マネジメントする立場になれば、部下のモチベーションを管理しなければなりません。でも人付き合いが苦手な人にとって、相手を褒めたり、叱ったり、励ましたりすることはとても難しいことですよね。
そんなモチベーション管理を日々行っているのが、相撲部屋の女将さん。いったいどんな方法でお弟子さんたちのモチベーションをコントロールしているのでしょうか。今回は、東関部屋の女将さんである佐野真充(まみ)さんに、上手な褒め方・叱り方・励まし方を伝授してもらいました!
まずは観察すること
褒めたり、叱ったり、励ましたりする前に、相手を観察することを大切にしていると佐野さんは言います。
「いまその人がどんなモチベーション状態なのかを、顔や態度で把握するんです。例えば、何かがうまくいかなくてすねていたり、投げやりになっていたりといった変化を、普段からよく観察しています」
相手の状態をきちんと把握することが、どのように褒めるのか、叱るのか、あるいは励ますのか判断するための基本となるそうです。
それでは、相手のモチベーション状態を把握したうえで、具体的に相撲部屋の女将さんはどんな褒め方・叱り方・励まし方を実践しているのでしょうか。
相撲部屋の女将さんが実践する“褒め方”
■すぐにその場で、個別に褒める
佐野さんは、お弟子さんが相撲の取組で勝った際など褒めるときは、“すぐにその場で、個別に”を心がけているとのこと。
「すぐにその場で、個別に褒めることで、『たくさんの力士がいる中で、自分もちゃんと見てもらっている』という意識を持ってもらいたいからです」(佐野さん)
力士に限らず、ビジネスパーソンも、「誰かに認められたい」という感情は持っているもの。部下を“すぐにその場で、個別に”褒めることで、「ちゃんと自分のことを認めてくれているな」と感じてもらうことができるのですね。
■他にも褒めている人がいると伝える
すぐにその場で、個別に褒めるだけではありません。佐野さんはお弟子さんを褒める時には、「◯◯さんが良い相撲だねと言っていたよ」「親方が褒めていたよ」など、他の人も褒めていたことを本人に伝えるようにしていると言います。
「その理由は、“すぐにその場で、個別に褒める”ことと同じ。たとえ花形の力士でなくとも、応援してくれている人や見てくれている人がいるという実感を持たせるためです」(佐野さん)
自分が褒めるだけでは、「この人が褒めているだけだろう」と相手に思われてしまうこともあるでしょう。他の人が言っていたポジティブな言葉も伝えることで、褒めた内容の説得力が増すのです。
相撲部屋の女将さんが実践する“叱り方”
■個別に呼び出して叱る
叱るときも褒める時と同様、個別に呼び出して叱ることが基本なのだそう。
「みんなの前で叱ると、叱られる本人が自分の意見や言い分を言いづらくなります。そのため、本人が本当に伝えたいことを聞くことができず、誤解が生じる場合があるためです」(佐野さん)
■誰かが叱ったら、誰かがカバーする
叱ったら叱りっぱなし、ではありません。佐野さんはお弟子さんを叱ったとき、かならず他のお弟子さんや相撲部屋のマネージャーなどに叱られた相手のフォローをお願いしているそう。
「誰かが叱ったら、誰かがフォローすることが大事なんです。特に打たれ弱い人は、叱られた後にまた他の誰かに叱られると、追い込まれてしまうからです」(佐野さん)
逆に、他の誰かに叱られている人がいれば、女将さんがフォローする立場に回るとのこと。“誰かが叱ったら、誰かがカバーする”という役割分担をきちんとすることを徹底しているのだそうです。
■叱るときは感情的にならず、“なぜ”を伝える
相手を叱るときは、ついつい感情的になってしまいがち。しかし佐野さんは、「理不尽には怒らない」ことを意識していると言います。
「感情的に怒るのではなく、“なぜ叱っているのか”という理由をきちんと話すようにしています。というのも、叱られている理由が論理的に伝わらないと、叱られる側も改善しようがないでしょう。
同じ過ちを繰り返させないために、叱るときは理由を伝えることが大切なんです。何度も同じことで叱っていると、叱るほうもストレスがたまってきますしね」(佐野さん)
相撲部屋の女将さんが実践する“励まし方”
■“わかってもらいたいオーラ”には、あえて乗る
落ち込んでいることが表情や態度に表れやすい人もいますよね。そうした人は、実は“わかってもらいたいオーラ”を発しているのかも。
「話を聞いて欲しいときに“わかってもらいたいオーラ”のようなものを出してくる人もいます。例えば物に当たる、ため息をついてみるなどです。
たとえどんな理由で落ち込んでいるのかがわかっていても、その“わかってもらいたいオーラ”にあえて乗り、『どうしたの?』と声をかけています」(佐野さん)
表情や態度ではなく、言葉で言ってくれないとわからないじゃないか!…という気持ちをぐっとこらえて、あえて相手の土俵に乗ってあげることも、励まし方として時には有効なのです。
■デリケートな人には、全く違う話をする
落ち込んだ時に“わかってもらいたいオーラ”を発する人がいる一方で、「放っておいてほしい」というデリケートな人もいます。そうした人には佐野さんは、落ち込んでいる原因には触れず、関係のない話をするのだとか。
「『ごはんいっぱい食べた?』とか『あのゲームどうだった?』とか、全く違う話題を持ちかけて様子をうかがうようにしています。そうした関係のない話のなかから、落ち込んでいる人の本音が見えてくることもあるんです」
ちなみに、その相手が落ち込んでいるときに「話を聞いてほしいタイプ」なのか、「放っておいてほしいタイプ」なのかは、冒頭でもお伝えしたように日頃から観察をすることで見えてくるのだそうです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?上手な褒め方・叱り方・励まし方を身につければ、「あなたのもとで働けてよかった!」と言ってもらえるようなビジネスパーソンになれるはず。ぜひ今回学んだ、相撲部屋の女将さんが意識している褒め方・叱り方・励まし方を参考にしてみてくださいね!
(東関部屋プロフィール)
12代である先代東関(元関脇・高見山)が、昭和61年2月に高砂部屋から分家独立して興した相撲部屋。平成21年、13代東関(元幕内・潮丸)が年寄り・東関を襲名し、東関部屋を継承し現在に至る。これまでに元横綱・曙や元小結・高見盛を輩出している。