前回はプレゼンに使うスライド全体の枚数を決め、作業ボリュームを把握するためのコツを紹介しました。
澤円のプレゼン塾・第18回は、スライド作成の作業時間を短縮し、効率的にスライドを作るためのテクニックをお伝えしていきます。
スライド作成の初期段階
全体の大体のボリュームが決まったら、いよいよスライドの作成です。私の連載を読んでいる方々は、すでにプレゼンテーションの「核」ができ上がっているという前提で話を進めてまいりましょう。
そうしなければ、ここに書かれた内容を実践しても、プレゼンテーションが成功する保証はありません。まだ読んでいないみなさんは、ぜひとも連載の最初から読み直してください(笑)。
さて、作成の初期段階にやることはなんでしょうか。白紙のスライドを立ち上げて、ゼロから文字を打ち込み始めますか?
そういう主義の方もいると思いますが、私がまずやることは、スライドのたたきを作るための資料集め「コピペ(コピーアンドペースト)」です。
皆さんのコンピュータの中や社内の情報共有サイトには、たくさんのPowerPointファイルがあるのではないでしょうか。インターネット上にも、広く共有されているスライドが多数あります。(PDF化されているものもありますが)
まずは、そのようなファイルをたくさん集めてきて、使えそうなスライドを拾い集めてペトペト貼り付けましょう。最初は、設定された枚数より多くなってもOKです。
とにかく材料集めをして、継ぎ接ぎだらけのPowerPointファイルを一つ作って、名前を付けて保存しましょう。
この作業には、いくつかの意味があります。
1.作業時間の短縮
当然、ゼロから作るよりも、すでに公開されている資料を参考にするほうが作業時間を短くすることができます。
作成時間が短くなれば、実際のプレゼンテーションの練習をする時間を長くとることができ、本番への備えが万全になります。
2.全体像の把握
とりあえず一つのファイルにしてしまうことで、スライド全体の構成を俯瞰することができるようになります。
PowerPointでファイルをタイル表示で見れば(Keynoteならライトテーブル)、全体の流れを把握することができます。
そうすることで、自分のイメージしているプレゼンの流れと対比させて、必要なスライドと不要なスライドを仕分けることができます。
また、不足している情報が何かがわかるので、新しく作る必要があるスライドが明らかになります。
3.技術的裏付けの手がかり集め
すでに作られた資料に書かれた内容から、技術的な裏付けを得るためのヒントを手に入れることができます。
元の資料を盲信するのは危険ですが、そこに書かれた内容から調べたりテストしたりすることで、技術的検証を短期間で終わらせることができます。エンジニアは先人が踏んだ地雷の跡を無駄にしてはいけません。
4.精神的な負担の軽減
最初にある程度の枚数を用意してしまえば、ゼロから生み出す労力に比べれば、精神的に随分楽になると思います。(少なくとも澤はそう感じます)
真っ白なスライドを前に必死に脳を働かせるよりも、ある程度のヒントが与えられている状態の方が、いろいろなアイディアが生まれやすいと思います。
最終目的はプレゼンテーションが大成功することなので、遥か手前の段階で疲弊する必要はありません。大いに楽をしましょう。
この「コピペ」をすることによるスライド作りには、守らねばならない「鉄の掟」があります。
それは、「出所の不明確な資料」や「作成者が分からない資料」、「著作権で問題になりそうな資料」を決して使わないことです。資料に書かれている内容について責任を持てない状態でプレゼンテーションをするのは、大変危険。自殺行為と言ってもいいくらいです。必ず裏付けが取れて、かつ権利関係でも問題を起こさない資料を使うのが鉄則中の鉄則になります。
「誰が作ったか分からないけど、社内でやたら流通している資料」なんかも要注意。もしそういった資料を使う場合には、いい機会なので自分で裏付けを取りましょう。そうすれば、晴れて公式文書に格上げとなります。
再利用しても問題のない資料をいかに自分でストックしておくか、というのもいいスライドを作る上で大事な素養になります。自分のコンピュータの中に、安全安心なスライドの貯金を作りましょう。
スライド作成の中期段階
ある程度枚数を揃えたところで、全体の流れを整えるためにアジェンダを作ります。
最初にアジェンダを作る人もいると思いますが、私の場合はアジェンダを後から決めます。というのも、先にアジェンダを決めてしまうと、それに縛られて全体の流れを整えられなくなる可能性があるからです。
寄せ集めのスライドを見渡して、プレゼンテーションの流れをなんとなくイメージしてから、アジェンダを作り始めます。
この作業は、自分の中でプレゼンテーションの構成を再確認するために大事なポイントです。アジェンダの作成を通して、各章の中で伝えなければならない「核」をそれぞれ定義します。
これは、全体のプレゼンの「核」との乖離がなく、かつそれぞれの章の独立性も同時に定義する必要があります。
プレゼンテーションは、幾つかの独立した章をうまくコラボレーションさせることで魅力的になる、と私は考えています。話題が章ごとに大きく展開すると、聴衆は飽きることがありません。
大きな広がりを見せつつ、かつ一貫性を持たせる。そのためには、常に全体を俯瞰する必要があるわけです。
アジェンダはプレゼンテーションの俯瞰図なので、スライド全体をサマライズする作業と考えるのも、一つの方法です。
また、アジェンダの中でプレゼンの「山場」を想像するのも大事です。単にアジェンダのスライドを作る作業をするのではなく、自分がプレゼンテーションをしている姿を想像して、「この辺りでオーディエンスの意識を引きつけよう」とか「ここでサプライズを提供しよう」とか脳内でリハーサルをしましょう。
細かい部分は後からでOKです。なんとなくの雰囲気を脳の中で作ってください。
イベント的プレゼンテーションではなく、社内の報告ミーティングなどでのプレゼンテーションでも基本は同じです。ミーティング内でのプレゼンテーションの後に、参加者にどうなっていて欲しいのかをきちんと定義しなくてはなりません。
時間にも制限があるので、アジェンダで各章にかけられる時間をある程度見積もっておいて、脳内で流れを確かめます。
また、社内ミーティングなどでは、質問への対応で時間を使うことも想定しなくてはいけません。アジェンダ作りを通じて、全体の時間配分、トーン設定などを進めていきましょう。
アジェンダは、一度作ったら変えてはならないというものではありません。後に行うスライドのブラッシュアップ作業で不要な章や追加が必要なものが出てきたら、柔軟に変更していきましょう。ただし、その都度全体の流れを再確認することは忘れずに。
次回以降は、スライドの中身をいかに磨いていくかを説明したいと思います。
著者プロフィール
澤 円(さわ まどか)氏
大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界世界No.1プレゼン術」
Twitter:@madoka510
※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。