もいます。一般的に言われているような、スコアと英語スキルの目安には、乖離している部分もありそうなのです。なぜ、そのような現象が起こるのでしょうか。逆にどうすれば、スコアをアップさせるだけでなく、本物の英語力をつけることができるのでしょうか。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

TOEICスコアだけでなく、本物の英語力を高めるには?

その秘密を解くカギは、人間の無意識の行動にあります。人は、無意識のうちに「楽な方に流れやすい」性質を持っています。それは、TOEIC対策の勉強をする際にも存在します。TOEICはマークシート式の試験であり、面接はなく、英語を話したり書いたりすることもありません。

つまり、「TOEICスコアを上げる」という目的に最適化してしまうことにより、本物の英語力が身につかなくなる恐れがあるのです。注意すべきポイントが3つありますので、1つずつ解説していきましょう。

ポイント1:消去法や出題パターンなどに頼らない

例えばTOEIC Part1の問題は、写真を見て、聞こえてくる4つの英文の中から、それをもっとも正しく描写しているものを選ぶ問題です。Part 1の10問は、ウォーミングアップ的な位置づけであり、問題としての難易度はあまり高くありません。例えば、写真に犬が映っていなのに「dog」という単語が聞こえてきたら、その選択肢は外れだと簡単に判断がつくでしょう。

しかしそのような解き方で、英語の実力を身に付けるのは難しいですよね。4つの英文を全てきちんと聞き取れるだけのリスニング力をつけようという意識を持つべきではないでしょうか。

また、TOEICを研究している指導者の中には、Part別に出題パターンや解き方のコツを教えてくれる人もいます。ネイティブスピーカーがTOEICを受験すると、スコアは950点前後だと言われます。それはつまり、実力がある人が受験をしたら、テクニックを一切使わずとも、大体正解できるということなのです。

テクニックという楽な方に流れるのではなく、堂々と正解できるだけの実力をつけようという意識を持つことが大切なことなのです。

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ポイント2:スピードを求めない

TOEICでは、2時間で200問を解かなければなりません。時間内に解き終わろうと思うならば、タイムマネージメントが重要な意味を持ちます。

ここで、多くの人がやってしまうのが、制限時間を設けて、その中で問題を解こうとする練習(タイムトライアル)です。これを、試験の直前対策として行なうのならばよいのですが、普段からそのような学習をしてはいませんか?

急いで問題を解こうとすると、読み飛ばすことになるでしょう。Part5の短文問題であれば、全文を読むことなく、正解が導ける問題がたくさんあります。Part7の長文問題も、設問を先読みすることで、長文を全部読まなくても効率的に回答することができます。しかし、普段から英文を読み飛ばすクセがついてしまったら、「百害あって一利なし」だと言えます。

問題を解くスピードというものは、速くしようとして身につくものではありません。ゆっくりと正確に考えるからこそ、次第に速さが伴ってくるものなのです。いきなり速く解こうとしたところで、「いいかげん」にしかなりません。ですからまずは、時間をかけてでも正確に英語を理解できる力を養うべきなのです。

ポイント3:正解を選ぶだけで終わりにしない

TOEICには、スピーキングやライティングのような、自分で英語を使うタスクはありません。意味を理解できればよいリスニングとリーディングだけであり、マークシート式の4択試験です(Part2のみ3択)。つまり、「4択の中から正確を選ぶ」という行動だけで学習が終わってしまうと、圧倒的に楽な方へと流れてしまうことになるのです。

スポーツに例えるならば、「実際にゴルフの練習をする」のと「ゴルフ“ゲーム”の練習をする」くらいの大きな差があるかもしれません。

実際のゴルフであれば、自分の手でクラブを持ち、スイングをしてボールを打ちます。しかし、ゲームであれば、コントローラーのボタンを押すだけ――。そのくらい単純化されているのが、4択から正解を選ぶという行為なのです。ボタンを押して、ゲームの中でボールを飛ばしたところで、実際にゴルフの腕前が上がるわけではありません。同様に、TOEIC問題を解くだけでは、英語の運用力にはつながらないのです。

では、運用力につなげるためにはどうしたらよいでしょうか? その答えはシンプルです。英語の実力がある人であれば、TOEICに出てくるような英語表現を使いこなして、コミュニケーションを取ることができるはずです。つまり、それを目指せばよいのです。

TOEICに出てくる単語や表現、文法などをしっかりと理解した上で、それらを自分でも使おうと練習してみる――。そのような意識を持つだけで、学習方法は大きく変わってきます。結果として、学習効果も見違えることでしょう。

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まとめ:目の前の「TOEICスコア」より「本物の英語力」を

何も考えずにTOEICを受験しようと思ってしまうと、知らず知らずのうちに、楽な方へと最適化をしてしまいます。そうすると、テクニックや推測などを駆使して4択の中から正解を選ぶことに腐心してしまい、実力が伴わなくなってしまうのです。

それは決して、あなたが手に入れたい英語力ではないはずです。楽な方に流されたり、TOEICに振り回されたりしないために大切なのが「目的意識」です。例えば、減量をするという目的や、消費カロリー数などの目標があれば、エスカレーターではなく階段を選ぶことが自然とできるでしょう。

英語学習においても、これまでお伝えしてきたように、

英文を全てきちんと聞き取れるリスニング力をつけること
● (時間をかけてでも)正確に英語を理解できる力を養うこと
TOEICに出てくる英語表現を使いこなし、コミュニケーションが取れる力をつけること

といった、本当の実力を養うことを目指していれば、ただ4択問題を問いて終わりにすることはなくなるはずです。

【参考記事:リスニング編】

TOEICスコアが高いのに英語力がない人が欠けていること<リスニング編>
なぜ「聞き流す」だけでは、英語リスニング力は上がらないのか?
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【参考記事:学習編】

TOEICのスコアUPと英語力UPを両立させる学習法<リーディング・文法編>
天才的な記憶力が発揮できる!「単語カード」の上手な使い方とは?
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【参考記事:コミュニケーション編】

社会人が英語を学習するメリット─語学の上達と人間成長は比例する?
自動翻訳で英語学習は不要になるの?
映画『マトリックス2 リローデッド』の英語フレーズから学ぼう

楽な方に流されてしまうことなく、意識を高く持ち続けてください。実は、TOEIC自体は非常にクオリティの高い、良い試験であり、実際にビジネス英語で使われる表現がバンバン出てきます。そこからきちんと学ぼうという意識さえ持っていれば、たくさんのことが学べます。ぜひ「問題を解くだけで終わりにしない」ことをオススメします。

★連載:「英語学習のコツ」をお届けする記事一覧はこちら

著者プロフィール

西澤ロイ(にしざわ・ろい) イングリッシュ・ドクター

TV・ラジオでおなじみのイングリッシュ・ドクター(英語の“お医者さん”)。英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)他、著書多数()。さらに、ラジオで4本のレギュラーがオンエア中。特に「木8」(木曜20時)には英語バラエティラジオ番組「スキ度UPイングリッシュ」が好評を博している。★「イングリッシュ・ドクター」公式HP(

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