『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣』(明日香出版社)の著者である石川和男さん。石川さんは、建設会社総務部長・大学講師・専門学校講師・セミナー講師・税理士と、5つの仕事を掛け持ちするスーパービジネスパーソンです。そんな石川さんに今回は「行動のスピードを上げる前に意識したいこと」についてお聞きしました。
プロフィール
石川和男(いしかわ・かずお)
建設会社総務部長、大学、専門学校講師、セミナー講師、税理士と、5つの仕事を掛け持ちするスーパーサラリーマン。大学卒業後、建設会社に入社。管理職就任時には、部下に仕事を任せられない、優先順位がつけられない、スケジュール管理ができない、ダメ上司。一念発起し、ビジネス書を年100冊読み、月1回セミナーを受講。良いコンテンツを取り入れ実践することで、リーダー論を確立し、同時に残業ゼロも実現。建設会社ではプレイングマネージャー、専門学校では年下の上司の下で働き、税理士業務では多くの経営者と仕事をし、セミナーでは「時間管理」や「リーダーシップ力」の講師をすることで、仕事が速いリーダーの研究を日々続けている。
最新刊の『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣』(明日香出版社)ほか、『仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』(明日香出版社)など、勉強法、時間術などのビジネス書を6冊出版している。
突然ですが、みなさんは簿記試験を受けたことはありますか?
受けたことがある方なら共感していただけるかもしれませんが、試験中に響く電卓をたたく音、あの音を聞いてなんとなく不安に感じませんでしたか?
他の受験生が電卓をバチバチとたたくわけですが、そのスピードが速い速い。
この音で戦意喪失する受験生もいるとかいないとか。試験開始の合図とともに、わざと電卓を強く叩き、周りの受験生を不安にさせる人がいるとかいないとか。
しかし、冷静に考えてみましょう。
電卓をたたく速さと試験合格率は比例しません。
ここが面白いところで、電卓をたたくのが速い人は、確認のためもう一度たたき直す傾向にあるんですよね。確かめてみて数字が合わないと、さらにもう一度たたく。多い人だと最終的に三度四度たたくことになるんですね。
一方、電卓をたたくのが遅い人は、一度で正確に答えを出す傾向にあります。
結局、電卓をたたくという“行動”のスピードを速めて正確性に欠けるなら、一度で正確にたたく人とトータルでかかる時間は大差がないのです。むしろ三度、四度とたたくより、一度で正確に叩く人のほうが結果的に先に計算が終わることが多いわけです。
なんなら、三度四度たたいて数字が合ってないとめちゃめちゃ不安になるわけです。ちょっとしたパニックになり、ミスにつながりやすくなることもあるわけです。
「決断」が速いだけではダメな理由
ここでもう一つ例を。リーダーBさんは、「できるだけ早く行動をする」ことをモットーにチーム運営をしていました。しかし、このチームは残業が多かったのです。
その理由は、ミスややり直しが多発していたのが原因でした。
行動のスピードを速めようと心掛けることはいい。しかし、急いでやることで当然ミスが出やすくなります。いくら速くても、ミスが起きてしまっては元も子もありません。やり直しにも時間がかかってしまいます。
さらにミスがクレームに発展、生産性のないクレーム処理に多くの時間をとられることもあります。
考えずに行動し、前年と仕様が変わったことに気づかず、やり直しが出てくる…なんて悲劇がそこかしこで起こっているわけです。やり直すことで、時間を無駄にします。やり直しはストレスを生み、自分の心を乱します。イライラし、他の仕事も進まなくなります。負の感情が、さらなる時間の無駄遣いを生むのです。
「速く」よりも前に「正確に」
リーダーAさんは、あることを工夫していました。
それは「正確に判断をしたうえで決断をし、決断したことは速く進める」ということです。
つまり「速く行動する・スピードを上げる」よりも前に「正確に判断する・正確にやる」ということを意識しているのです。
行動のスピードだけあげても、それ自体が間違えていると、やり直しが生じたり、損失が発生する可能性があります。また、一方で正しい判断ができても、行動スピードが遅いばかりにライバルに先を越されたり、納期に間に合わない場合もあります。先に正しい判断を行い、行動のスピードを速める。このどちらも重要、そしてこの順序も重要なのです。
正しい判断のために「アウトプット」は重要
ではどうやって「正しく判断(=決断)」することができるのでしょうか?
正しい判断を行うためには「書き出してみる」という方法があります。判断が難しい場合、頭の中だけで考えていると混乱し、問題の所在が整理できず、決断が鈍る傾向にあります。そこで、その決断をしたことによるメリットとデメリットを、できるだけ多く書き出していくのです。
私は建設会社で働いていますが、今まで行ったことのない種類の工事を依頼される場合があります。
・新規の事業に投入する技術職員は何人必要か?
・待機職員が減るメリット、次の工事を行うのに技術者が足りなくなるデメリットとは何か?
・工期までの資金繰りは大丈夫か?
・協力してくれる会社はあるか?
・利益が出るか損失になるか?
・利益が出るならどれぐらい確保できるか?
・損失が出ても新分野の仕事のノウハウを身に着けることで今後の事業展開ができるか?
など、あらゆる角度からメリットとデメリットを書き出し、整理していきます。頭の中で考えるのではなく、アウトプットすることで問題の所在が整理でき、より正しい判断ができるようになるのです。
チームで共有して考える
さらに書き出すことで、今まで自分の頭の中だけで悩んでいた問題をチームで共有することができます。
チームのメンバーから様々な意見を聞くことで選択の幅が広がります。自分で考えるだけでは限界があることも、人の意見を聞くことで、よい知恵が浮かんだり、新たな発見がある場合があります。
残業だらけチームは、「行動のスピード」を上げることを重視します。たしかにスピードは重要ですが、間違えた方向に加速すると、その時間が無駄になり、やり直すことで時間も余計にかかるのです。