リーダーに抜擢されたら、自信を持ってメンバーを導き、着実に成果を出したいですよね。でも理想とは裏腹に、チームメンバーはバラバラ、会議では周囲に流されてしまうのが現実。そこで、患者さんへの貢献を目指す製薬業界でブランドチームの司令塔となり、海外の仲間からも一目置かれているというアッヴィ合同会社の玉置紀子さんに話を聞きました。
玉置さんは、外資系製薬会社のシニアブランドマネージャー。がん患者さんに一刻も早く新たな治療と希望を届けるため、多忙な現場でリーダーとして活躍しています。アメリカで開催される会議でも積極的に意見を述べ、日本では30代にしてブランドチームを統括。そんな玉置さんが実践している5つの仕事術とは、どのようなものなのでしょうか?
▲アッヴィ合同会社 シニアブランドマネージャー 玉置紀子氏
目次
仕事術1.グループディスカッションを通してビジョンを創出
――玉置さんは、異なる部署から集まった約20名のメンバーを統括しているそうですね。チーム内でベクトルがぶれないよう気をつけていることはありますか?
玉置:ビジョンを共有するため、チームを結成する段階でオフサイトワークショップでのディスカッションを行っています。最初はお互いのことをよく知らないので、ワイワイガヤガヤしたラフな空間でアイスブレークをおこなってから、本題に入っていきます。
私のチームには、開発、メディカルやマーケティングなど、さまざまな部署からメンバーが集まっています。各部署の意見を踏まえたうえでチームで徹底的に議論し、ビジョンを創出していきます。
仕事を進める過程で多少ぶつかることはありますが、大問題に発展したことは一度もありませんでした。全員が目指すべきビジョンに合意しているから、進路が明確なんです。
仕事術2.意見を言わないメンバーの考えを引き出す
――メンバーの中には、なかなか自分の意見を言えない人もいますよね。そういう場合、どうやって考えを引き出していますか?
玉置:ご想像の通り、ディスカッションをすると、どうしても意見を言う人と言わない人に分かれてしまいます。でも、すばらしいアイデアを持っているのは発言の多い人だけではないですよね。普段なかなか意見を言えない人が、いい考えを持っていることも多々あります。
そのため、意見を言わない人がいる場合はグループディスカッションに切り替えています。意見を言う人と言わない人に分かれて話し合ってもらうんです。そうすれば発言の少ない人でもおのずから意見を言うようになりますよ。ディスカッションの内容にもよりますが、人数は各グループ4〜5人くらいがベストですね。
仕事術3.定期的に戦略を見直す
――ブランドチーム立ち上げと同時に策定した戦略に改定を加えることはありますか?
玉置:1年経てば、メンバーも状況も市場環境も変わります。そのため私のチームでは、どんな明確な戦略があったとしても、定期的に見直しています。
まずはメンバーを収集し、グループに分かれて話し合います。議題は状況によって変化しますが、「現在の戦略に何が足りないのか」「見直すべきポイントはなにか」という2つのテーマが中心で、社内・外の環境変化を捉え検討します。
各グループ真剣にディスカッションをしたら、最後に全体で戦略を決定。以前と比べて方向性が大きくは変わることはありませんが、見直すと新しい観点が加わります。新メンバーを含む全員が戦略を改めて理解し、考え方をそろえることが成功の秘訣だと考えています。
仕事術4.プレゼン前は忙しくても必ず15〜20分練習
――チームリーダーになると人前で話す機会が増えますよね。緊張を和らげる方法があれば教えてください。
玉置:前職も外資系の企業で、製薬業界に携わっていました。そこでブランドマネージャーになった頃は、100人以上いる営業担当者の前で戦略を話さなければならず、その度に緊張していました。
なんとかして気持ちを楽にしたいという思いで行っていたのは、プレゼンテーションの練習です。日々忙しく時間の捻出が難しい状況でしたが、たとえ15〜20分でも練習すると気持ちが落ち着きました。そうするうちに、だんだんプレゼンテーションにも慣れてきたんです。今はどんな会議でも全く緊張しませんよ。
仕事術5.困難な会議は3つのポイントで制する
――玉置さんは世界中からリーダーが集まるグローバル会議にも参加し、発言されているそうですね。どうすれば自分の意見に自信を持って話せるようになりますか?
玉置:ポイントは3つあります。1つ目は「理解」です。どんな会議でも内容を正確に理解しなければ始まりません。なぜ相手がそのような主張をしているのか、自分の頭の中で整理したうえで返さなければ一方的な発言になってしまいます。相手の話を理解することが基本です。
2つ目は、「自分の立場」。どのような立場での発言を期待されているのかを考えたうえで話すようにしています。そうすれば会議の流れを壊すことなく、自然に相手にとって価値のある発言ができますよ。
3つ目は単純ですが「勇気」です。参加者の多い会議で母国語でない英語で意見を述べたり、知らない人の前で発言したりするのは誰だって恥ずかしいものです。私自身、躊躇してしまったこともありました。最終的には、勇気を持って突破するしかないと思います。
「70:20:10の法則」でさらなる高みを目指して
――さまざまな仕事術によってチームをまとめ、成功体験を積み重ねているんですね。玉置さんの今後の目標を教えてください。
玉置:直近の目標はリーダーシップを磨いていくことです。そのためにも、Michael M. LombardoとRobert W. Eichingerによって書かれた『The Career Architect Development Planner』という本に載っている「70対20対10の法則」を実践していきたいと考えています。この法則は、人が成長するために必要なものをパーセンテージで表すと、70%は経験、20%は他者からの学び、10%は本や研修による学習になるという考え方です。
「社員の成長を基盤として、最先端の科学技術と先進的な取り組みにより、患者さんの笑顔に貢献し続けるバイオ医薬品企業になる」を企業ビジョンとして掲げているアッヴィでも、キャリア開発においてこの「70対20対10の法則」を推進しています。私も、日々の業務を通じて多くを学び、上司や同僚からも新たな視点やアドバイスをもらった上で実践し、今後も成長していきたいと思っています。
先ほどもお話したように、私が統括するブランドチームが取り扱っているのはがんの医薬品です。患者さんの中には、治療によって助かる方もいれば、悪性度の高いがんにより亡くなってしまう方もいらっしゃるのが現実です。
そんななか、一人でも多くの患者さんに、新たな治療法を届けることで、患者さんとその家族の人生に価値を提供したい・・・そんな想いで新たな希望を創るため、私たちでなければできないことは何かを考え続けていきたいと思います。
取材・文:華井由利奈 写真:刑部友康