ITと音楽とNPOの仕事を同時にやってみた―元SE渡辺達文さんが歩む自由自在な働き方

複数の仕事を同時に行うパラレルワークが、新しい働き方として注目を集めています。今回お話をうかがった渡辺達文さんは、SEとして新卒入社した企業を退職後、ITコンサルとして独立。さらにはドラムコーチや複数のNPO活動など幅広い活動を続けられています。渡辺さんが歩む自由自在なキャリアは、これからの私たちの働き方にヒントを与えてくれます。

渡辺事務所 代表 渡辺達文さん

早稲田大学人間科学部卒業。新卒で独立系SIerに入社し、2012年に独立。
SEの経験を活かして、個人事業主向けの独自ツール開発から行政関連の大型案件まで、クライアントと対話をしながら設計開発を行っている。システム関連の他にも、企業やNPO等でセクターを越えて活動した経験を活かして、企業の業務支援を行う。
船橋情報ビジネス専門学校 元講師。情報処理推進機構(IPA) セキュリティプレゼンター。データサイエンティスト協会 会員。

「大企業でも安心できない」から、あえて中小企業で働く

――大学では人間科学部に所属し心理学などを学ばれていたとのことですが、卒業後に大学の専門とは異なるSEになったのはなぜでしょうか。

私が就職活動をはじめた頃、リーマンショックが起きたことでキャリアを真剣に考え直しました。あのとき「大企業でも安心できない」ということを実感したんですよね。そこで会社の名前で就職先を選ぶのではなく、ITの技術を身に着けられる会社を目指すことにしました。さらに、経営に近い方がいいと感じたので、あえて中小企業を志望したという経緯です。

それで、社員の98パーセントがSEという、独立系SIerに入社し、企業の業務システムを作る業務に携わっていました。私はもともとSEの知識や経験はなかったのですが、その会社では社員数がそれほど多くなかったこともあり、仕事をしながら技術を磨き、SEの業務をひととおり経験することができました。

――そして2012年に独立されたんですね。

そうです。結局その会社に勤めたのは2年間でしたが、独立のきっかけは、私が体調を崩してしまったことにあります。このままの働き方をずっと続けるのは無理だと感じ、ましてや定年の60歳まで勤めるなんてまったく考えられず、働き方を見直すことにしました。

「ちゃんとしたビジネス」を考えていたら、「音楽」をやりたくなった

――独立後のプランはどう考えられていたのでしょう。

実は当時、自己啓発セミナーのようなものに参加していたんですが、そこはマルチ商法と自己啓発が一緒になったようなところで、危うくだまされそうになったんです。幸い私はそこから抜け出すことができたんですが、この経験があって、「ちゃんとしたビジネスをしよう」という気持ちを抱きました。

そこで、まずはビジネスについて学ぼうと思い、地域の起業セミナーを受講したり、「社会起業大学」という社会人を対象にしたビジネススクールに通ったりしながら、自分のビジネスを考えていきました。

当時は社会課題をビジネスの手法で解決する「ソーシャルビジネス」がある種ブームになっていたので、私も、身の回りに鬱を抱える知人が多くなっているのを感じ、この問題をビジネスで解決しようと考えていましたね。もともと知っているITやビジネスのフレームワークを使えば、ビジネスになるのではないかと思って。

ところが、社会起業大学でこの事業プランを発表すると、一緒に受講していた方々から散々ダメ出しをされてしまって……。たぶん、自分の気持ちがちゃんと込められていなかったのでしょう。そこで、いったんプランをゼロにして自分がやりたいことを考えたとき、頭に浮かんだのは「音楽」だったんです。

――音楽、ですか。それは意外ですね。

そうですよね。でも、実は私は高校から大学まで、ドラムなどの打楽器を趣味で演奏していたんです。X JAPANの大ファンで、バンドを組んでいた時期もありましたが、社会人になるとすっかり音楽から遠ざかっていました。

そのことに気が付いて、「音楽を使った仕事をできないか」と真剣に考えるようになりました。とはいえ、いきなり音楽で仕事があるはずもないため、「ITコンサル」と「音楽」という2つの軸で個人事業主になることにしました

