日本マイクロソフト西脇資哲氏が語る、Microsoft最新テクノロジーとエンジニアのキャリア形成方法

日本マイクロソフトのエバンジェリスト・業務執行役員の西脇資哲氏の講演がJBSトレーニングセンターで行われた。
西脇氏が語った「マイクロソフトの最新テクノロジ」と「エンジニアのキャリア形成」という2つのテーマについて再現レポート形式でお伝えする。

JBSトレーニングセンター特別記念セミナー第2弾

日本ビジネスシステムズ(JBS)は、2016年10月に東京・虎ノ門にJBSトレーニングセンターを開設。それを記念し、「プロ棋士・羽生善治が語る、AI時代を生き抜くために『身につけるべきスキル』」に続く、第二弾となる特別記念セミナーが11月24日に同センターで開催された。JBSの辻陽太氏は、以下のようにコメントを寄せている。

「日本ビジネスシステムズ(JBS)は、『イノベーションパートナー』としてお客様にとって最良のシステム・最善のサービスを提供しております。最善のサービスを提供し続けるためには、社員一人一人が『自ら進んで顧客課題を見つけ出す能力』『顧客課題をITソリューションで提案する能力』をさらに強化する必要があります。これらの能力を高めるための場、技術や知識を習得するための場として、2016年10月にJBSトレーニングセンターを設立しました。

良いアウトプットを引き出すためには、質の高いインプットが不可欠です。今回、JBS トレーニングセンターのOPEN記念として、社員に最高のインプットを提供したいとの思いから、第1弾としてトッププロである棋士の羽生善治様、第2弾として日本マイクロソフト エバンジェリストの西脇資哲様の講演を企画いたしました。JBS トレーニングセンターでは、引き続き質の高い情報を発信してまいります」

今回講演を行ったのは、日本マイクロソフトのエバンジェリスト・業務執行役員の西脇資哲氏である。Microsoftの最新テクノロジーとエンジニアのキャリア形成という2つのテーマについて語った講演内容を再現レポート形式で紹介しよう。

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より多くのことを達成できるためのプロダクティビティソリューション

最近、面白いことを始めました。アイドルグループの乃木坂46のメンバーと一緒にTOKYO FMでラジオ番組『エバンジェリストスクール!』を始めました。

本来、ラジオで高い聴取率を採るためには、30代~50代の女性リスナーを獲得するのが大事だと言われますが、この番組では乃木坂46の若月佑美さんがアシスタントを務めているので、コアターゲットとしているのは、10代と20代の男性です。

4月から番組を開始しましたが、この時間帯はもともと高い聴取率を得るのが大変でした。しかし半年経った今、10代男性後半の聴取率において、首都圏で流れているラジオ番組の中でトップ10に入りました(2016年9月聴取率調査結果)。また、番組が放送されている土曜日深夜のTwitterトレンドにも入るようになりました。

ラジオ番組を担当するのは責任とマナーが伴いますが、数値としても返ってくるのですごくやりがいがあります。

日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト 業務執行役員 西脇 資哲氏
1969年生まれ。90年代から企業システム、データベース、インターネットビジネスに関与。96年より約13年間日本オラクルにてエバンジェリストとして従事。その後、2009年に日本マイクロソフトに入社。それからも精力的にエバンジェリスト活動を継続。12年には日本経済新聞でIT伝道師として紹介され、また13年には日経BP社から世界を元気にする100人に選ばれている。

それでは最初のテーマである「Microsoftの最新テクノロジー」について、デモを交えて紹介していきましょう。

Microsoftの最高経営責任者のサティア・ナデラはこんないいことを言っています。「地球上のあらゆる人とあらゆる組織が、より多くのことを達成できるようにするために、プロダクティビティソリューションを再発明する」と。

私は冒頭で紹介したラジオ番組のように、Microsoftとしての仕事だけではなく、いろんな仕事をしています。このようなことができるのは実はITがあるからです。

ITがもっと手助けしれくれるようになると、さらにもっといろんなことができるようになる。Microsoftは今、そのために技術開発・サービス開発にまい進しているのです。

Microsoftが注力している分野として挙げられるのが、IoT、AIやマシンラーニング、AR/VRなどの分野。例えば人工知能だけのために1700人もの人材を採用しました。

このような動きはMicrosoftだけではなく、IBMやGoogle、Appleでも同様です。そしてこのような技術が発展していくに伴い、さらに重要になるのがクラウドです。Microsoftはクラウドにも注力しており、ここをビジネスの主戦場としています。

