『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)など数々の英語学習に関する著書を出されている西澤ロイさん。英語の“お医者さん”として、英語学習の改善指導なども行っている西澤さんに「正しい英語学習の方法」についてお話しいただくこのコーナー(→)。第25回目の今回も大好評企画の「映画に学ぶ英語フレーズ」です。
今回はレディーガガ主演映画『アリー/スター誕生』を題材にしたいと思います。
プロフィール
西澤ロイ(にしざわ・ろい) イングリッシュ・ドクター
英語の“お医者さん”として、英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)(→)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)(→)他、著書多数。さらに、ラジオで4本のレギュラーがオンエア中。特に、木8の番組「めざせ!スキ度UP」が好評を博している。
レディー・ガガの名曲で英語を学ぼう
1937年に公開された映画「A Star Is Born」(邦題:スタア誕生)の4度目のリメイクとなる作品「アリー/スター誕生」において、大成功を収めるアリー役としてレディー・ガガが出演しました。
レディー・ガガと言えば、奇抜な衣装に派手な個性……というイメージをお持ちの方も多いのではないかと思いますが、本映画中ではオーソドックスな、それでいて非常に魅力的なシンガーとして描かれています。
また、作中で歌われる曲も素敵なものが非常に多いです。それらの歌詞に含まれる英語表現について今回は解説したいと思います。
「胸がいっぱい」を英語でどう表現するか?
まずご紹介したいのは、『Always Remember Us This Way』という曲です。
このタイトルと同じフレーズが歌詞の中にも登場し、日本語字幕では「ずっと忘れない こんな2人を」と訳されていました。
この曲のサビの部分の歌詞を引用します。
So when I’m all choked up
But I can’t find the words
(胸がもういっぱいで、でも言葉が見つからない)
Every time we say goodbye
Baby, it hurts
(さよならを言う時、いつも心が張り裂けるの)
まさにラブソングという感じの歌詞ですね。chokeという動詞は「息が詰まる」「窒息させる」といった意味合いを持っています。ちなみに以前、アメリカのブッシュ大統領がプレッツェルをのどに詰まらせた事件がありましたが、それは「choke on a pretzel」と表現します。
ここでは「I’m (all) chocked up.」というふうに、受け身の形になっています。つまり、chokeは文字通りには「窒息させる」という意味合いです。またupは本来「上」という意味ですが、容器に水を入れていくと、水面が上がり、やがて「中身がいっぱいになる」ように、「完全に」「すっかり」というニュアンスも持つのです。
ですからchoke upは、文字通りには「完全に息を詰まらせる」という意味であり、ここでは受け身ですから「完全に息が詰まる」、それがイディオムとして「胸がいっぱい」という気持ちを表しているのです。
後半の「it hurts」は「痛い」時に使う表現です。恋愛っぽく「心が張り裂ける」というふうに意訳してみました。
なお、この曲はYouTubeなどでも聴けるようになっていますが、1点ぜひ注意して聴いてほしいポイントがあります。それが「韻(rhyme)」です。歌の歌詞では韻を踏むのが基本的なルールとなっています。
先ほどの歌詞を再び引用しますが、普通に並べてみると、どこで韻を踏んでいるのかが分かりづらいでしょう。
So when I’m all choked up
But I can’t find the words
Every time we say goodbye
Baby, it hurts
しかし、実際に歌を聴くと、以下のように対応していることが分かります。
So when I’m all choked up But I
can’t find the words
Every time we say goodbye
Baby, it hurts
babyという単語により、うまく間を取っており、I と bye、words と hurts が韻を踏んでいるんですね。words と hurts は最後の子音が微妙に違いますが、その前の伸ばす母音(/ər/)が同じです。
○wishを使った仮定法をどう理解すればよいか?
