『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)など数々の英語学習に関する著書を出されている西澤ロイさん。英語の“お医者さん”として、英語学習の改善指導なども行っている西澤さんに「正しい英語学習の方法」についてお話しいただくこのコーナー。第19回目の今回も、「海外アニメ映画に学ぶ英語フレーズ」です。今回は社会現象にもなった映画『アナと雪の女王』の主題歌『Let It Go』を題材にしたいと思います。
プロフィール
西澤ロイ(にしざわ・ろい) イングリッシュ・ドクター
英語の“お医者さん”として、英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『TOEIC最強の根本対策』シリーズ(実務教育出版)他、著書多数。さらに、ラジオで4本のレギュラーがオンエア中。特に、木8の番組「めざせ!スキ度UP」が好評を博している。
映画「アナと雪の女王」(原題:Frozen)では、エルサ役のイディナ・メンゼルさんが歌った主題歌『Let It Go』が大人気になりましたね。ただし、もっと世代が上の人には「レリゴー」ではなく「レリビー」、つまりビートルズの『Let It Be』の方が馴染みがあるかもしれません。
「let it go」は、日本語版では「ありのまま」と訳されています。「let it be」は「あるがまま(に)」と訳されたりします。
ここで1つ大事な質問をしたいと思います。あなたはなぜ「let it go」が「ありのまま」に、「let it be」が「あるがまま」になるか分かりますか?
ここで答えがNOだという方は、英語をよく分からないままに暗記をしてしまうクセがあるかもしれませんのでご注意ください。
使役動詞letは「させる」?
「let it go」や「let it be」を理解する上で、一番のポイントとなるのは使役動詞と言われるletです。この意味を、ただ「させる」という日本語に訳して覚えてしまってはいないでしょうか。
letの使い方としては、「let+名詞+動詞(の原形)」という形を取るのが基本です。「let it go」「let it be」もそうですし、他にも例えば
let him decide(彼に決めさせる)
let my hair grow(髪を伸ばす)
などのように使います。
なお、日本語訳をつけましたが、それに振り回されることなく、ぜひ自力で意味を感じてください。letをただ「させる」だと思ってはいけません。「好きなようにさせる」「やりたいように許可する」という意味合いでの「させる」なのです。
「let him decide」であれば、彼が自分自身で決めたいと思っている/決めようとしている状況がまずあります。その上で「希望通りにさせる」ことがletなのです。
また、「髪の毛」は自然と伸びていくもの。つまり、そのまま「伸びたいようにさせる」のが「let my hair grow」です。
何か対比するものがあると分かりやすいですので、同じく使役動詞のmakeと比べてみましょう。以下のように言った場合には、一体どのような意味になるでしょうか?
make him decide
make my hair grow
makeの根底には「作る」「(なかったものを)生み出す」という意味合いがあります。ですから、「make+名詞+動詞(の原形)」という形で使役動詞として使った場合には、「無理やりさせる」という「強制」のニュアンスが生まれやすいのです。そこから「make him decide」は、彼が決めようとしない/決めたくないという状況がある時に、「強制的に決めさせる」ことを表します。
また、「make my hair grow」の意味が分かりますか?
髪の毛は基本的に、自然と伸びるものですから、それを強引に伸ばすとなると、何らかの薬を使うのでしょうか。もしくは、ファンタジー的な世界で魔法を使うような場面かもしれませんね。
「let it go」の本当の意味
letの意味を押さえたところで、「let it go」という表現を改めて考えてみましょう。「itがgoすることを許可する」……と言われても、一体何を指しているのかがよく分からないかもしれません。
itという単語はよく「それ」と訳されますが、日本語の「それ」に一番近いのは実はthatです。thatは、ちょっと離れたものなどに対して「それ」と指をさすような感じです。それに対してitは、何を指しているかが言わなくてもわかるので省略してしまう感じに近いと言えます。
I like that.(それ好きですよ。)
I like it.(好きですよ。)
さて、「let it go」のitは何を指すのでしょうか。このフレーズにおいては多くの場合、「抑えている感情」(や「執着していること」)だとお考えください。
「アナと雪の女王」では、エルサは部屋に閉じこもって生きてきました。本当の自分を隠して、良い子(良い王女)を演じていたわけです。『Let It Go』の歌詞の中には「Can’t hold it back anymore」という一節がありますが、「hold back」は「(感情などを)抑える」ことを表すのです。
ちょっと心理学のお話になりますが、感情というものは、しっかりと出す/感じる(感じきる)ことによってのみ解消ができます。例えば悲しいときに、それを我慢していたらいつまでも心の奥に悲しみが残ってしまいます。しかし、その悲しみをきちんと味わえば、すっきりと解消されます。違う言い方をするならば、その悲しみはどこかへ行ってしまう、つまりgoするのです。
つまり、「let it go」というのは「抑えていた感情を開放する」ことや、その結果として「執着を手放すこと」を指すのです。それは同時に、自分の気持ちに対して素直に、より自分らしく生きられることにつながります。ですから「ありのまま(の自分)」と訳されるのです。
それでは主題歌『Let It Go』の動画へのリンクを貼っておきますので、「let it go」というフレーズをぜひ改めて味わってみてください。
(https://www.youtube.com/watch?v=L0MK7qz13bU)
「let it be」は「itがbeであることを許可する」!?
「let it be」は、さらに分かりづらいかもしれません。「itがbeであることを許可する」……とは一体どのような意味なのでしょうか。
例えば、天気で考えてみましょう。晴天なのであれば、
It’s sunny.
ですし、雨が降っていれば
It’s rainy.
になります。でも例えば、雨が降っていることに対して不平不満を感じる人っていますよね。そういう時に行なわれるアドバイスが
Let it be.
なのです。「Let it be (rainy).」が省略されていると考えていただくと分かりやすいかもしれません。すでにそうなっていることに対して、そのままにする――。
itというのは、「(現在の)状況」を指しているとお考えください。それに対して何も手出しをしない、ということなのです。ですから「あるがまま」と訳されるのです。
『Let It Be』の歌詞では、人生の大変な時にマリア様(Mother Mary)が授けてくれたアドバイスといいますか、金言(words of wisdom)が「let it be」なのです。そんなストーリーを味わいながら、ビートルズの『Let It Be』もぜひ改めて聞いてみましょう。
(https://www.youtube.com/watch?v=ep7SqGjbQa8)
英語は「味わう」べきもの
多くの人が「この英語はこういう意味だ」などと教わったままに「丸暗記」をしてしまいがちです。しかし、ただ暗記をしていては、いつまで経っても英語の理解が深まりません。
英語は「暗記科目」ではありません。しっかりと味わい、きちんと納得をしながら、理解を積み重ねていくべきものなのです。今回取り上げた「let it go」「let it be」はほんの一例に過ぎませんが、ぜひこれをきっかけにして、これから英語の理解をさらに深めていってください。