AI時代に人間らしく生きるヒントを映画『マトリックス2 リローデッド』のセリフから学ぼう

『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)など数々の英語学習に関する著書を出されている西澤ロイさん。英語の“お医者さん”として、英語学習の改善指導なども行っている西澤さんに「正しい英語学習の方法」についてお話しいただくこのコーナー。第22回目の今回も大好評企画の「映画に学ぶ英語フレーズです。今回は映画『マトリックス2 リローデッド(The Matrix Reloaded)』を題材にしたいと思います。

プロフィール

西澤ロイ(にしざわ・ろい) イングリッシュ・ドクター

英語の“お医者さん”として、英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)他、著書多数。さらに、ラジオで4本のレギュラーがオンエア中。特に、木8の番組「めざせ!スキ度UP」が好評を博している。

人気映画『マトリックス(The Matrix)』の続編となる『マトリックス2 リローデッド(The Matrix Reloaded)』が2003年に公開されました。

第1作の高い評価に比べると、評価が分かれる作品となっています。しかしその舞台は、人間がAI(人工知能)にほぼ支配され、人類がマトリックスと呼ばれる仮想空間に生きている世界。つまり、私たちがこれからのAI時代をうまく生きていくためのヒントがたくさん詰まっています。深いセリフと一緒に味わっていきましょう。

「仕組み」を気にしていますか?

That’s how it is with people. Nobody cares how it works as long as it works. (The Matrix Reloadedより)

人とはそのようなものだ。それが動作する仕組みなんて、正常に動作する間は誰も気にしない。

これからの時代は、AIのせいで人間の仕事の多くは奪われるとも言われています。コンピュータは、人間よりもずっと早いスピードで、かつ正確に物事をこなすことができますから。

それに対して私たち人間は、思った通りのことができるとは限りません。例えば「英語を身につけたい」と思って勉強しても、うまく身につかずに挫折してしまうケースも少なくありません。また、例えばタバコや間食などをやめようと思っても、なかなかやめることができなかったり……。

そもそも、私たちの「意識」は、自分で認識できる「顕在意識(≒意思)」と、認識でき(てい)ない「潜在意識(無意識)」に分けられます。そのうち顕在意識はほんのわずかであり、潜在意識が97~99%を占めていると言われています。心臓を自分で動かすことができないように、私たちは無意識に支配されているのです。

だから、意思があっても物事がその通りにうまくいくとは限りません。無意識の自分はコントロールできないですし、潜在意識が邪魔をすることもあります。

逆に言えば、無意識をうまく扱えるようになることが、コンピュータに対抗したり、うまく共存できたりするために大切なのではないでしょうか。

前回の記事においては、仮想と現実の区別をテーマに、脳の仕組みや、我々の思い込みについてお伝えしました。こういった物事の仕組み、物事の本質に対する理解を深めることが、これからの難しい時代を生き抜くための大きなヒントになるはずです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「目的」を分からずに「手段」を求めていないか?

預言者(The Oracle)からのアドバイスを受けて、主人公のNeo(ネオ)らはマトリックスにおける最古のプログラムである、メロビンジアン(The Merovingian)に会いに行きます。来た理由を問われて「鍵師(The Keymaker)を探している」と答えますが、上記のように言われてしまいます。

But this is not a reason. This is not a why.

The Keymaker himself, his very nature, is a means. It is not an end.

And so to look for him is to be looking for a means to do what? (中略)

You are here because (中略) you were told to come here. Then, you obeyed.

(でもそれは理由ではない。「なぜ」ではない。鍵師から鍵を手に入れることは手段であり、ゴールではない。手段に過ぎない彼を探すことは、一体何をするための手段なのだ?(中略)

あなたがここにいるのは、来なさいと言われて従ったからに過ぎない)

メロビンジアンの指摘は、他人のアドバイスにただ従って行動していることは、出来事に対する反応であり、単なる因果関係に過ぎない、ということ。それでは、ただ無意識に動いているのと同じであり、あらかじめプログラムされたコンピュータと何ら変わりはないのです。

例えばですが、英語を学ぶ理由が「将来的に必要だから」「会社からTOEIC試験を受けるように言われた」などと言う人も少なくないでしょう。英語はコミュニケーションのツールに過ぎませんから、それでは目的を見失ったまま手段を求めていることになります。

その手段の先にあるものは一体なんなのでしょうか? 「なぜ」なのかという理由をしっかりと認識し、そして見失わないことが大切ですよ。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

この世を司るルールとは?

