元カヤック 佐藤ねじ「辞め方のブルーパドル」とは

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面と向ってだと、言えない・聞けないこともある。
だったら面と向かわずにインタビューしてみてはどうだろうか?
好きな人に対面で告白はできないけど、メールなら告白できる現代人ならではの背中越しのインタビュー。

今回は2016年7月にカヤックを卒業した佐藤ねじさんに「会社を辞めるということ」について聞いてみた。(聞き手:ハブチン / 写真左)

佐藤ねじがカヤックを辞めた理由

羽渕:ねじさん、独立おめでとうございます!
今回は面白法人カヤックを辞めて、ブルーパドル社を設立した経緯をお伺いしたいのですが、「面と向ってだと、言えないこともある」と思うので背中同士でインタビューさせてください。

佐藤:はい、わかりました。(背中越しに座ってみて)あーこれ楽ですね。

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羽渕:楽ですか。

佐藤:演劇の独白シーンみたいですね。演劇って舞台の上手と下手に離れて独白のようにしゃべる手法があるんです。相手を意識しないで話せそうです。

羽渕:僕も面と向かっては言えない質問をさせてもらうかもしれません。早速なんですが、ねじさんは何で会社を辞めたんですか?カヤックにいた方がおもしろくて大きな仕事があったはずなのに。

佐藤:いきなり面と向かって話せないところですね。端的に言うと、カヤックでは受けられないもっと小さな案件とかあまりビジネスっぽくない事とかをしたかったからです。

羽渕:小さな案件ですか?逆に大きな案件を手掛けてみたい人のほうが多いと思うのですが?

佐藤:たとえばオリンピックの閉会式とかですよね。確かに周りのクリエイターの傾向としては、よりそこに近づこうとする傾向はあります。perfume的なアーティストのライブをやるぞみたいな。

羽渕:そこはperfume的なやつやりたいでしょう?

佐藤:そこは役割分担なので、他の誰かにお任せして、自分が出来ることを考えたいですね。

羽渕:2020年に東京オリンピックがありますよ?

佐藤:そのときは逆に他の地域や地方を良くすることを手伝った方がいいかなと。今の立場で身の丈に合ったものを理解してやっていきたいなと思いますね。

羽渕:ねじさんは、メジャーへの憧れとか無いんですか?というのも、僕はメジャーへの憧れがあった側の人間なんです。

佐藤:メジャーへの憧れですか?

羽渕:僕は名前が「羽渕(はぶち)」という割とマイナーな苗字のため、電話で「田渕」「田口」とかよく間違えられるんです。ひどいと「羽柴(はしば)さん」って間違えられることもあって。それ「は」しか合ってないじゃん!って。わざとやろ!って思いました笑

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佐藤:

羽渕:ちなみに妹は結婚して「田中」と「石川」というメジャーな苗字に昇格しました。僕は一生マイナーな「羽渕」として生きていく運命なので、メジャーへの憧れはありましたね。メジャーな東京にいきたいとか、メジャーな会社で仕事したいとかね。

佐藤:そういう意味ではカヤックでは割とメジャーな仕事が多かったですね。有名な商品やキャラクターもののお仕事など。でも、色々やってきて振り返った時に「特に良かったなぁ」と思えるものって、大体メジャーではないものだったんですよね。

羽渕:商品力やコンテンツ力があると、クリエイティブの力は見えづらいかもしれませんね。ねじさん的にどういう作品がおもしろかったんですか?

佐藤:ハイブリッド黒板アプリ 「Kocri(コクリ)」とかですね。クライアントも決定権がある人がすぐ上にいて、一個のチームみたいになっていました。柔軟性も安定性もあって、理想的なチームなんですよね。

羽渕:小回りはききますよね。

佐藤:「アイデア」というのは弱々しい部分があって。企画書の中では説明しきれない感じのようなところに面白さがあったりする。そういうものはメジャーな案件で実現していくのは難しいというのはあります。

羽渕:見たこともないものを説明するのは難しいですよね。

佐藤:説明しきれない感じのことをやるためには、一回自分たち側のスケールをミニマムにして失敗しやすい環境にしようかなと思ったんです。

羽渕:なるほど。

佐藤:あとは単純に、デジタルクリエイティブじゃないところをやってみたいというのはありますよね。

羽渕:あぁわかります。僕も銭湯のコンセプトを考える案件を手掛けているのですが、おもしろいです。

佐藤:大手企業の広告とかに当てられているクリエイティブの手法を、全然違うところに当てはめられるんじゃないかなと思います。今、知り合いの NPOをお手伝いしていますが、そこにバズるメソッドを適用することで資金とかが集まるのではないかと思います。

羽渕:ねじさんは毎週ハッカソンとかされていますよね。それは小さな案件をする感覚ですかね?

