前回の記事で、AIによる機械翻訳の限界についてお伝えしました。
もちろん、これからも翻訳の質は上がっていくはずですが、だからといって英語を学ぶ必要性はゼロにはなりません。一般的に言われていること以外にも、様々なメリットがあるのです。
そこで今回は、『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)など数々の英語学習に関する著書を出されているイングリッシュ・ドクターの西澤ロイさんに、社会人が英語を学ぶことによるメリットを解説していただきます。
目次
よく言われるメリットは「収入が増える」「世界が広がる」
まず、多くの人が考えるメリットとして、収入が増えることが挙げられます。社会人が英語というスキルを持っていることにより、外国語が全くできない人と比べると、仕事も見つけやすくなるでしょうし、給与もUPする傾向があります。
また、「英語ができることによって世界が広がる」――と考える人も多いのではないでしょうか。インターネット上にある情報の9割は英語だと言われています。日本語だけしか分からないのと、英語も分かるのとでは、アクセスできる情報量が圧倒的に異なってきます(ただし、機械が自動翻訳してくれる時代においては、これは「学ぶメリット」とはいえないかもしれません)。
上記のようなポイントは、英語を「コミュニケーションのツール」だと考えた場合のものだと言えます。それに対して私は、英語という言語を、自分の殻を破ってくれる「成長ツール」だと捉えています。
ただ英語ができるだけでは人生は変わらない
「英語ができるようになったら、何がしたいですか?」
日本人に対してこのような質問をすると、例えば「海外旅行がしたい」「外国人の友達をたくさん作りたい」などという答えが返ってくるケースが結構あります。では、そういう人たちは日本各地を旅行したり、日本人の友達をたくさん作っているか……と尋ねると、「NO」という答えが大半です。英語ができることによって、違う自分に生まれ変われる──という幻想を抱いている人が多いのです。
これを機械翻訳に置き換えると、いくら翻訳の精度が上がり、仮に英語学習をする必要がなくなったとしても、多くの人は海外にも行かないし、外国人と交流しない可能性が高い――という推論ができます。多くの人は「コンフォートゾーン」と呼ばれる、自分が快適に感じる行動範囲からなかなか外に出ないものだからです。
逆に、海外旅行に行く人は、英語があまりできなくても行ってしまいます。外国人の友達がたくさん欲しい人は、英語が少しくらい下手でも、体当たりでコミュニケーションを取るなどして、既に友達を作っているのです。
つまり多くのケースでは、英語スキルの問題ではない――ということ。大切なのは、「英語ができるかどうか」よりも、「どのような意識でいるか」なのです。
日本の人口は1億人ちょっとですから、世界の人口70億人と比較すると、わずか2%弱。「日本の常識は世界の非常識」と言われるように、日本という枠の中ばかりで考え、行動してしまうことにより、ガラパゴス化が起こっているわけです。
もちろん、1億人というのもかなり大きな数字です。これから日本の人口は先細りしていく可能性が高いですが、ガラパゴスの中で生きていこうとする選択が悪いわけではありません。ただし、少なくない人が感じているであろう生きづらさは、日本という枠から出ることで解消するケースもたくさんあります。その脱出口にある「扉」が英語だと言えるのです。
英語学習を通じてコミュニケーション力が高まる
これは、私自身が強い実感を持っていることですが、英語を学び、上達していく過程で、コミュニケーション力をだいぶ高めることができました(元が低すぎたのですが…)。今でこそ、人前で英語学習に関する講演をすることや、TVやラジオなどのメディアに定期的に出て話をすることができるようになりましたが、子どもの頃の私は、今でいうところの「コミュ障」でした。非常に無口でしたし、友達をうまく作ったり、会話を続けたりすることも本当に苦手でした。
でもそこでもし、「あなたはコミュ障だから、日本語とコミュニケーションを学んだ方がいいよ」などと言われても、素直に受け入れることはできなかったでしょう。しかし私は、英語に出会い、話せるようになりたいと思うことで、必死に勉強しました。その過程でコミュニケーションに関して、様々な殻を破ることができた、いや、破らざるを得なかった……とも言えます。
元々、空気を読むのも苦手だった私が、今ではだいぶ読めるようになったのは、英語のおかげです。英語を学ぶ過程を通じて、日本語を今までとは違う視点から見ることができ、コミュニケーションについて学びなおすことができたのです。
海外旅行に例えると分かりやすいかもしれません。日本の中で生活していると、近すぎて見えないものや、当たり前すぎて意識しないものがたくさんあります。しかし海外に出てみると、その国との違いが目につくことで、日本の特徴が浮かび上がります。また、外国人から直接質問されて気づくことも多いでしょう。
つまり、日本に住み、日本の文化に浸り、日本語だけで生活することは、ある意味で「ものさし」を1本しか持っていないようなもの。しかし、そこで英語などの外国語を学び、海外の文化に触れ、外国人と交流することにより、「新たなものさし」が手に入ります。複数の「ものさし」を持つことで、物事が比較しやすくなり、よりハッキリと見えるようになるのです。
英語の上達と、人間としての成長は比例する?