メロビンジアン(The Merovingian)は因果関係を司るプログラムであり、Neoらに以下のように伝えます。

You see, there is only one constant, one universal. It is the only real truth.

Causality. Action and reaction. Cause and effect. (中略)

There is no escape from it. We are forever slaves to it.

(いいかい、普遍的に決まっているものはたった1つしかなく、これが唯一の真実なのだ。作用と反作用、出来事とそれに対する反応、原因と結果。つまり因果関係だ。(中略)

そこから逃げることはできない。我々は永遠に因果関係の奴隷なのだ)

例えば、ご飯を食べて、空腹が満たされること。逆に食べ過ぎて、太ってしまうこと。全てに原因があり、それにふさわしい結果があるだけ――それが因果関係です。

努力をしたのに結果が出なかった…といって、諦めてしまったり、「自分には才能がなかった」と言ったりする人がいますよね。それは残念ながら、この因果関係を誤解していると言えます。

努力は裏切りません。努力にふさわしい結果しか出ないのです。

ただし、その努力の方向性が正しい(自分の目的と合っている)かどうかは別問題です。また、その努力が十分かどうかも分かりません。

「結果が出なかった」としたら、それは単に「望んだ結果とは違った」だけであり、その現実を受け入れることが大切です。もし結果が気に入らないのであれば、できることは、新たに原因を作り直すことだけですから。

努力をしている時には、自分がやっていることはなかなか目に見えません。しかし、「結果」が出ることにより、より目に見える形になり、元々自分が作った「原因」が目に見えやすくなるのです。

ですから、短いサイクルで、きちんと望む結果が出ているかをチェックすることも大切でしょう。そして、もし異なるようであれば、修正や工夫をする(繰り返す)必要がありますね。

それは本当に「意思」からきた「選択」なのか?

全ては因果関係から逃げられない、という説明に対して、モーフィアス(Morpheus)は

Everything begins with choice.

(全ての物事は「選択」から始まる)

と反論しますが、それに対するメロビンジアンの答えが以下です。

No. Wrong. Choice is an illusion created between those with power and those without. (中略)

“Why” is the only real source of power. Without it, you are powerless.

(いや、そうではない。選択というのは、力あるものと力なきものの間に存在する単なる幻想なのだ(中略)。

「なぜ」という理由が唯一であり本物の、力の源だ。それがないから、あなたには力がない)

ここで言う「選択(choice)」は本来、顕在意識でなされるものでしょう。しかし、「なぜ」という理由を持たない選択は、無意識に行なわれた単なる「反応」に過ぎず、そこには力がないとメロビンジアンは指摘しています。

さきほど、手段の先にある目的が大切だとお伝えしましたが、その「なぜ」には力がありますか?(あなたは力を感じていますか?)

例えば、「英語が必要だ」という理由にはあまり力がありません。一体ゴールは何なのでしょうか? そこをしっかりと考えたり、見据えたりすることが大切なのではないでしょうか。

また、このことは「支配する者」と「支配される者」という構図にもつながります。コンピュータのプログラムは基本的に、システムの一部として因果関係の中で作動しているだけです。

また、マトリックスの世界において、ほとんどの人類はコンピュータによって支配されています。仮想世界の中で、無意識の反応に過ぎないものを「自分の選択」だと思い込み、因果関係の中に埋もれているのです。

つまり、「なぜ」という力を持たずに無意識に生きることは、コンピュータに支配されることにつながってしまう――。それが、映画『マトリックス』シリーズが私たちに示してくれている警鐘ではないでしょうか。

さいごに

もちろん、「人間らしさ」を示す要素としては、感情や愛など、他にも様々なものがある、と考える人もいるでしょう。それらも1つの答えでしょうし、いろんな答えがあってしかるべきだと思います(ちなみに第3作の『マトリックス3 レボリューションズ(The Matrix Revolutions)』には愛を語るコンピュータプログラムも登場します(笑))。

ただ、「なぜ」が力を持つという指摘は、個人的にも非常に深いと思います。TEDトークにおいて「ゴールデンサークル」という概念を提唱したサイモン・シネック氏(Simon Sinek)も「なぜ(Why?)」の重要性を語っています。

私自身、この記事を書くために映画を見返していて、様々なことの「なぜ」ともっと向き合う必要があると改めて感じました。ぜひ多くの方にも、「なぜ」をもっと考えることで、より良い未来を手に入れていただけたらと思います。

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