プレゼンの上達を阻む5つの勘違い【前編】──澤円のプレゼン塾・レビュー編

プレゼンテーションのスキルアップをしたいと思っている方たちは、それぞれの方法で練習を重ね、上達を目指していることと思います。それはそれで素晴らしいことなのですが、間違った方法で練習し続けても、上達するどころか逆に妨げになるリスクもあります。
今回は、上達を阻む「ありがちな」5つの勘違い【前編】をお届けします。

【勘違い-1】とにかく長い時間練習すれば上達する

「とにかく、上達には練習量だ!」と思って、何度も何度も自分の作ったスライドを部屋にこもって練習し続ける人がいます。

人によっては、会議室を飛び出して、カラオケボックスにこもりきりになって練習に没頭するツワモノもいます。

ひたすら集中して、自分なりの完成形を思い描きながら、プレゼンを繰り返して練習する。なんとなく、これなら成功しそうな気がしますよね。

でも、実際のところどうなんでしょう。もちろん、練習を数多くこなすことは大事です。ただ、「間違ったやり方」を繰り返したところで上達は望めないでしょう。

それどころか、最悪の場合「下手なプレゼン」が癖として身についてしまうリスクもあります。特に「やってはならないパターン」が完全に身についてしまうと、今度は修正するのが大変です。

例えば、だらしなく見える立ち方や、「基本的に」「逆に」などつい言いがちなフレーズ、意味なく口に出る「えーっと」「あのー」といった言葉(これを「フィラー」と言います)などは、意識しない状態で繰り返して練習すればするほど、治らないレベルまで定着してしまうリスクがあります。

100回間違った方法で練習しても、上達はほとんどすることはないでしょう。それどころか、もっと事態は悪い方向へと進むかもしれません。自分のプレゼンがいい結果を生むことがなく、どんどん自信を失ってしまうかもしれません。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

【対策その1】自分を「客観視する」機会を多く持つ

ではどうすればいいか。答えはいたって簡単。自分を「客観視する」機会を多く持つことです。

一番の特効薬は、自分の話している姿をビデオで見ることです。これはかなり苦痛を伴います。そう、自分を知るということは、時として最も残酷な事実を知らされることになるものなのです。

とはいえ、自分の今の状態を知らないことには、決してプレゼンテーションが上達することはないのです。

自分がどんなふうに立ち、どんな言葉を使い、どんな振る舞いをしているのかをしっかり認識してください。修正点が具体的にわかるはずです。

今は、特別な機材がなくても、スマホ一つで撮影できます。そして、撮影そのものはそれほど長い時間する必要はありません。5分程度で十分な情報が得られます。「あれ?こんなにフラフラしてたの?」「やたらと『えーっと』って言ってるなぁ」「あの手の動きは何なんだろう…」いろんな発見があるはずです。

得られた情報から修正すべきポイントをピックアップして、意識して練習する。その結果をまた撮影してみる。それの繰り返しです。そうすれば、毎回上達を実感できるはずです。上達の実感は、大いなるモチベーションになります。騙されたと思って、ぜひともお試しください。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

【勘違い-2】上手い人の真似をすれば上達する

今は世界中のプレゼンテーションが、いつでもどこでも視聴することができます。電車で移動中にも、手元のスマホでスティーブ・ジョブズさんのスタンフォード大学の卒業式でのスピーチを見ることもできるでしょう。

オフィスにいながらTEDの動画でシェリル・サンドバーグさんから最高のキャリア構築について学ぶこともできます。彼らは熱いパッションがあり、それを表現する抜群のプレゼンテーションスキルを併せ持っています。大いに学ぶところがあるのは間違いありません。

では、ジョブズさんの真似をすれば誰しもうまくプレゼンテーションができるものでしょうか?黒いタートルネックにジーンズをはき、短髪にしてメガネをかけ、ステージを歩き回りながら話すスタイルをそっくり真似れば、オーディエンスは熱狂するでしょうか?答えがNOである事は誰でもわかりますよね。

なぜか。トップレベルのプレゼンターは、プレゼン技術だけが突出しているのではなく、その人の歩んできたキャリアや蓄積された知識、くぐってきた修羅場が礎となってプレゼンテーションとしてアウトプットされています