IoTの登場により、家電メーカー、自動車メーカーなどIoTデバイス(マイクロボード)の搭載を検討するようになりました。例えば私がマイクロボードを家電メーカーや装置メーカーに紹介すると、「これはいくらですか」と値段を聞かれます。

「1個が6000~7000円ぐらい」と答えると、「西脇さんはアホですか」と言われます。家電や装置メーカーの方は、徹底的にコストを削って良い製品を作っています。つまりIoTのために6000円という原価をアップすることはできないというのです。

そこでMicrosoftでは2つの提案を行っています。一つ目の提案は高価なマイクロボードではなく、チップとセンサーだけが載っており、最適化すると数百円で作れる廉価版のボードを紹介すること。2つ目の提案は6000円以上の付加価値を提供するようなモノにしましょうという提案です。後者の場合は経営層の人に話します。

もちろん、6000円の価値を提供するようなIoTのビジネスにはいくつかのハードルがあります。装置がインターネットにつながり、データが可視化される。これによって価値を生み出すためのビジネスをMicrosoftはお客さまやパートナー企業と共に一生懸命に取り組んでいます。

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IoTで実現する付加価値の実例

その事例として最初に紹介するのは、スペインのバルセロナのグラシア地区で実施した街の街灯をスマートにする「スマートライトプロジェクト」です。

これまでこの街の街灯はガス灯で、それを作っていた会社はメンテナンスなどで設けていました。しかしそれが電化され、さらにLEDに替わったことで、街灯を作っていた会社は潰れてしまう危機にありました。

そこで先のプロジェクトを実施しました。街灯にはIoT機器を埋め込み、照度、気圧、空気の汚れ、温度、気温、湿度、騒音などを計測。この会社は電灯をともす会社から、IoTから得られるデータを売る会社となったのです。

また世界最大級のエレベータのモーターを作って管理しているティッセンクルップという会社では、ヨーロッパやアメリカで多数のエレベータをIoTセンサーで監視管理を行っています。

現地に行かずしてすべてのエレベータの状況を監視できるだけではなく、故障を予測。点検の前に故障が起こる可能性があるエレベータについてはアラートをあげ、修理に行くようにアドバイスするのです。

故障する前に最も近くにいるスタッフを派遣できるので、コストの削減も実現。エレベータを保全して安定運用しています。

続いて紹介するのは、フリートマネジメント(車両管理)企業の事例です。

トラックに搭載されているセンサーから空気圧、オイル、ガソリン、積載している各コンテナの温度などのデータを収集し、中央センターでモニタリング。

空気圧が減っているトラックがあれば、パンクの恐れあるのでサービスエリアに寄ることと適切な指示をドライバーのウェアラブルデバイスに送るというサービスを行っています。

車両だけではなく、船でもIoTが活用されています。東京湾は世界でも有数の過密港です。ある一定以上の船の居場所はオープンデータとして公開されています。

Microsoftは国土交通省と共に、オープンデータとして公開されている船舶の位置から、マシンラーニングを駆使して進路予測を行い、衝突することなく安全航行を実現する取り組み実験を東京湾で行っています。

モノだけではありません。生物でもIoTは活用されています。牛は発情期になると、歩き回ることが増えるんだそうです。

そこで牛の足に巻かれた歩数計をセンターでモニタリング。そのデータから発情の兆候を把握し、畜産農家の方に何番の雄牛と何番の雌牛をマッチングさせればいいというアドバイスを送るのです。

最適なタイミングで種付けができるので、繁殖の確立も高くなりました。このようにこれまで牧場で働いている人の長年の経験でしかできなかったことが、IoTと人工知能でできるようになったのです。

ペットの分野でもIoTは活用事例が登場しています。IoT機器が埋め込まれた専用の首輪を装着すれば、飼い主のスマートフォンで健康管理ができるというサービスです。

例えばここで収集した犬のデータは飼い主にとってうれしいだけではなく、新たなビジネスを生むことにも活用できます。例えば犬を飼っている人が多い地域だと分かれば、動物病院やペットショップ、犬が入れるカフェなどの出店を計画することもできるでしょう。

このようにデータが集まればビジネスチャンスが広がるのです。これがIoTで付加価値を生むということです。

また私が今手首に巻いているMicrosoft Band。これは歩数や心拍数、消費カロリー、睡眠トラッカー、GPSなどのセンサーを搭載する腕時計型のフィットネス端末で、ゴルフのスコア管理にも対応しています。