もう1曲取り上げるのは、非常に美しいラブソング『I’ll Never Love Again』です。この曲の冒頭で、文法的に言うと「仮定法」が出てきます。
以下にその部分の歌詞を引用しますが、いきなりwishという単語で始まっているのは「I wish」の略です。
(さよならを言えたら良かったのに…)
I would’ve said what I wanted to
(伝えたいこともあったし)
Maybe even cried for you
(多分あなたのことを求めたかった…)
最初に、仮定法の基本について解説しておきます。仮定法ではifを使うというイメージを持っている人が多いでしょう。実際には、「あり得ないことや事実に反することを仮定する」のが仮定法であり、必ずしもifを使うとは限りません。ここで登場しているwishは、仮定法と一緒によく使われる動詞です。
(本当に参加したいんだけど…)
例えばこのように言ったならば、「I could join」の箇所が仮定法になっています。仮定法には、時制を1つ過去にずらすという特徴があります。つまり、この文では元々は「I can join」なのです。
例えば、パーティーや何らかの会合に誘われた時に、予定が合わずに参加できないとします。その時に「“参加できる(I can join)”というあり得ないことを願う」のが「I wish I could join.」であり、つまり「参加できない」という意味になるのです。
では『I’ll Never Love Again』の歌詞を見てみましょう。まず、「I wish I could’ve said goodbye.」と言っています。「could’ve(=could haveの略)」というのがよく分からないと思う人もいるかもしれませんが、時制が1つ過去にずれているだけです。
元の形としては、haveを取り除いて「I could say goodbye」、つまり「“さよならを言えた(I could say goodbye)”というあり得ないことを願っている」のです。
次の文は、「I wish」とつなげると
になりますね。願っている内容は、元の形として「I would say what I wanted to」、つまり「言いたいことを言おうとした」という意味ですね。
そしてもう1フレーズ「maybe even cried for you」は、動詞の形がcriedですから、「would’ve cried」というつながりになっています。
つまり、時制を戻した元の形は「I would maybe even cry for you」ですね。「cry for you」というフレーズは「あなたのことで/あなたのために泣く」という意味合いになることもありますが、それだと意味が通りません。
cryは「泣く」だけでなく「大きな声を出す」ことも意味します。つまり、「cry for ~」は、大声や感情を出して「強く求める」という意味合いなのです。ですから、「I would maybe even cry for you」というフレーズが表しているのは「多分あなたのことを強く求めようとさえした」ということなのです。
つまり、「さよならを言う」「言いたいことを伝える」「あなたを強く求める」といったことが、もしあなたに会えるのが最後だと知っていればできた/そうしていたのに……ということを願っているのがこの歌なのです。
映画の中で印象的だった恋愛フレーズ
最後に、映画の中で登場した、印象的だったフレーズを2つご紹介したいと思います。恋に落ちた二人が使っている言葉ですので、恋愛でも使えるフレーズとして覚えておくのも良いでしょう。
まずは、アリーが言ったセリフです。
(あなたに抱いているこの気持ちは特別なの)
not…everyという語順になっていますので、これは「部分否定」であり、「everybodyに対して……というわけではない」ということです。
つまり、直訳するならば「私は全員に対して、このように感じるわけではない」という意味合いになります。「特別な感情を抱いている」ということを、ちょっと遠まわしに伝えているのですね。
そしてもう1つのフレーズは、ジャクソンがアリーに言う表現です。
(君のことをもう一目だけ見たかったんだ)
映画中では、立ち去ろうとするアリーを呼び止めた上で、このフレーズが使われていました。こんなふうに言われてみたい、という人も多いかもしれませんね。
「アリー/スター誕生(A Star Is Born)」は、しみじみと良い映画であり、登場する曲も非常に素敵ですので、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか?
<映画情報>
映画『アリー/スター誕生(A Star Is Born)』(→)
配給:ワーナー・ブラザース映画
オリジナル・サウンドトラック:『アリー/ スター誕生 サウンドトラック』(A Star Is Born)(→)