佐藤::そうですね。気になっているものをテーマにしています。最近、僕が家探ししていて、ずっと間取りを見ていたので、「間取り」をテーマにしました。

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羽渕:間取りは深いですね。人生とか生き方になってきますからね。

佐藤:みんな間取りってそんなに語らないじゃないですか。いろんな人の間取りを聞くととても楽しいですよ。ドラクエの魔王の城とか、あれ何LDKだよ?みたいな。

羽渕:語ってないけどすごい大事ですよね。

佐藤:普段、意識していないものをヒアリングしながら解像度を上げていくことで、おもしろいものが見つかったりするんですよね。

羽渕:確かに「ヨソモノ」の視点だからこそ、おもしろいことに気づけるのかもしれませんね。僕の銭湯の仕事も同じです。

佐藤:そういう小さな隙間の表現を見つけていきたいですね。

羽渕:確かにカヤックにいてもプライベートな時間でやるしかないですよね。だから独立したのか。

佐藤:でも、できれば独立もあまりしたくなかったんですよ。

羽渕:えっ?!

8,568通り、あなたはどのタイプ?

代表を名乗るのは恥ずかしい

羽渕:なんで独立をあまりしたくなかったんですか?

佐藤:代表を名乗らなきゃいけないじゃないですか。なるべく「私が代表です」とかいいたくないですよね。

羽渕:あぁそれすごくわかります(笑)僕も肩書きが「社長」なんですが、社員いないんだけどなぁと思って。誰も呼んでくれないのに「社長」はないよなぁって。

佐藤:じゃあ「起業家」かというと、それも違っていて。たぶん「起業家」という分類でいうと最弱ですよ。

羽渕:僕も最弱ですね。

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佐藤:そもそもクリエイターって、いつかは独立するのがキャリアアップみたいな風潮があるので、それに乗っかるのが嫌というか。別にそんな「肩書き」に価値を感じないなぁと。

羽渕:上場とかは目指さないんですか?

佐藤:今の所は考えていませんが、わからないですね。大きくするしないも、別にどちらでも。そのときの環境で今何が大事か、ということだけなので。

羽渕:確かにそうか。

佐藤:最近は、めちゃくちゃ多くのスタッフが関与した、大規模なチームでヒット作を出しているじゃないですか。「君の名は。」や「ポケモンGO」など。それはすごいなと思うんですよね。でも自分は別の方法で、少数精鋭なりのヒットを狙いたいと思います。

羽渕:それもある意味、役割分担ですね。

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辞めた後の関係性を考える

羽渕:それにしても、このタイミングでねじさんが辞めるのは、カヤックにとって痛手だったでしょうね。最近カヤックのクリエイターさんが相次いで独立していますよね?

佐藤:長谷川哲士とか、かっぴーとかですよね。まぁ実際、そんなに辞めてる人はいなくて、最近独立した人たちが、たまたまSNSで有名な人が多い、というだけだと思います。

羽渕:「お前もか!」ってなったんじゃないですか?

佐藤:そうかもしれませんね。若くして辞めるときは単純に次の自分のことだけを考えて簡単に動けるけど、この年代の「辞め方」は大事だなと思いましたね。結果、退職に一年半かけました。

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羽渕:一年半ですか。

佐藤:自分が退職を決意することになって、改めて「しっかり恩返しをしてから辞めないとだめだ!」と考えるようになりました。会社は自分に投資してくれている訳ですから、実力を付けて会社に貢献できるようになって、下を育ててそれでやっと辞める立場になるんなんだぞと思います。

羽渕:わかります。

佐藤:カヤックって割と社員が頻繁に辞めるというイメージがあるじゃないですか。そのイメージだと良くないし、それこそ無意味に辞めるのは良くないと思いました。

羽渕:無意味に辞めるとイメージが悪くなるだけですからね。

佐藤::よく辞めた後にその会社のことを悪く言う人もいるじゃないですか?それって残った側は気になりますよね。だからちゃんとした辞め方というか、「辞め方のブルーパドル※」をずっと考えていました。

※注:ブルーパドル…小さな水たまり。未開拓の小さな分野・マーケットの意味。

羽渕:辞め方のブルーパドルですか?