またこのMicrosoft Bandは、在宅医療でも活用が進んでいます。米ニューハンプシャー州のダートマス・ヒッチコック医療センターでは、自宅療養の患者にMicrosoft Bandの着用、さらには体重計やトイレの流量計、照明などをIoT化することで、自宅療養を認めています。

そしてそれらのデータをモニタリングするだけではなく、AIが治療の優先順位を決めるオートトリアージが採用されています。

AIを活用したコグニティブサービスで実現できること

IoTとともに注目を集めているのが、AIです。中でもコグニティブ(認知)システムやサービスへの活用が注目されています。

Microsoft Cognitive Servicesでは画像の趣旨に沿ったサムネイルの作成や顔写真からの感情判定、顔情報(表情、性別、年齢など)の読み取りなどが可能です。

▲Microsoft Cognitive ServicesのFace APIを活用したアプリで、年齢を分析するデモを行う西脇氏

ではこれらのサービスを使ってどんなことが実現できるのでしょう。東京あきる野市にあるレジャー施設「東京サマーランド」では、このCognitive Servicesを使った仕組みを設置し、リアルタイムで来場者人数を収集、来場者分析(性別、時間他別、世代別など)を行っています。感情判定を行い、怒っている人が多ければ何か問題がなかったかなど、改善活動につなげたりすることもできるでしょう。

さらにこの仕組みにAIを導入することで来場者数を予測し、スタッフの配置、レストランや物販の仕入れにも活用することができるかもしれません。

Microsoftはこれからも、企業のみなさんの役に立てるようなサービスの提供を行っていきます。

Microsoft Cognitive Servicesサービス一覧

エンジニアのキャリアをどうやって築いていくか

私の仕事は日本マイクロソフトの執行役員でありエバンジェリストです。でもそれだけではありません。

私は書籍も執筆しています。執筆した書籍が売れると、印税が入ります。日本マイクロソフトは基本、副業を禁止していますが、書籍の執筆は認められています。

仕事はこれだけではありません。TEDのプレゼンテーションの中から医療従事者向けのコンテンツの翻訳、解説をしています。これも収入源です。

さらに私はドローンも26機所有し、動画を撮影し収入を得ています。ドローンを最初に購入したのは2009年。日本でおそらく初めてドローンを輸入したので、成田税関で止められるという苦労をして手に入れました。10年から飛ばしはじめ、以来、毎年パートナーカンファレンスなどで飛ばして見せましたが、何の反応もありませんでした。

しかし15年に総理官邸にドローンが落ちたニュースが流れた途端、ドローンへの注目が高まり、そこで私もドローンを26機購入し、あらゆるところで飛ばしまくったのです。

そのおかげでドローンというと西脇と言われるまでになりました。そして16年はこれまでのドローンへの投資を回収する年となりました。

ドローンは1フライト約1時間。その間に写真なら数千枚、動画なら20分ぐらい撮影。その報酬は平均20万円です。ドローンは1機約18万円なので、ビジネスになればすぐに元を取ることができます。もちろん、すぐに上手に映像を撮れるわけではありませんが。

これはドローンが収入になるという話をしているわけではありません。キャリアの話です。私はたまたまドローンを知り、「これは絶対来る」と思い、投資を行いました。そしてそれが16年となり仕事に結びついたのです。

つまり「これ」と思うものに対しては惜しむことなく、徹底的に投資をする。投資を惜しむから他の人に負けるんです。投資は何もお金のことだけではありません。

時間や環境、ネットを使うこと、友達を作ることも投資です。世の中にあるトレンドをつかみ採っていく勘がエンジニアには備わっています。それを最大限活用しましょう。

そしてドローンの知識があり、話が上手なので解説ができるのではないか?ということで、私に、次なる仕事が舞い込んできました。ドローンレース協会とTBSからいきなり連絡があり、「ドローンレースの解説者を務めてほしい」という相談でした。ドローンの知識だけであれば、来ない仕事でした。

さらに様々なきっかけが加わり、昨年秋に、冒頭で話したTOKYO FMのラジオ『エバンジェリストスクール!』の話が来たのです。

同番組はITに関するラジオ番組なのですが、先方が私に依頼した理由は、書籍を書いていること、コミュニケーション力があることだったのです。さらに仕事は拡がり、あのiPS細胞を発見しノーベル小を受賞した山中伸弥先生から、「プレゼンの指導をしてほしい」という依頼があったのです。

これまで私が現在、携わっている仕事を列挙しましたが、いずれも1つの能力だけでは仕事に結びつかなかったと思います。

ITに詳しい人、プレゼンがうまい人、ドローンに詳しい人はそれぞれ世の中にそれぞれたくさんいます。しかし、ITに詳しくて、かつプレゼンがうまく話が上手で、ドローンに詳しく、本もかけてラジオ番組もできる人となると、途端にいなくなります。これが希少な価値となるのです。