――音楽の仕事は、どのように切り開かれていったのでしょうか。

独立した当初は音楽に関するキャリアがなかったので、講師をしようにも、「もともとSEだった人でしょう」と見られてしまいます。そこで、なにかしら企業からの“お墨付き”が必要だろうと思い、「サイタ」というプライベートコーチを斡旋するサービスの審査を受けて、認定コーチになりました。ここから少しずつ仕事を増やしてきた感じです。

SEとして培ったキャリアを、コンサル業務に横展開

――ITコンサルの仕事の方は、いかがでしょう。

音楽と違って、ITコンサルの方はそれまでのキャリアと連続していますが、やはり最初に困ったのは「どこからお客さんを得ればいいのか」ということでした。実はいまだに新規開拓の営業方法はよくわかっていません。

ただ、幸いもともと勤めていた会社の社長が気にかけてくれ、紹介された案件から徐々に紹介ベースで受注を増やしていきました。もう独立して6年近くになりますが、本当に人の縁とラッキーだけで仕事が続いてきたような気もします(笑)。

――仕事の内容は、もともとされていたSEとは違うものなんですか。

そうですね。数十人規模の企業様をクライアントとして継続契約をいただき、週1回程度訪問してITに関するお悩みを解決するコンサルをするというもので、依頼される仕事も多岐にわたります。

具体的に仕事の中身を説明するのは難しいですが、「企業のIT部門」をイメージしていただけるとわかりやすいかもしれません。大きな会社にはIT部門があり、社内のITにまつわる問題に対処していると思いますが、中小企業の場合、IT部門がないため、私が外部のアドバイザーとしてサポートしているというわけです。

たとえば、「ホームページを発注したいけど、業者とのやり取りに不安がある」「SEO対策をしたいが、何から手を付けたらいいのかわからない」といった相談を受けることもありますし、単純に、「エクセルの使い方を教えてほしい」というものもありました。

あとは、「情報をまとめる」ということが私はもともと得意なため、クライアントのために業務マニュアルを作ったり、助成金の申請書をまとめたりという、ITとは関係しない仕事を受けることもあります。新規事業の企画に関わることもありましたね。

――多様なクライアントのオーダーに対し、すべて渡辺さんがおひとりで対応するのは大変ではないでしょうか。

もちろん私だけで対応できない問題もあります。そういうときは大手のIT企業などに頼る必要がありますが、大手に頼るためにも、ITに詳しい人間が窓口になる必要があるため、そのあたりを私が担っている感じですね。

NPOから社会貢献。さらに広がるパラレルキャリアの可能性

――渡辺さんは、ITコンサルや音楽のほかにも、さまざまなNPO活動をされていますね。簡単に内容を教えていただけますか。

仕事以外では、「無料塾」という経済的に苦しい子どもを対象にする塾のお手伝いをしているほか、病院や高齢者施設で演奏会をしている「森林浴音楽会」でWEBサイトを作ったり演奏をしたりということをしています。

さらに、私が長く関わっているのが、「ミャンマーファミリー・クリニックと菜園の会」という、医師の名知仁子さんが代表をされているNPOです。こちらはミャンマーの人たちに向けて、巡回診療や保健衛生の向上、家庭菜園作りといった支援活動をしている団体で、私はイベントの準備などをしています。

――独立後の渡辺さんの生き方は、とてもバラエティ豊かですね。これは、もともとやりたいと思っていたことを独立したことで実現できたということなのでしょうか。

どうでしょう。私としてはそれほど意識していないのですが、無意識に抱えてきた思いが行動につながってきたのかもしれません。ドラムのコーチは分かりやすいケースですが、コンサルについても、もともと関心のある仕事でした。

また、思い返すと、私はもらったお小遣いを全部募金箱に入れるような子どもで、もともと社会課題も気になっていましたから、それが今はNPOの活動につながったのかもしれませんね。

――後編に続く
文・小林 義崇 写真・刑部友康

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