英語ができるようになる別の大きなメリットは、人間としての成長にもつながることです。特に、英語を学んで身につける過程にこそ、成長の種がたくさんあります。
外国語として英語を学ぶ場合、最初は何も分からないところからのスタートとなります。さらに、そこから一つずつ分かることを増やしていく、地道な作業の繰り返しが求められます。
例えば、700点というTOEICスコアでも、海外への旅行や出張などがこなせた経験でも、どんなものでもよいのですが、それを支えるたくさんの努力がそこにはあったはずです。つまり、英語学習で一定以上の成果を出すことで、「努力が報われる」という成功体験ができるのです。
このような成功体験を、人生で味わえることはそれほど頻繁にはないでしょう。もちろん、それだけ難易度が高いと言えるかもしれませんが、英語は言語ですから、正しいやり方で学べば誰でも身につけられます。
間違いを恐れずに挑戦できる自分も手に入る
また、英語でコミュニケーションすることは、間違いを恐れている人には無理です。「自分には無理」「才能がないからできない」などという自己否定をしていては、本当の意味で「英語ができる」ようにはなりません。英語の上達を手に入れるためには、理想には程遠い現状を受け入れ、できない自分を肯定し、そして間違いを恐れずに行動することが欠かせないのです。
英語を身につける過程で、上に挙げたような様々な、貴重な体験がたくさん得られます。それらが成功体験と結びつくことにより、結果として「新たなことに挑戦できる自分」が副産物として手に入るのです。何も分からない新しい世界に飛びこみ、そこで間違いを恐れずに行動し、一つずつ積み上げる努力ができる――そういう新たな自分が、英語スキルの他に手に入ります。自分への自信がつく、と言うこともできるでしょう。
まとめ:社会人だからこそ大きなメリットが得られる
これは、大人(特に中学生以上)になってから英語を身につけるからこそ得られる特権です。子どもの頃から英語圏で育った帰国子女などの場合には、(もちろん努力が必要なのは間違いありませんが)英語はずっと短期間で獲得できます。大人になってから、長い時間をかけて英語を身につけることには、他の何物も提供できない、ものすごい価値があるのです。
英語は、通じればよいだけの単なるコミュニケーションのツールだと考えるのも1つの方法です。しかし、視点を変えれば、英語はあなたのことを人間として大きく成長させてくれるツールにもなるのです。
そのような意識をもって英語学習をすることで、上達も成長も加速することでしょう。ぜひ英語を堂々と使いこなし、より広い世界に羽ばたいてください。
最後に、読者の方の中には、英語がある程度できるようにはなったが、いまだに自分に自信が持てないという人もいるかもしれません。そういう方は、ぜひご自身の過去の道のりを振り返り、どのくらいの努力を重ね、そして、どれだけの成長をしてきたのかをじっくりと考えてみることをオススメします。思い出せないという方は、もし英語力がゼロに戻ってしまったとしたらどうなるかを想像してみてください(私だったら、翼がもがれたように感じます)。ぜひ、ご自身の努力や成長、通ってきた道のりをしっかりと肯定してあげてください。
著者プロフィール
西澤ロイ(にしざわ・ろい) イングリッシュ・ドクター
TV・ラジオでおなじみのイングリッシュ・ドクター(英語の“お医者さん”)。英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)他、著書多数(⇒)。さらに、ラジオで4本のレギュラーがオンエア中。特に「木8」(木曜20時)には英語バラエティラジオ番組「スキ度UPイングリッシュ⇒」が好評を博している。★「イングリッシュ・ドクター」公式HP(⇒)
▶あなたの知らない自分を発見できる。無料自己分析ツール「グッドポイント診断」