キャリアは線ではなく面で考える

1つの能力を突き詰めることは大事ですが、それと並行して行いたいのは、活躍の場を広げていくこと。そして会社は社員一人ひとりが持っている豊かな能力を応援する姿勢や環境を用意することです。オフィスの中でパソコンに向かって1つのことを突き詰めていくのではなく、コミュニティに参加するなどして、活発に外の人とコミュニケーションすることです。

先述しましたが、日本マイクロソフトは副業を禁止しています。ただし、例外申請を設けています。例外申請はWebではなく紙。これには理由があります。紙にどんな仕事をするのか、仕事の内容などを書きます。そしてまずは上司のところに持って行き印鑑をもらいます。

そして広報部、人事部、法務部の部長に印鑑をもらいにいくのです。印鑑をもらう際にはどんな仕事なのか口でも説明します。この人間ワークフローをすることで、みんなが私のやろうとしていることを理解してくれ、頑張れよと後押ししてくれるようになるんです。こうして日本マイクロソフトでは多様性を認めています。

会社の中だけでは多様性に限界があります。多様性を身に付けるためには、社外での活動が欠かせません。まずはエンジニア自身が率先して、外部での活動を行うこと。それも自分に興味などが近い人ではなく、距離が遠い人と接することです。そうすることで多様性が広がり、新しい自分が発見できると思うのです。

従来のキャリアは、経験年数や役職と共にステップアップするという考え方でした。これからのキャリアは面で考えることです。

私はITエンジニアで、プログラミングスキルとしてはJavaやC++を習得しています。また私はプレゼン力がある。そして書籍執筆能力もある。またドローンも操作できる。話すことも上手い。これらのスキルを面にプロットしていくんです。

そしてこの面積をどんどん広げていく活動をしていくことなんです。例えばドローンレースの解説者や乃木坂46とのラジオ活動などは、これまでのキャリアとはかなり遠いところにプロットされます。

こうしてどんどん別の面積が増えていきます。突拍子のないことをプロットしてもいい。着付け、将棋、囲碁、女装…なんでもいい。そういう能力を一杯持っていることが重要なんです。そしてこの面積を広げる活動をしていくと、キャリア形成が楽になります。

トレンドをどう学んでいくのか。私は異なる世界の人から学んでいます。例えば私は今、集団移転をした宮城県仙台市荒浜地区の土地の再利用を検討する委員の一人に選ばれています。この活動で話をするのは、地域の住民の方たち。年齢は60歳以上の方ばかりです。そんな世代の違う人たちと話をするのはすごく勉強になります。

また今年から小学4年生を教えているのですが、また小学生からもいろいろ学びを得ています。つまりこういった異なる世界の人たちとコミュニケーションすることで、トレンドを学んでいくのです。今10代、20代の女性はSNSというとSNOWを使っています。SNOWは顔認識が得意とするエンジニアがつくった動画コミュニケーションアプリです。Snapchatでもないんです。

そのほか「MixChannel」、「AbemaTV」などが使われています。さらに最先端なツールが「SHOWROOM」です。誰でもすぐに生配信が可能な、双方向コミュニケーションの仮想ライブ空間なので、ぜひ、みなさんもチェックしてください。

エンジニアの世界、ITの世界は激しく変化しています。よくAIに人の仕事が取って代わるという話を聞きますが、そういう波が来ても先述したようにキャリアの面積を広げていれば、その波にのまれることはありません。これからは個人の趣味が収益になる時代とも言えます。

その趣味を徹底的に突き詰めると、収益になるかもしれません。ぜひ、「これは収益になるとかも」というモノは、いち早く取り組み、突き詰めて仕事につなげていってほしいと思います。

これからのキャリアを豊かなモノにするために

西脇氏の講演前半の最先端技術、そして後半のエンジニアのキャリアという2つのテーマを通して分かったことは、これからのキャリアを豊かなモノにするには、最先端技術を追いかけているだけではダメだということ。

「これは技術と関係ないかも」という趣味を突き詰めたり、周りにはいない人たちが集まるコミュニティに参加をしたり、とにかく自分のできること、興味のあることをプロットし、キャリアの面積を広げることができることを、西脇氏は自身のキャリアで証明して、伝えてくれた。ぜひ、これを機会に興味の幅を広げていろんなことにチャレンジしてみてはいかがだろう。

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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