人生の厚みがプレゼンテーションとして表現されているんですね。我々が少々表面を真似したところで、説得力は生まれません。それどころか、上っ面だけ取り繕った印象になってしまって、むしろ不自然なプレゼンテーションになりかねません。

【対策その2】話さなくてはならないストーリーを再定義する

では、諦めるしかないのでしょうか?安心してください、そんなことはありません。我々なりにできることはあります。

それが、ずっとこの連載でも言い続けている「ビジョン」や「核」なのです。これは、人の数だけ存在しています。あなたが話さなくてはならないストーリーがあるはずです。それを再定義することが、プレゼンテーションをより生き生きとしたものにする大事なポイントなのです。

また、「特に上手ではない人のプレゼンを見る」のも大変勉強になります。これはいくらでも目にする機会があるのではないでしょうか(笑)。

会社の会議で誰かがプレゼンテーションするのを見るのもよし、イベント会場でIT企業の社員が冷や汗流して話してる姿を見るのもよし、学校などで先生が話してる姿を見るのもいいでしょう。

そのような人たちを見て「この部分を直せばいいのに」「自分ならこう表現するな」「この人はこういう癖があるんだ」と、「仮想インストラクター」としてそのプレゼンテーションを見るのです。(別に本人に伝える必要はないです。それは「余計なお世話」になることがほとんどなので…)

そうやって他の人のプレゼンテーションから得られた情報を元にして、「人の振り見てわが振り直す」わけです。周りの人は、何らかの形であなたの先生になってくれます。常に観察することにしましょう。

【勘違い-3】話す内容を全てメモしておけば上達する

時々見かけるのが、PowerPointやKeynoteの発表者ノートに、ありとあらゆる情報を書き込んでいる人です。

トークスクリプトだけではなく、その時に作る表情や、手の動かし方、相手のリアクションの予想まで書いてある場合もあります。

これは人それぞれの好みがあるので、特に否定はしませんが、全てを書き起こしたからといって、必ずしも上達に役立つわけではないことはお伝えしておきたいと思います。

今までに澤がプレゼンテーションをお手伝いさせていただいた人たちの中にも、たくさんメモを書き込んでいる方がいました。理由を聞いてみると「全部書いておかないと不安だから」「頭が真っ白になった時にメモがあれば復活できそうだから」といった感じの答えが返ってきます。

確かに、書いておくことで精神的な安定が得られるのであれば、プレゼン成功へのプラス要素になりそうです。その一方で、その書かれたテキストに引っ張られてしまい、プレゼンの質が下がるリスクもあります。

人間は書いてあることをついつい読みたくなる性質があります。特に、自信が持ちきれない状態でプレゼンをすると、書かれている文字を追いがちになります。結果的に、生き生きとした躍動感が感じられない「ただ読んでいるだけ」のプレゼンテーションになってしまいます。

淡々と文字を読み上げるプレゼンを続けていると、聞いている側を確実に眠りの世界へと誘ってしまうことでしょう。そうなると、本来のプレゼンテーションの目的である「聞いてる人たちが何かの行動を起こすきっかけを作る」というゴールからは程遠いものになるでしょう。

また、想定よりもプレゼン時間が長くかかってしまった場合、「やばい、全部読めないかも!」と目の前のスクリプトに急かされることになるかもしれません。

逆に、時間より早く終わりそうになると、「う~~、話すことなくなりそうだぞ」とこれまた焦ってしまうかもしれません。いずれにせよ、自分で書いたスクリプトに自分自身が振り回されるという、本末転倒な展開に陥る可能性があります。

【対策その3】キーワードだけをメモしておく

オーディエンス熟睡必至の「棒読みプレゼン」に陥らないためにはどうすればいいでしょうか。

澤がお勧めする方法は、「キーワードだけをメモしておく」です。忘れてはならない数字や、印象づけのためのエピソードの概要、間違いの許されない製品名や人名など。できれば、単語だけをメモしておいて、他の言葉は自分なりに選んで話すと、自然と生きた言葉を使ったプレゼンになります。

洗練されていなかろうと、少々言いよどもうと、生きた言葉でプレゼンをする方がずっと価値があります。

手元のメモに操られるようなプレゼンテーションからは解放されて、ぜひご自身の言葉で語ってください。その方が上達の近道です。

 ⇒ 後編に続く

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著者プロフィール

澤 円(さわ まどか)氏

大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術
Twitter:@madoka510

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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