佐藤:例えば「1ヶ月退職」みたいな。一回辞めることで、改めて会社の良さを実感することができたりするかもしれません。たとえば印刷代。会社にいたときは何も考えないでプリントしていたけど、高いですよね。カラーって30円くらいするので分厚い提案書なんてつくったら1部1000円くらいしちゃう、みたいな。

羽渕:いや、本当に高いですよね。

佐藤:会社の中にいると、そこまで考えきれないんですよね。だから「辞める」と「辞めない」の中間のようなものがあってもいいのかなって。

羽渕:よく会社員のままでプロボノ的にパラレルキャリア活動をする人もいますが、辞めるのとは全然違いますね。

佐藤:辞めたいなら、1ヶ月退職してみればいいんじゃない?みたいな。

羽渕:会社側にとっても必要かもしれませんね。むやみに引き止めたり、もう関係がない人間として冷たくする訳でもなく、1ヶ月のお試し期間をおいてちゃんと別れるというか。

佐藤:資本関係はないけど信頼関係はあり続けたいですね。今まで働いてきた現場は、辞めても変わらない関係でいます。

羽渕:辞めてもつながる関係がいいですね。つながり方が変わっただけで本質的な部分は変わらないというか。

佐藤:そうですね、辞めたことでできることもあったりします。例えば採用のお手伝いとか。

羽渕:採用のお手伝いですか?

佐藤:僕は採用にも携わっていたので、カヤックが採用したいデザイナーやエンジニアを把握しています。

羽渕:それはどのエージェントより把握していらっしゃるだろうと思います。

佐藤:僕の周りには、カヤックの採りたいフリーランスの方々がたくさんいる訳です。まだうちの会社は採用はできないので、良い人がいればカヤックに紹介したいなと思ってます。

羽渕:僕もまさに同じようなことを考えています。カヤックも「何をするよりかも誰とするか」を大切にしているじゃないですか。でも現状の求職票には、誰と働くかは書かれていないんですよね。でもねじさんなら、この人だったら社内のあの人と合うだろうなとわかるじゃないですか。

佐藤:わかりますね。とくにクリエイティブな仕事だと、どういう人と組むかによってアウトプットは全然変わってきますからね。

羽渕:誰と働けばいいかを知っているのは、一緒に働いたことがある方だけなので、そういうマッチングができる仕組みを作りたいと思います。それは改めて相談させてください。

転職か独立かどうかより、飽きないかどうか

羽渕:今後のキャリアについて考えている読者の方にメッセージをお願いします。

佐藤:僕は「独立最高!」って感じでもないし、在職も悪くないと思っています。ただ僕の持論ですが、人生には飽和量というのがあって、ある一定の水準を超えると飽きてくるんです。

羽渕:確かにやりすぎると飽きてきますよね。

佐藤:例えば僕は一時期カントリーマアムをすごい食べた頃があって、それがある時ピタっと止まったのです。あれは多分自分の中の飽和量の上限に達した時なんじゃないかと。それと同じ感覚で、「天職」というのは、自分にとって飽和量が最も多いものが仕事になる状態だと思うのです。

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羽渕:つまり「飽きないで続けられる仕事」ということですね?

佐藤:そうです。どの条件がいいかというより、どれなら続くかという視点で選んだ方がいいなと思うんです。僕にとっては、アイデアを出すことは苦痛ではないから、きっとこれが向いている仕事なのだろうな、と思えたからこの道を選びました。

羽渕:僕もファシリテーションしているときや、こういう風に対談しているのは飽きないですね。

佐藤:ハッカソンはどうなんですか?

羽渕:あっそれは飽和量に達したかもしれないですね。だからハッカソンのファシリテーションをするときは、別の面白さを見出して一人で楽しんでいたりします。

佐藤:確かに、僕も広告だけで仕事していったらどこかで苦しくなります。「空いている隙間を埋める」ブルーパドル的な活動はずっと飽きずにやってけるなと思ってますね。

羽渕:仕事で飽きないところを見つけられるかが重要ということですね。ありがとうございます。

羽渕:最後の最後に、ねじさんに面と向って言えないことを言ってもいいですか?

佐藤:え?なんでしょう。

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羽渕:ねじさんのTシャツ、それ「ねじ」じゃなくて「くぎ」ですよね?

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佐藤:はい、佐藤くぎです…

【佐藤ねじ】

1982年生まれ。アートディレクターとプランナー。面白法人カヤックから独立し、2016年7月に株式会社ブルーパドルを設立。
「空いてる土俵」を探すというスタイルで、WEBやアプリ、デバイスの隙間表現を探求。代表作に「Kocri」「しゃべる名刺」「レシートレター」「貞子3D2 スマ4D」「世界で最も小さなサイト」など。2016年10月に、初の著書「超ノート術」を発売予定。

佐藤ねじ (@sato_nezi) | Twitter

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羽渕 彰博(ハブチン)
1986年、大阪府生まれ。2008年パソナキャリア入社。転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事し、ファシリテーターとしてIT、テレビ、新聞、音楽、家電、自動車など様々な業界のアイデア創出や人材育成に従事。2016年4月株式会社オムスビ設立。

habchin(Akihiro Habuchi)|Facebook

編集:鈴木健介

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